第65話 クラウスの特訓
ストックが貯まってくると筆がさらに遅くなるので取り敢えず投稿。
夕暮れ刻、騎士団第二訓練場に激しい爆発音と金属音が連続で鳴り響く。
その衝撃は外にも響き渡り、仕事を終えこれから飲みに行こうとしていた騎士逹が足を止め、音の原因の方角を振り返る。
「……今日もやってるな」
「……ああ」
この音は夕暮れに響くようになり、もう10日目になる。
10日前、同じように爆発音が鳴り響いた。
騎士達が何事かと思い普段使われていない第2訓練場へ向かったところ、入り口にて副団長補佐官のヴァネッサに止められた。
「ヴァネッサ補佐官!今の音は!?」
「あ、ああ、気にするな。
ちょっと中で訓練をしているだけだ!」
どこか戸惑いながらも説明する補佐官に対し、みんな同じ疑問が思い浮かんだ。
「誰が訓練しているんですか?」
「副団長だ。
わ、わかったなら散りなさい!」
副団長は基本的に夜遅くまで仕事をし、早く終ったときはまっすぐ家に帰る。
愛妻家で一人娘を溺愛しており、寄り道することはない。
なので副団長が仕事終わりに訓練場を使用することは珍しく、さらに副団長を相手にしているのは誰なんだという話しになった。
ヴァネッサはこの間の模擬戦の子供とだけ答え、中には入れてくれない。
「副団長から観戦は禁止されている。
気になるのなら約2週間後の選考会に出場すればあの子のことが分かるでしょう」
この言葉に若い騎士団員は表情が変わる。
ヴァネッサの言葉を煽り文句と理解したからだ。
もともと若い騎士団員は皆クラウスに憧れて騎士になった。
クラウスは地位に関係なく面倒見の良かったが、仕事以外で誰かに訓練を施すことはなかった。
そしてそれが自分達騎士以外の者ということが許せなかった。
いわば嫉妬である。
「ヴァネッサ様!まだ申し込み期間終わってませんよね!?俺、参加します!」
「俺も!」「俺もだ!」
思っていた以上の煽り効果に自分で驚くヴァネッサ。
(ふふっ、団員に発破をかけて士気を向上。
さらに選考会を盛り上げる。
思ってた以上の反応ね!
私だってもう指揮する立場なんだからこのぐらい出来るんだからね!)
うんうん、と頷く補佐官だが、正解は半分だけ。
もう半分は美人で若い補佐官の彼女に良いところを見せたいという独身若手騎士の下心だった。
それを理解しながら利用したのなら大したものだったが残念ながら全く気付いていなかった。
そしてその下心を出したことに彼らはすぐ後悔する。
連日、第2訓練場には激しい魔法の衝撃音と斬撃の音が鳴り響き、申し込んでしまった騎士逹の顔が日に日にひきつる。
そして現在、暗くなった空を照らすように火柱が上がり、涙目になった若手騎士逹の顔がぼんやりと浮かぶ。
1人の若手騎士が呟いた。
「……そもそも副団長とマンツーマンの訓練に耐えられる事自体がおかしかったんだ」
クラウスは優しく部下思いだが、訓練は尋常じゃなく厳しかった。
本人はそんなつもりはないのだが自身の能力が高すぎることもあり、自然と徐々に訓練の内容が厳しくなっていったのだ。
選考会まであと3日、申し込んだ騎士達は第2訓練場へと走り出した。
「補佐官殿!!
自分はやはり遠征の間の留守を守りたいと思います!
なので選考会は辞退をしたいと」
「あ、あの自分も!」
「俺も!」
不甲斐ない部下にヴァネッサは溜め息をつく。
しかし、若手騎士たちも選考会という衆人環視の中で子供の、しかも女の子に(本当は男なのだが)負けるわけにはいかない。
それこそ一生話のネタにされてしまう。
「わかった。
いいでしょう」
若手騎士たちの表情がぱっと明るくなる。
「ただし、」
続く補佐官の接続詞で表情が固まる。
「団長からの指示で、『選考会に申し込んだのにも関わらず辞退する者は選考会翌日から2週間、体裁など考えられなくなるくらいの特別訓練をしてやるから楽しみにしていろ!ガハハハ!』だそうよ」
「……死んだ」
「詰んだ」
「終わった」
絶望の顔を浮かべる若手騎士たちを見てヴァネッサは鼻で嗤った。
(何を言ってるのかしら。
あの子はそれ以上の訓練を続けているというのに)
舞い上がる火柱がさらに熱を帯び、蒼白い炎に変わる瞬間、一際激しい音と共に火柱が消え去った。
ヴァネッサだけが訓練場に入るとそこには銀髪三編みの子供が苦悶の表情を浮かべながら仰向けに倒れていた。
「今のが奥の手かい?」
焼けた大地の上でなにやら楽しそうな声が響く。
ヴァネッサは副団長が訓練中にこんな楽しそうに話す所を見たことがない。
対して、相手はその質問に答えるようとするも声にならず代わりに呻き声があがる。
ヴァネッサが楽しそうな声の主であるクラウスを見ると服の裾が多少焦げた程度で身体には傷一つない。
「面白い連続魔法だった。
ただし、上位へと昇化させるのが遅い。
極めるのなら一気に極めないと」
その言葉に反応してかようやく少年が身動く。
がふっげふっ
少年は手をつき立ち上がろうと下を向いた瞬間、胃液を吐いた。
頭がふらふらしている。
アレは魔力欠乏症だ。
魔力を使いすぎると起こる現象で、あの状態になると吐き気と目眩により、まともな行動はまずとれない。
そのままうずくまりもう吐くものもなくえづき、その度に背中がびくんと跳ねる。
ヴァネッサは自然と眉間に険しくなる。
(むごい)
これに似た光景がすでに10日続いている。
少年はさらに体を丸めうずくまると、力を溜め込むかのように一気に立ち上がった。
女の子のような可愛らしい顔はえづた際の涙で目元が赤くなり、頭からは血が流れ、顔には泥がついている。
「まだ、やるかい?」
クラウスの問いかけに足元をふらつかせながらも今度はしっかりと首を縦に振る。
しゃべると吐きそうになるのか口は閉じ頬はやや膨らんでいる。
クラウスが一歩踏み込む。
次の瞬間にはカイリの目の前に斬撃が迫る。
それを正面から受け止め鍔迫り合いの形になる。
本来なら今のカイリに受け止められる訳はない。
クラウスがさらに加減をしたのだ。
少年が上半身を前に傾け刀を押し込もうと試みる。
次の瞬間、少年は口からクラウスの顔に目掛けて何かを吹き掛ける。
それは石だった。
吐きながらうずくまったときに足元の石を咥え込んだのだろう。
しかし、それを予測したかのようにクラウスが避ける。
カイリはその瞬間を逃さずに一瞬体勢が横に振れたクラウスの脇に出て剣を受け流そうとした。
しかし、足はそれ以上前に出ることはなく、崩れ落ちた。
カイリの腹部にはクラウスの膝がめり込んでいた。
「懐かしい攻撃だったな」
クラウスの言葉を最後にカイリの意識は途切れた。




