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黒龍殺しの付与術師  作者: しきな かいどう
少年期 ~王都編~
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第64話 夜の天使

 王都に来てからもカイリの朝は早い。

 いつものように深夜1時頃に目を覚まし、ベッドから降りると窓から隣の民家の屋根に跳び移った。

 夜空を見上げると二つの灯りが浮いていた。

 この世界には月が二つある。

 双方が夜空に浮かんでいるとランタンを持たずとも歩くことが出来るが、逆に隠れてしまうと深い暗闇に包まれる。

 もっともここ王都には当てはまらない。

 魔石を利用した街灯が多く設置され歩くのに困ることはない。


 カイリは周囲に人がいないのを確認するとアウラを召喚した。


「お呼びですかご主人様!」


 緑髪の妖精が元気に姿を現す。

 性別も女に変わったからか若干髪が伸び、身体の凹凸も出てきたような……いや小さいからよくわからん。

 この召喚でアウラを呼び出すのは3回目になる。



 心配していたアウラのイジメに関してだが、ソフィア経由でカエサルに報告し対応してもらった。

 名付けた後の召喚、つまり2回目のアウラとあった時に、どうだったか聞いたところ戸惑いながらも「大丈夫です」と答えた。

 その様子に違和感を感じたので後でソフィアに確認したら「カエサルが大丈夫って言ってたから大丈夫だよ」との返答が。

 これはいい加減なのかそれとも信頼なのか。

 導師も「馬鹿弟子はともかくカエサル様が大丈夫と言ったのなら大丈夫だろう」とのこと。

 アウラもこの前のようなつらい雰囲気とは違うので取り敢えず大丈夫と判断し、もし異常を感じたらその時に動けるようにしておくかとそんなことを考える。

 その様子をソフィアは不思議そうに見ていた。


「何ですか?」


「いや、やけに心配性というか世話焼きというか」


 そうだろうか?


「カイリってあれだよね。

 基本優しいけど人を選ぶじゃん」


「当たり前じゃないですか?」


 誰にでも優しくするほどこちとら人間出来ちゃいないし、なりたいとも思わない。


「まあそうなんだけどそれを自覚して公然と言える子供ってどうなの?」


 呆れた目を向けられる。

 まあ、そんなこと言わないのが無難だからなぁ。


「んでもって、初めてあった精霊に名前つけてあげて、戦闘に向かなそうなのに契約して、さらにカエサルにまで頼み事するなんてやけに入れ込んでるなぁと思って」


「それは……」


 言われて気付いたが無名召喚の境遇に多少の感情移入をしてしまったのかもしれない。

 親しい人以外には手間じゃなければ手を貸すぐらいのスタンスだったはずだ。

 らしくなかったか。

 あとそれに気付いたソフィアもなんだかんだ弟子のことを見ているのだなと少し見直した。


「なんか今のカイリって世話焼きママみたいだよね。

 口うるさいところとかも」


「ほんと、言わない方が無難なことってありますよね」


 そう言って朝から呑もうとしていた酒瓶をとりあげた。




「ご主人様!

 どうされました?」


 思わず回想に耽っているとアウラに呼ばれる。


「いや、なんでもない。

 あとそのご主人様はやめて」


「いえ、カイリ様は僕のご主人様ですから!」


 あれから何度かアウラを呼び出しているがやけに態度が仰々しい。

 普通の契約と違い一生涯における主従契約とか。

 柄じゃないし、めんどくさいからせめて様呼びは止めて欲しいと言っているのだが直してくれない。

 あれ、全然言うこと聞いてくれなくね?


「まあ、いいや。

 じゃあ今日も始めようか」


 アウラを呼び出して何をするかと言えば()()だ。

 もちろんただの散歩じゃない。

 アウラの魔法【風羽織】で風を身に纏い大きくジャンプする。

 すると風のアシストにより、より高く、そしてゆっくりと落下する。

 これがちょっと楽しい。

 一度カエサルの様に飛べないのか聞いたところ。


「ボ、ボクの力でカエサル様のように空を飛ばすなんてそんな力は下位精霊にはありませんし、比べられる事すらおこがましいですっ!」


 とのことなので飛ぶのは諦めて取り敢えず風のアシスタントを受けながらの動きに慣れようと夜の王都を散歩しているのだ。


 民家や商店街の屋根を跳んでいると王都内にも貧富の差が有ることがわかる。

 王都の中心にお城が、その周りに貴族街の大きな屋敷が並び、商店街、中流層、下流層、そしてその裏路地の隙間にスラム街がある。

 外に行くにつれ、治安も悪くなる。

 だがそれと反比例して衛兵の数が減っている、いや衛兵一人辺りにあてがわれるエリアが広くなり明らかに手が回っていない。


「ご主人様あれ!」


 アウラの指差す先は商店街だ。

 裏口から何やら袋を抱えた不審な男逹が出て来たところだった。


「こんな夜でも働くなんて本当に人は労働が好きなんですね!」


 アウラは時々見当違いな発言をする。

 どうやら人間に対して良い印象を持ち過ぎているきらいがあるようだ。


「アウラ、こんな夜更けにランタンも持たずに出歩く人間なんていないよ。

 明らかに不審者だ。

 それに労働が嫌で嫌でしょうがない人もいるんだ」


 主にソフィアとか。


「?」


 その言葉にアウラが首を傾げる。


「でもご主人様も灯りも持たずに出歩いてますよ。

 ご主人様も不審者なんですか?」


「うっ」


 深夜のお店の裏口から荷物を抱えて出てきた男と、深夜に屋根の上を跳び回る子供どちらが不審者かと言われたら後者だろう。


「ごほんっ。

 いいかいアウラ?

 俺がやっているこれはいわば自主トレ。

 俺が灯りを持たないのは、自主トレは人に見られちゃいけないからなんだ」


「自主トレ?

 それはなんで見られちゃいけないんですか?」


「じ、自主トレだからだ!

 それ以上でもそれ以下でもない」


 何言っているのか自分でもわからない。


「わかりました!」


 わかったの!?

 マジで!?

 そしてアウラはなにやら尊敬の眼差しでこちらを見てくる。

 この眼はとにかく俺を信頼しているといった眼だ。

 くっ、良心が。


「じゃああの人たちは?」


「ひとまず、それを確かめよう」


 アウラが使える魔法は、現在使用中の【風羽織】と【言霊運び】の二つのみだ。

 後者の【言霊運び】は一定の距離内で任意の相手に風を使って言葉を伝えるものだ。

 この二つは風精霊の固有魔法にあたる。

 本来はここに攻撃魔法も使えるはずなのだがアウラは使えない。

 自身の能力不足に落ち込み謝罪していたが、もともとアウラにはサポートのみで直接戦わせる気はない。

 戦う理由のあるものが戦うべきだと思うのだ。


【言霊運び】で男逹に尋ねる。


『おじさん逹は泥棒かな?』


「誰だ!?」

「気付かれた!?」


 男逹が懐から武器を取り出し周囲を見回すが誰もいない。

 【言霊運び】の利点は対象の周囲に限定して伝えることで他者に情報が漏れにくくすることと言葉の発した位置を気取られなくする事の二つ。

 効果は地味だが割と便利だ。


『その慌て様から言って当たりっぽいね。

 今衛兵を呼んだから』


 それは嘘でなくここから建物を挟んで100メートル離れた地点にいた衛兵に【言霊運び】で伝えていた。

 もっとも衛兵も戸惑っていたが。


「くそ、この声はガキか!

 ふざけやがって! 出てこい!」


「バカ! いいからとっととずらかるぞ!」


 男逹が逃げるために足を踏み出したところ、地面がめり込む。


「うわ!?」

「なんだ!?」


 足首から膝、腰、胸といつの間にか地面から沼に変わっており沈んでいく。

 すると路地の曲がり角から丁度衛兵のランタンの灯りが見えた。


「アウラ、行こう」


「え、え?」


 現場を離れると戸惑いながらもアウラがついてきた。


「ご主人様、いいんですか?」


「何が?」


「だってご主人さまは悪い人を捕まえたんだからあの場にいたらきっと誉められますよ!」


「アウラ、今俺達は何してるんだっけ?」


「はっ!自主トレです!

 人に見られちゃいけないんですね!」


「そうだ。

 それにまだまだ練習が必要そうだ」


 本当はめんどくさいだけなのだが自主トレとは便利な言葉だなと考えながら、カイリは自分の右手を見る。


「ワンテンポ遅れたな」


 精霊召喚中に別魔法を使用したところ魔力操作が乱れ、発動が遅れてしまった。

 思っていた以上に召喚と魔法の同時使用がシビアだ。

 もともと召喚魔法は精霊や悪魔に代理で戦わせるものであって召喚中に別魔法を唱える機会は少ない。

 しかしカイリは同時使用を前提として考えているので通常とは逆を行くことになる。

 導師からは召喚魔法は合わないと言われた。

 ならば合う形に変えればいいだけだ。

 カイリは前世の武術においてもそうしてきた。

 足りないのなら足せばいい。

 ないのなら他から引っ張ってくればいい。

 体格的にも才能的にもそこそこどまりモノで勝負するしかなかったからこそ行き着いた考え方だった。


 その後も召喚と別魔法の同時使用の練習を兼ねた散歩を連日続けた。

 あるときは娼婦街で絡まれている女性を助け、あるときは商店街で泥棒を捕まえ、あるときは娼婦街で暴れる酔っぱらいを取り押さえ、あるときは教会の孤児院の子供が連れ去られそうになっているのを助け、あるときは門の外で魔獣と戦う兵士を助け、再び娼婦街で娼婦に訳わからん説教をする酔っぱらいを魔法で静かにさせた。

 娼婦街への散歩が多いようなのはきっと気のせいだ。

 これらの行為は全て屋根上から魔法を飛ばしておこなった。


「すごい!

 ご主人様は正義の味方ですね!」


 アウラのその言葉にカイリは苦笑する。

 だがそのことに気付かずアウラは続ける。


「ご主人様に掛かれば悪い人間や魔獣なんていちころですね!

 あっ!待ってくださいご主人様!?」


 カイリは話の途中で背を向け、宿へと戻る。


「アウラ、お疲れ様。

 今日は陽が昇ってきたし、また明日よろしく」


「はい、呼んでもらえるのをお待ちしています!」


 光の粒子が散りアウラがあちら側に帰った。


「正義の味方とか、」


 召喚を解いたあと自嘲する。


 しかしこの数日後、カイリはさらに顔をひきつらせることになることを知らない。

 およそ一週間続けたこの“散歩”が今や王都で話題で持ちきりになっていた。

 その内容は夜に人助けをする“銀色の天使”が舞い降りたというモノだった。


もう少し、“散歩内容”詳しく書こうと思ったのですが、「あれ?話し進んでなくね?」と思ってとどまりました。

そのうち閑話として書いたり書かなかったりするかもしれません。

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