第70話 レイラとリボン
昨日、仕立て屋での採寸も滞りなく終わり、魔狼の毛皮を加工した服も数日後には出来上がるそうだ。
いくつか細かい注文も付けたが店主は嫌な顔せず了承してくれた。
まあ選考会には間に合いそうにないが仕方ない。
丸一日休息日にしたことで魔力消費による疲労もだいぶ楽になった。
そして今日、王都に来て初めてレイラと会う。
ソフィアは昨日もレイラと遊びに行ったらしく、彼女の機嫌を聞いたら「う、うん。別に、うん、大丈夫じゃない?」とのこと。
それ、大丈夫じゃないよな。
そんなこんなで変な緊張を抱えたまま、待ち合わせ場所に向かう。
こうして実際に会うのは2年ぶりか。
たまに手紙でのやり取りはしていた。
文字の読み書きの勉強になるとレイラからはすぐ返信が来たが何せ俺が筆不精のため手紙の冒頭に遅いと文句が書いてあった。
「確か、ここのはずなんだけどなぁ」
待ち合わせ時間ちょうどに来たがレイラはいない。
どちらかと言えばせっかちな彼女らしくないなぁと思うも、いないのなら仕方ない。
噴水の縁に腰を掛けて待つことにした。
周囲には走り回る子供達の他に出店や買い物客が多い。
10分、20分と待つもまだ来る気配がない。
久し振りにぼけーとしながら流れる人の町並みを眺めていると、変わらないモノに気付いた。
それは同じ噴水の縁に、先に座っていた女の子だ。
俺が12時の位置にいるとすればその子は2時の位置に座っている。
気になり右後ろを振り返る。
女の子は“金髪”のロングストレートにニット帽を被っている。
「……あれ?」
すると向こうがこちらを向いた。
“青い目”を半眼にして睨んでいる。
自然と冷や汗が出てきた。
どうする?
昔、流れていたカード会社のテレビCMを思い出す。
頭の中にカード選択肢が出てきた。
1、謝る
2、何もなかったかのように話しかける
3、「なーんてね」と知ってたアピール
4、まだ気付かないふり
5、走って逃げる
どうする!?
4は無理だ。
だって今もめっちゃ目があってるし。
5は後が怖い
2は問答無用で殴られる。
3は……イチかバチか。
縁石から腰を上げ、彼女の前に立つ。
「なーんて一一」
すると立ち上がり横を通り抜ける。
その目には涙を溜めていた。
「ごめんなさい」
レイラの腕をとっさに握ると同時に謝る。
そうだ、思い出した。
レイラは気が強いが以外と泣き虫だ。
家出に付き合って俺がゲインに殴られたときは自分のせいで他人を傷付けたことにショックで泣いた。
俺と遊んでいて泣いてしまったときはワガママを聞いてもらえなくて泣くのではなく、俺の適当な対応に傷付いて泣くのだ。
つまり今回も俺が悪い。
「ごめんなさい」
「……」
レイラは顔をそらして目を合わせてくれない。
これは、かなりまずい。
許してくれそうなときは睨まれるが、目を合わせないときはかなりマジだ。
「本当にごめんなさい。
許してくれるならレイラの言うこと何でも聞きます」
「何でも?」
帽子を脱ぎながらここで初めて彼女が口を開いた。
“何でも”で反応されると怖い。
「えっと、出来る範囲でなら」
「いくつでも?」
「……1つでお願いします」
「せこい」
「はい……すみません」
「なら、お願いの前に質問に答えてくれたら条件飲む」
「な、なんでしょう?」
「なんで気付かないの?」
シンプルな疑問だけによくよく傷付けてしまった事がわかる。
「ごめん」
「……しばらく会わないだけで顔もわすれるような、カイリにとってわたしはそんなものなんだ」
「ちがうよ」
「じゃあなんで?」
耳が出てなかったから?
さすがに怒るだろう。
んーまあここ2年ちょっとで雰囲気がだいぶ変わってたし。
「なんか雰囲気が変わったから」
「どんな風に?」
レイラの耳がピクリと動く。
「髪伸びた?」
「伸びてないわよ!」
「あとは髪型がツインテールじゃなくなってるし」
「うん……変えてみた。
似合う?」
「いや、似合うけど前の髪型の方が子供っぽくて可愛かったよ?」
「はあ?子供っぽいの嫌いだし!」
……怒ってらっしゃる。
なにか選択肢を間違えたようだ。
「カイリはどっちの髪型がいい?」
「……」
(正直、髪型とかどうでもいいなぁ)
「どうでもいいって顔してる」
「い、いや?そんなことないよ。
あ、それじゃあコレは……無駄になっちゃったか」
ポケットから取り出したのは昨日、仕立て屋に行ったときに店内で目について購入したものだった。
「キレイ……」
珍しい魔獣の糸を織り込んで作製された2本1組の青に染められたリボンだ。
通常の仕立て屋では取り扱いが難しく、普通の布よりもずっと頑丈だ。
なにより色彩が鮮やかで評判の商品らしい。
正直、値段も結構した。
「もらっていいの?」
「レイラに渡すために買ったものだから」
「うん、ありがとう!」
「じゃあどれにする?」
「えっ?」
ポケットからさらに2種類のリボンを取り出す。
色は赤と紫でそれぞれ2本ずつある。
「……3つもどうしたの?」
「ああ、実家に送ろうと思って」
「誰に?」
「誰って、アリスと―――」
「ククル……って娘?」
「ん?ああ、師匠から聞いてるの?」
「ええ、可愛い娘だって」
「ん、うん、そうだね……あの、レイラさん?」
「なに?」
なんだろう。
今日イチで怒ってる気がする。
「と、とりあえず何色がいいかな?
俺的には瞳の色に合わせて青色が似合うと思うけど」
「瞳の色……なら紫がいい」
「ん、紫でいいの?」
「紫がいいの」
「?」
3つの中から紫色のリボンを渡すと大事そうに受け取ってくれた。
「あ、けど髪型どうしよ……ツインテールじゃあ子供っぽいよね」
何をそんなに気にしてるのだろう。
別に子供なのだからいいと思うけど。
「うーん、なら片方だけなら?
俺はそれも似合うと思うよ。
1本余ったのは無くした時の予備にすればいいんだし」
「無くさないもん!
……それならもう片方はカイリが使って」
「俺?
いやぁ、母さんもアリスもいない今のうちに髪切っちゃおうかなと」
なんなら坊主でいいまである。
「駄目!」
「いや、長いし」
もうすぐ腰に届こうかという長さだ
流石に鬱陶しい。
「なら腰より下は切っちゃ駄目!」
「それほぼほぼですよね」
「言うこと1つ聞くんだよね?」
「リボンを入れると2つじゃ……」
「セットで1つ!」
「……はい」
まあ、そのぐらい良いか。
レイラの髪をいつも結ぶ位置よりも高いところで結んでやると、今度はレイラが俺の髪を編み込んで同じ色のリボンを結ぶ。
するとすっかり上機嫌になった。
その後はお互いのことを話した。
レイラは王都でも友達が出来て、勉強を頑張ってるらしい。
俺の方は、友達は出来ないけど色々頑張ってると言ったら呆れられた。
「ククルって娘は友達じゃないの?」
「友達ってよりは家族、妹かな」
「はあ、可哀想……」
ぼっちを憐れまれた。
「いや、友達はレイラがいるし、やることも色々あるから別に――」
「そうじゃないわよバカ」
「?」
たまに罵られながらも、その日は太陽が完全に沈むまでおしゃべりをした。
そうして休日をすごし、選考会を迎えた。
ちなみにアイリには包丁、ギルには短剣、ゲインには饅頭です。




