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黒龍殺しの付与術師  作者: しきな かいどう
少年期
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第46話 ツキアカリノシタ

 出立前夜、家にはソフィアとポコナも集まっていた。


「たくさん召し上がってくださいね」


「有り難うございます!」

「うす!」


 しばらく家族が全員揃ってテーブルを囲むことが出来なくなるのでアイリが張り切って食事を作ったのだ。


「なんか家族の団らんをお邪魔してすみません」


「いいのよ、ソフィアさん達にもぜひ食べてほしくて呼んだんですから」


「アイリさん!」


 何やらソフィアが感動している。

 その脇でいただきますと告げて既にポコナは食事を始めている。


「んむっ……!

 美味しい」


「でしょでしょ!」


 何故か得意気なソフィア。


「シチューも旨いっすけどこっちの鶏肉を焼いたやつも旨いっす」


「あら、ありがとう。

 シチューは私だけど鶏肉はカイリが作ったのよ」


 その言葉に驚く二人。


「カイリ、お料理出来たんだ!?」


「いや、肉焼いただけで料理って程のモノじゃないですよ」


「けど明らかに普通の焼き(どり)より美味しいよ!」


 まあそれはあらかじめ下ごしらえにソースに浸しておき、焼き上げる際に弱火でじっくり焼き上げたからだろう。

 肉はちょっと手間を加えるだけで大きく味が変わる。

 前世で社会人になり一人暮らしを始め、友達も極僅かしかいないのに(ゼロではないという謎の意地)離れてしまったので休日にやることがない。

 なので缶ビール片手に料理を始めたが作ってみると母親の料理より旨かったときは自分でも驚いた。

 まあ毎日作らなくちゃいけない主婦の料理とたまにしか作らずやけに手間を掛けた料理は比べるものではないだろう。

 実際毎日自炊はめんどくさくてコンビニ飯や外食が多くなり、主婦(特に共働きの)の大変さを知った。

 話は逸れたが、なので炒め物や煮込み料理は人並程度には出来るし、“仕事”を辞めたあともアルバイトにてキッチンを任されていたのでその気になれば他の料理も作れる。

 なのでレパートリーは何気に豊富なのだ。


「ハア~、カイリはいいお嫁さんになるよ!」


「感心しながらそんなことを言われても嬉しくありませんよ。

 誰が嫁ですか。

 それよりお二人は……いえ、ポコナさんは料理するんですか」


「ちょっと!なんで言い直したのよ!?」


「いえ、無駄なことはしない主義なので。

 それにポコナさん、食べるのが速いですけどなんか食べ方に上品さがあるんですよね。

 だから料理とかもするのかなと」


「冒険者は食べる速度も大切だからな。

 料理はするはするんだけどあんまりだな。

 簡単なモノをざっと作るから味は期待出来ないし冒険者の女なんてみんなそんなもんだからな。

 冒険者で料理が上手いやつがパーティーにいると喜ばれる」


「へーそういうものなんですね」


「カイリ、あたしには料理作ってくれなかったじゃない」


「なんで作らなくちゃいけないんですか。

 それに宿屋の一階には食堂があるじゃないですか。

 さすがにシウバさんの料理にはとてもかないませんよ」


 談笑しながらも時間が経ち夕食を終えるとポコナの冒険者話をギルとアリスがウキウキしながら聴いていた。

 最初は子供らに戸惑っていた様子のポコナさんだったがなんだかんだ面倒見がいいのだろう。

 今では身ぶり手振りで冒険譚を話し、子供達はすっかり夢中だ。

 っというか横にならんでソフィアも夢中になって聞いている。

 いや、お前も元冒険者だろと心の中でツッコミをいれているとククルの姿が見えないことに気付いた。

 そういえば食事の時も全然喋っていなかったな。

 気になり家の中を探すもいない。

 外かな?


 外に出るとランタンが必要ないくらい明るかった。

 この世界に月は二つある。

 大きさが違うのか距離が違うのか、2つの月は片方が大きく、もう片方は小さい。

 外に出ると丸く満ちた月が二つ顔を出して辺りを照らしていた。

 もっとも2つとも満月というのはかなり珍しいらしい。

 月が複数とか重力や引力はどうなってるんだろうとか考えるが魔法のある世界なのだから考えるだけ無駄か。

 そもそも前世でもその辺りのことはよくわかんねーしなぁ。


 そんなことを考えながら歩いていると川まで来てしまった。

 さすがにこんなとこにはいないかと思ったが川の周囲のススキに紛れて耳と尻尾が見えた。

 なんとなく気配を消して近づいてみると、いた。

 ククルは月をじっと見上げ立っていた。

 表情は笑うでもなく泣いているでもなく憂いてるわけでもなく、

 ただじっと月を見つめていた。

 その表情からはククルが何を考えているのか、俺にはわからない。

 ただ2つの月に照らされた横顔に惹かれて見入ってしまう。

 しばらく眺めていると風が流れ、それに合わせククルが振り返った。


「カイリさん?」


「あ、ども」


 気配を消していたのでククルも少し驚いた様子だったが不意に気付かれたことでこちらも変な返事をしてしまった。


「どうしたんですか?」


「あ、いや、ククルの姿が見えなかったから探しに。

 ククルこそこんなところで何してるの?」


「そうだったんですか。

 私は……月見、です」


「そ、そっか」


 いつもと様子が違うククルに返事を返すとククルはもう一度月を見上げるとゆっくりと息を吸い込み、静かに吐き出す。

 そしてまた静寂が訪れた。


 なんだろう。

 明らかにいつもと雰囲気が違う。

 これは……怒ってるのかな?

 怒ってる?

 ……わからない。

 とりあえず、


「えっと……ククルさん、なんか怒ってます?」


「はい?」


「いや、いつもと違うし、俺なんかしちゃったかな~なんて?」


 ククルは大きく目をしばたたかせ、先程とは違い大きく息を吐いた。

 あ、今のは呆れられてるとわかる。うん。


「カイリさん」


「はい」


 じっと見つめ合っているとククルは急に距離を詰めてきて問う。


「遠征が終わったら、私を向かえに来てくれませんか?

 私をホントの……」


 その時強い風が吹き、ククルの言葉が遮られる。


「ん? 終わったらもちろん帰ってくるよ。

 ククルがいるここが俺の居場所なんだから」


 自分を迎えてくれる人がいる。

 それは普通のことのようであってもずっとあるものじゃない。

 そのことはよく知っている。


「ありがとうございます、けどそうじゃなくて……」


「?」


「……いえ、そうでした。

 カイリさんは()()ですもんね。

 そうでしたそうでした」


 あれ、これは怒ってますよね?

 尻尾が横でなく縦にユラユラ振れているのは怒っているときに出るククルのクセだ。


「カイリさん」


「はい」


 思わず背をピッと伸ばしてしまう。


「終わったら、()()迎えに行きます!」


「ん?えっと、はい」


「うん」


 こちらの返事に満足したのか自身も頷き尻尾が縦から横に揺れていた。

 その尻尾はコロコロと表情を変える三日月のようであり、月明かりに照らされて微笑む少女を見ていると近くて遠いもののように感じた。




 翌朝、遂に王都へ発った。

次からは遠征編になります。

総合評価200を超えました。

ありがとうございますm(_ _)m

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