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黒龍殺しの付与術師  作者: しきな かいどう
少年期 ~王都編~
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第63話 召喚と契約

 導師の元に通い一週間が経過した。


「やってみな」


 クッカの指示に従い五つの小節からなる呪文を唱える。

 これから呼び出すのは下位の精霊だ。

 今のカイリの魔力操作技術なら無詠唱のスキルも相まって呪文を唱える必要はない。

 それでも唱えているのはこれが召喚契約の儀礼にあたるからだ。


 唱え終わると同時に空中に風の渦が巻き上がり、収束していくと最後に緑色に輝く粒子が散った。

 するとそこには20センチ程の緑髪の女の子が背中の羽を動かし飛んでいた。


「……」


「……」


 お互いに目が合うも妖精はカイリを見て固まっている。


「……」


「……」


気まずい。


「こんにちは」


「こ、こ、こんにちは!」


 取り敢えず挨拶するとなんか滅茶苦茶緊張している様子の妖精を見て、久し振りにカイリも人見知りモードに入ってしまう。


「……」


「……」


 再び訪れる沈黙。


「こ、こんにちは」


「こ、こ、こんにちは」


「あんたら……挨拶を教える飼い主とインコじゃないんだから」


 導師が呆れている。


 そうだ契約だ。


「えっと、はじめまして。

 カイリと言います。

 良ければ召喚の契約を結びたいんだけど、どうかな?」


「あ、あのぅ」


 するとなにやら口ごもってしまった。

 これはあまり気が進まないのかなと思っていると導師が眉をひそめた。


「あんた、名前は?」


「いえ、あ、あの……」


 なにやら様子がおかしい。


「あんた名無しかい。

 どうして召喚に出てきたんだい」


「す、すみません」


 名無し?

 今いち状況がわからない。


「下位精霊にも一人前と半人前があるのさ。

 本来召喚に応じられるのは名前のある下位精霊からのはずなんだがね」


「すみませんすみません!」


 なんか必死に謝っている姿を見ると可哀想になってきた。


「こういう間違いってあるんですか?」


「間違いはないよ。

 正格には()()()()()()()()()

 なんせこちらの呼び出しに応じなければいいんだから確信犯以外あり得ないのさ。

 名無しが召喚される場合は見栄を張りに来た馬鹿だけさ」


「見栄ですか?」


「人と契約するということは力を認められたということ。

 形でなく実力を一人前と見なされたも同然なのさ。

 その肩書き欲しさにやって来る馬鹿はいるね」


 だが結局は名前がないと契約は成立しないから名無しであることは必ずばれる。

 ならなぜそんな嘘を付くのかというと下位精霊はまだ精霊として自我を持って日が浅く、ある意味純真、悪く言えば短絡な思考に陥りやすいらしい。


「本来、最初の契約は人と精霊の信頼で成り立つ大事なものなんだ。

 それを自己の見栄のために騙そうというのは御法度だ。

 精霊との契約は悪魔との契約に比べれば制約は少ない。

 とはいえ、それだけはやっちゃあ駄目さ。

 あんた少なくともこの先100年は人と契約出来ないよ」


 精霊は今にも泣きそうになっている。


「そういう訳だから召喚はやり直しだ。

 あんたも帰りな」


「……すみません」


 この子はさっきからすみませんしか言ってない。

 こんな子が見栄の為に違反をするだろうか?


「なんでこんなことしたの?」


 思わず聞いていた。


「……」


「君が、ホントに悪いの?」


 するとポトリポトリと目元から大粒の雫が流れ出す。

 それは次第に溢れ出て止まらなくなった。

 精霊は溢れ出す雫を押さえ込むように小さな両手で目元をおさえる。


 カイリは直感的の思った。

 (違う)


「導師、別に僕は気にしていないので、今回のことはなかったことに」


 その言葉に驚き反射的に精霊は顔をあげ、カイリ見る。


「アタシも別にあんたがいいならかまわないんだけどね」


「なら――」


「だが召喚は痕跡が残るんだよ。

 特に精霊界側にはね。

 こちらが良くても精霊界側にとっては別の話さ」


 うーむ、どうしようか。

 大精霊のカエサル様ならなんとか出来るかもしれない。

 けれど庇うにしても行為の理由を知らなくては。

 それに本当にくだらない理由ならそれこそ庇う必要もないのだが、精霊の様子を見るに本人が意図してやったことではないだろう。


「ねぇ、理由を教えてくれないかな」


「っひっく、ぅぅ」


 意識的に声を柔らかながら尋ねるも未だに涙が止まらず会話にならない。

 取り敢えずハンカチで涙……だけ拭くのは小さすぎて難しいので顔を拭ってやり、落ち着くのを待った。


「あっ、ありが、と…ご、ございます」


 目元をはらしながらなんとか喋りだす。


「なんでこんなことしたの?」


「すみません」


「謝罪はいいよ。

 もう受け入れたから必要ない。

 君の理由を知りたいんだ」


「はい……。

 ボクがこちらに来たのは周りに行くように言われて、無理やり……」


「周りに?」


 小さくうなずく精霊。


「それでも、カイリ様には関係無いことで迷惑を――」


「だからそれはいいって。

 で、周りっていうのは?」


「はい……周りというのはボクと同じ風精霊逹です。

 精霊として自我を得るのが遅かったボクは同じ年の頃の下位精霊逹にノロマやグズと揶揄され馬鹿にされてました。

 実際精霊なら次第に覚え使えるべき魔法がいくつかうまく使えません。

 そして他の下位精霊逹はどんどん名前を授かっていくのに、ボクはまだ名前をもらっていません。

 そのことでさらに馬鹿にされ苛められました。

 そこでカイリ様の召喚魔法により精霊界にゲートが開いた際、ボクを苛めていた子逹が召喚資格の無いボクを突き飛ばして無理やり行かせ、その様子を見て皆で笑っていたんです」


「酷いな」


 精霊同士でも人間のように苛めとかあるのか。

 その話を聞いていた導師が眉をひそめた。


「精霊界の各部落を管理するのは上位精霊の仕事だがそいつは何してたんだい?

 注意しなかったのかい?」


 どうやら精霊界にも村が存在し、その村長的存在の上位精霊が村を管理し、名付けなどもおこなっているらしい。


「…………」


「まさか、そいつが先導したのかい」


 その言葉で精霊がまた泣き出してしまった。

 当たりのようだ。

 本当にくだらないことをする精霊もいたものだ。


「導師、このことをカエサル様に訴えて今回の罰則をなかったことにしてもらおうと思います」


「確かにあの方なら風の最上位精霊にあたるからその権限はある、が……」


 導師が難しい顔をする。


「どうかしたんです?」


「上位精霊がグルとなると、不味いね。

 契約を結んでいない召喚は長時間維持出来ないのさ。

 馬鹿弟子に連絡してカエサル様に伝えてもらっている間にこの子は精霊界に戻ることになるだろう。

 そしたらおそらくその上位精霊に先に罰則を受ける。

 それは呪いみたいなもので易々と解除出来ないんだよ」


「カエサル様に伝えたから手を出すなとこの子が主張すれば――」


「それで収まればいいけど、逆にその上位精霊や下位精霊逹が短絡的思考に陥ったらまずいことになる」


 逆切れか。

 厄介だな。

 そこでカイリは一つ閃いた。


「なら契約をすればいいんじゃないですか?

 そうすれば召喚も維持出来ますし、なにより罰を受ける根拠も無くなりますよね」


「いや、だから名前の無い精霊とは契約出来ない……まさか」


 察しのいい導師に笑みを向ける。


「問題あります?」


「いや、出来るけれどもそれは――」


 その時、精霊の周りから光の粒が浮かんできた。

 カエサルのときに見たことがあるが帰るときに出る光だ。

 急いで精霊に近寄り目線を合わせ、尋ねる。


「俺と契約してくれるかな」


 精霊はあまりの事に泣き止む。


「ボクは名前が、無いから、ヒック、契約を結ぶことが出来ません……ヒック」


「うん、だから俺が名前をつけようと思う」


 精霊は驚き、泣き止んでしまう。


「名前を……」


「嫌かな?」


 首をブンブンと一生懸命振る様子に安心する。


「でもボクは他の皆に比べて魔法も下手で――」


「ならこれから上手くなれば良いし、駄目なら他の事を伸ばせばいい。

 それに別に戦うだけじゃくて、うん、そうだな。話し相手になってよ」


精霊はまるで信じられないものを見たかのような顔をした。

導師は渋い顔をしているが黙ってくれている。


 「いい?」


再び顔を両手でおおい、頭を上下に振る。


 うん。

さて名前か。


「“アウラ”なんてどうかな」


「アウラ……」


 精霊は小さい声で反復すると顔から手を離し次第に笑顔になっていった。


「はい!」


 どうやら気に入ってくれたようだ。


「ではこれからよろしくアウラ」


「よろしくお願いしますカイリ様!」


 精霊との間に長文の呪文を空中に描き、向き合って互いに手を合わせる。

 すると魔力がアウラに流れていったのがわかった。

 これで契約は成立だ。


 アウラは涙を流しながら両手でこちらの人差し指にふれ、宣誓した。


「ボクの全身全霊をかけて、生涯カイリ様に尽くします」


 …………あれ?重くね?


「えっとアウラ、ありがとう。

 けど生涯とかそんな――」


 すると導師に肩を叩かれ、その先の言葉を止められた。


「カイリ、精霊に名前を付けるというのは生涯契約と同じ意味を持つ。

 またこれを了承した精霊も召喚者の命がつきるまで()()ことを意味する。

 普通の召喚契約と違い主従契約みたいなものさ。

 これを反故した召喚者には今後悪魔ですら召喚に応じる者はいなくなるし、反故された者は一生笑い者になる。

 わかってるね?」


 導師の言葉に顔がひきつる。

 そんな考え足らずの馬鹿を置いて導師がソフィアに魔道具で今回の件を伝える。

 10分もせずに折り返しソフィアから連絡があった。

 これでアウラが向こうに帰っても大丈夫だろう。


「カイリ様、傍を離れるのは寂しいですが一度精霊界に戻りたいと思います」


「ん、わかった。

 もし何かあったらすぐ伝えるように」


 アウラと契約したことでお互いに連絡出来るようになっている。

 向こうで何かあればすぐこちらに呼び出せるだろう。


「それでカイリ様は、あの……どちらがいいですか?」


「どっちって?」


「男と女のどちらがいいですか?」


 ますます言っている意味がわからない。


「その子が言っているのはこれから“なる”性別のことさ。

 名無しの精霊にはまだ性別がないからね。

 名前を授かって己で性別を選択し、一度眠りについて“変わる”のさ」


 マジか。


「えっとごめん女の子と思って響きでアウラってつけちゃったけど、希望を聞いてからの方が良かったよね」


 いや、あのときはそんな余裕もなかったのだけれど。


「いえ、とても素敵な名前だとボクは気に入ってます。

 それに……性別もカイリ様に決めて欲しいです」


 何故か熱っぽい目を向けられたじたじになる。


「いや、アウラのなりたい方でいいんだよ」


 終わりそうにないその様子に呆れた導師がアウラに助言をした。


「アウラ、カイリはそんなナリしてるけど男だよ」


 そんなナリとは失礼な。

 確かに髪を伸ばして三つ編みにしているせいで余計女の子と間違われるけども、髪を切ろうとするとアイリもアリスもソフィアもククルも本気で止めにくるのだから仕方ないだろう。

 一度ゲインに助けを求めて、口を挟んだところめちゃくちゃ叩かれてそれ以来見ない振りをするようになった。

 まああの光景を見たら男なら誰でも尻込みする。

 ギルなんてその光景に小さく悲鳴あげてたし。

 ゲインに同情はするし恨んではいない。


 導師の助言を受けたアウラがさらに目を輝かせる。


「わかりました!ありがとうございます!

 ボク女の子になります!」


 何故そうなるのか意味がわからない。

 導師はそんな俺を見て一言呟く。


「こういところは年相応か」


 その言葉になんか腑に落ちないがひとまず初めての召喚はうまく?いったのだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] アウラは、「みにくいアヒルの子」だと良いですね。 今まで、風の魔法を使えなかったのは、別の精霊族だったせいで、眠りから覚めると本来の精霊の姿に戻るとか。 夢を見せてくれる展開にセンスを…
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