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黒龍殺しの付与術師  作者: しきな かいどう
少年期 ~王都編~
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第71話 選考会

 薄暗い通路が続く。

 歩を進める度に奥の光が強さを増していく。

 強くなる明かりに目を細めながら、抜けた先は白い円形の舞台。

 白い石畳に上ると観客から歓声が上がる。


 懐かしい感覚。


 厳密に言えばカイリとしては初めての体験だ。


 嫌なのに、もう一度味わいたくなる。

 そんな中毒性がある。


 柄にもなく気持ちが上がる。


 さて、やるか。








「あっ、いたいた!」


 開会式で次々と闘技場入りする選手達の中に弟子の姿を見つけた青エルフがはしゃぐ。


「そりゃあいるだろうさ」


 それを呆れ顔の導師。


「そもそもなんであんたこっちの席にいるんだい」


「なんでって、あたし魔法師団の関係者だから」


 しれっとした顔で特等席に座る弟子を見てクッカは目を細める。


「よく言うよ。

 普段仕事してない癖に」


「そういうババァこそ仕事せずにこんなところで油売ってていいの?」


 そんな様子にニコニコとしながらユハナが口を出す。


「ソフィアちゃん、導師はこれを観るために最近は毎朝4時から仕事片付けてたんだよ」


「ユハナ!余計なこと言うんじゃないよ!」


 ソフィア達が座っている観客席は主催者関係席だ。

 今回のイベント、もとい選考会は王国軍主導のもと開かれている。


「おい!それ言うなら開催に関してはほとんどうちらがやったんだろうが」


 やいのやいの騒ぐ魔法師団トップ3を尻目に苦言を提す騎士団長。


「五月蝿いね!

 その分アタシが聖教国との交渉をやったんだから文句言うんじゃないよ!

 それに選考会に関してはあんたじゃなくて副団長補佐官の働きだろう!」


「部下の手柄は上司の手柄だ!」


「かークズの発想だね」


「ふん、悔しかったらお前の部下の働きを自慢すればいい!」


 その言葉にクッカはNo.2とNo.3の二人を見る。


「…………」


「「…………」」


「あんたら仕事しな!!」


 あははと笑うユハナと目を逸らしていつの間にか買った焼き菓子をポリポリ噛るソフィア。


「いやあ、にぎやかですね」


 苦笑しながらその様子を冒険者ギルド副本部長のヨーゼンが見る。


「他人事のように言ってるけどもっと全面的にギルドも手伝ってもよかったんだけどな!」


「ヨーゼフさん勘弁してくださいよ。

 ……僕が死んでしまいます」


 目の下に隈を作ったヨーゼンの笑顔が痛々しい。


「お前、そんな状態なら今日は休んでも良かったんじゃねぇか?」


「いやぁ、ギルド側からの代表者がいないというのも締まりが悪いですから」


「マルコはまたサボりか?」


「いえ、ギルマスはおそらく観客席のどこかにいるとは思うんですが」


「あのおっさん賭け事好きだからねぇ」


「そういえば先輩はギルマスとギャンブル仲間ですもんね。

 先輩も今日はもちろん賭けるんですよね?」


 この選考会は入場料と出店の他、出場者を対象にした賭け事が行われていた。


「ならなんでこっちの席で観ないのさ」


 クッカの質問に「ははっ」と苦笑のヨーゼン。


「『こんな堅苦しい面子といられるか!』だ、そうです」


「ユハナ」


「アイマム」


 クッカの一言でユハナが魔力感知を拡大する。


「いましたよ。

 南口一階の最前列」


 ユハナが指差した先をソフィア達が目を凝らして見ると、そこにはボサボサの髪を適当にまとめ、ヨレヨレの着物を着た右目に眼帯を着けた小汚ないおっさんがエールを片手にあおっていた。

 するとこちらの視線に気付いたのかサッとしゃがみ隠れた。


「あの野郎、楽しんでやがる。

 ちょっと引っ張ってきてやらぁ」


「あ!あたしは今の内に御手洗いに行こうっと!」


 ヨーゼフとソフィアが立ち上がると、


 コンッ


 導師のパイプが座席の肘掛けを叩き、音が響き渡る。


「待ちな」


 ピタッと動きを止める二人。


「座れ。

 あんたらそのままマルコと合流して呑むつもりだろう」


「おい、言い掛かりだろ」


「そうだそうだ!」


「なら財布置いていきな」


「「……」」


「大丈夫さ。

 賭けの締切まであと一時間ある。

 余裕で戻ってこれるだろう?」


「「……」」


「あと今日は陛下も足を運ばれる。

 エールなんて間違ってもあおってんじゃないよ」


「「……」」


 お互いに目配せし、ヨーゼフとソフィアは無言でバラけて切り抜けることを選択。

 だが導師の他にも立ち塞がる影が。


「どういうつもりよ!ヨーゼン!」


「行かせませんよ先輩、ヨーゼフさん」


 椅子にぐったりともたれていたはずの青年がいつの間にか二人の前に立っていた。


「お二人をギルマスのところに行かせるわけには行きません」


「なんだ、マルコを庇うつもりか?」


 ヨーゼフの質問にヨーゼンが満面の笑みを浮かべる。


「まさか。

 お二人はカイリ君に賭けるのでしょ?

 行くとカイリ君の実力がギルマスにばれてしまいます。

 それは許容出来ません」


 さらに笑みが深くなると目元の隈が不気味に際立った。


「あの人には見事に賭け金をすってもらわないと」


「お、おう」

「うわ……」


 ヨーゼフもソフィアもヨーゼンの笑顔にヒいていた。

 彼は上司にプッツンしていた。

 もともと冒険者ギルドは事務能力が出来る者は不足しがちで貴重だ。

 しかも荒くれ者の冒険者を相手にするのだから離職率も高い。

 そんな中、運営方針を求められる肝心のギルマスはまず職場に来ないのでサブマスのヨーゼンに負担がかかる。

 さらに遠征前のこの多忙な日々にヨーゼンのストレスは限界を迎えていた。


「すっからかんにさせて誰かに金をせびりに行ったところを捕まえます。

 まずはあの飲んだくれをすっからかんにさせます。

 邪魔は、させません」


 場の空気は完全にヨーゼンが制していた。

 そこへ空気を一変させる声が投じられた。


「いったい何をしておる」


「陛下」


 声の主は呆れ顔で立っていた。

 面々はその場に膝をつき頭を垂れる。


「あっ!」


 その際ソフィアが抱えていた袋から焼き菓子が一粒床にこぼれ落ちた。


「……」


 拾うか拾うまいか迷い、結局そっと手を伸ばし掴み上げ、フッと一息かけ袋に戻そうとしたところをクッカに頭を叩かれる。


「クックク、ハハハ。

 相変わらずだな二人は。

 どれ、皆もそうかしこまらずともよい。

 今日は公務ではなく娯楽で来ている」


 その言葉で面々が顔を上げる。

 選考会を娯楽と言えてしまうのにも訳がある。

 というのも遠征のメンバーは既に決まっており、今日は選考会という名目のお祭りだ。

 黒龍という王国に深い傷を残した存在にナイーブになっている雰囲気を払拭する目的とあとは単に遠征資金の金集めの催しだった。


「今日は陛下自ら如何されましたか?」


 普段は自由奔放なヨーゼフも陛下の前では流石に姿勢を正す。


「実は皆に確認したいことがあってな」


「アタシらにですか?」


 なんとなく想像のついているクッカが聞き返す。


「ああ、大事な話だから他言せんように」


「それはどのような?」


「戦士枠と魔法師枠の有力候補を教えてくれ。

 もちろんなるべく倍率の高い奴をな」


「……陛下」


「仕方なかろう。

 王族といえど自分の好きなように金を使うにも色々と手続きがあって面倒なのだ。

 小遣いは密かに増やさなくては。

 して、どいつがお薦めだ?」


「そうだね、魔法師はこれといって魔力量に目立った奴はいないからねぇ。

 そうなると短縮詠唱や得意魔法の相性で決まる。

 ならまあ魔法師団のパティかね。

 まだ若いが努力家でセンスも中々だ。

 まあ選考会に勝ち上がっても、遠征組との特別試合にはまず勝てないだろうがね」


 ちなみに今回の賭け試合は、“選考会の勝ち残り者一名を予想するもの”と“特別試合に勝つ者”を予想する二種類がある。

 後者は一口が高額専用の高配当、ただし負ければ胴元総取りの鬼畜仕様だ。


「ふむ、パティか。

 倍率も悪くないな。

 まあ特別試合には賭けるつもりはないから大丈夫だ。

 流石に勝てる者はいないだろう」


「彼女はまだ若手だから実績が無いですから期待値も低いんだと思いますが、有能な娘ですよ」


 とユハナもクッカと同じ選手を推す。


「よし、ではその娘に賭けよう。

 次は戦士枠だな」


 次の瞬間、場にいた面々の視線が動く。

 ここにいる全員がカイリに賭けるつもりだったが、陛下のお小遣いを賭けられてしまっては配当が下がってしまう。

 この日のために騎士団も魔法師団もカイリの情報に箝口令を敷いていた。

 世間ではクラウスに弟子が出来たとしか出回っておらず、それがあんな子供であるとはもちろん知られていないし思いもしないだろう。

 箝口令はもちろん正式なものではない。

 だが正式でないからこそ部下達は“ガチでヤベー”と思い誰も漏らさなかった。


「どうした?

 ヨーゼフ、教えてくれ」


「……そうですね、()()()()()()ニックが有能です。

 能力値的にもBクラスの中位といったところです。

 特別試合は……無理でしょう。

 そもそも遠征に含めていない実力者はみな留守を任せるために全員に役職を与えているので選考会には出ません。

 出ているのは役職がなく、また血気盛んな若者ばかりですから」


「なるほど、だから騎士団からは出場者が少ないのか」


「はい」


「それにしても、騎士団の参加者は少なすぎやしないか?

 冒険者と比べても8:2では」


「この時期、遊ばせておける兵士はいませんし……」


 カイリにビビって多数の部下たちが棄権したとは流石のヨーゼフも言えない。


「それは冒険者ギルドの都合になります陛下」


「ほう」


 ここでヨーゼンが助け船を出した。


「冒険者の遠征メンバーには今回、副本部長の私が選抜しました。

 今回の選考会で各ギルド支部長の推薦の冒険者が選ばれれば、それは有能な冒険者を抱えている支部ということで評価が上がりますし、それほどの人材を見抜けなかった本部、というか若造の私への当てつけになりますからなるべく支部は所属する冒険者を推薦して送り出したいんですよ。

 なので余計に冒険者が多いのです」


「なるほど」


「ちなみに冒険者で有力なのは、」


 陛下は有力候補者を上げようとしたヨーゼンに手のひらを向ける。


「いや、それもいいが……結局のところ皆は誰に賭けるのだ?」


「「「……」」」


 黙る面々に対し陛下は眼を光らせる。


「で、肝心の英雄の弟子はどこかな?

 出ているのだろう」


「「「……」」」


「俺が気付いてないとでも思ったか?」


「……陛下、賭け金はいくら程ですか?」


 おずおずとヨーゼフが口にした。


「安心しろ。

 相場を崩すような野暮な真似はせんよ」


 まるで悪童のような顔で笑う陛下。


(この方はいつまでも若いなぁ)


 陛下が王子のころ付き人をしていたヨーゼフは呆れと共に懐かしさも感じていた。


「戦士枠はとりあえずアタシらはあの子に賭けるよ」


 クッカは会場に並んでいる選手の中から一人だけ小さな人物を指差した。


「まあ、大人の中に子供が混じっているからまさかとは思ったが、あの子がクラウスとソフィアの弟子か」


「厳密にはクラウスは弟子には取ってないそうですがね。

 奴が珍しく気に入って自ら訓練をつけてやってます」


 ヨーゼフが補足する。


「ほう、それほど優秀か」


「さあ? どうでしょう?」


「なんだ、その答えは?」


「わたしは稽古に参加してないんで知らないんですよ。

 代われって言ってるのにクラウスの奴が代わらないから」


「ふむ、クッカ。

 クッカから見てどうだ?」


「魔法師としては、そこそこだねぇ。

 覚えはいいが、魔導を極めるのは無理だね。

 魔力量もCだ。

 これが魔法師としての試合ならば、賭けないね」


「ふむ……戦士としてはどうなんだ?」


「さあ?アタシは魔法師だからね」


「ん?それじゃあその子供の実力も知らずに皆賭けるのか」


「まあ、あの英雄が肩入れしているのと、それぞれの分野であの子を教えてるからね。

 あの歳であれだけの引き出しを持つ者は中々いないさ。

 なにより一番は現状で実力と配当が合ってないからね」


 現在の配当ではカイリの倍率は大穴も大穴でとんでもないことになっていた。

 賭けるのはよっぽどの物好きだろう。


「それにカイリ君の能力はBクラスに劣っているわけではないですからね。

 弱点といえばまだ幼く経験不足なところでしょうか」


 ヨーゼンが不安な点をあげる。


「なるほどな。

 では一口俺も乗ろうか」


 国王はそう言って満足そうに貴賓席へと戻っていった。

 すると入れ違いでスタッフが入ってきた。


「サブマス!

 出場者の変更がありましたのでお知らせに来ました」


 選考会のスタッフの腕章をつけた女性が息を切らしながらヨーゼンに報告する。


「あれっ?」


 ソフィアがその女性スタッフを見て首を傾げる。

 ユハナも気付き声を掛けた。


「やあ」


「あ、お久しぶりですユハナ様、ソフィア様」


「ん?うーん……」


「……ソフィア様、もしかしてお忘れですか?」


「ソフィアちゃん、ギルド職員のメルヴィさんだよ」


「ああ!ハゲと不倫してた人!」


「違います!

 なんであなたといいカイリ君といい師弟そろって変な覚え方してるんですか!?」


「メルヴィ君、参加締め切りはとっくに終わってるはずですが」


 首を傾げながらヨーゼンが本筋に戻す。


「それが無理やりねじ込んだ方がいまして」


「そんなこと出来るのは騎士団か魔法師団の幹部の方ですか?」


 ヨーゼンは自分に覚えのないことから団長二人を見る。


「知らんぞ俺は」


「もちろんアタシも知らないね」


「そ、それが」


 どうやら犯人をメルヴィは知っているようだった。


「誰です?」


「ギルマスです」


「はぁ?ちょっと見せてください」


 混乱しながらもヨーゼンが受け取った用紙には今最も有望とされる若手冒険者の名前が追加されていた。

 冒険者ギルド副本部長……長いのでサブマス(サブマスター)で称していきます。



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