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黒龍殺しの付与術師  作者: しきな かいどう
少年期
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第43話 ヨーゼンとサイファー

 

 ~冒険者ギルド本部副長室~


 室内には壁一面に本とファイルが並べられ整理されており、部屋の主の性格を表しているが、肝心の部屋の主は一人で使うには大きなデスクで乱雑に積まれた書類と格闘中だった。


 バンッ


「ヨーゼン!」


 ドアが乱暴に開けられ、部屋に入ってきたのは黄土色の短髪の青年。

 年の頃は見た目25~26歳といったところか。

 眼力鋭く攻撃的な印象を与えるも端正な顔立ちからそれも異性に魅力を感じさせるポイントとなっていた。


「やあサイファー。

 前も言ったけど他の者の目もあるからここでは役職で呼んでくれないかな?

 あとノック」


「うるせぇ。

 人を呼びつけておいてごちゃごちゃ言うな。

 これが仕事の話なら別だがこの呼び出しはどっちなんだ?」


「じゃあ仕事」


「じゃあってなんだ!

 相変わらずふざけた野郎だな」


「冗談だよ。

 サイファーの予想通り個人的な事で呼んだんだ」


「ふん」


 サイファーはSS級冒険者として名を馳せており、冒険者ギルド内でもトップレベルのパーティーを率いる。

 なのでギルドからの指名依頼も多いが基本サイファーは呼ばれない。

 呼んでも来ないことが多く、来たとしても依頼を断るからだ。


「てめぇが俺を名指して呼ぶんだからギルド関連のことじゃないだろとは予想がつくぁ」


「サイファーを呼んでも依頼内容も聞かずに断るから君のところの副リーダー君を呼ぶしかないんじゃないか」


「てめえからの依頼は大抵めんどくさいって決まってるからな。

 それに俺が断った依頼はどうせ最後にはあのグータラエルフのところに行くんだから問題ねぇだろ」


「いやぁ、ソフィア先輩は仕事はこなすけど雑で……なんだかんだ後始末が大変なんだよ。

 その点きみの場合は粗野に見えて丁寧にこなしてくれるからね」


「喧嘩売ってんのか」


「喧嘩なんて売ってないさ。

 ついでに油も売ってる暇ない。

 この書類の山を見てよ」


「相変わらずかったるそうな仕事してんな」


 サイファーはいかにもつまらなそうな目で紙の山を見やる。


「上が働かないと下に皺寄せがくるんだよ」


「まあお前の上は一人しかいないけどな。

 そう言えばこの間、歓楽街の大通りでおっさん見たぞ。

 酔っ払って出店屋の前でゲロ吐いて店の親父に怒られてたわ」


「…………」


 渋い顔のヨーゼンを見てくっくっくと笑うサイファー。


「はぁ、気を取り直して君を呼んだ理由だけど一一」

「断る」


「まだ何も言ってないじゃないか」


「仕事関連でもめんどくせぇのにお前の個人的な頼みなんてもっとめんどくせーに決まってんだろ」


「酷いなぁ。

 まあ君にもメリットはある話だよ。

 ソフィア先輩が弟子をとったのは聞いてるよね?」


「まあ噂でな。

 けどあの怠け者が弟子なんてとるわけないだろ。

 どうせ導師の説教から逃れるための嘘に決まってる」


「僕も最初はそう思ったんだけど会ってみたら面白い子だったよ」


「なんだお前会ったのか?

 ……ってかホントにいたのか」


「彼女のことを聞いたことある人なら弟子に興味を持つし、彼女と実際に会って知っている人ならまず嘘だと思うよね」


「で、その弟子がどうしたんだ。

 まさか冒険者勧誘に俺を使うつもりじゃないよな?」


「勧誘は君にまかせるさ」


「あ?」


「多分君と気が合うと思うからパーティーに誘いたくなるんじゃない?

 それがメリット。

 青田買いだ。やったね!」


「勧誘するかどうかは俺が決める。

 そもそもなんで俺と気が合うんだよ?」


「だってその子、僕とも気が合うし、僕と君も仲良しだから気が合うでしょ(コンコン)はいどうぞー」


 ガチャ


 その時お茶を運びに事務員が入ってきた。


「失礼しま一一」

「なんだとコラ!?」

「ひっ!?」


 事務員は支部で働いていたメルヴィだった。

 ギルド支部長のゴタゴタに巻き込んだ詫びとしてヨーゼンが本部へ栄転させたのだ。

 裏を返せば黙ってろよ、視てるからなという忠告なのだがその意味を実は仕事は有能な彼女は正しく理解していた。


「ちっ、悪いな姉ちゃん。

 茶はいらねえ」


 またもや間の悪いタイミングで入ってきた彼女はお盆を持つ手が震えるのではなく身体全体が恐怖で震えていた。

 Sランク以上の冒険者の中でもサイファーは威圧の桁が違う。

 それは本人の実力もさることなから獣人族の中でもとりわけ勇猛とされる虎人族のカリスマ性も関係するだろう。


「まあまあ、せっかく彼女が持ってきてくれたんだし。

 それに君と仲良いのもだけど、カイリ君と気が合うのも本当だよ。

 君を呼び出す程に気にも掛けてるんだからね」


「お前がそんな気にかける程なのかあのグータラの弟子は?」


 メルヴィを驚かしたことにばつを悪くした虎人族の青年はとりあえず茶を受け取り席についた。

 彼女はお茶請けをテーブルの上に置くと二人が会話を再開したのを皮切りにそそくさと退室しようとする。


「おい!」


 サイファーに呼び止められたメルヴィは今度は先ほどとは逆に身体をピタッと固まらせる。


「……悪かったな。

 茶ごちそさん。

 うまかったぜ」


 サイファーが少し気まずそうにしかし柔らかに微笑み掛けると今度は別の意味でメルヴィは身体を固まらせた。

 数秒固まっていたメルヴィははと気づくと


「あ、そんないえ、わたしで良ければいつでも!」


 とそんなわけの分からないことを口走りながら退室した。


 その様子を生暖かい目で見ていたヨーゼンだったがあまり見ていると目の前の青年は怒り出すので咳を一つ挟みこの辺で話を戻す。



「弟子の性格はソフィアさんに全然似てないよ。

 どちらかというと僕に近いかな」


「……」


「そんな嫌な顔しないでよ。

 それにどちらかというと、さ。

 礼儀はしっかりしているし才能があるのに自分の評価を見誤らない。

 普通あの年齢であれだけの実力かあれば傲るものなんだけどね。

 いや、もしかしたら過小に見てるかもね」


「才能とやらがまさかグータラと同じとは言わねぇよな」


「さすがにそれはね。

 ソフィア先輩と比べられる方が理不尽だよ。

 けれど十分な実力を持ってるよ。

 C~Bと言ったところかな、僕から見た実力は」


「学院の卒業生を弟子にしたとかのオチじゃあねぇよな?」


「まだ11歳だよ」


「ガキじゃねえか!」


「子供に魔法を教えてこその師匠だろう?

 才能の発掘が目的の一つなんだから学院の卒業生を弟子にとっても仕方ないだろう」


「上級ランクはふかしじゃないのか?」


「嘘をつく為に君を呼び出したりはしないって。

 興味出てきたかな?」


「確かにな。

 だが本当に才能あるやつならその年齢でそのレベルの者がいてもおかしくはないし、15歳を越えてから急に開花する奴だっている」


「いやいや、君の才能あるやつ基準が厳しすぎるよ。

 君や他のSクラスの人間を基に考えるのはやめなよ。

 あとこれは内緒にしてほしいんだけど魔狼をほぼ単独で討伐したらしいよ」


「ほぼってなんだよ。

 それにBランクじゃあ単独討伐は無理だ」


「その場に同い年の女の子がいたんだよ。

 魔法も武術も心得のない、ね」


「そりゃあほぼじゃなくて単独だ。

 いやまてよ、アイツの弟子なら魔法使いだろ?

 もしAランク魔法使いでも単独は無理だ。

 相性が悪すぎる」


 魔狼は物理魔法共に高い耐久性の毛皮で覆われており、獣型魔物特有の俊敏性を持ち合わせている。

 近接戦を不得手とする魔法師では単独撃破は至難だ。


「誰が魔法使いって言った?」


「あ?あれの弟子なんだろ?」


「うん、けど近接戦闘の技術は三本槍の一人から教えてもらったって」


「三本槍だ?

 今いる三本槍は全員武術主体のはずだ」


「そうだね」


「となると魔剣士か?

 それほど両適正があるとなると奴と同じエルフか?」


「人間族だよ」


「ハーフでもないのか?」


「両方とも人間の親だよ」


「たしかに珍しいがそれでも魔狼は無理だろう。

 よくてBクラスじゃあ物理、魔力どちらも中途半端だ。

 ……なんらかのスキル持ちか?」


「さあ、詳しい個人情報は流石に話せないよ。

 なんだったら直接話せば?」


「ああ?

 なんで俺が出向かなくちゃいけないんだ。

 そこまでの興味はねえよ」


「出向かなくてもあと一月後には一緒に旅するんだし」


「はあ?

 まさか遠征についてくるのか?」


「本人は本命の討伐に加わりたいみたいだけど流石にね。

 とりあえず道中は行軍の露払いをするつもりらしいよ」


「ちっ、わざわざ子供の手を借りる必要はないだろ。

 王国軍の他にも俺のパーティーや他の冒険者パーティーも加わるんだから」


「まあね。

 ソフィア先輩も反対したらしいんだけどね」


「ふん、いくらある程度の実力があったってろくに夜営も集団戦闘もしたことがない奴が加わったところで足手まといにしかなんねーよ」


「うん、そこなんだよね」


「あ?」


「正直ソフィア先輩じゃあ魔法はともかくそういった連携とかの指導は出来ないと思うんだ」


「出来ないどころか俺は何度か奴の後方からの魔法に巻き込まれて死にかけたぞ」


「うん、僕も。

 だから行軍中、君のパーティーに入れて指導してあげてくれないかな?」


「なんで俺が。

 そんなに指導したいならお前がすればいいだろ」


「わかってて無茶言わないでよ。

 組織のNo.1とNo.2の両方が持ち場から離れる訳にはいかないだろ?」


「おっさんに仕事やらせりゃいい」


「それこそ無理だよ……。

 それに育成という意味では僕や他のSランク冒険者よりも君が一番向いてると思うんだ」


「ああ?」


「君のところは若者の成長が著しいからね。

 特にあの子、今14歳だっけ?あの子はホント将来有望だよ」


「あいつは遠征に連れてかねーぞ」


「あれま、何でさ?」


「ガキを連れていけるわけねーだろが」


「君のそういうところが育成に向いているんだよ。

 君のところの子にもいい刺激になると思うよ」


「……」


「それに“あの件”僕も出来る範囲で協力するよ」


「本当か?」


「それこそ冗談でしたなんて言ったら本気で僕のこと殺すでしょ」


「わかった」


「よし、交渉成立だね」


「だがそこまでお前が条件を出しておいて勧誘は任せるとか適当でいいのか?」


「言ったろ。

 これは仕事じゃなくて個人的頼みだって」


「お前がそこまで言うガキに本当に興味が湧いたわ」


 そう言うとサイファーは部屋をあとにした。


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