第3話 2歳
2歳になった。
はしょるなって?
いやホント、赤ん坊することないんだって。
飲む、あやされる、寝る。あ、あとウンチ。
それだけ。
いや、ある意味最高の過ごし方かもしれないけど。
何度も寝ては起きてを繰り返すうちに前世の記憶も消えていくものだと思っていたがそんなことはなく、しっかりと残っていた。
その記憶が少しは役立っているのだろう。言葉は違えど文法というのは共通するものもある。
はじめは分からなかった言葉も次第に理解し、自分の置かれている環境もわかってきた。なにせ俺の今のアクティブコマンドは「聴く」、「飲む」、「寝る」、「ウンチ」だ。起きている間は「聴く」のコマンドを連打だ。そりゃ言語の理解も速まる。
どうやら家族構成は、両親と俺の3人暮らし。
父……ゲイン、28歳、町の衛兵で役職付き
母……アイリ、21歳、主婦兼薬剤師
俺……カイリ、2歳、無職
何か無職って聞くとうっとなる。
ちなみに前世で仕事を辞めた後、わりかしすぐにバイトは始めた。
無職は世間との繋がりが無くなり、存在意義に自問する時間が来ることが耐えられなかった。あのとき初めてニートにも才能がいることを知った。
いや、赤ん坊なんだから無職は当たり前なんだけど。
おっと、話がそれた。
姓は貴族とかのお偉いさんじゃないと無いようだ。
はじめは外国に生まれたのかと思ったが、違うらしい。
まず電気がなく、生活レベルも歴史の教科書やなろう小説、RPGゲームでよく見るような中世ヨーロッパレベル。
前世ではよっぽどの僻地でない限り電気や車ぐらいは走っている。
もしかしたらタイムスリップか!と思ったがそれも違う。
何故なら、家に訪ねに来る人間が普通じゃないからだ。
「こんにちはアイリ」
「あら、いらっしゃいルーシ」
母のアイリをよく訪ねてくるのがこの耳の先が尖ったルーシという名のキレイな女性。
年齢はアイリと同い年くらいで20歳くらいか。
ファンタジー物によく出てくるエルフみたいな外見だ。
まあただ単に耳の尖った人の可能性もあるし、人の外見をとやかく言うものではない。
けどここまで尖ってるのはエルフかナ○ック星人くらいだよな?
口笛吹いてみるか?いや、あれは映画版のみの設定だったか?
口笛を吹こうとしてみるも「びゅっぶ」と声と唾を飛ばしただけ。あ、無理だ。俺2才児だった。
異世界というワードに正直ちょっとだけテンションが上がった。
アイリとルーシが喋っているとあんまり会話に入れないのかゲインが俺をあやしに来た。
ゲインのこの容姿でいないいないばあはギャップがあって面白い。
しかも、はじめの頃は照れてやらなかったが、アイリが見てないところで隠れて俺に試したところ俺が吹き出して笑ってしまったので嬉しくなって何度もやってくれるようになった。
少し強面だけど人の良さの滲み出る人物だった。
「お邪魔します!
小隊長報告が、あ……ります」
ちょうど変顔中のゲインと部下が鉢合ってしまった。
「ど、どどどうした?」
いやあなたがどうしたとツッコミを入れたい。
部下も見なかったことにして報告を始めたが気まずそうだ。
お互いに取り繕ってる姿を見たアイリとルーシが爆笑してる。
やめなさいって、部下の人めっちゃ気まずそうじゃん。んでゲインは顔色が変わりやすいのかめっちゃ真っ赤だし。
ゲインに訪ねて来た部下は、まだ二十くらいの青年の顔に黄色と黒の斑点模様の耳と尻尾をつけたいわゆる獣人というやつだ。
仮装かとも思ったが時折耳と尻尾が動いており、そんな技術のパーティーグッズはこの世界にあるまい。
何より男のケモミミとは誰トク?という話だ。
もし部下が仮装して仕事していたら俺なら間違いなくぶん殴るだろう。
またゲインとケモミミ男(ミゲルという名らしい)の会話から魔物の話がよく出る。
聞くと明らかに前世では聞いたことのないような特徴を持つ生き物で、危険らしく人の生き死にも関わる被害を及ぼすらしい。
本当に世界に転生してしまったようだ。
生活水準も前世に比べれば低く、ましてや安全性に乏しい世界。
こうなると前世の記憶が別の意味で恨めしい。
安全な日本という国の生活を知らなければ、現状が常識と日常になるのに。
2歳児にして現状を非常識と非日常と感じてしまっている。
「あらあら?カイリがぐずりそう」
(はい、泣きそうです)
先程までのワクワク感はどこへやら。
目敏く気付いたアイリに抱っこされあやされながら(不本意ながら落ち着く)今後について考える。
(言葉は理解した。
次は文字だな。
とにかく情報を集められるようにならないと)
自分のやるべきことを考えながらも、頭の片隅に何か引っ掛かるものがあったが、今はそれを無視した。




