第55話 選考会申し込み
選考会の受付の為、騎士団本部の窓口に向かった。
ソフィアの案内で進むのだが魔法師団の者はソフィアを見て驚き、騎士団の方では怪訝な顔をされていた。
「師匠、師匠を見る目がみなさん様々なんですけど……師匠の立ち位置ってなんなんです?」
「そ、それはもちろん魔法師団のNo.3ソフィアという偉い肩書きが一一」
「そのわりには誰も師匠に挨拶しませんね」
「あっ」
言われて気づいたらしい。
「…………」
「…………」
沈黙が続く。
すると騎士団員の1人がこちらを見て仲間内で何やら話している。
「誰だよあの美人?」
「いや、あんな綺麗な女魔法師いたっけ?」
するとソフィアはカイリを得意気に見る。
「聞いた聞いた!?美人だって!
いやぁ、みんな気後れしちゃったんだね!あたしの美貌に!」
いや、誰だっけって言われてんじゃん。
騎士団窓口に着くと受付の女性が笑顔で出迎えてくれた。
「こちら選考会受付になります。
選考会枠には戦士枠と魔法師枠があります。
希望する枠にレ点をつけて、こちらにお名前と所属をご記入ください」
そう言ってソフィアに用紙と筆記具を渡す。
「…………」
「…………」
無言のソフィアに営業スマイルの受付嬢。
「…………」
「……あの、そのローブの刺繍はあまり見ないタイプてすけど魔法師団の方ですよね?
こちらの魔法師枠にレ点をつけて、お名前を記入していただいた後にこの魔力量計測の魔道具に手をかざしてください」
受付嬢は丁寧にもう一度説明する。
というか魔法師団No.3は完全に把握されていなかった。
「いえ、あたしじゃなくてこの子が出るんだけど」
すると受付嬢の顔が笑顔から真顔に変わる。
「ちょっとあなた!」
「は、はい」
「これは国の命運と威信をかけた黒龍討伐遠征の選考会なんですよ!
そんなふざけたことを王国軍の魔法師団員であるあなたが言っていいわけないでしょ!
いいから早く名前書いて!」
「はい!」
受付嬢に怒られ“ソフィア”と記入する魔法師団幹部。
「そしたら魔力量計測!」
「はい!」
丸い水晶に手をかざして魔力を送る。
「D、C、Bっと。
流石は魔法師団員ね!
まだ上昇する。
Bランククリア!
まだ上がるの!?すごいわ!
A-、Aクラス!!すごいすごい!なんであなた選ばれてないの!?
……えっ!まだ上がる??
A+、S-……?S、S+?……えっ?まだ上が…る?
こ、こわれちゃった?
すみませんソフィアさん、魔道具の調子が……ソフィ、アさん?」
「はいソフィアです」
「…………」
「…………」
「魔法師団のソフィアさん?」
「魔法師団のソフィアです」
「魔法師団……幹部のソフィアさん?」
「魔法師団幹部のソフィアです」
「…………」
「…………」
「し、失礼しましたあ!」
受付嬢が涙目でこれでもかというくらい頭を下げる。
ちなみに流石の扱いにソフィアも涙目だ。
どうしたどうしたと周りに人が集まってきた。
「王国最強魔法師のあの“青エルフ”が魔力量測定したらSを軽く振りきれたらしいぜ」
「え、“青エルフ”ってあの魔法師団幹部の?」
「なんかあの王国最強魔法師が受付嬢泣かしたらしいぜ」
「俺5年以上軍にいるけど初めて見た」
「ってか新人の受付嬢泣かせるとか最低じゃね?」
「王国最強最低ドS魔法師が受付嬢泣かして頭軽く振りきれてるって!」
どんどんと悪評が広がっていく。
「すみません!すみません!」
「やめてやめて!
お願いだから頭をあげて!」
必死に謝罪する者と必死に謝罪を止める者。
なかなかにカオスな状況が出来上がってた。
すると1人の女騎士が現れた。
「どうした?」
「あ!ヴァネッサ様!」
受付嬢は女騎士に事情を説明する。
「わかった。
すみませんでしたソフィア殿。
ほら、みんな散れ!」
周囲の野次馬を追い払い、この場にはソフィア、カイリ、受付嬢、女騎士の四人が残った。
「あらためてうちの者が大変な失礼を。
ご容赦願います」
「いや……まあいいんだけど。
そうだ!
本題はこの子を選考会に出場させたいんだけど。
えっと、ヴァネッサさん?」
隣のカイリの肩を掴み、前に出す。
するとヴァネッサは困った顔になる。
「あの、さすがに子供は……」
「え?年齢制限なんてあったの?」
「いえ、年齢制限は設けてはいないんですが……。
ちなみにこちらの子は?」
「あたしの弟子の」
「カイリです」
ソフィアの言葉を継ぎカイリは自己紹介する。
「え、あなたがカイリ君?
でも確か男の子だったはずじゃ?」
「……男です」
「あ、えっと、ごめんなさい。
あまりにも可愛らしかったから」
「……」
「ってかカイリのこと知ってるんだ?」
「あ、ああ、はい。
昨日の暴行犯取り押さえの調書を読みましたから」
「なら問題ないでしょ?
Cランク冒険者ボコボコにしちゃうんだから。
えっと確か顔以外を沼に沈めたあと頭に土を徐々にかけて口を塞いで、最後に蹴り入れたんだっけ?」
受付嬢はその言葉に恐怖を抱き、ドン引きしながらカイリを見る。
「ボコボコにはしてませんし、なんですかその鬼畜な諸行は。
僕まで悪評を広めないでください」
ヴァネッサは取り敢えず話を戻そうと話を二人にふる。
「あのあくまで特例として受け付けますので口外はしないでください」
「わかりました」
カイリは名前を書き、所属欄には無所属と記入した。
その用紙を受付嬢が受け取り、魔力量計測器をカイリの前に置く。
「で、ではカイリちゃん。
手を前に」
「あの……男です」
「あ、ああ!すみません!ボコボコにしないでください!沼に沈めないで!!」
するとまた人が集まってきた。
「あの、まじで勘弁してください」
「なんか、逆に煽られてる気になってくるよね」
カイリもソフィアもこの受付嬢苦手かもしれないと同じことを思った。
カイリが魔力量計測機に手をかざす。
「あっ」
受付嬢が声を漏らし、気まずそうに少年を見る。
「何ですか?」
カイリが疑問を投げ掛けるも黙ってしまった。
「…………」
その様子を不思議そうにソフィアが見て一言。
「Cでしょ?」
「えっ」
「ああやっぱりCですか」
それに納得するカイリ。
ソフィアレベルの魔法師になれば魔力量は大体わかるし、それにカイリも他人のならともかく自分の魔力量程度ならわかる。
「あの、Cランクですと魔法師枠の選考受けられません!」
思いきって言い放つ受付嬢。
「「えっ?」」
師弟そろって呆気にとられる。
「知らなかったんですか?
魔法師枠は魔力量Bランク以上となってます」
「ユハナの奴、そんなこと言ってなかったし!
あ、ユハナが言ってたヴァネッサちゃんって君!?」
「ちゃんはやめてください」
「企画したの君なんでしょ?
ならここは一つ融通聞かせてよ~」
「無理です」
「いや、大丈夫よこの子?
魔力効率馬鹿みたいにいいから」
「いえ、魔力保有量C-では魔力効率がよくてもせいぜいCの中位クラスですから」
「いや、この子B位いくって」
「常識的にありえません」
「常識ないんだってこの子」
「だからそういう風評被害受けそうなこと言わないでください。
魔法師“枠”ってことは他の枠もあるんですよね?」
「魔法師枠の他には戦士枠がありますが、“冒険者ならBクラス以上”、もしくは“騎士団幹部、冒険者ギルド支部長クラスの推薦”があれば受けられます」
「なんで戦士枠は推薦オッケーなのよ!」
「戦士にも様々なタイプがいますから一概に腕力だけや俊敏性だけの試験は不適正かと」
「魔法師だって魔力量だけで決まらないわよ!
誰、そんな条件考えた奴!
全然魔法を理解してない!」
「師匠落ち着いてください。
ちなみに戦士枠の選考会は魔法は禁止ですか?」
「いえ、魔法の使用が認められていますが……まさか」
「師匠、推薦お願いします」
「え、有り?」
「導師は別に魔法師枠とは言ってませんから」
その言葉を聞いてソフィアがニヤニヤしだした。
「うん、そういうの好き。
はい!あたし、“魔法師団幹部”のソフィアがカイリを戦士枠に推薦します!」
「駄目です」
「はあ?」
「戦士枠の推薦は“騎士団幹部”かギルド支部長以上のものでなくてはいけません」
「むぅ、ならヨーゼンに頼むからいいし!」
「ソフィアさん、お言葉ですがいくらあなたの弟子でも遠征の意味を考えてください。
魔法師を戦士枠で無理に推薦を押し通して何になるんです!
無理に決まってるじゃないですか!」
「はあ?無理?うちの子舐めないでよね!」
ちょっとソフィアもヴァネッサもムキなっている。
「何を騒いでるんだ?」
そこに長身の赤髪の男性が歩いてくる。
ヴァネッサは「あ、副団長!」と走り寄り、事のあらましを説明した。
その際、赤髪の男性はヴァネッサでもなくソフィアでもなく、銀の髪を持つ紫眼の少年を見ていた。
「うん、なるほど」
ヴァネッサが話し終わるのを見計らってソフィアが声を掛ける。
「副団長、久しぶり」
「ソフィアさん、お久しぶりです」
「ねぇねぇ、あたしの弟子なんだけどさ」
「無理ですよ。
魔法師団幹部、それがソフィアさんの推薦だったとしても認める訳にはいきません」
「かっー、話に聞いてた通り堅いな~。
まっ、そうじゃないの。
聞いて聞いて!」
「?」
「あたしが推薦するんじゃなくてクラウス、君がカイリを推薦してよ」
「なっ」
ソフィアの発言にヴァネッサが言葉を失う。
また、周囲で様子をうかがっていた騎士達もざわめき立つ。
「何だったらカイリと立ち合って、カイリを見極めてよ」
「いくらソフィアさんでも図々しいですよ!」
周りの騎士達も同じ思いだった。
騎士団副団長クラウスといえば王国の英雄にして世界最強と言われる人物である。
それは王国騎士団の誇りであり憧れである。
いくら王国最強魔法師といえ、自分達の英雄への軽口は許せなかった。
特にそれは若い騎士達に現れていた。
「なんで?」
「なんでって、そんな行き当たりばったりでクラウス様に推薦しろだの立ち合えだの――。
それにその子はクラウス様と何も関係がないじゃないですか!」
「関係ないか。
そうだね。
ヴァネッサちゃんの言う通りだね。
カイリと副団長は関係性ないもんね」
「……」
「でもさ、魔法はあたしが教えて、剣技はゲインが教えたんだ」
ニヤリとソフィアは笑う。
「気にならない?」
クラウスは困ったように笑う。
「なんで私が気になるんですか?」
「だってこの機会を逃したらもうこの子とあなたは交わることがないでしょう?」
「……やっぱりあなたが――」
「何がやっぱりかは私にはわからないし、答えるつもりもないよ。
でもね、この子は“違う”けど、あたしの弟子だからいろんなものを見せたいと思ってる。
その中に出来れば君も入ってるんだ」
「わかりました。
いいですよ」
「く、クラウス様!?
――え?」
ヴァネッサがクラウスの回答に思わず顔を見上げるとそこには優しく笑うクラウスの顔があった。
クラウスという男は笑わないわけではない。
むしろ穏やかで部下にアドバイスしたり励ましたり、時には部下の冗談でも笑う。
だが騎士団員達はどこか距離を感じていた。
その要因がクラウスにあったのか、それとも英雄視する自分達にあったのかはわからない。
そんなクラウスがこんな笑みを見せるのは奥方とご令嬢だけと皆知っていた。
「私はいいけど、カイリ君。
君はいいのかな?」
「よろしくお願いします」
こうしてカイリとクラウスの立ち合いが決まった。
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