第32話 説教
カッ
カッ
カッ
朝早くから木剣の重なりあう音が響く。
その音の奏者はゲインとギルだ。
2年前からギルも俺を真似て朝稽古に参加するようになった。
はじめは俺やゲインの真似がしたくてやっていたが今では剣術が楽しくてしょうがないようだ。
さすがギル、きっと強くて誠実な大人になるだろう。
一方アリスはまだ寝ているがもう少ししたらアイリと2人で水を汲みに行くために起き出す。
まだ小さいのに偉い。
将来は優しくて可愛い女の子に育つだろう。
今でも可愛いがね。
なにはともあれ今の俺は怪我で家のことを手伝えない。
なのでギルやアリスが積極的に手伝っている。
怪我の経過はというと魔狼との戦いから早一ヶ月が経ち、左腕はまだ動かせないものの右手は動くし歩くのにも支障はないが動こうとすると周りから(特にククル)止められるのだ。
うーん落ち着かない。
そんなことを考えながらギルとゲインの稽古をベッドの上であぐらをかきながら窓越しに見ている。
稽古の様子を観察するわかることある。
ギルの剣才は俺よりも上だろう。
例えばだがギルの年齢と同じ二年前の俺が戦っても俺が勝つだろう。
今の俺と同じ年齢にギルがなっても今の俺が勝つ。
じゃあ10年後は?
純粋な剣術はギルが勝つだろう。
ギルの剣は本人の性格を表したかのように真っ直ぐだ。
それと同じように俺の剣は性格を表したように曲がっている。
相手を誘ってのカウンター。
わざと空かしてからの切り上げなど変則なものが多く、いわゆる邪道というやつだろう。
またそれを悪いと思っていないのでつい駆け引きを重視してしまう。
その点ギルはゲインの教えを守り王道をいく。
まだ子供で駆け引きなどは出来ないがたまにハッとするような剣筋をみせる。
前世で武道をやっていたからわかるが王道は強いが上に王道なんだよな。
二人の稽古の横では、一生懸命短刀を振る少女、ククルもいた。
魔法だけでなく武器も覚えたいらしい。
まだ始めたばかりで腕だけで獲物を振っているが一生懸命さは伝わってくる。
それについ感化されこちらも魔力操作の基礎練に取り掛かる。
つい先日ソフィアから魔力操作のお許しが出たのだ。
もう痛みはなく回復したが、魔力回路の形は変異したままだった。
ソフィアは俺の回復を確認するともう一度王都に戻り導師に原因を聞いてきてくれた。
戻らずとも魔道具の通信機を使えばいいんじゃないか?といったら導師の連絡先は削除したらしい。
この魔道具はお互いに登録していないと機能しない。
なんで消したのか聞いたところ、三日に一回説教の内容が送られてくることと、導師の特殊技能で通信先の居場所を突き止められてしまうのが嫌で消したそうだ。
まさにソフィアと言ったところだ。
魔道具をソフィアの物を1つ俺に渡し、王都の自室に埋もれている魔道具で会話するということで今は、離れた所から会話している。
肝心の内容だが
『で、何かわかりました?』
『ババア曰く魔力を通す回路が作り変わったんだろうって』
『作り変わる?』
『無理やり魔法に付与魔法なんてやったもんだから本来の魔力を通す回路が壊れて別の道筋を残して作り直して固定されたみたい』
『そんなことあるんですね』
『あるわけないじゃない』
『え?』
『本来魔力回路が壊れれば良くて魔力消失。
普通で、死ぬよ』
『いや、でも実際こうして生きてますし、魔力も失ってませんけど』
『超超超運がよくて、君がまだ幼くて成長途中がゆえの回路の再生だよ。
3年後なら完全に回路は壊れたまま魔法は二度と使えなくなってた』
『はぁ』
『さらに本来の君の魔力回路が違うベクトルを持つ形、適正に近かったから出来た。
つまり付与魔法構成に向いた形に近かったから出来たってこと』
『すごい偶然ですね』
『……君は軽く言うけど死んでたっておかしくないんだからね。
死なない方がおかしかったんだから。
もうちょっと考えて』
はじめて聞くソフィアのマジ切れトーンだ。
『えっと、』
そんなこと言われてもあの状況ではああするしかなかったのだし、また同じ状況になった迷わずするだろう。
それだけ切羽詰まっていた。
『はぁーー』
通信機越しにめちゃくちゃ深いため息をつかれた。
ちなみに魔力回路の崩壊だが実は本来は気にする必要はないものらしい。
なぜなら壊れるまで魔法を行使すること自体がまず困難だからだ。
回路に負担をかけるほどの魔法構築はそもそも魔力操作が緻密なうえに複雑だ。
さらに回路に負担がかかると激痛により感覚と集中力が乱れ魔法形成まで至らない。
この悪条件2つが重なれば普通は回路が壊れるまで魔法を行使することは出来ない。
他に魔力回路に負担のかかる例としては“魔力変質”がある。
俺の“回路変異”とは別だ。
魔力にも質があり“変質”とは特殊な属性を扱う種族に起こるものらしい。
無理な魔法形成同様に魔力回路に負担がかかるが壊れるほどじゃないそうだ
魔力変質は元々の魔力が変化するもので遺伝的なもので特定の種族の一部に起こるものらしい。
『とにかく魔力操作していいって言ったけど無理は絶対駄目!
少しでも違和感を感じたら報告すること!
その上で私が良いって言うまで魔力操作禁止!
わかった!?』
違和感で大げさじゃないかといったら有無を言わさずわかったかと再びつめよられた。
まあそんなこんなでしばらくは剣もお休み。
魔法も少ししか修行できない。
ただぼーっとするのももったいないのでソフィアから借りた魔術書と、付与魔法について考察しながら時間を潰した。
その三日後にソフィアが慌ただしく戻ってきた。
みんな心配し過ぎだと思うのだが。
一方ククルは朝稽古を終えると食事の準備の手伝い、俺の包帯の取り替え、掃除、ギル達の相手、ソフィアが居たときはさらにお世話とククルはククルで慌ただしい。
「子供なんだから手伝いばかりじゃなくてもっと遊んだら?」
と提案するのだが全く聞く耳を持たない。
そんな俺の提案を聞いてお前が言うなと両親が見てくるが気づかないふりをした。
「いえ、好きでやっていますので」
良い娘なんだけどどこか苦労性のような気がして心配になる。
ある日ククルがソフィアの世話から帰ってきたが、すでに疲れて眠そうだ。
ボーッとしながら部屋に訪れたククルにお疲れ様と言いながら頭をなでる。
すると嬉しそうに尻尾をふりふり。
なにこれ可愛い。
本人が寝ぼけながらも照れて頬を紅くしているのがまた可愛いらしい。
そこで耳もついでになでなで
も一つおまけになでなで
もっとなでなで
するとククルははっとなり、
「なんであなたたち師弟はそろってわたしの耳に固執するんですか!」
どうやら目が覚めてしまったようだ。
咎められてしまった。
俺は隙あらば話の流れの中で耳を撫でるが、ソフィアは弟子にする交換条件として堂々と?耳を撫でることを要求したようだ。
確かに師弟そろって何をしてるのかと少し反省もしたがソフィアと一緒は少し心外だ。
ちなみに交換条件だが耳を触らせなかったとしてもソフィアは弟子に取ったであろうことは黙っておこう。
さすがにそんなふざけたことが本気の条件な訳がない……はず。
「ところで話しは変わるんだけど」
話をそらしにかかったかと半眼で見るククル。
「いや、真面目な話で」
ククルはこちらの雰囲気を察していずまいを正す。
「何ですか?」
「頑張り過ぎじゃない?」
「そんなことないです。
何でそんなこと思うんですか?」
「だって尻尾の毛艶が落ちて…」
「カイリさん?」
ソフィアの笑顔が怖い。
なんだかアイリに似てきたかもしれない。
「ごめん、冗談。
理由は自分でもわかるでしょ。
明らかに疲れてるし、今も眠そうだよ」
「そんなことは――」
「ククル。
ククルが頑張るのは俺、別に嬉しくないよ」
ククルは俺の言葉にショックを受けたようだが、これが本心だ。
「今まで……迷惑でしたか?」
「いや、すごい助かってた。
俺もそうだし、母さんやソフィアもすごい助かってた」
「ならっ!」
「けど、無理して欲しい訳じゃない。
家族に思いやる気持ちは求めても、利便性や合理性は求めてないよ。
ククルが自然体でいられる場所じゃなきゃ意味ないよ」
「…………」
ククルは黙ってしまった。
言い過ぎただろうか?
「……ってない」
「えっ?」
「カイリさんは全然わかってない!
私は別に無理してません!
それにカイリさんの方が無理してるじゃないですか!
ソフィアさんからあの魔獣をやっつけた魔法がどれだけ危険か聞き出しました。
死んでもおかしくかったんですよね!」
「いや、だってそうしなきゃ左腕喰われて死んでたし、それに――」
「黙ってください!」
「はい!」
あまりの迫力に思わず返事してしまう。
「大体左腕も自分から入れにいきましたよね!?
何考えてるんですか!?
私はあのときあまりの光景に泣きそうだったんですよ!
いえ、泣いてましたよ!あれは!
助けなきゃって必死に武器を探して」
「……」
「山から降りる最中に気を失って、お医者さんに診てもらってからも5日間も目を覚まさないし、その間もずっと辛そうにうなされてて、目を覚ましたら今度は自分のことより私やソフィアさんの心配をして。
お医者さんも言ってました。
本当は凄く痛いはずなのにカイリさんはそれを見せないから診断しづらいって。
みんな、みんな心配してるんです!
私やアイリさん、ゲインさん、ギル君、アリスちゃん、ミゲルさん達も!
自分勝手に周りにばかり気を使わないでください!
痛かったら痛いって言ってください!
辛かったら辛いっていってください!
それに私は好きでゲインさんとソフィアさんに稽古をつけてもらって、アイリさんに料理や薬草について教えてもらって、ギル君とアリスちゃんと遊んでるんです!
勝手に無理してるなんて言わないでください」
ククルの瞳からは涙が溢れて止まらない。
「ごめん」
ククルに深く頭を下げる。
「ククルを勝手に俺の物差しで決めつけてた」
「許しません!」
マジか。
「どうしたら許してくれる?」
するとククルはベットに上がり正座する。
そして自身の膝をぽんぽんと叩く。
「?」
「寝てください」
「?」
「頭を私の膝の上にのせて寝てください」
「なんで?」
「いいから!」
言われた通り膝枕される。
「……」
何だこの状況。
「カイリさんは人を頼るのが下手です。
甘えるのが下手です。
だからこれはその練習です」
ククルはそういって頭を優しく撫でてくる。
「カイリさんはまず私に甘えてください」
ヤバい、すごい気恥ずかしい。
「もう充分だよ?」
「ダメです!
カイリさんがちゃんと甘えてくれるまで続けます」
「な、なら尻尾触りたいなぁ」
「……照れを誤魔化す為に言ってるんでダメです!」
めちゃくちゃ見破られてた。
「カイリさん」
「なんでしょう?」
「ありがとうございます。
心配してくれて。
無理はしないのでこのまま続けさせてください」
「うん、じゃあ約束。
無理はしないって」
「カイリさんも、約束。
もっと周りを頼るって、甘えるって」
「努力します」
俺の返答にククルは呆れながらも2人で笑って指切りを交わした。
さらに一月が流れ季節は夏となった。
左腕の骨がしっかり繋がったところでソフィアが治癒魔法を掛けてくれたので怪我もあらかた治った。
魔力回路にあっても自分の体内の魔力に意識を向け操作するが痛みは感じない。
そんなわけで今日は以前の修行場に俺とソフィア、ククルの3人で来ている。
修行内容は、俺はひたすら魔力集中とその維持の訓練。
魔力維持には二通りある。
これは体内で魔力を一点に集中させ続けるもの。
魔法を発動させ体外に維持するもの。
難易度的には後者のほうが難しい上に魔力消費も激しい。
これを交互におこなっていた。
ククルは初歩の体内の魔力を感知する訓練だ。
ソフィアの弟子になってから一月以上経つがまだ実技はおこなっていなかったらしい。
実技に入ると俺の世話が出来ないからと俺の怪我が治ってから始めるつもりだったとのこと。
なのでその間は講義で魔法について教えてもらっていたようだ。
ソフィアは魔法についての教科書(やけに綺麗なもの)もククルに貸し出していたが、字の読み書きが出来なかったので俺の世話しに来たときに教えていた。
この世界の識字率はそれほど低いわけではない。
平均的な暮らしの平民なら書くのは微妙だが読むのは出来る。
ククルの住んでいた村も平均的な豊かさてあったものの両親や祖母が亡くなってからはそういうのを教えてくれる人がいなかったようだ。
実際教えてみると瞬く間に覚えてしまった。
きっと地頭がいいのだろう。
読み書きが出来るようになっていく度に頭を撫でると目を細め、尻尾を振る姿が可愛らしかった。
徐々に耳も撫でていたが本人が気付くと、正座し無言の笑顔で膝をぽんぽんと膝枕を促してくる。
修行の話に戻ろう。
俺は魔法の外部維持をなんとか30分出来るようになった。
「ふぅぅ、きっつ」
全身に汗が噴き出している。
「いい感じね。
コツつかめてきたんじゃない?」
「ええ、だいぶ」
「じゃあ次は1時間ね」
「いや、1時間はさすがに――」
「よーいはじめ!」
今までが順調すぎて気付かなかったがソフィアの訓練はなかなかにハードだった。
「次はククルちゃんの魔力感知ね」
「よろしくお願いします」
「まずは目をつぶって、手を出して」
俺の時と同じ方法で修行するようだ。
ククルの手を握って魔力を送り込んでいるのだが、その間ソフィアは手を触りニマニマしている。
美人でも気持ち悪いことすればやっぱり気持ち悪いんだとあらためて実感した。
ククルの方はさすがに一日ではうまくいかなかった。
耳が下を向いている。
「わたし、才能ないんでしょうか?」
「いや、カイリが異常なだけで普通は一ヶ月は見積もるものだから」
ひどい言われようだ。
あんたも変わらんだろ。
「カイリがいれば家でも訓練出来るから何度もやってみて、体内の魔力感知なら魔力の消耗はないから」
いや、送る側の俺の魔力は消費されますよね。
「じゃあ最後にもう一度魔力を流すからそしたら自分の手を組んで集中して」
「はい」
そう言ってククルに魔力を流し終わると俺の方へニヤニヤしながら近づいてきた。
相手に伝わるようわざと顔をしかめる。
「なんですか?」
「ちょっと、そんな嫌そうな顔しないでよ」
「そんなニヤつきながら近づかれたら嫌な顔だってしますよ」
「へぇー私には厳しいのに、ククルちゃんにはやさしいのね」
「そうですか?」
「だって私が遠回しにククルちゃんの修行付き合えって言ったり、カイリをいじったりしても何も言わないじゃない」
「そりゃあ真面目にやってる人間に変な横やり入れませんて」
「ふーん、それだけ?」
「何を考えてるのか大体想像つきますけど下衆の勘繰りですよ。
それに生きるための術(魔法)を身に付けようと必死なのところは自分と一緒ですからね。
一緒に頑張ろうと思ってるんですよ」
「いや、彼女それだけじゃないでしょ。
君、分かってるようようで分かってないよね」
「?」
「こりゃあククルちゃん苦労するわ」
アメリカンコメディの様にやれやれといったわざとらしい動作をするソフィアに若干イラつく。
そうこうしているうちに日も暮れたので帰宅することとなった。
魔法維持の修行はかなり集中力を使う。
今日はぐっすり眠れそう(といっても2~3時間で目が覚めるが)だとベッドの上で伸びをするとドアがノックされた。
「どうぞ」
返事をするとククルだった。
「あの……もうお休みですか?」
「ん?ああ、もしかして魔力感知の練習?
大丈夫だよ」
「ありがとうございます」
「じゃあ送るから手を出して」
「はい!」
なにやら嬉しそうだ。
すごいやる気だな。
「どう?感じる?」
「……なんか暖かいような気がするような?すみません、まだわからないです」
「焦らなくていいよ。
いくらでも付き合うから」
「ありがとうございます!」
その日から毎晩魔力感知の練習に付き合うようになり、一週間後にククルは魔力感知を習得した。
俺の方はソフィアのスパルタ特訓もあって魔法維持を野球ボール程の大きさで5時間以上維持出来るようになった。
「ククルちゃん、やっぱり才能あるね。
カイリは別として普通一週間じゃ魔力感知は無理だよ」
「ソフィアさんの教え方とカイリさんが毎晩付き合ってくれたおかげです」
「カイリはククルちゃんには優しいからなあ」
ソフィアがニヤニヤしながら見てくる。
ククルも頬を染めながらなにやらこちらをうかがっていたがスルーして魔法維持の練習を続ける。
「ちぇっ、つまんないなあ。
まあいいや、それじゃあククルちゃん!
次は魔力放出に行こうか」
「よろしくお願いします!」
「あとカイリの方は魔力球を維持しながら空中で自在に動かす訓練ね。
それが出来たら今度は自分が動きながら維持。
んでそれが出来たら魔力球を身の回りに付随させながら森の中を駆け回る訓練ね」
「いや、そんな一辺に言われても出来ませんよ」
「あたしはククルちゃんに付きっきりになるから君は今言われたことをやってて。」
なんか前世で、教習所に大型二輪免許を取りに行ったときのことを思い出した。
教官に中型二輪持ってるって伝えたら勝手にコース回ってろと言われたのを思い出すな。
その教官は中型免許を取りにきた若い女の子にベッタリだった。
「私ばかり付きっきりで教えてもらうのは悪いです」
「んーん駄目。
放出の訓練が一番危険なの。
君は君で集中して」
そして各々で訓練が始まった。
俺は、魔力球操作に一ヶ月、動きながらの維持に一ヶ月、付随移動維持に二ヶ月費やした。
一方ククルは火属性の初級魔術を習得しさらに水属性も習得した。




