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黒龍殺しの付与術師  作者: しきな かいどう
少年期 ~王都編~
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第74話 カイリvsバゼル

ブックマークと評価ありがとうございます。

久しぶりに評価もらったので嬉しいです。

現在外出しにくい状況ですから、自宅での暇潰しにでもなれれば幸いです。

 準決勝第一試合においてバゼルは初めて構えをとった。

 相手は騎士団所属のニックという青年。


(そろそろ身体を温めておかねぇとな)


 それは特別試合に向けての準備運動だった。

 開始の合図とともに身体強化と“さらに強化”した脚力で床を蹴ると炸裂音とともによ石畳の一部が弾ける。

 バゼルはロケットの様にそのまま飛び出して距離を詰めると、ニック顔面に左拳を叩き込む。


「くっ」


 意表をついた高速の踏み込みだったがニックはとっさに頭を後方に反らしてかわす。


「よくよけたが、終わりだ」


 バゼルは一言告げると頭を反らす代わりにつきでている胴の鎧の上から、右拳を叩き込む。

 その拳は赤いオーラのようなモノで覆われていた。

 爆発音と共に鉄でできている鎧が弾け飛んだ。


「かっはっ!?」


 ニックは血を吐いて倒れるとすぐに救護係が駆けつける。


 その様子を騎士団長のヨーゼフが感心しながら観ていた。


「ほう、あの坊主、獣人とはいえあの歳であれだけの“闘気法”を扱えるのか。

 大したもんだな」


「ええ、彼はその技術をもってして若くして実質A-相当の能力と見なされていますから」


 “闘気法”は魔力とはまた別の力であり、固有のスキルに分類される。

 己の闘気を攻撃に上乗せすることで威力を跳ね上げるスキルだ。

 このスキルが“固有”とされるのは各人によって効果が違うから。

 バゼルの場合はその闘気の性質は“爆破”だ。


 準決勝第二試合、カイリは闘技場に向かうと試合を終えたバゼルとすれ違うが、バゼルはすでにカイリに興味を無くして一瞬見ただけで視線を戻すとそのまま歩いていく。


「ねぇ」


 しかし、カイリの一言で呼び止められる。


「控え室戻る必要ないよ」


「ああ?」


「すぐ終わるから」


「なんだ、棄権するのか」


「観てれば、わかるよ」


 そう言ってカイリは闘技場に上がっていく。

 バゼルは嘯くカイリに苛立ちながらも通路口から試合を観ることにした。


 カイリの第一試合を観たが、弱い。


 能力的にCランク。

 冒険者でみれば一流と言っていいレベルだが、この選考会の平均レベルはBランク。

 本来Aランククラスの者は大会などの見世物になるような舞台にはほとんど出てこない。

 それを考えれば最高クラスの大会にあたる。

 そもそも中規模のギルドではBランク冒険者が数人いれば良い方だ。

 そんな大会の中、カイリという子供がここまで勝ち上がってきたのは相手がB-レベルでしかも油断していたからだろうとバゼルは考えていた。

 だがここからはそんな甘い相手はいない。

 バゼルの先ほどの騎士との試合は圧勝したように見えたが、ニックはけっして弱くない。

 闘気法による爆発的踏み込みと爆撃で短期で勝負を決めた。

 もし闘気法をもちいなかったら勝負はもう少し長引いたと思われる。

 そして今から始まるカイリとトードの試合、トードはニックとそれほど実力は変わらない。

 バゼルも選考会前から知っている同業者(ぼうけんしゃ)だ。

 偶然で勝てる力量差ではない。


(まあトードを警戒して観ておくか)


 バゼルは通路の壁に背をもたれ、闘技場に視線を移した。




 ~運営席~


「おい、グータラエルフ、なんだかんだお前の弟子勝ち上がってるけど、どうすんだよ?」


「なんかグータラエルフってダークエルフっぽく聞こえない?」


「心底どうでもいいわ!」


「ノリの悪いトラだなぁ。

 どうするって何が?」


「何がじゃねえよ。

 お前の弟子、身体強化以外の魔法を今日一回も使ってねぇだろ」


「あ、気づいてた?」


「当たり前だろ、お前の弟子がそれだけなわけがねぇ。

 いつ本気出すんだ?」


「さあ? あたしは何も指示していないからね。

 多分、決勝戦までとってあるんじゃない?

 あんたんとこの子、余裕こいて試合観てないし」


「まああのバカはその辺気付いてなさそうだがな」


「でも相手も段々強くなってるから次はどう誤魔化しながら勝つか、てところかな」


 ソフィアとバゼルの会話にユハナが今しがた気付いたことを知らせる。


「ん?バゼル君ならさっきカイリ君に話しかけてから通路口で試合を観るようだよ?」


 実力を隠したいのなら関わらないのが一番のはずだ。


「あの子何したいんだろ?」 


 ソフィアが首を傾げると、腕の中にあったお菓子をヨーゼフがひょいとつまむ。


「ちょっとあたしのお菓子!」


「まああれだな、言っちゃなんだがクラウスが面倒見てた割には剣技はそんなだな」


「そうなの?」


「いや、あの歳であれだけ出来りゃあ十分なんだが、魔法どうだか知らんが剣技はあれが実力だろ」


 ヨーゼフはつまらなそうに告げながらお菓子を口に運ぶ。


「ちなみにソレ、あたしがさっき落としたやつ」


「ブフォッ!!」


「汚いね!

 あんたらさっきから何やってるんだい!」


 クッカの怒鳴り声が王族の席にまで聞こえてきて国王は思わず溜め息が洩れる。


「何をやってるんだアイツらは…」



 準決勝第二試合。

 カイリとトードが闘技場に上がる。


『始め!』


 カイリは合図と共に“身体強化”をかけると続けて、今日初めての別の魔法を放つ。


「“アウラ”」


 カイリの呼び声で風が巻きあがると小さな精霊が姿を現す。

 精霊の出現に会場がどよめく。

 近接戦において精霊召喚はあまり見ない手だ。

 一瞬トードも戸惑うが、その間が勝負を分けた。


 カイリが床を蹴ると空気が弾け、弾丸のように接近する。

 そのまま後ろに構えていた刀を力任せにたたきつけた。

 トードは咄嗟に間に剣を挟むも勢いを殺せず場外にふっとび地面に落下した。


『し、勝者、カイリ選手!!』


 観客もいきなりのことに唖然としている。

「マジか、すげぇ……」

 一人が声を漏らすと次第に観客たちは歓声があがる。


「なんだ今の!?」

「トードが場外までふっとんでいったぞ!?」

「俺知ってる!あれ精霊だろ!」

「バゼルみたいに足場が爆発したよな!?」


『え、えーそれでは決勝戦まで30分の休憩を挟みたいと――』


「要らないよ」


『は、はい?』


「要らないよ。

 疲れてないし」


『いえ、そういうわけには……』


「ねぇ、そこのバゼル君だっけ?

 今すぐやろうよ」


「あ?」


「それとも心の準備、必要?」


 この挑発にバゼルは無言で反対側のリングに上がる。


「始めろよ」

「審判さん、いいよ」


『いえ、でも』


「いいぞ!やれ!」

「バゼル」

「バゼル」

「カイリ」

「バゼル」

「カイリ」

「カイリ」


 観客が二人を後押しする。

 するとその様子を観ていたちょうどクラウスが部下に試合許可の伝令を走らせる。


『え、やるんですか。

 ん、ごほん。えー運営本部から許可が降りましたので、これから決勝戦を始めます!』


 闘技場は歓声に包まれる中、カイリとバゼルは向かい合う。


「……てめぇ、実力隠してやがったな」


「隠すも何も魔法師の弟子なんだから普通分かるでしょ?

 気付かない方がおかしいよね」


「調子乗るなよその程度で。

 そのまま俺とあたるまで隠しとけば一太刀くらいは当てられたかもしれないのにな」


「いや、隠しといても良かったんだけど、さっきの勝ち方がやけに得意気だったのが鼻についてさ」


「あ?」


「“闘気法”だよね。

 あれの爆発力で踏み込んだのがさも得意気だったから」


「……てめえ、やっぱりさっきのは俺の真似したのか」


「真似?風の爆発力での突進ならオリジナルだけど。

 まあ爆発力を突進力に変えるって原理は一緒だけどね。

 さも自分が考えたことは他の誰も思いつかないすごい事なんて、まさか考えてないよね?

 “自分が思いつくことは他の誰か()()()思いつくことなんだからさ”

 自己評価が異常に高い奴ほど恥ずかしい奴はいないよ」


 バゼルが歯をくいしばる。

 その様子をクッカが意外そうに観ていた。


「カイリの坊主、ずいぶんと煽るじゃないか」


「うーん、あの子あたしにはちょいちょいキツいけどね。

 けどあそこまで他の人に言うのは見たことないかな」


「おい、ヨーゼン」


「なにサイファー?」


「やっぱあの性格悪いところお前に似てるじゃねぇか」


「そうかな?

 けどそれならサイファーとも仲良くなれそうだね」


 ヨーゼンの戯れ言にサイファーは本気で嫌な顔をする。


「お、始まるよ」


 審判はこのまま二人に会話させると合図前にバゼルが暴走すると判断し、なかば無理やり開始する。


「両者、構えなさい。

 …………始め!」


 カイリは準決勝と同じように身体強化をかけるとアウラを呼び出す。

 バゼルも身体強化をかけたあと闘気法で足と腕を強化し赤いオーラを纏う。

 両者が同時に足元を蹴ると床が弾けた。


(俺の方が速い!)


 景色が高速で過ぎていく中、バゼルは自分の強化した身体能力の方でも上であることを確信する。


 二人の間合いが一気に縮まる。


 バゼルは右拳を握りしめ腕を引く。

 するとカイリは足をついて煙をあげながら急ブレーキをかけた。


「なっ!?」


 あっという間に高さ二メートル程の土の壁を作り上げた。


「うぜぇ!」


 バゼルから見ればそんな壁無いようなモノだ。

 右拳で壁を壊し、左拳を構える。

 砕けた壁の先には、また壁がある。

 間隔をおいて壁が二重に設置されていた。


「クソッ」


 左拳で二枚目を砕いた先には、カイリが刀を上段から振り下ろす姿があった。

 闘気で右籠手を覆い、辛うじてガードする。

 緑色の刀身と赤い籠手がぶつかり火花を上げる。

 弾かれたのはバゼルだった。

 怪我は無かったものの右腕が痺れる。


「!?(なんつう業物の剣ふりまわしてんだ!?)」


 通常の武器ならば闘気で覆った籠手で大概は防ぐ自信のあったバゼルは驚く。

 それもそのはず、その得物は王都で一番と自負する鍛冶屋の虎の子の自信作だ。


 バゼルは一端態勢を立て直そうとバックステップで距離を取るが、仮面を着けた少年がそれを許さない。

 後追いながら一言呟く。

 その声はバゼルの耳に()()()()()()


「逃げたね」


(俺が?こんなガキに!?)


 その言葉を否定するかのように途中で踏みとどまる。

 その様子を観ていたサイファーは眉間に皺を寄せた。


「あのバカっ」


 バゼルは追ってきたカイリにカウンターで左拳を打ち込もうとする。


 だがまたしても目の前に壁が盛り上がる。


「クソッ!」


 砕けた壁の破片を、仮面が弾きながら迫る。


「クソックソッ!」


 バゼルの左手は振り切り、右手はまだ痺れたまま。

 苦し紛れに左足を蹴り上げるがそんな苦し紛れが当たるわけがない。

 カイリはそれを上半身だけでかわすと、空振った右足のふくらはぎを右手で持ち上げ、バゼルの重心を後ろへと傾かせる。


「っ!?」


 左手はバゼルのこめかみへと伸びる。


「くそぉぉぉぉ!」


 カイリはそのままバゼルの頭つかむと石畳の上に思いっきり叩きつけた。


 轟音が響き渡り、砂埃が舞う。


 視界が戻った先にはリングがクモの巣を描くようにひび割れていた。


 バゼルは、動かない。


 観客もその様に声が出ない。


 動いているのは仮面を着けた少年だけ。


「クソクソと語彙力がないなぁ。

 ……審判さん、勝負ありだよね?」


『あ、え』


「なんだったら場外に落とすけど?」


 カイリはとりあえず白目を剥いたバゼルの片足を持つとズルズルと引きずっていく。


『は、だ、大丈夫です。

 あ、そのままで、はい。

 かい、カイリ選手の勝利です!!』


ごめんバゼル

君に語彙力がないのは私のせいなんだ……

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