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黒龍殺しの付与術師  作者: しきな かいどう
少年期 ~王都編~
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閑話 精霊の里

 精霊界


 ~風精霊の里~


 数ある集落の一つに召喚帰還によるゲートが開いた。

 ゲートを中心に下位精霊達が集まり出しニヤニヤとした笑いを浮かべる。

 その集団とは少し離れたところには集落の長である女の上位精霊が立っていた。

 彼女は下位精霊達とは違い、人間と変わらない大きさをしている。

 彼女の切れ長の美しい目には笑みはなく、ただじっとゲートを睨んでいた。


 そんな精霊達の注目の中、ゲートからは身長20センチほどの緑髪の精霊が出てきた。


「名無しのグズが帰ってきたぞ!」

「いけないんだ!お前は人間界に行っちゃいけないんだぞ!」

「怒られる怒られる!カティヤ様に怒られるー!」


 下位精霊達に一気にまくしたてられたアウラはその勢いに驚き萎縮してその場で下を向いてしまう。

 アウラも帰ってくるまでは理不尽な仕打ちにに言い返そうと思っていたのだが気弱な性格と囲まれた状況の中では巧く言葉もまとまらず黙り込んでしまった。

 名前がつけてもらえたからと性格まで変われるわけじゃない。

 アウラは弱いままであることを痛感する。


 そこに上位精霊の彼女がゆっくりと歩を進める。


「カティヤ様だ!」

「お前怒られるぞ!」

「名無しのくせに人間界なんて行くからだ!」


 カティヤと呼ばれた上位精霊はそれらの声を無視してアウラの前に立つ。


「あら、おかえりなさい」


 カティヤは笑うがアウラにそれは嗜虐的な笑みに見え、ますます怯えてしまう。

 実際、今回アウラが召喚ゲートを潜るはめになったのはカティヤが下位精霊をけしかけて誘導したからだ。

 カティヤは表立ってアウラを罵倒することはない。

 ただ下位精霊達に精霊の基礎魔法を指導する際にアウラだけには教えてくれなかった。

 アウラが聞いても何も答えず無視されていた。

 それどころか見よう見まねで魔法の練習をして失敗をする度に笑われた。

 アウラは周りのみんなが名前を貰う中、焦っていく。

 一度勇気を出してカティヤに、未だ習得出来ていなかった基礎魔法の指導をお願いした。

 いつものように無視されたがそれでもお願いしたところ何の気まぐれか「一度だけよ」と返事をもらえた。

 結果は、失敗だった。

 カティヤが嘘の指導をしたわけではないことは他の下位精霊達の指導の様子を見ていたアウラにもわかった。


「やっぱりね。ふふ。

 あなたには才能無いのよ」


 カティヤそう言って大きく笑った。

 その様子を見ていた下位精霊達も一緒に笑う。

 この時から下位精霊達からもあからさまに馬鹿にされるようになり、またアウラも自信を失ってしまった。

 そんな出来損ないのドベが帰ってきたと下位精霊達は人間界から帰ってきた緑髪の精霊を蔑みの目を向け嘲笑する。


「初めての人間界はどうだった?

 つまらないところでしょう。

 まさか名前の無いあなたが本当に行くなんてね」


 口元を手で隠し嬉しそうに笑うカティヤ。


「言い忘れてたけど名無しのあなたが召喚に応じることは規約違反なの。

 だから残念だけど罰を与えなくちゃね。

 大丈夫よ。

 痛い事は何もないから」


 そう言うとその白く美しい手を目の前の怯えきった精霊へと伸ばす。


 カティヤの口は弧を描き、表情が隠しきれなくなっている。


「………………せん」


 消え入るような声でアウラが呟く。


「?」


「名無しじゃありません」


 今度ははっきりと。


「……何を言っているの?」


「ボクの名前はアウラです!」


 目に涙を溜めながらカティヤを睨む。


「何それ? 何を馬鹿なことを――」


 小さく震えながらも決して目をそらさないアウラを見て一つの考えに行き着く。


「まさか!?」


 アウラの腕を掴み引き寄せると掌を開かせる。

 そこには契約の刻印が浮かんでいた。


「……なんで?

 あなたはこれがなんだか分かっているの?」


 驚きのあまり切れ長の目が大きく開く。


「ボクはカイリ様に忠誠を誓いました」


「今日初めて会った人間に忠誠!?

 名付けを受けた!?

 ふざけないでよ!

 あんたはっ! 本当に馬鹿だね!

 そんなのいいように使われるだけなのに。

 そもそもあんたは攻撃魔法が使えないでしょう!

 そんな役立たずが契約してどうするのよ!」


「カイリ様、いえご主人様は次第に出来るようになればいい、出来なかったら他を伸ばせばいいと言ってくれました!」


「下位精霊で覚えるべき5つの基本魔法をたった2つ、しかも補助魔法しか使えないあんたが?

 はっ、無理よ!」


「それでもいいと、話し相手になってと言ってくれました!」


「何を馬鹿なことを!

 そんなの嘘に決まってるでしょう!」


「ご主人様は嘘をつきません!」


 二人の言い争いに、特に今まで言い返すことのなかったアウラに下位精霊達は戸惑いっている。


「その辺にしておけ」


 頭上からやけに渋いイケメンボイスが響き渡った。


「カエサル様!」

「カエサル様だ!」


 上を見上げると精霊界において数人しかいない最上位の精霊の一人がゆっくりと降りてきた。

 その両隣には二人の美丈夫と美女の精霊を従えている。

 突然の登場に下位精霊達が騒ぐとカエサルの左隣にいた美女が「うっせぇな。潰すぞ」といらただしげに呟く。

 すると宙に浮いていた下位精霊は悲鳴をあげて地面に落下し、地上にいた者達も立っていることが出来ずに地面にへばりつく。


「カティヤとそこのお前もだ。

 カエサル様の前で頭が高いぞ」


 続けて右側の美丈夫が告げた。

 その声はとても冷酷でアウラは全身が粟立つとともに慌てて膝をつく。

 カティヤといえばなにやら悔しそうな顔でカエサル逹を見ている。

 その姿は見ようによっては睨んでいるのとか変わらない。


「カティヤ、なんだその態度は?

 ひざまづけ」


 美丈夫は表情を変えずに告げる。


「うっ……っっ!」


 カティヤを中心に地面が割れる。

 見えない風の圧力でカティヤと足元の大地が呻き声をあげる。


「上位精霊になって高々100年程度の小物がよく耐えるではないか」


「そんなに地面が嫌いならお空の雲の上まで逝っちまえよ」


 男の精霊に並んで口調の悪い女精霊がカティヤに手を向けた。


 アウラにはその重圧の矛先はむいていない。

 にもかかわらず二人の付き人の発する威圧感で身動きが取れなくなっていた。


 下位精霊達は女が加減したであろう魔法で全員失神していた。

 カティヤも肩が外れ不自然な形に腕がぶら下がっており、膝も異常な方向へ曲がっている。


 男はそれをつまらなそうに見ていたが女の方は顔が楽しそうににやけていた。


「へぇ、思ったより……。

 ならもう少し本気出すぞ。

 兄者、興味ないなら俺に任せろよ」


 兄者と呼ばれた男が頷いたとき、中心にいた人物がペタペタと前に出た。


「もうよい」


 カエサルのその一言で周囲の重圧が消える。


「カティヤ、久しぶりだな」


「……はい」


「今日は何故、出向いたか分かるか?」


「……」


「おいてめえ、カエサル様が聞いてんだろ!」


 血の気の多い女が再び手をカティヤに向けるがカエサルがそれを制す。


「ここの集落には下位精霊しかいない。

 そこを上位精霊であるお前に任せた意味、分かるな?」


「はい」


「引き続き任せていいのか?」


「……はい」


 カエサルはじっとカティヤを見つめたあと背中を向け空に舞い上がった。

 従者二人もそれに続く。


 三人の姿が見えなくなるとカティヤはその場に崩れ落ちた。


「カティヤ様!?」


「触るな!」


 近づくアウラを怒鳴るとカティヤはボロボロの羽を動かしながらふらふらと森の中へと消えていった。

 アウラから彼女の顔は見えなかった。


「どうしよ」


 後ろを振り向くとそこらじゅうには泡を吹いた下位精霊達が転がっていた。





 ~森の奥~


 カティヤはボロボロの身体を半ば引き摺るように飛び、泉の前で崩れ落ちた。


「クソクソクソクソッ!

 …………あともう少しだったのにっ!」


 光りも射さないほど深い森の中でカティヤの声が響き渡った。

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