第56話 カイリ対クラウス
レビューありがとうございます。
まさか感想だけでなくレビューまで頂けるとは。
思わず二度見してしまいました。
レビューを頂いて嬉しいのと共に自分の作品がどう見えているのか分かり勉強になります。
騎士団訓練場
銀髪の子供と赤髪の青年が訓練用の刃を潰した剣を片手に向き合っていた。
「あの、ルールはあるんですか?」
「特にない。
ああ、もちろん魔法の使用も認めるよ。
君の実力を測る為のものだからね。
すぐ終わってしまってもなんだから勝ち負けもなしにしよう。
君が遠征に参加するに足り得る者なら推薦するし、もしも私に一撃でも入れられたらその時点で君を選考会に推薦することを約束しよう」
カイリはその言葉を聞いて感じたことは舐められているという屈辱や怒りより安堵だった。
(よかった。
正直勝てるヴィジョンが全く浮かばない。
向き合うとこの人の強さがよく分かる。
いや、わからないくらい差がある)
「あー、あとクラウスさんはユハナさんのように遠征には参加せずに騎士団に残るんですか?」
「私かい?
私は討伐隊に入るよ。
というか今回の指揮は私が執ることになってる」
「わかりました。
ありがとうございます」
(なら遠征に加わればこの人には手の内は見せることになるわけだ)
二人の周囲には騎士団員が観戦に来ていた。
騎士団員達は初めはソフィアとその弟子に怒っていたが、段々弟子が気の毒になっていた。
「なあ、副団長に一撃だってよ」
「いや、無理だろ。大人とか子供とか関係なく」
「そんなこと出来るの団長ぐらいじゃねえの?」
「しかもすぐ敗けが決まらないんじゃ、逆に俺なら気持ち折れるわ」
ヴァネッサは二人の間に立ち両者を見やる。
「では、私が開始の合図を務めます」
「よろしくお願いします」
彼女に対しカイリは丁寧にお辞儀をする。
この模擬戦で周囲の騎士達同様にカイリのことを図々しいと思っていたヴァネッサは戸惑うも気を取り直し両者を見やる。
そして二人が互いに向き合うと一つの間を置き合図した。
「始め!」
カイリは悩んだ。
(いきなり打たれてもこちらに敗けは決まらない。
逆に一撃でも入れられれば推薦は受けられるのだから実質勝ち。
なら……)
「【身体強化】!」
カイリは声に出して叫んだ。
付与魔法により強化した足で地面を蹴り、一気に距離を詰める。
「はやっ!」
「ってか魔法師の強化速度じゃねえぞ!?」
「それに大幅な詠唱省略をあの歳で!?
しかも杖無しで出来るのか!?」
周囲がどよめく中、カイリは真っ正面から上段に斬り込む。
それを赤髪の男は正面から受け止める。
剣が重い音を発すると二人は鍔迫り合いの形になった。
カイリの顔には既に余裕がないが、クラウスは感心した顔で告げる。
「速度と力は中々、次はどうする?」
カイリは相手の剣を外し、横切り、袈裟斬りを連続で繰り出す。
それをクラウスは丁寧に受けていく。
カイリには受けてもらっているという嫌な感覚を覚えるが無視して続けて剣を繰り出していく。
「技術は、なるほど。
基本はしっかりしている。
でも、速度や力に比べると見劣りするな。
あとその剣筋ならもっと大きく振り上げたほうがいい。
継ぐことを意識しすぎて小さくなってしまってる」
クラウスがカイリの評価を告げ、指摘まで送ると同時にカイリの胴に剣が迫る。
「くっ」
とっさに剣を盾にして防ぐが軽々と5メートル程吹き飛ばされた。
「魔法も使っていいんだよ?」
カイリはクラウスの言葉に挑発が含まれていることに気付いているものの、力量の違いに軽く引き笑いが出る。
「【火球】」
カイリは魔法名を唱え拳大の火の玉を作り出すと標的に向け飛ばす。
だがそれは難なくかわされる。
「ちょとカイリ!
その男に加減してどうすんの!
その男は丈夫だから直撃しても問題ないわよ!」
「ソフィアさんの言う通り、加減はしなくていい。
何だったら今のもう一度出して当ててみるかい?
わざと当たるから。
あ、これは一撃にカウントしないよ」
カイリはもう一度同じ魔法を唱えクラウスに放つ。
直撃と同時に爆発音が鳴るがクラウス本人には火傷一つ無い。
「この程度の魔法ならなんともない。
まあ流石にソフィアさんの魔法を受けようとは思わないけど」
「まあ、あたしの魔法を受けられる人間はいないからね!」
カイリは、(今、ピックアップされてるのはお前じゃない)と心の中でツッコミながらも自分の認識不足を改めて痛感した。
この世界の強者は力だけでなく頑丈さも前世とは違うんだと。
(ならば)
「【火球】」
左手を上に向け3つの火の球を作りあげる。
カイリの魔力回路では同時に3つは作れないため厳密には同時でなく連続で作りあげた。
それをクラウスへ放つと同時に下から右腕を振り上げる。
「【火走り】」
火の刃が地面を伝って迫っていく。
クラウスはその様子に感心し、周囲の騎士達は動揺する。
中級の【火球】の複数作成なら魔法師団に入る程のレベルの者ならできる為、騎士団員から見ても珍しいモノではない。
だが後者の【火走り】という魔法は見たことがなかった。
未知の魔法を放った子供の師匠を思わず見ると師匠はどや顔だった。
既に戦闘が近くにいれるものでないためヴァネッサは離れていたが、隣にいたソフィアに未知の魔法を問う。
「いったい今の魔法はなん――」
「何々!?今の!?」
ヴァネッサの言葉の上からユハナが質問を被せる。
「ユハナ副団長!?」
「あ、ヴァネッサちゃんおつかれー」
突如現れマイペースのユハナ。
「あ!ユハナ!
君、カイリが魔法師枠に入れないって知ってて選考会の話し出したでしょ!」
「ソフィアちゃん、それより今の何!?
カイリ君の魔力行使を感じたから来てみたら面白いことになってるね!」
「人の話を聞け!
まあいいや、ヴァネッサちゃんもあの魔法気になってるみたいだし」
「あの、二人してヴァネッサちゃんで呼ぶの止めてもらえますか?」
「あの魔法は、」
「くっ、この人も人の話し聞かないじゃないですか!」
「知らない」
「は?」
「ソフィアちゃんが教えたんじゃないの?」
「知らない知らない。
あの子が勝手に思い付いて勝手に造りあげたんでしょ?」
「へぇー!他にもあるの?」
「うーん、いくつかね」
自身もいくつもの創作魔法を操るユハナは興味深々であり、ほっとくと魔法談義が濃いところまで行きそうだったのでヴァネッサは己の疑問を先に投げ掛ける。
「魔法ってそんな簡単につくれるものなんですか?」
「いやいや、かなり難しいよ。
緻密な魔力操作とイメージが必要だし、ましてやあの子の場合呪文唱えてないしね」
「たしかに、カイリ君はずっと大幅な詠唱省略で魔法名しか唱えてないですね」
ソフィアとヴァネッサの会話を聞きながら、あれ?とユハナがソフィアを見る。
ソフィアは一瞬だけ目が合うと反らした。
それでユハナにもカイリがこの場で無詠唱を隠してることに気付いた。
知られてないというのはアドバンテージだ。
ここで本当の手の内を見せるつもりがあの少年にはないのだ。
クラウスのもとへ空と地から炎が迫る。
しかしそれらはクラウスの目前で火の粉を撒き散らしながら消え失せた。
クラウスが剣一本ですべて切り払ったのだ。
「やな使い方するね」
ソフィアの言葉にムッとしてヴァネッサが反論する。
「剣一本で数々の功績を挙げてきた副団長だから出来ることです!」
「いや、そうじゃなくてさ」
「?」
「ほら、あれ」
ソフィアがカイリの先程までいた場所を指差す。
「え、いない?」
「カイリがあの新魔法使ったのは意識がより魔法に向くようにだよ。
地面から新魔法の【火走り】、空から複数の【火球】、それを同一方向から放つ。
すると同じ方向の上と下、縦にラインを作るとね、人の意識は横が狭まるんだ」
「あっ!!」
ヴァネッサが見たのはクラウスの後ろを取り、剣を振りかぶるカイリの姿だった。
「ましてやカイリは気配を消す技術持ってるから余計だよね。
けど……」
ヴァネッサは正に一撃を入れられる瞬間のクラウスを見ながらソフィアの最後の言葉にひっかかった。
「まあそんなのが通用する次元じゃないからねクラウス君は」
ユハナが言葉を継いだ瞬間鈍い音が響く。
カイリの脇腹に訓練用の剣がめり込んでいた。
先程、剣で防いだときと違って肩から地面に落ちて転がりながら吹っ飛んでいく。
静まり返る訓練場。
「あれは、まずいね」
そのユハナの言葉だけがやけに響いた。
ヴァネッサはクラウスの無事の安堵と共に少年の身を案じた。
「早く救護を!」
周りに呼び掛けながら駆け寄ろうとするヴァネッサの腕をソフィアが掴む。
「離してください!」
「駄目だよ」
「何言ってるんですか!
あなたの弟子でしょ!
心配じゃないんてすか!?」
「前、カイリに怒られたんだよ。
勝手に決めないでくださいって。
弟子を信じてくださいって」
「信じるってもうこれ以上は、っ!」
ヴァネッサはソフィアの手が冷たく震えてることに気付く。
「あの子が諦めないなら、あたしも諦めない。
あの子の師匠だからね」
「ソフィアさん、本当はあなたが一番……」
「あ~もう」
倒れている少年が声を発した。
「なんで分かったんですか?」
声は気楽な調子だが、姿はボロボロで両腕を使ってようやく立ち上がっていた。
その姿に周囲が息をのむ。
「結構うまく行ったと思ったんですけど」
立ち上がるとヨロヨロの身体をおして歩き出す。
向かった先は落とした剣。
「直前で気付いた感じじゃなかったてすよね?」
前屈みになり「あたたた」と軽く呻きながら剣を拾う。
クラウスとカイリは淡々と会話を始めた。
「【火球】でね、気付いた」
「何かしくりました?」
「最初の単発のときと複数の時じゃあ速度が違ったからね。
それに同時に当てれたのに順次当たるように調整したろ?
何か誘導したいのかなって」
「参ったな。
そこからですか」
「まだやるかい?」
「だって勝ち負けないなら今のは別に負けじゃないでしょ?
それにまだまだイケますよ」
「そうか。
じゃあそろそろいいんじゃないかな?
まだ何かあるんだろ?」
「ユハナさんといいクラウスさんといい、なんでそんな直ぐ気付くんですか」
「だって君はまだ中級魔法しか使ってないじゃないか」
クラウスの指摘に周囲がどよめく。
とても中級魔法のやり取りには見えなかったのだ。
「はぁ、本当は【火走り】も出したくなかったのに」
「私に出し惜しみかい?」
「だって、選考会にはここにいる人たちも出るかもしれないしでしょ?
最後には遠征隊の人に勝たなくちゃいけないんですから手の内は極力晒したくないですよ」
「君なら手の内を晒しても本隊ではなく同行隊になら勝てるかもしれないよ」
「ならもう選考会飛ばして遠征隊入りでよくないですか?」
「私が君の試合を観てみたいからね。
それは駄目かな。
選考会から頑張りなさい」
「クラウスさん、優しそうな顔で結構言いますよね。
わかりました。
けど、手の内晒す必要なかったら見せませんからね」
「ははっ。
本当頑なだね。
ところで君は将来魔法師団に入るのかな?」
「いえ、今のところは」
「なら、騎士団に入るつもりはあるかい?」




