第72話 バゼル
「なんで彼がエントリーしているんですか?」
「それは……」
ヨーゼンの疑問にメルヴィが答えようとしたところドアが乱暴に開けられる。
「おい!ヨーゼンてめぇ知ってたのか!?」
怒気を孕んで立っていたのはSS級冒険者のサイファーだった。
「知らないよ。
僕も今知ったところだ。
まさに寝耳に水さ」
疲れた様子のヨーゼンに嘘はないと知り、さらにサイファーは舌打ちする。
「ねぇ、どうしたの?」
そんな二人にソフィアが疑問を投げ掛ける。
「あ?なんだ、いたのか食っちゃ寝エルフ」
「は?誰が食っちゃ寝エルフよ!?」
「お前だよ!」
指摘されたソフィアの格好は国王が立ち去ったとたん椅子に寝そべりお菓子を食べていた。
そしてそれを指摘されながらも姿勢を変える様子は全くない。
「サイファー、ソフィア先輩のことは置いておいて君も知らなかったのかい?」
「当たり前だ。
俺はそんな許可出した覚えはねぇ」
「何よヨーゼンまであたしを邪険に扱って一一」
すると観客から一際大きな歓声があがる。
「ん、何かあったの?」
よっこいしょとソフィアが上体を起こし闘技場を見ると一人の少年が入場した。
「カイリほどじゃないけど随分若いね。
格好からして冒険者?」
歳はカイリより3つ程上だろうか、まだ15歳になるかならないかといったくらいの幼さを残す少年だ。
髪は焦げ茶色。
肌は褐色。
細身ではあるが服の上からでも鍛えられたしなやかな筋肉がわかる。
そして特徴的なのは頭にある獣の耳とズボンの後ろをひらひらと動く尻尾だ。
「獣人……にしては何の獣人だがよくわからないわね」
「彼は、バゼル君は獣人同士の混血ですから」
ソフィアの疑問にヨーゼンが答える。
「獣人同士で混血ってことは他種族の獣人との子供?珍しいね」
獣人は同族同種もしくは人間族以外の種族との間では極端に出生率が落ちる。
それは同じ獣人族同士でも例えば虎人族と兎人族では子供はめったに出来ない。
「おい、うちの団員の情報をペラペラ喋るな」
「なにあのバゼルって子、サイファーのとこの子?
じゃあもしかして揉めてたのもあの子関連?」
「ちっ……うちの団員で遠征メンバーにアイツは外した。
なのに勝手に選考会出やがった。
ふざけやがって!」
「まあ僕は彼なら本隊は無理でも同行隊なら問題ないと言ったんだけどね。
サイファーが頑なに駄目だって」
「あたりめーだ。
別にアイツが入ったところで大した影響はないんだ。
けどアイツはまだまだ伸びるからな。
なら将来的にも何かあったときのためにホームに残すのが正解だ」
「彼はそれで納得したのかい?」
「ああ。
最初は反論してきたが残れと言ったら納得した」
「……それ、ホントに納得してるの?
ちゃんと今みたいな話しをしてあげた?」
「あ?するわけないだろ。
だが最後はアイツわかったって言ってたぞ」
「はぁ、君はね、本当に昔からそういうところあるよね」
「あ?」
「ちなみに僕がカイリ君の指導を君に頼んだことは彼知ってるの?」
「あー、あっ言ったかな?
多分。
ああクッチャネエルフの弟子が選考会勝ち残ったら面倒見なくちゃいけねぇからお前に構う暇はねぇとは言ったな」
「ちょっと!人をそういう種族みたいに言わないでよ!」
「絶対それだよサイファー。
あとは、そこをバゼル君がギルマスに頼み込んだ……いや、頼まれて動く人じゃないからなぁ。
多分、ギルマスがこれ幸いと賭け馬として出馬させたんだろう」
「ちっ、あの飲んだくれジジイ。
あとでシメる。
とりあえずバゼルの野郎はボコって辞退させる」
「おい、虎坊」
「変な呼び方すんな婆さん」
導師がサイファーを呼び止める。
「今日は陛下も来てるんだ。
勝手なことはさせないよ」
「あ?うちの団員を辞退させようが団長の俺の自由だ」
「あいにくアンタんとこの坊やは名前が売れててね。
ここで急に辞退になんてなったら試合が始まる前からシラケちまうよ。
まあ最悪、坊やが残っても最終的には団長であるアンタが許可を出さないのなら連れて行かないさ」
「……わかった。
だがいいのか?」
「何がさ?」
ここでサイファーは鼻で笑う。
「バゼルの能力値ランクはAと大差ねぇぜ。
選考会が逆に盛り下がっちまうわな。
賭けになんねぇぞ?
どっかの弟子とあたったら弱いものイジメになっちまう」
ソフィアがその言葉にキッと反応した。
「はっ、何言ってんの?
うちのカイリが負けるとでも?
大体なにあんたんとこの子。
襟足が長くてダッサイんですけど。
わたしああいう生意気そうで襟足伸ばしてるガキ大嫌い!」
「おい、うちの団員の悪口はやめろ。
大体なんで見た目の話しになってんだよ!
それをいうならお前のとこの弟子は……聞いてはいたが本当にガキだな。
それになんであんな髪伸ばしてるんだ?
確か男だろ?」
「かわいいじゃない!
だから髪切るの禁止にしてるの!」
「……まあいい。
あと一番は何で面なんて付けてんだ?」
カイリが子供であること以上に観客の目をひいていたのは白地に紫の模様が描かれたお面だった。
「あの子は2年後には王立学院に入るからここで顔が売れると入学したとき大変でしょ」
「何が大変なんだ?」
サイファーは生粋の冒険者育ちの為、王立学院というモノを分かっていない。
「あの子は別に魔法師団にも騎士団にも興味はないからね。
それを入学前から優秀と分かれば自分の派閥に引き入れたい貴族のゴタゴタに巻き込まれる。
それに周りの子達からも特別視されて孤立するかもしれないし」
「あ?そんなもん情報収集をちゃんとこなしてる貴族らにはとっくにバレてんだろ」
「その情報を把握してる連中ならなおのこと王立学院に通うとは思わないでしょ。
なんたってあたしやババア、ユハナ、クラウスから指導を受けているんだから」
「まあお前が人にちゃんと教えられてるのかはともかく他のメンツからみて学園で教わることなんざねぇわな。
なら学園なんて行かなくてよくねぇか?」
「まあね。
学院卒業の魔法師は1人弟子を学院に送り出すのが義務だけど、まあその弟子が“遠征”に同行出来る実力があるなら優秀な魔法師を育てるっていう本来の目的は果たしているから行かなくていいんたけど(まあその辺カイリは分かっていないみたいだけど)
だから入学手続きは秘密裏に行うし、変なちょっかいを掛けられないようにあらかじめ準備しとくのよ」
「その準備させられるのはアタシなんだがね」
「いや、その代わり交換条件飲んだじゃない!」
クッカの苦言にソフィアが反論するといかにもダルそうにサイファーが口を開く。
「めんどくっさ。
それこそそこまでして学院になんざ行かなくていいだろうが」
「あの子にはね。
別の意味で必要だと思うわけ」
「さっぱりわからんが、とりあえずそれであの変な面つけてるのか」
「変な面とは失礼な。
あの面にはどれだけ貴重な素材と魔石、そして最新の技術が使われているか。
まずあの面には特殊なゴーレムの素材が使われていて、その出現場所というのがまた西方にある一一」
「わかった!わかったからユハナさん。
アレはあんたが作ったのか?」
「そうだよ」
「ってことは魔道具か?」
「もちろん!
まあ今回の選考会には全く意味は持たないんだけど」
「そうなのか」
「うん、着けていても視界が不自由なく確保されるってことだけ。
ただこんな定められたフィールドでなければ効果が発揮するんだけど、その内容っていうのが一一」
「いや、わかった!
わかったからユハナさん!」
「なんであんたユハナには敬語なの?」
「ちっ、うっせぇ。
苦手なんだよこの人は。
とにかくお前の弟子はうちのバゼルに勝てねぇよ」
「はぁ?あんたんとこのつり目なんてうちのカイリにかかれば秒殺だから。
それにカイリなんてオメメぱっちり二重なんだから!」
「いや、仮面被ってて見えねぇよ!
それに秒殺されるの間違いだろ」
「なんですって!」
「先輩もサイファーもやめなよ」
「むうっ、カイリー!そんなつり目襟足なんてけちょんけちょんよ!
けちょんけちょん!」
ソフィアの大声は一階の闘技場にもよく響き、当人の耳にも入った。
「仮面着けてても名前で呼んだら意味なくないか」
「まあ、顔が分からなければ普通同一人物とは思わないさ。
名前も別に珍しくないしね」
何やら騒いでいる師匠に何事かと、カイリは闘技場から2階の関係者席に目をやるもすぐに視線を戻す。
(酔っぱらってんのか?
他人のふりしよ)
「カイリー!カイリー!」
(シカトシカト)
「カイリー!カイリー?カイリさーん!?」
すると獣人の男の子が近づいてきた。
「あそこで何か騒いでるけど、あれお前の知り合いか?」
話し掛けてきたのはバゼルだった。
「まあ、不本意ながら」
「そうか、俺はバゼル。
お前がカイリで合ってるか?」
「そうだけど」
「マジかよ、こんなのが」
話しかけてきたバゼルをあらためてよく見るとどうやら怒っているようだった。
「サイファーの奴、『ガキのお守りを二個とか無理だから』とか言って留守番命じておいてこれかよ。
こんなガキが遠征どころか選考会に出れるのだっておかしいだろ!
クソッ!
うさんくせぇギルマスの言葉に乗っといて良かったぜ」
(一体何の話をしているのだろう?)
「おい!」
バゼルがこちらに声を掛けた瞬間には頭の脇にはバゼルの右足がそえられていた。
「ハンッ。
防ぐところか反応すら出来てねぇじゃねぇか。
今のうちに棄権しとけ。
俺はお前みたいな周りにちやほやされて勘違いした奴が大嫌いなんだよ」
「何をしている!」
近くにいたスタッフが駆けつけてくるがバゼルはもう飽きたとばかりに踵を返す。
「もし俺と当たることがあればそのときは止めずに蹴り抜く。
お前の頭を観客席までふき飛ばしてやる」
そう言い放ち開会式が終わるより前に闘技場を背にした。
カイリとバゼルの初めての出会いは一方的な敵意から始まった。
カイリはその背を見て気付く。
「襟足ながっ!」
次からやっと主人公が戦います。
もう70話を越したのに主人公これまで3~4回しか戦ってない……。




