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黒龍殺しの付与術師  作者: しきな かいどう
少年期
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第40話 三本槍

 自宅に帰ったときには日が暮れていた。


「ただいま」


「「お帰りお兄ちゃん」」


 ギルとアリスが出迎えてくれた。

 一緒についてきたソフィアが二人を見て手をわきわきさせているがギルとアリスももう慣れたものでこの状態のソフィアは居ないものとして扱う。


「あらお帰り」


 奥からエプロン姿のアイリが出てきた。


「ただいま」

「お邪魔してます」


「あらソフィアさんもいらっしゃい。

 丁度よかった。

 夕飯食べていって」


「ありがとうございます!」


「ねぇ父さん帰ってる?」


「お父さんなら倉庫にいるわよ」


 ゲインの所在を聞いて家の裏にある小さな倉庫に行くと丁度ゲインが座り込んでいた。


「おおカイリお帰り」


「ただいま父さん。

 何してるの?」


「ああ、カイリが仕留めた魔狼の素材を取り出してたんだ。

 遠征についていくと聞いて必要になると思ってな。

 持っていくだろ?」


 おお、流石ゲイン。

 こちらから聞かなくても分かってくれている。

 ゲインは倉庫の奥に素材を隠していたらしく回りには物が散乱していた。


「魔狼の素材なんてのは王都でもなかなか出回るものじゃないからな。

 部下達には黙っておくように伝えたが念のため隠しておいたんだ」


「ありがとう。

 けどそんな貴重なものなら全部持っていっていっていいの?」


「こいつはお前が倒したんだ。

 お前の物だよ。

 それに家計に関しては俺の役目だ。

 子供の物を使ったりしない」


 おお、ゲインの父親としての器の大きさ、というか甲斐性を見た気がした。

 前世の俺が子供の頃の趣味は貯金というちょっと変わった趣味だった。

 前世の父親は俺のお年玉や貯めていたお小遣いを他の子供へのお年玉として流用し、さらに学費関係にも使っていたから大人になって自分の口座には何も入ってないと知ったときには驚いたものだ。

 だがどこの家もそんなものかと思っていたが、知人らに「お年玉とか貰っても結局自分のものにならないから意味がないよなー」と話したら驚かれ、その反応であれ?普通じゃないんだと知った。

 そんなこともあってゲインの甲斐性に少し本気で感動してしまった。


「ありがとう。

 それで冒険者ギルドに寄ったとき副ギルド長がいてさ。

 魔狼の素材を輸送馬車で運んでくれるって」


 するとゲインの顔が険しくなった。


「何かあったのか?」


 そこでギルドでの経緯を話した。


「そうか。

 ……カイリは騎士になりたいと思うか?」


「誰かの為、何かの為に命を晴れる人を尊敬するけれど自分自身に騎士になりたいという気持ちはないよ」


「そうか。

 もしなりたいと思ったときは父さんのことは気にするな。

 派閥争いはあるが中立派閥もある。

 今の副団長は中立派閥で騎士団全体からの信頼も厚い。

 あらかじめ根回しをしておけばある程度は面倒事も回避出来るだろう」


 ゲインの声音は落ち着いていていまいち何を考えているのかわからない。

 そして彼の心境に興味が湧いた。

 それは前世で内容は違っても自分も組織に振り回された人間だからか。


「父さん自身に改革派への同調とか……後悔とかないの?」


 多分親子でもこれは踏み込み過ぎだと思う。

 怒らせるかもしれない。

 血縁でも、血縁だからこそ触れてほしくないこともあるのだから。

 しかしゲインは怒るでもなく傷付くでもなく、“少し長くなるぞ”と前置きをして昔語りを始めた。


「父さんが王立学院の騎士科に入学したときにな、周りの貴族の同級生、上級生から嫌がらせを受けたんだ。

 まあ当時は自分の力を過信して生意気でな。

 自分でも嫌な奴だったと思う。

 授業を終えて寮に帰る途中に複数に囲まれてボコられたんだ。

 そんなとき3つ上の高等学院生の先輩が通りかかって助けてくれたんだ。

 それも一喝で。

 みんな、俺も含めて先輩の一喝に萎縮しちゃってな。

 そのあとちょっかいかけてきたやつらと無理やり話し合わされてその後みんな説教された。

 んで終わりに際にみんな一発ずつ殴られた。

 もちろん俺も。

 え?このタイミングでしかも俺も?と思ったけれども先輩が去った後に思わずみんなして笑ってしまった。

 んで終わってみればそいつらとも仲良くなってた。

 強烈な人だったよ。

 そしてその先輩に憧れたんだ。

 学院を卒業してそのまま騎士団に入った。

 そこで先輩は3年目にして三本槍と呼ばれてた」


 三本槍って確かゲインの通り名の


「三本槍っていうのは当時改革派の実力者の3人を指していて先輩はそのうちの1人になってたんだ。

 更に憧れたよ。

 やっぱりこの人は凄い人だったんだって。

 学院生の時は学年も違うし校舎も違ったからあのとき以来話す機会もなかったけど騎士団に入ってからは話す機会が出来た。

 学院での成績と入団してからの訓練期間の成績で隊を振り分けられるんだがその人が指揮する中隊に振り分けられてな。

 凄い嬉しかったのを覚えてる。

 それからは今まで以上に訓練を頑張ったよ。

 剣だけでなく戦の戦略とかも学んだ。

 立ち振舞いも先輩の真似をして人に正面からぶつかって困っている者がいたら助けた。

 そうすると先輩も喜んでくれたからな」


「……」


「ある日、共和国との国境のいさかいで牽制の意味で父さんのいる隊が出ることになったんだ。

 ちょっとした小競り合いは頻繁に行われていていたけれども形だけのアピールという面が強かった。

 そこでうちの隊がまずは偵察として向かった。

 国境付近は岩山に囲まれていて、道は狭く見通しは悪かった。

 道中は何もなく、間もなく国境というところで大規模な落石が起こった。

 逃げるにしても前と後ろしかない。

 魔法師団からも少数の派遣はあったが詠唱をしている時間はないし、詠唱省略で放てるランクの威力ではあまりに落石は多く、中には大きなモノも含まれていた。

 俺は殿を勤めていたから後方に引き返して被害は免れた。

 けど先輩は先頭にいて、あの人の身体能力なら単身で前進すれば逃れられたはずなのに部下を岩場の影に押しやって身を挺して命を落とした。

 その後は生き残った者をまとめて後方の拠点に引き返した。

 この時、共和国側が攻めいってくると思ったが攻撃は無かった。

 別の偵察を出して落石の痕跡を調べたところ罠の痕跡はなく本当に自然発生源によるものだった。

 あの先輩が、あの強くて聡明な先輩があっさり命を落としたことが信じられなかった。

 それは俺以外の隊員も同じだった。

 臨時で俺が隊の指揮をとることになったが正直俺には荷が重いし、士気の下がったみんなを鼓舞出来るか心配だった。

 けれど一番先輩に可愛がって貰っていた俺が陣頭に立つことによってあいつが頑張っているんだからとみんな顔を上げてくれた。

 俺よりベテランの隊員がいたけれどもそれが狙いだったんだろう。

 その後いくつかの任務を終え王都に帰ると俺が新しい“三本槍”と呼ばれるようになった。

 悲しかったが先輩と同じ通称で呼ばれることは誇りだった。

 先輩のようにならくては、こんなとき先輩なら、と考えて行動した。

 結果多くの仲間から信頼を得るようになったがその分純血派から目の敵にされるようになった。

 次第に組織内のいざこざにも引き出されるようになった。

 こんなとき先輩ならどうする?先輩ならもっとうまくやれるはず。先輩なら一一

 気づいたら精神的に追い込まれてた。

 そんな中に作戦行動中に普段しないようなミスをして部隊を危機に陥らせてしまった。

 幸い被害はなかったもののその責任を純血派の幹部に問われ王都本隊からこの村に移動になったんだ。

 前置きが長くなったな。


 後悔してるか、だったな。


 後悔はしていない。


 それは先輩の意思を貫いたからじゃない。

 左遷させられたときにな、悔しさや絶望感よりも先に安心感があったんだ。

 ああ、これで解放されるって。

 先輩ならこうしたはずという考え、そこに俺の意思は無かったんだ。

 先輩は目的のために行動してたけど俺は行動が目的になっていた。

 だから自分の気持ちに潰されたんだ」


「それじゃあ後悔してるんじゃないの?」


「いや、間違えたけどもそれで手に入ったものもあるからな」


 間違えて手に入る?


「よくわからないよ」


「そうたな、多分そのときになって初めてわかるものなんだと思う。

 カイリは間違えるのが怖いか?」


 前世で仲間に売られ罪を着せられたときのことを思い出した。

 なぜあのときああなったのか?

 何を間違えたのか?

 周りときちんとした人間関係を築けなかったこと。

 周りの人間を簡単に信用してしまったこと。

 怖いか、悔しいか

 悲しいか


「……間違えたくないとは思う」


 ここでそれを口に出すのは自分でも何故かはばかられた。


「そうか。

 たまに取り返せない失敗、間違いはないとか聞くけどな、取り返せない失敗や間違いはあるよ。

 そんなのは綺麗ごとだ。

 けど取り返せる失敗や間違いもあるんだ。

 お前がこの先もし失敗したとしてもお前なら後者になると思う。

 だから遠征頑張ってこい。

 それで帰ってこい」


「うん」


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