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黒龍殺しの付与術師  作者: しきな かいどう
少年期
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第41話 ある狐娘の回想と決意

 売られるわたしの人としての尊厳を守ってくれた。

 殺されるしかなかった命を救われた。

 わたしのために命を賭けてくれた。

 どこにも行き場のないわたしに新しい居場所をくれた。

 何も持っていないわたしに家族をくれた。

 目的をくれた。

 文字を教えてくれた。

 戦うために指導してくれた。


 彼に恩返しをしたい。

 彼も、彼の家族もそんなものはいらないと言う。

 でもわたしは、しなければならないんでなくてしたいんだ。


 けれどもそこで私自身には何もないことを自覚させられた。

 一体わたしに何が出来るのか?


 彼は私から見るとなんでも持っている。


 優しくて暖かい家族も

 障害を切り抜ける知恵も

 敵を薙ぎ払う力も


 そんな彼がとても危険な遠征に行くと言う。

 命を賭ける遠征だ。

 その理由は師匠の助けになりたいから。

 とても強い彼だけれどそれでも力不足を指摘された。

 なら強くなると言いきり、すごい冒険者の人を打ち負かして同行を認めさせた。


 それを私は見ていただけ。


 私も師匠が

 彼女が好きだ。


 とても綺麗で明るくて

 けれどめんどくさがりで年下の私にすら甘えるような人

 彼女のお世話を頼まれて分かったけれど、とても素直な可愛らしい人だ。


 楽しいことも

 嬉しいことも

 嫌なことも

 悲しいことも

 みんな顔に出してつい言ってしまう

 呆れることもあるけれど一緒にいると楽しい人だ。


 わたしにはそれが出来ない。

 一定の線を越えることは怖いことだと思う。

 怒られたくない。

 嫌われたくない。

 故郷で他人と暮らしていた時には抱かなかった感情がここの暮らしになってから強く抱くようになった。


 彼の妹のアリスちゃんは人見知りで私が挨拶したときには距離を置いていた。

 けれど彼の家に来た初めての夜、アリスちゃんの方から一緒に寝ようとわたしにくっついてきた。


「夜はね、みんな一緒に寝るんだよ。

 そうすれば怖い夢も見ないの」


 そう言ってわたしの手を掴み寝室へと引っ張っていく。

 いざ眠る段階になって躊躇するわたしを彼のお母さんのアイリさんがわたしを引き寄せて頭を撫でながら子守り唄を歌った。

 正直わたしは子守唄を歌ってもらう年じゃないと恥ずかしく思ったけれども気付くと涙が溢れていた。

 抱き寄せられていたので顔は見えなかったはずだけど

 背中越しでアリスちゃんもわたしに抱きついてきた。

 暖かい。

 人の暖かさを感じるのははたして何年ぶりだろう。

 そこで気になっていたこと、彼がいないことを尋ねてみた。

 アリスちゃんが言うには彼は一人じゃないと寝れないんだそうだ。


 こんなに暖かい家族と何故?

 その時はアリスちゃんの声は寂しさを帯びているのだと思った。





 彼が遠征についていくため村を出ることを決意した次の日の夜、ベッドの中でアリスちゃんが小さい手でわたしの背中と腕を掴みながら言った。


「お兄ちゃん大丈夫かな」

「カイリさんなら大丈夫だよ」


 わたしはそう言いながらも彼に何も返せていないこと、彼ともっと一緒にいたい気持ち、魔狼のときにわたしに見せた寂しい笑顔、師匠についていくと告げたときの眼を思いだし気持ちがごちゃ混ぜになっていた。


「お兄ちゃん、よく眠れないし、怖い夢みたりするのに知らない人がいる中で知らない場所で目を覚ますんだよね。

 お兄ちゃんに一緒に寝られる人がいればお兄ちゃんも夜怖い夢見ないし、起きたときに寂しい気持ちにならないのに」


 わたしはアリスちゃんを誤解していた。

 彼女はカイリさんとも一緒に眠れなくて寂しかったのではなく、独りで眠る彼をずっと案じていたのだ。

 そしてわたしに出来ることはこれだと思った。


「アリスちゃん、わたしにまかせて」


 そう言い、わたしはベッドから抜け出し寝室をあとにした。



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