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黒龍殺しの付与術師  作者: しきな かいどう
少年期
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第44話 精霊 ■

 朝目覚めると隣には女の子がいました。

 10日連続で……


 ククルが夜訪ねてきたから毎晩部屋に訪れるようになった。

 断る度に「やっぱり私じゃ駄目ですか」と上目遣いで問われると突き放せない。

 仕方なく一緒のベッドで寝るのだが、何が嫌って眠れない、からではなくこの何か試されているかのような状況だ。


 毎回布団に潜り込んできては「温もりが大切なんてす」といって密着してきては無防備に先に寝てしまう。

 そして今の季節が夏だからかとても薄着なのだ。

 俺は決して特殊な癖はないはすだが何か試されている気分になるのも仕方ないだろう。

 仕方ないはずだ。



 深夜の自主練も今はやめ、朝日とともに寝床から抜け出すようになった。

 相変わらず長時間の睡眠は取れないがククルが横にいても寝れるし、気持ち的にも充実して起きれている気がする。

 以前は眠るという行為が作業のように思い、たまに苦痛に思うこともあったのだから、それを思えば“温もり”というやつのお陰なのかもしれない。


 朝起きるとゲインとギルと剣の素振りをしたあと模擬戦に入る。

 この時変わったのがギルは完全に見学。

 俺とゲインのサシでの稽古だ。

 以前から感じていたことだが途中から俺はゲインと本気で打ち合うのをやめていた。

 お互いの実力で本気になると木刀とはいえ怪我ではすまなくなる。

 その為俺は全力でふることよりも戦闘の展開を考えることに重きを置くようになっていた。

 ゲインも途中から加減の意味が俺と同じものに変わっていたと思う。

 ソフィアと旅に出ることを告げた翌日からその加減がなくなった。

 身体強化をまじえての戦闘だった。

 ゲインなりの激励なのだろう。

 いつもよりも速く力強い打ち込みを受け止め、打ち返す、受け流し打ち返す、かわし打ち返す。

 徐々に自分の身体の動き、相手の動きになれていく。

 戦士の身体強化と、魔法師であり身体強化の効果を上げる【付与術師】のユニークスキル持ちの俺では上昇率が違う。

 だがそこはあえて抑えて同じ速度、力で勝負する。

 そこではっきり見えてくるのは技術の差と人に対して武器を振るうことへの慣れの違い。

 6年近くゲインと稽古をしていたがここまで鬼気迫る剣擊を向けたことも向けられたこともなかった。

 この10日の間にお互いに怪我はあったがそこはソフィアに来てもらい治癒魔法をかけてもらった。

 その間アリスは心配し、アイリはいつも通りにこにこ、ククルは昼間はポコナさんとなにやらやっていて家に帰ってくるとずっと脇にいる。

 ギルは模擬戦を見てから口数が減った。

 もしかしたら怖がられてしまったのかもしれない。

 話しかければ返事はあるがアリスのように騒いだりしなくなった。


 そして昼間はソフィアに言われたとおり家族と過ごすようになった。

 ただ昼は3日に一度山に行く。

 その際、ギルとアリスを連れて薬草採取と獲物を狩りに行く。

 俺が山に行かなくなるのでアリスが薬草を採りに行くこともあるだろうし、ギルが狩りをすることもあるだろう。

 なので何かあったときに猟師のおじいさんに力になってもらえればと思ったのだ。

 二人を紹介して事情を話すと何も言わずに一瞥し弓をとって外に出た。

 そのあとにつづく。

 俺に続いて二人も外に出ようとするとおじいさんは俺に視線をよこす。

『ここで待ってろ』ってことだろう。

 おじいさんの小屋に獣が近づいてきたことはない。

 はじめはわからなかったが獣避けの結界が張られているからだ。

 おじいさんの家の話をソフィアにしたところ結界の存在について教えてもらった。

 ちなみにソフィアとはじめて会ったときも結界が張ってあったそうだ。

 いくらぐーたらエルフでも獣の潜む山奥では無防備に寝ないそうだ。

 なんで結界なんてものが使えるのかおじいさんに聞いてももちろん答えないし、ソフィアは知らないの一言で終わりだ。

 まあとにかくギルとアリスを残してきても安全というわけだ。


 ついていくとおじいさんに初めて弓を教えてもらった場所だった。

 木の上には気配に敏感で狩猟が難しいと言われている鳥がいる。

 移動の際は常に気配を消していたのでまだこちらには気付かれていない。

 おじいさんが足を止めこちらに視線をよこす。

『射ろ』ということだ。

 弓を構え、ゆっくりと弦を引く。

 狙うときにも気配を漏らさない。

 弓を覚える上でこれが一番難しかった。 

 弓を離すと標的に吸い込まれるように向かっていって矢と共に標的は地べたに落ちていった。

 取り敢えず血抜きをして袋につめる。

 おじいさんはそれを確認するとまた移動を始める。


 そこには10匹の野鳥がいた。

 するとおじいさんは自ら弓を取りだし()()()()()()弦を引く。

 指から弦が放たれたときに10匹全てが地面の上に転がっておりおじいさんは無駄のない手つきで血抜きをおこなうと袋につめこちらに弓と一緒に寄越した。

 餞別ということだろう。

 残り数日でとんでもない餞別を貰ったものだ。

 ありがとうございますと頭を下げるとおじいさんはほんの僅かに頷く。

 これが最後かもしれないのに相変わらずの無表情だ。

 その事にこちらがつい笑ってしまったがそれにつられて笑うようなことはない。

 ただ一言「何かあったらな」

 と二人の面倒を約束してくれた。




 いよいよ出発まであと3日を切った。

 準備するもの、は特にない。

 お金はヨーゼンさんのツテでおろした武具屋から受けとることになっているし、装備はそこで整える手筈だ。

 持っていくものといったらおじいさんからもらった弓くらいだ。

 王都までの道中はソフィアの召喚による精霊の力を借りて向かうので特に馬車も夜営の準備もいらない。

 出来れば遠征前に少し慣れておきたかったんだけれども。


 出発前にソフィアの精霊と話をすることになった。

 なにやら気位の高い精霊らしく、気に入らないものは運んでくれないらしい。


「じゃあ呼び出すから離れていて」


 うちの庭で呼び出すらしく、それをアイリ、アリス、ギルが見学している。

 ちなみにゲインは仕事、ククルはポコナさんと出掛けている。


「契約の理により、我の呼び出しに答えよ。

 風を束ね嵐を司る精霊よ」


 無詠唱が出来るソフィアがわざわざ唱えた理由は召喚術にあっては魔力操作以外にも礼儀に当てはまるから。

 特に上位の精霊は気難しい者が多く、別の意味でも扱いが難しいらしい。


 ソフィアが詠唱とともにかざした手の先には魔方陣が浮かび上がり光が沸き上がる。

 徐々に光が収束するとそこには一体、いや一羽のペンギンがいた。


「師匠、ペンギン出てきましたけど……」


「ペンギンって何?」


 どうやらこの世界にペンギンはいないようだ。

 いや、ソフィアが知らないだけかもしれないけれど。


『ソフィアよ、我を呼び出すのにまた詠唱を省略したな。

 我を呼び出すときには11小節全て唱えよと言ったはずだが?』


 そしてしゃべった。

 それもやけに渋いイケメンボイスだ。


「え~、ちゃんと唱えたんだからいいじゃん!

 それにめんどくさいとかじゃないよ?

 単純に忘れちゃっただけというか」


『はあ、貴公ともそれなりの付き合いになるが会う度に契約を交わしたことを後悔する』


「そんなこと言わないでよ。

 あ、そうそう。

 こっちの子があたしの弟子のカイリ。

 3日後に王都へ一緒に運んでもらいたいから顔合わせしておこうと思って」


「カイリです。

 よろしくお願いいたします」


 深く頭を下げるとペンギンは感心したようにおおように頷く。


『面を上げよ。

 ほう、子供なのに礼儀をわかっておるな。

 それにとても澄んだ魔力の流れをしている』


「まあ、あたしの弟子だからね!」


 何故か威張るソフィアをペンギンは一瞥する。


 おもいっきり見た目はやや大きいペンギンなので表情は読み取れないが呆れていることはなんとなく伝わった。


『ソフィアよ、無い胸をはってもないものは無いのだぞ?

 それより我を紹介せぬか』


「くっ、まあいいわここで機嫌損ねるとめんどくさいし。

 カイリ、こちらは大精霊のカエサルよ。

 ちなみにカイリには彼がどう見える?」


「皇帝 (ペンギン)に見えます」


「えっ」


『うむ、なかなか見所があるな。

 王とは違うが精霊界の中で我はそれに近い地位にいる』


「お褒めいただきありがとうごさいます。

 そのお姿とお名前でわかりました」


『ふっふ、見たかソフィアよ。

 貴公の弟子は師匠と違ってよく出来ておる』


「くっ」


 何やら含みのある言い方だ。


「師匠は初め召喚したときなんだと思ったんですか?」


「泥にまみれた肥満のアヒル」


 気難しいんじゃなくてソフィアが単純に失礼なだけだよ。

 いや、これでよく契約してくれたよ。

 すげー懐深いよこのペンギン。

 

 するとアリスがおそるおそるカエサルの身体を撫でた。


「こら、失礼でしょアリス」


「だって可愛いんだもん」


 無遠慮にもカエサルに触るアリスをアイリがたしなめる。


『はっはっ、よいよい。

 我は子供は好きでな。

 この程度で目くじらなど立てん』


 そう言ってアリスの頭を撫でるとアリスは嬉しそうにペンギンに抱きついた。


「うちの子がすみません。

 ……あの私もお触りしていいですか?」


『うむ、よいぞ。

 我はいつも子供ばかりでなく貴婦人も魅了してしまう。はっはっは』


 カエサルは上機嫌だ。


「ねぇ、それでカイリのこと運んでくれるの?」


『ああ、よいぞ』


 すんなり了承を得られたので取り敢えずほっとした。


『ところでカイリよ』


「はい」


『召喚術は使えるのか?』


「いえ、まだ教わっていいないので」


 教わっていないし、そもそも付与術を使わずに上級魔法の使えない俺に使えるのかがわからないけど。

 するとカエサルは首をソフィアに向けたあとペタペタと身体も向ける。

 いちいち動作が愛らしい。


「うーん、召喚術は特殊だから王都に行ったときに導師にお願いしようと思って」


『ふむ、クッカは人間にしてはなかなかだからな。

 ……ただ貴公を見ているとクッカは魔法はともかく弟子の人格育成には失敗しておるしな』


「ちょっ!?」


『カイリよ。

 弟子の評価が師匠の評価につながるということを忘れてはならんぞ』


「はい。

 まあ師匠の評判も弟子の評判に影響するかもしれませんが」


 そう言ってソフィアを見るとカエサルがこちらにペタペタと近づいて肩に手をポンと置いた。


「腐ってはならんぞ」


「はい」


「さっきからひどくない!?」





 そんなこんなで出発期日の前夜になる。




挿絵(By みてみん)

大精霊 カエサル


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