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黒龍殺しの付与術師  作者: しきな かいどう
少年期 ~王都編~
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第66話 最初は覚えてたんだけど……

「やっほー」


 能天気な声と共に青髪のエルフが空から降りてきた。


「どうもソフィアさん」


 それに赤髪の騎士が答える。


「うちの弟子は?」


「あっちで横になってますよ」


 クラウスの視線の先にはカイリが仰向けに寝ていた。


「ありゃ、いいなぁ。

 ヴァネッサちゃんの膝枕」


「こちらからお呼びしようと思ってたんですが、早かったですね」


「そりゃあ、あんな火柱見ればね。

 明らかにあの子の魔力を使いきる規模だもの。

 魔力欠乏でぶっ倒れてるだろうなと思って」


「いい攻撃でした」


 クラウスはそうにこやかに笑う。

 王都の女性らが見たら黄色を挙げるところソフィアは呆れ顔だ。


「んなこと言って火傷一つないんじゃ嫌みだよ?

 ふぅ、まあそんなつもりもないんだろうけどさ。

 ってかどんな身体してんの?

 あれ超級魔法の【蒼炎陣】だよね?

 ほんとどんな身体してんの?」


 ソフィアがクラウスの身体をバシバシと叩く。


「痛いですって」


「そんなわけないじゃない」


 さらにしつこくバシバシと叩く。


「もしかして怒ってます?」


「むっ」


 その言葉で叩く手が止まる。


「やっぱり」


「むぅ」


 指摘にソフィアが顔をしかめ、クラウスは苦笑する。


()()望んでることですからね。

 今後もこのぐらいのことはしますよ」


「んー」


 なにやら思い悩み、うなるソフィア。

 それを見てクラウスは口角が上がる。


「ちゃんと師匠してるんですね」


「ん、まあね!

 けど聞いてよ!

 私の弟子ったら師匠の気持ちも知らないで自分の意見を最後には通してくるんだもの。

 ほんと誰に似たんだか」


 王国軍幹部としてクッカ導師とも付き合いがありよくNo.3の愚痴を聴かされてきたので、その言いぐさに呆れた視線を向けるものの当のソフィアは気付かない。

 そして本人はそのままヴァネッサのところに向かった。


「あ、ソフィアさん」


「ごめんねうちの弟子が手間かけさせちゃって


「あ、いえ。

 あの一つ聞きたいことがあるんてすけど」


「なに?」


「“銀の天使”って知ってます?」


「ああ、今王都で話題になってるやつね」


 知ってます知ってますとなぜか自慢げにたいしてない胸を張る。

 以前、選考会の話題を知らなかったことで導師達に馬鹿にされたのを実は気にしていたのだった。

 そんな事情を知らないヴァネッサは首を傾げながらも話を続ける。


「はい、純白の衣を身に纏った銀髪の少女の天使が夜空を舞ながら人助けをしているという内容のモノです。

 目撃者による容姿や被疑者逹を鎮圧していく術からもしかしたらカイリ君ではないかと思ったのですが」


「本人は何て?」


「知らないと」


「ああ、めんどくさいんだろうね」


「やはり」


「うん、カイリだよ。

 だって夜中に宿を抜け出して召喚魔法の訓練しているもの」


「召喚魔法まで使えるんですか!?」


「うん、と言っても契約したのは下位精霊だけどね」


「…………」


 まだ11歳の小さな魔法師の引き出しの多さに思わず言葉を失う。


「……カイリ君はいったいどれだけの修行をしてるんですか?」


「そうだね、起きたら今言った精霊召喚の修行、午前中は婆さんのもとで召喚魔法とその他の魔法学、午後はユハナのもとで魔道具の勉強、そいであたしのところで魔力操作の修行、夕方はここで剣の……、というか実戦訓練ってところかな」


 ソフィアは地形が変わった第二訓練場を見て剣の修練ではないなと思い、言い直しながらもヴァネッサに説明した。


「すごいですね。

 とても子供がこなせる量ではないです」


「ほんとうにね」


 ソフィアは複雑な顔でカイリの額を一度撫でると負傷箇所に治癒魔法をかけていく。


「こんだけボロボロになりながらも骨折や致命傷はないんだからある意味おたくの副団長は器用だよね」


 そうですね、と苦笑するヴァネッサ。


「けどそんな相手に、実力差を理解していながらも全力で挑み続けられるところがカイリ君のすごいところだと私は思います」


「普通は心折れるね。

 ましてや“英雄”が相手じゃ尚更ね」


「だからでしょうか、副団長が最近楽しそうなんですよね。

 仕事も実は朝早く来て夕方には終わるように調整してるんですよ」


「そうなの?

 どこも似たようなことしてるんだね」


「と言いますと?」


「導師も午前中に時間空けるために朝早く来て仕事してるみたいだし。

 まあ年寄りだから自然と目が覚めちゃうだけかもしれないけどね!あはは」


 あの導師にこんなこと言えるのはこの人くらいだろうとヴァネッサはけらけらと笑う青エルフを見る。


「……もう一つ気になることがあるんですが、カイリ君が着ているこの服は」


「ああ、あたしのおさがり。

 この型の服が大量に衣装ケースにあったんだけど子どもの頃のやつだし、もう着れないから普段着にあげたんだ」


「そうなんですか。

 ……あの確かこのデザインの服は一昔前に流行った女性魔法師用の服装じゃ……」


「違うよ。

 ()()()()()()()()に流行った女性魔法師用の服装だよ?」


 さっきまでヘラヘラしていたソフィアだが目は笑っていない。


「は、はい、そうですね……」


「女の子用だけどまあスカートとかじゃないから男でも着れないことはないし」


「まあ確かにカイリ君には似合ってますね」


 ヴァネッサは膝元で眠る少年の顔を見ながら、自身が子供の頃の服を頭の中で着せて、うん似合うと一人強く頷いていた。


「でしょ!

 けどこれは内緒ね?

 この子田舎者だからこれが女の子の服って気付いてないの!ぷぷっ。

『派手じゃないですか?』とか言って、都会じゃこれが普通よっていったら信じてるんだもの!」


 するとヴァネッサの膝元で寝ていた少年が身動ぎした。

 びくっと肩を震わせるソフィア。

 恐る恐る少年の顔を覗き込むとゆっくりと眼を覚ますところだった。


「っつ……。

 …………あれ、師匠?」


「おはようカイリ」


「……」


「ど、どうしたの?」


「自分が寝ている間に何か……ありました?」


「え、ないよ?

 ヴァネッサちゃんとカイリは頑張り屋さんだねって話してたの」


「……嘘くせぇ」


((するどいっ!))


 先程の服装の話を聞かれていなかったことでほっとしながらも弟子の疑いの眼に冷や汗をかく青エルフ。

 すると後ろから声が掛けられた。


「目が覚めたかい?」


「はい。

 クラウスさん、今日もありがとうございました」


「今日の課題は見付かったかな」


「はい、指摘された点も含めていくつか」


「そう言えば精霊召喚も使えるようになったみたいたけど今日は使わなかったね」


「まあ、まだ形になっていませんし、そもそも攻撃用の精霊魔法とかは使えませんので」


 その言葉を効いてクラウスがいぶかしげな顔をする。


「召喚魔法なのに?」


 クラウスが疑問に思うのもそのはずで召喚魔法とは術師の代わりに戦わせる為のモノだ。


「ええまあ」


「どんな運用方法なのかな?」


「それほまだ秘密です」


 カイリのその言葉を聞いてクラウスが楽しそうに笑う。

 ヴァネッサは思う。


(この子の凄いところは心が折れないところと言ったけれどあと、もう一つ。

 王国の英雄相手に勝つことを本気で狙っているところ……)


 全力を出すことと勝ちを狙うことは違う。

 相手との実力差を理解するほど後者を本気で実行するのは難しい。


「師匠、さっきの話の続きなんですけど――」


 カイリの言葉にさっと顔を背けソフィアはクラウスへいい忘れてた事を伝える。


「ああ! そうだ!

 伝言があって、導師がヨーゼフのおっさん含めて話しあるから業務が終わったら連絡くれって」


「わかりました。

 じゃあカイリ君、悪いけど先に行くよ」


「あ、はいありがとうございました」


 クラウスが踵を返したところであたふたする副団長補佐。

 クラウスについていきたいがカイリの介抱も放っては置けないのだろう。


「ヴァネッサさんもありがとうございました。

 僕はもう大丈夫なんで」


「いえ、まだ顔色悪いですし……」


「怪我は師匠が治してくれたようですし、あとはただの魔力欠乏ですから。

 お仕事に戻ってください。

 それにそこの師匠に話の続き聞かないといけないので」


 とっさに目をそらす王国最強魔法師だが、誤魔化すのはド下手だった。

 そんな変わった師弟関係の様子に戸惑いながらもヴァネッサはカイリの申し出を受ける。


「わ、わかりました。

 それではまた。

 次に会うのは選考会ですね。

 頑張ってください」


「はい、ありがとうございました」


 ヴァネッサがパタパタと走りクラウスの後を追う。


「師匠、さっきの――」


「喋らないで」


「いや、そうじゃ――」


 カイリはソフィアが誤魔化すつもりかと思ったが、彼女の目を見て口を開くのを止めた。

 ソフィアはカイリを膝枕し直すと首もとに両手を当てる。

 表情は先程のまでのへらへらしたものではなくなっていた。

 白く細い指から魔力が流れていく。

 魔力感知の修行でおこなっていたようなただ魔力を流すモノではなく魔力譲渡という高等技術だ。


「……ありが――」

「喋らないで」


 その声は苛立ちではなく気遣うものだった。


「…………」


「…………」


 しばらくの間、沈黙が続きその間ソフィアが魔力を供給し続ける。


「あんまり無茶はしないでよ」


 ようやくその喋った一言は怒っているようでも悲しんでいるようでもあった。


「……」


「前に説明したはずだけど魔力欠乏にも3段階あって軽度、中度、重度。

 今回のは中度でも重度より。

 重度だと場合によっては命落とす可能性だってあるんだからね」


 だからこそだった。

 今まで軽度の魔力欠乏症は何度か経験があったが、それ以上ならどうなるのか。

 あえて試したカイリは何も言えなかった。


「保有魔力量を正確に把握してないと魔法消費の危険度はわからないけどあんだけ派手な魔法の炸裂音を連発させた後に超級魔法はカイリにはあきらかにキャパオーバー。

 こうなるのわかってたよね?」


「……」


「まるで何てことないかのように話すから合わせたけど、クラウスは気付いてたよ」


 クラウスも幼少時代から無茶な稽古をしていたのはある人物から話をよく聴かされていたのでソフィアは知っている。

 英雄である彼はそこが人とずれている。

 だからカイリの訓練も加減はしても優しくはしない。

 今の代の王国騎士団の錬度は高い。

 副団長の厳しい訓練内容と、それに付いてこさせるだけのカリスマ性があるからだ。

 それでもここまでの内容の訓練は騎士団でもしていない。

 骨こそ折れていないがこの英雄と一対一の訓練など普通は心が折れる。


「…………喋ってもいいですか?」


「……いいよ」


「心配させてごめんなさい。

 でも無理はしていませんから」


 弟子のその言葉を聞いてソフィアは顔をしかめたのち溜め息を吐いた。

 毎日ぼろぼろになるまで訓練して終いには魔力欠乏症で倒れるなど無理と言わずして何と言うのか。

 英雄と言われる赤髪の騎士とこの弟子の共通点と言えば無理を無理と思わないところだろうか。

 いや、あの英雄の能力があればこそ無理が無理でなくなるのであってこの子の場合は……。


「それに今日ここまで魔力を出し切ったのは選考会までの3日間は休息日と決めていたので」


 ちゃんと計算して魔力欠乏症になったと言うのだがそれもどうなのだと思う。


「ああ、確かにそんな話しヴァネッサちゃんとしてたね」


「いや、師匠にも何日も前にしてますけど」


「……だっけ?」


「…………」


「だ、だからって気を失うほどの無茶な使い方は駄目だからね!」


「……はい」


 今の返事の感じは魔狼で大怪我したときと同じだった。

 コイツホントに理解してるんだろうかと半眼で睨む。


「それとも倒れればまたヴァネッサちゃんに膝枕して貰えるとか思ってるんでしょう?」


「…………!」


「冗談で言ったら、今弟子がなるほど!って顔したんだけど!」


「何を言ってるんですか?」


 そしらぬ顔で返すカイリ。


「カイリってもしかして年上好き?」


「…………」


 所々子どものらしからぬ不遜な弟子があからさまに動揺していた。


「まあ、仕方ないか」


「はい?」


「だって身近にこんな大人の女性の魅力に溢れた師匠がいるんじゃ年上好きになっちゃうかぁ」


「はっw」


「ちょっと今鼻で笑ったでしょ!?

 しかもなんか異様にその笑い方ムカついたんだけど!?」


「いえw馬鹿にしてないですよ?」


「くぬぬぅ、絶対馬鹿にしてる!」


「っていうか何で年上好きだと思ったんですか?」


「いや、なんかヴァネッサちゃんと話すときいつもよりニコニコしてる」


「……してないですよ?」


「急に嘘が下手になったなこの弟子……。

 どうりでククルちゃん達になびかないわけだ」


「? なんでここでククルが出てくるんですか?」


「マジかコイツ……」


「っていうか達って?」


「カイリ……もしかしてまだ会ってないの?」


「会うって誰に?」


「レイラちゃん」

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