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黒龍殺しの付与術師  作者: しきな かいどう
少年期
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第35話 魔法師との対決

「ちょっと旅に出ます」


 ソフィアが急に旅に出るとか言い出した。


「いや、姉御それだけじゃわからないっすよ」


 ポコナはどこか呆顔だ。

 けれど俺ははっきりと言い放つ。


「わかりました。気を付けてください!」


「え、わかっちゃったよ!?」


「師匠は自分探しの旅に出るんですよね。

 今年で二十歳ですもんね。

 毎日酒飲んで、部屋の片付けも出来ない。

 料理も出来ない。

 男も出来ない。

 そりゃあ自分って一体なんだろうってつい考えちゃいますよね。

 部屋の片付けは僕がやっておきます。

 宿の主人のシウバさん、僕の両親、いや町のみんなに師匠は自分探しの旅に出掛けたと必ず伝えておきますので、どうぞ今すぐ旅に出てください」


「やめて!やめて!それ帰ってこれなくなっちゃうから!帰ってきたらなんかみんなから温かい目で迎えられちゃうから!」


「えっとカイリさん、何か怒ってます?」


 慌てるソフィアに驚くククル。


「そうだよ、カイリ!なんか怒ってない?

 さすがに今のはあたしのことバカにしすぎじゃ――」


「怒ってますよ」


「えっ」


「だから怒ってるって言ってるんです」


「なんで!?」


「なんで?・・・ふぅ」


 胸の中がイライラする。

 いったん息をはき落ち着かせる。


「じゃあ聞きますけど、師匠はどのくらい旅に出るんですか?」


「どのくらいって、えっと、ちょっとの間かな?」


「姉御・・・」


 ポコナは何か言おうとして口をつぐむ

『ちょっと』の言葉を聞いて、この世界ではじめて本気で頭にきた。


「あんまりふざけたこと言わないでくださいよ」


「カイリ?」


「何度も同じこと言わせないでください?

『ふざけんな』って言ってるんですよ」


「カイリ!師匠に対してそんな口の聞き方―」


「師弟?そうですよ。

 けどそれは本当のことも言えないような関係なんですか?

 俺は少なくとも、ククルを含む家族を除いて、あなただけですよ。

 この世界で、いや、『今まで会ってきた』人間で本気で信用してる、大事なのは」


「カイリさん」


「ククル、師匠は嘘ついてる」


「嘘ですか?」


「『ちょっと』なわけないんだ。

 やけに身の回りを綺麗にしてるからずっとおかしいと思ってた。

 それに、『緊急性』がなければ例外が認められないギルドカードを一度断られたにもかかわらず作りに来たり、『名の通った冒険者』のポコナさんが俺たちを『育て上げるまで』魔法を教えたり、おかしいじゃないか」


「あっ」


 ククルもそれに気付くと不安そうにソフィアを見る。


「『なんで』旅に出るんですか?」


「姉御・・・この子はごまかせませんよ」


「・・・ふぅ、王国からの特命任務だよ」


「内容は?」


「ある魔物の目撃情報があってね。

 それの討伐」


「どのくらいで戻ってこれるんですか?」


「どのくらいかな?まず探すのに時間かかるかもしんないからね。分からない」


「それも嘘ですよね」


「何で?」


「国からの特命任務なら国、軍も動いてますよね?

 そしたらある程度探すのは国の組織でやるはずです。

 師匠の任務は『討伐』なんですから。

 ある程度予測がたったからお声が掛かったんですよね」


「……」


「それで?

 いつごろ帰ってくるとは一度も言ってないですよね」


「……」


「帰って、これないかもしれないんですね」


「そんな!帰ってきますよね!?」


 ククルは悲鳴のようにソフィアに問う。

 ソフィアはうん、帰ってくるよと返事しながらこちらを見ない。

 下手くそ。


「そんな」


 その態度でさすがにククルも気づいた。

 既に目には涙が溢れていた。

 両親を亡くしたククルにとって身近な人間がいなくなるかもしれないというのは耐え難いものなのだろう。


「あーあ、ククルちゃん泣かした」


「泣かしたのは俺じゃなくて師匠ですよ」


「だから言わなかったんじゃん」


「言わずに帰って来なかったら俺が泣きますよ」


「カイリが泣くのは想像つかないな」


「そうですか? 泣き虫ですよ?」


「じゃあ本当のこと伝えたからもう泣かないよね」


「はい、一緒に行くんで泣かないです」


「連れてかないよ?」


「いや、俺も自分探しの旅に出ようと思ってたんでちょうどよかったです」


「一人で行きなよ」


「何言ってるんですか?師匠なんですから付き合ってくださいよ。

 替わりに師匠の旅にも付き合いますから」


「いらないよ」


「冷たいなぁ、旅は道連れっていうじゃないですか」


「弟子を道連れにするつもりはないよ」


「一緒に帰ってくればいいんですよ」


「……」


「おいカイリ!姉御を困らすな!

 あんたが優秀だってのは聞いてるけど、あたしですら参加出来ない旅なんだ!足手まといだ!」


 ……A級並みの冒険者か


「師匠、あの人を倒したら連れてってくれます?」


 俺はポコナを指さして問う。


「……」


「なっ!調子乗ってんじゃねえぞガキ!誰に口聞いてんだ!!」


「どうなんですか?あの人もアレで一流なんでしょ?」


「上等だクソガキ!泣かしてやんよ!

 姉御やらしてください!どうせこのガキ黙ってたって付いてきますよ。

 だったらここで骨の二、三本折っておいた方がいいですって!」


「……そうね」


「おっし!」


「忘れないでくださいね。勝ったら連れてってくださいよ」







 勝負の場所は冒険者ギルドの訓練所に決まった。

 勝負の審判はソフィアがやるらしい。


「安心しろよクソガキ!

 姉御が出立したら治癒魔法かけてやるよ。

 まあその前に足の骨は確実に折んなきゃな」


 まったくガラ悪いなぁ


「いりませんよ。

 足の怪我に治癒魔法なんてかけて、あなたみたいに低身長で止まったらどうしてくれるんですか?」


「なっ、て、てめぇ」


 身長が150センチメートル程しかないのをやはり気にしていたらしい。

 勝負の前に出来るだけ煽っておく。

 ソフィアの魔法は何度も見せてもらったが『魔法使い同士』の戦いは初めてだ。

 出来れば今のうちに判断力を鈍らしておきたい


「ポコナ、カイリの言葉に耳貸しちゃ駄目よ。

 あの子、あなたの冷静さを奪う作戦だから」


「ちっ、わかってますよ!

 姉御とのさっきのやりとりを見て子供とは思えませんでしたからね」


「そう、あとその子は私と同じで無詠唱魔法の使い手よ。

 属性も全て中級が扱えるわ。

 属性魔法に属性強化の付与魔法を重ね掛けして中級から高位の魔法に昇華させる。

 その過程での魔力効率は恐ろしくいいわ。

 魔力総量はあなたの方が多いけれど効率を比較すると五分ね。

 ただし中級以上は重ね掛けの手間で若干ラグがある」


「なっ、師匠が師匠なら弟子も弟子で化け物だな」


「大丈夫、魔法に関しての引き出しはあなたの方が多いわ。

 ただし、あたしと違ってあの子は近接戦闘も出来る。

 魔法使い同士の間合いの意識で戦うと足元すくわれるわよ」


「うす!」


 ソフィアめ、こちらの手の内全部明かしやがった。

 本気で俺を倒させるつもりだな。


「師匠!ずるくないですかソイツばっかり!

 俺には何かアドバイスないんですか?」


「まいったと言えばその場で勝負は止めるわ」


 やろっ


「もう一声!」


「……君は身体強化で接近戦に持ち込むつもりかもしれないけど、一流の魔法使いが本気で警戒してる中懐に入り込めると思わないことね」


「いや、接近戦警戒させたのは師匠ですけどね!」


「……」


 シカトかよ。

 魔法の発動速度はまず負けない、けど魔法の経験の差と搦め手でこられるのは正直怖い。

 後手に回るべきしゃないな。

 ここは短期決戦で決めたい。 


「じゃあ始めるわよ」


「はい」


「おっしゃ!」


「始め!」


 ダンッ


 力を込めた脚で地面を蹴飛ばしいっきに距離をつめる!

 30メートルあったポコナとの距離はあっという間に縮まり残り10メートル。


「なっ!?」


 するとポコナの目の前から高さ5メートルをこえる岩の壁が突き出た。

 これは上級魔法!?

 詠唱してる時間はなかったはず!

 いや、はじめの合図の前にあらかじめ唱えていたんだ!

 そういえばソフィアがククルに詠唱について教えていたとき、あらかじめ詠唱を唱えて一定時間保留状態に出来るっ技術があるって言ってたな。

 くそっ。

 けど岩壁一枚なら横に回り込めば!

 すると岩壁の向こうから更に詠唱が聞こえる。

 すると俺の前だけでなく左右後方に一枚ずつ岩壁が出現する。 

 超級魔法!?

 二つも詠唱保留してたのか!?

 そして一枚一枚の岩壁が俺を中心に一つの箱を作るように最後に天井に壁が作られ閉じ込めにかかる。

 壁の厚さは3メートルか。

 閉じ込められたら終わる。

 なら、下は。

 地面を魔法で穴を空けて抜け出すしかないかと足元を踏むと足元に岩盤が浮かび上がる。

 もちろん魔法によるもので土に穴を空けるという下位の魔法では干渉できない。

 上しかないか。

 天井が閉まる前に中級魔法の火球を3つ同時にに作り上げ真上に放つ。


「そんなんで壊れるかよ」


 ポコナの言葉どおりそんなんで壊れはしないだろう。

 火球は一つは壁に当たり土煙をあげるが、残りの2つはカーブを描き天井と壁の隙間を抜け重力に引かれるかのようにポコナに向けて落下する。


「っく、器用な真似しやがって」


 迫り来る炎にむけて右手を向けると人差し指の指輪が光った。


「沈み、阻み、拒絶する」


 空中に水の盾が出現し火球を受けとめる。


 バウンッ


 低いくぐもった音と共に2つの炎は消え去る。


 ガゴォーン


 それと同時に天井が締まりあっという間に巨大な箱が出来上がる。

 その様子を見ていたソフィアは勝負ありと岩の箱に語り掛ける。


「カイリの負け」


「……」


「認めなさい。

 あなたの成長速度は確かに脅威的よ。

 でも上には上がいるし何より経験が足りない。

 ポコナが最初にしたのはなんだかわかる?

 詠唱保留だけじゃないわよ。

 いくらポコナでも超級を含めた詠唱保留は二つ同時には出来ない。

 二つ目のは上級の詠唱をあえて完成させないでそのまま超級魔法のキューブに詠唱を繋ぐ追加詠唱、更にそこに詠唱短縮を混ぜることによって身体強化したあなたでも逃げる隙がないほどの連続発動を可能にした」


「おい、ガキ。呆気ねぇな!

 無詠唱は確かにすげぇけどな初手に限っては五分で張り合えんだよ!

 最後の火球の複数作成と弾道操作は見事だった。

 けどそれたけだ。

 有能な敵より足手まといの仲間の方が戦闘じゃ命取りだ。

 付いてくのは諦めろ!素直に諦めるならそこから出してやる」


「……」


「ちっ、おい!

 降参しないなら動けなくして宣言通り足を折る!

 お前みたいなのは嫌いじゃねぇ!

 それに女子供を怪我させるのは趣味じゃねぇ!

 素直に敗けを認めろ!」


「カイリさん!」


 ポコナが悲鳴をあげる。


「確かに俺も女性を怪我させるのは気が進まない。

 降参してください。

 あと俺は子供かもしれないけど女じゃない」


 俺はそういってポコナ背後から首筋にナイフをあてる。


「なっ!?どうやって出てきた!?」


「はじめから閉じ込められていませんよ」


「嘘だ!いくら身体強化しててもアレは避けられるはずがねぇ!それぐらいの発動速度だった!」


「たしかにギリギリでした。

 火球の対応で“檻”の作成が僅かに遅れてくれなければ」


「もしかして火球が一発天井に当たったのは操作ミスじゃなくてわざとか!」


「まあ煙幕代わりです」


「っく、それでも逃げられたかどうか分からないはずは―」


「そりゃあ気配をきっちり消しましたからね」


「はあ?!」


「師匠言い忘れてたみたいですけどソフィア師匠には魔法を、父さんには武術を、山の猟師さんには狩りに必要な技術、弓や身のこなしを教えてもらってましたから」


「猟師さんだあ?」


「っ、あのじじい」


 ソフィアは忌々しそうに呟く。


 早朝は武術稽古。


 午前中は山に()()()


 午後は魔法修行。


 この生活をずっと続けてきた。


「でもあのタイミングで脱出は」


「身体強化を使いましたから」


「だからってあの短い時間で」


「師匠は何か勘違いしていますけど父さんとの模擬戦、今では身体強化は使ってませんよ」


「「はあ!?」」


 ゲインとの稽古は早朝だ。

 そんな時間にソフィアが起きているわけがないし、もちろん稽古の様子を観たことがない。

 おそらく近接戦が出来ると言っても並みの冒険者と同じように考えていたのだろう。

 まあこちとらまだ子供だ。

 武術は魔法よりも身体的成長を、つまり大人に近い方がもちろん力が強くなる。

 だが俺は魔狼を倒したことで基礎能力が底上げされたのを実感した。

 この世界に来てから色々出来るようになったが、それはちょっとずつだ。

 明らかに変わったと感じたのはそれが初めてだった。


「いや~父さんと模擬戦とはいえまともに戦えてると伝えたとき絶対勘違いしてるだろうなと思ってたんですよ。

 そりゃあ師匠から見れば俺は魔法師ですからね。

 もちろん身体強化していると思いますよね」


 身体強化は元の身体能力が高いほど効果が上がる。


「俺が大好きな本に『切り札は先に見せるな。見せるなら更に奥の手を持て』って言葉がありましてね」


 まあこの世界の人は知らないだろう。


「あと師匠が隠し事してるようだったんで何かのために俺も隠してたんです」


 これにはソフィアも唖然としている。


「ちなみに()()切り札はありますよ」


 するとポコナは口をポカンと開けたあと笑いだした。


「滅茶苦茶だな!

 さすが姉御の弟子だわ。

 はははっ」


「ポコナさん?」


「姉御、こいつ連れてってやってくださいよ」


「ポコナ?!」


「だってまだこいつまだかくし球あるって言うんですよ!?

 絶対姉御の役に立ちますよ。

 それに経験や心構え、小手先の技は旅の途中で身に付ければいい。

 どうせ目的地まで一年近くかかるだからその間に仕込んでやればいいじゃないですか」


 ゆうはくの鯱を倒すところめっちゃ好きです。


 

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