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黒龍殺しの付与術師  作者: しきな かいどう
少年期 ~王都編~
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第62話 適量

「今帰りました」


 カイリが宿に戻り部屋を開けるとベッドから上半身だけ起こしたソフィアが眠そうにしながら目を擦っていた。


「おかえりぃ。

 おはよぅ」


「……」


 まだ寝ぼけているようだ。


「はぁ、ちょっと早いですけど夕食にしますか」


「うんー」


 このあとクラウスとの稽古を考えれば少し早いけれども丁度いいと寝ぼけたソフィアを連れて宿屋の一階の食堂に向かう。


「ほら、フラフラしてると危ないですよ」


「うんー」


 食堂で女将さんに頼むとすぐに野菜スープと小さい焼き魚、パン、サラダが出てきた。



「師匠、このあとなんですけどクラウスさんのところで剣の稽古行ってきますんで」


「うんー」


「師匠は出掛けないんですか?」


「うんー」


「眠そうですけどまた寝るんですか?」


「うんー」


「……このジャム、パンに合いますけどつけます?」


「うんー」


「あ、塩取ってもらっていいですか?」


「うんー」


「お魚美味しいですね」


「うんー」


「今後はお酒禁止ですね」


「うんー……ん?」


「約束ですよ」


「うん?うん?

 え、ごめんなんて?」


「お酒禁止です」


「え、ちょっ、なんで!?」


「師匠、僕が導師のところに出掛けている間にお酒飲みましたね?」


「ん?飲んでないよ。」


 急に素の表情に戻ったが、逆に取り繕ってるのがバレバレだ。

 “何を言っているんだチミは”という顔が腹立つ。


「だからこんな時間に起きたんですよね?」


「いやぁ日頃の疲れが溜まってて」


「ふざけんな無職が」


「あ、ちょっ、ひどい!

 ちゃんと職はあるもん!

 ちょっとお休みしてるだけだし!

 それにお酒飲んだって証拠どこにあるの?」



「女将さーん、朝この人何注文してどこで食べました?」


「えっとたしか枝豆とチーズを頼まれて部屋に持ち帰られましたよ」


「……」


「や、やっぱり朝は野菜と乳製品を撮らなくちゃね!」


「朝から枝豆とチーズを食うやつ聞いたことねぇよ。

 なら今度から師匠だけ毎朝枝豆とチーズですね」


「や、それはちょっと」


「あとちょっと息はあーってしてくれます?」


「お、女の子がそんなはしたない。

 無理!」


「ってかすでに息吐かなくてもアルコールの匂いするんですけど」


「嘘っ!?歯も磨いたし、匂い消しの薬草も飲んだのに!?」


「いや、嘘なんですけどね」


「……」


「……」


「なあんてね☆」


「とりあえずお酒没収しますね。

 袋だせ」


「まってまってごめんなさい嘘ついてごめんなさいそれだけは!!」


「変な時間に飲むからおかしな生活習慣になるんですよ」


「だって一人で暇だったんだもん」


 そう言って服の袖をつかんできた。


「伸びる」


 取り敢えずその手をはたき落とす。


「ひどいっ!」


「はぁ、お酒は1日三杯まで、あと自分が夜起きている時のみ、ならいいですよ」


「いや、三杯とか酔えないから!」


「まず、酔わないでください。

 約束破ったら以前に没収したお酒、導師に返しますよ」


 先日導師に渡したものとは別の酒を荷物から引っ張り出す。


「まだあったの!?」


「別に全部導師に返すとは言ってませんし、厳密にはこのお酒が導師のお酒がどうか僕は知りませんし聞く気もありませんから」


 そう言って酒瓶のラベルをトントンと指で叩く。


「弟子が黒いよ……」


「で、どうするんですか?」


「まけて13杯で!」


「割りますよ?」


 酒瓶を逆手に持ち上げた。


「え、お酒を!?

 あたしの頭を!?」


「…………」


「じゃあ三杯とは別に誰か馴染みと一緒の時は普通に飲んでいいってことで」 


「…………」


「あたしにだってせっかく王都に帰ってきたんだから恋人と――」


「恋人出来たことないって前に」


「ぅぅ、友達と……飲むことだってあるかもしれないし」


 思いの外クリティカルヒットしたようだ。

 ここで“友達いるんですか”は流石にえぐい。

 前世の終盤、遊ぶ友達が片手で数えられるほどしかいなかった人間としてここはスルーしてあげよう。


「そうですね。

 友達となら仕方ないですね」


「なんかカイリが今までにないくらいの優しい顔なんだけど……」


「そんなことないですよ?

 じゃあそろそろ剣の稽古に行ってきます」


 取り敢えずもらったばかりの刀を腰に据えて騎士団本部に向かう。


 入り口の先の受け付けにはまたあの見た目はほんわかとして可愛い受付嬢が座っていた。

 まだ若い騎士がちらちらと受付嬢を見ている。

 主にその豊満な胸を。

 童貞だなアイツ。

 取り敢えずクラウスのところに行くため受付嬢に話しかけた。

 一瞬顔がひきつっていたような気がするが気のせいだろう。

 受付嬢もこちらの顔を覚えていたらしく、要件を言うとオロオロしながらもすんなり通してくれてホッとした。

 最初は副団長室まで案内を申し出てくれたのだが道筋だけ聞いて断った。

 正直この受付嬢は苦手なので関わりたくない。

 しかも呼び方がまたちゃん付けになっていたので一瞬わざとかと思って眉を寄せると、


「な、なんでしょうカイリちゃん。

 え、もしかして副団長のところには本当はこの間のお礼参りで、その前に私を準備運動とばかりに魔法で焼くつもりですかぁ!?

 ごめんなさいごめんなさい!見逃してください!」


「普通に稽古つけてもらいに来たんですよ!」


 彼女が頭を下げる度に可愛らしい顔に似合わない大きな胸が揺れるが正直気にしている暇はなかった。

 周囲が物騒な叫びに一瞬ぎょっとなり、反応が速い者にあっては剣の柄に手をかけている。

 ほんと勘弁してください。

 周りに聞こえるように大きな声で誤解を解くと、なんだ受付嬢のいつものやつかと警戒を解いていった。

 いやいや、いつものってなんだよ。

 しかし警戒とは別の視線が刺さる。

 “あれが副団長の弟子か”、“しかも魔法はあの青エルフの弟子らしい”、“この間の模擬戦すごかった”、“かわいい”等々だ。

 変なのが混じっていた気がするが気のせいだろう。

 ちなみにこの世界は15歳で男女共に結婚出来、若い女の子と年配の貴族の政略結婚も珍しくない。

 しかし、あまりにも年が離れていると流石に世間の目は冷たい。

 法的にはセーフでも世間的にはロリ認定される。


 通路を歩き好奇の目で見られながらも副団長室の扉の前まで来た。

 叩くと返事があり、扉を開くと中にはクラウスと補佐官のヴァネッサがいた。


「丁度よかった。

 今仕事を終えたところだからさっそく始めようか」


 デスクから腰を上げると大きく伸びをする。


「急がしい中ありがとうございます。

 よろしくお願いします」


「気にする必要はないよ。

 ところでその刀はどうしたんだい?」


 クラウスの態度はこの間より幾分柔らかい気がした。


「これはこの間の武具屋の店主がくれました」


「へぇそれはずいぶん気に入られたね。

 工房に飾ってあったやつだろう?」


「知ってるんですか?」


「あそこの武具屋は有名だからね。

 ところで刀を扱った経験は」


「ないです。

 なんで要らないって店主に言ったらキレられました」


「はははっ、そりゃあ端正込めて造り上げた自信作だろうからね。

 欲しいと言う者はいてもまさかいらないと言う者がいるとは思ってなかっただろうしね」


「なので誰か刀の扱いが出来る人がいれば教えてもらいたいんですが」


「うん、私も多少は心得があるし教えられると思うよ」


「助かります」


「それじゃあ始めようか」


 クラウスのあとをついていき、模擬戦の時とは別の訓練場に移動した。


 互いに武器を手に取り向き合う。


「剣を教えはするけれども模擬戦形式でいこう。

 ここには私とヴァネッサ以外は近付かないよう伝えてある。

 私と彼女は遠征において指揮を執る立場にいるから君の“本当の実力”を知っておきたい。

 君の力は他言しないと約束しよう」


 クラウスの後方に控えるヴァネッサが頷く。

 しかし、遠征同行が決まっているかのような話の流れだが……。


「あの」


「なんだい?」


「まだ選考会終わってないんですが」


 その言葉に、ああそっかという顔をするクラウス。

 あれこの人もしかして天然だろうか。


「まあ君なら通るし大丈夫」


 笑いながらそんなことを言うが、なら選考会免除にしてくれよ。


「前半は魔法抜きの剣と体術のみ、後半は何でもありで行こう。

 それからさっき言ったように君の魔法やスキルは他言しないし、ここは普段使われない訓練場で他の者には()()()()()()()()()()()()()


 そう言ってクラウスはカイリの後方を凝視する。

 釣られてカイリも振り返るが誰もいないし気配も特にない。

 再び向き合うと、クラウスは何事もなかったかのようにじゃあ始めようかと剣を構えた。












 結果、出せる力を出してボロボロに負けた。

 それでもクラウスがこちらに合わせ手加減してくれていることはわかる。

 

「よし、今日はこのくらいにしよう。

 明日も同じ時間から始めようか」

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