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黒龍殺しの付与術師  作者: しきな かいどう
少年期
34/101

第29話 ククル ■

「っ!?」


 気が付くと自宅のベッドの上にいた。

 身体を起こそうとするも全身から激痛が走る。

 特に左腕の痛みがひどい。

 その左腕を見るやぐるぐると包帯が巻かれ固定されていた。

 激しい痛みを伴うが指先が動くのを確認する。

 下山途中で気を失ったのか……。


「っくぁ――」


 身体の痛みとは別に全身の魔術回路から火傷のような痛みを感じる。

 肉体のケガとはまた違う痛みで、これはこれでかなりキツイ。

 が、今は生きている。

 生き残れたんだ。


「ん?」


 左腕とは反対の視界にはゆっさゆっさと揺れる影、いや尻尾に気付いた。

 あの時の狐人族の少女だ

 少女は椅子に座りベッドの端に頬をつけて眠っていた。


 ふむ。 


 この娘に助けられたのか。

 下山の時だけじゃない。 

 魔狼の左目を潰したこと、右目を狙うしたたかな姿。

 助けるつもりが三回は助けられている。

 武術、魔法共に強くなったつもりだったが、あの魔狼と相対したとき力不足を厭というほど実感した。

 あんなのがそこらじゅうに蔓延っているなどとは思いたくないがもし、もう一度戦闘になったら勝てるビジョンが浮かばない。

 剣も効かない、魔法も効かない。

 正直お手上げた。

 今回勝てたのは魔狼の油断と、この娘のおかげと、あとは運が良かっただけだ。

 そういえば盗賊の親分にも魔法をかわされた上に中級土魔法の直撃も耐えられたしな。

 はぁぁ。

 修行を始めてから手は抜いたことはないし、強くなっている実感はあった。

 実際ゲインの部下には勝てる。

 慢心があったのかな。

 もう一度気を引き締め直そう。

 それに最後の付与強化、“あの感じ”をもう一度出来るなら。

 屋内なので火魔法ではなく光魔法【治癒】を、左手に無属性【強化】を。

 あのときの感覚を思い出しながら魔力を操作しようとした瞬間両腕の内側から燃える痛みと電気を流されたような痛みが走る。


「うっ―――」


 とっさに操作を中断、痛みは軽減するも痺れるような余韻が残っている。

 だが逆に今ので少し安心した。

 激痛で中断したが、魔術回路は変わってしまっていても普通の属性魔法は使えそうだ。

 それにこれは……。

 考え事をしていると抗えない倦怠感が襲ってきた。

 今は休もう。

 そう、思い目を閉じた。








 窓際に留まった小鳥のさえずりで目を覚ました。

 そのまま身体の具合を確かめる。

 左腕の痛みは変わらないが、魔術回路の痛みは和らいでいるのがわかった。

 頭を動かすと額から濡れたタオルが落ちた。

 辺りを見ると同じ場所に狐人族の女の子がまたいた。

 どうやらずっと看病してくれていたようだ。


「ん~、すー」


 狐娘が耳をぴくっとさせた。

 起こしたか?

 いや、気持ち良さそうに眠ってるな。

 少女の顔をよく見る。

 獣人と聞いていたけれども、耳と尻尾以外普通の人間と何ら変わらない。

 変わらないどころかとても可愛らしい顔をしていた。

 あと10年もすれば道行く人誰もが振り返るような美人になりそうだ。


 ぴくっ

 ぴくぴく


 黄金色のケモミミが不規則に動く。

 とても気持ち良さそうな毛並みだ。


 ファサァ


 うん、これは想像していた以上の毛並みだ。

 気付いたら右手で撫でていた。 

 右耳、左耳,耳の先を優しく撫でてやる。

 触ると大きな尻尾もうれしそう動いている。

 その尻尾にも手を伸ばすと


 ファサァア


 おおお!?すごっ!もふもふ感半端ない!


「んっ…ん~♪」


 夢中になって無ででいると少女が気持ちよさそうに寝言が流れる。

 そして、尻尾を触ると一度はやってしまうこと。


 ぎゅっ


 尻尾を思いっきり鷲掴みした。


 びくっっ


「あ、おはよう」


 強く握りすぎたのか起きてしまった。


「え??

 きゃああっ!? 」


 悲鳴を上けられる。

 えと痛かった?

 とりあえす尻尾を掴んだまま尋ねる。


「えっと、どうかした?」


「どうかした?じゃありません!

 なんで尻尾掴んでるんですか!?」


 どうやら尻尾掴んでるのが気に入らなかったようだ。

 涙目で抗議される。


「えっと、立派な尻尾だったからつい」


「立派な尻尾だとつかむんですか!?」


「だってもふもふだし?

 ……駄目?」


 彼女はなにやらうつむいてしまった。

 顔色が赤い。

 よっぽど失札なことだったのか?


「もしかしてカイリさんの身の回りには獣人族はいないんですか?」


 あれ、俺名前言ったっけ?


「いや、この村にもいるけど、ご近所にはいないし、あんまり関わりはないかな」


「そうですか。

 種族にもよりますけど基本気軽に尻尾に触ってはいけません」


「そうなんだ……触っちゃいけないのか」


 あの感覚を味わえないのか。

 前世からもふもふ好きの俺から見ても類に見ないもふもふ具合なのに……。


「な、なんでそんなに悲しそうな目をするんですか!?」


「耳も駄目?」


「耳は尻尾とは違うのでそこまで駄目と言うわけではないですが、普通は……ってなんで手伸ばして来るんですか!?」


「駄目じゃないって」


「いえ言いましたけども!

 ~~ぅ」


 まだ何か不満があるのか顔を赤くさせながらも頭をこちらに向けてくれる。

 触らせてくれるようだ。


 ふあすっ、さささ、さあらー、さすさす、さぁー


 思う宿分耳を無でる。

 ああ尻尾もいいけど耳のこのさらさら感も素晴らしいな。


「なっ撫ですぎです!

 それに私が思っていた撫で方と違います!」


 また怒られてしまった。


「何やってるの?」


 いつの間にか扉の前に立っていたアイリに呆れた顔で問われ、その後ろではゲインが気まずそうにしている。

 え、何この空気。

 耳や尻尾を触ったことを伝えたらアイリからガチ説教をくらった。


「まあカイリだけじゃなくて私たちが教えてなかったのにも非があるのだけど……普通さわらないわよ?」


 まあ言われてみれば人体の一部だしな。

 ん、けど耳は許してくれたし……よくわからん。


「それにしてもこの手の早さは誰に似たのかしら」


 そう言ってアイリはゲインを一瞥する。


「え、あ、い、いやアイリ―――」


 なにやらゲインが慌てている。

 夫婦間でなにやら思い当たるふしがあるようだ。

 その様子にアイリは半目になりながら話を戻す。


「カイリは教えてもいないことを知っていたりするからついこちらも知っているものとばかり思ってしまうのよね。

 カイリは女の子の尻尾に興味があるの?」


 いや、女の子の尻尾というか尻尾に興味があるのであって……なんだこの状況?

 エロ本みつかって問い詰められてる気分だ。

 気まずい、話題を変えたい。


「師匠はまだ帰ってきてないのかな?出来れば腕を治してもらおうと思ったんだけど」


「ソフィアさんはまだ帰ってきていないみたいよ。

 カイリの方から連絡とれないの?」


 あ、そういえば非常時の連絡手段の魔道具もらっていたんだった。

 この魔道具は文字数制限が厳しいメールみたいなもので同じ魔道具同士で登録することで送れる。

 まあ魔狼も倒したし怪我ももうすんだことだから自然と帰ってくるの待てばいいか。

 そんなことを言うと周りが呆れた雰囲気になった。

 いや、だっていまさら焦ったってしょうがないし。


「カイリ、あの魔獣はカイリが倒したのか?」


 ゲインが真剣な表情で聞いてくる。


「うん、父さんの言いたいことはわかるよ。あの魔獣かなり強いよね。

 外皮は魔法攻撃も身体強化した斬撃でもビクともしなかったし」


「あの魔獣は特殊な攻撃を持たない代わりにとても頑丈でな。

 ずっと北の方に生息する稀少種なんだが何でこんなところに」


 稀少種か。

 あんなのがうようよしていなくてよかった。


「攻撃が効かないから口のなかに中級魔法を打ち込んだんだけどそこまで効果が見込めなくてさ。

 けど外部攻撃よりはだいぶマシってことで付与強化を重ねがけした魔法を打ち込んで何とかなった感じ」


「口の中に、また無茶なことを……。

 それに魔法を付与強化できるなんて聞いたことないぞ」


 とっさの思いつきだ。

 本当にいちかばちかだったんだなと思い知る。


「そうなの?

 まあそれしか手はなかったから。

 危うく本当に手がなくなりかけたけどね」


 ブラックジョークで笑わそうとしたら笑ったのはゲインだけでアイリは本気で怒り、少女は泣きそうになっていた。


「ええと、村の警備はとうなってるの?」


 あわてて話題を変える俺とそれにのっかるゲイン。


「あ、ああ、村の外周の要所要所に見張りを設置してに警戒態勢を敷いてる」


「父さんは行かなくて大丈夫?」


 あの魔狼の強さを思うにこの村じゃあゲイン以外は相手にならないだろう。


「もし同じ種の魔狼が現れた場合は伝令が来ることになってる。

 お前が倒した魔狼の残骸を見たが俺でも対応は難しいからな。

 すでに隣町の冒険者ギルド支部には応援を呼んである」


 アイリはつらい顔をしている。

 まあ子供が重傷を負って帰ってきて、旦那もいざというとき自らその危険に飛び込まなくちゃいけないんだもんな。


「心配するな。

 あれは稀少種だと言っただろう。

 それに特性として群れで動くことを嫌う。

 他にもいる可能性は極めて低いさ」


 ゲインはアイリの肩に手を置き諭す。

 その様子を狐娘はじっと見ている。

 俺に自分の様子を見られていたことに気付いた狐娘はっとしながらもこちらに向き直った。


「カイリさん、助けてくれて本当にありがとうございました」


 そう言ってこちらに深く頭を下げる。


「いや、勝手にやったことだから気にしないで」


「そういうわけにはいきません。

 カイリさんがいなかったら今頃奴隷として売られていたか、もしくは魔獣のお腹の中にいました」


「本当に気にしなくていいよ。

 魔狼との戦闘の援護や下山のときにもこっちが助けられたんだし。

 助けた回数でいえば君の方が多いよ」


「でも、それも私を助けようとしなければ危険な目にも遭わなかったし、そんな大怪我もしなくてすみました。

 せめて何か私に恩返しをさせてください!

 何でもします!」


 何でもと言われてもなあ。

 ふと尻尾に目がいく。

 その視線に気付いた狐娘が尻尾を胸元に抱え顔を真っ赤にしながらも上目遣いでこちらを見てくる。

 これはオッケーということなんだろうか?


「カイリ?」


 アイリの視線が厳しい。

 いや、触りませんよ、 触りませんって。


「お礼とか大丈夫だよ。

 全部含めて俺が勝手にやったことだし」


「そんなわけにはいきません。

 ではせめて怪我が治るまではお世話させてください。」


「けどなあ。

 あ、じゃあ僕の師匠が帰ってきたら色々世話してあげてくれない?

 生活力ない人だからお願いできると助かる」


「わかりました!

 カイリさんとお師匠さまのお世話はまかせてください」


「いや、俺の世話はいいって」


「カイリ、ククルちゃんのお言葉に甘えなさい」


 アイリがククルの援護に入る。

 ってか


「ククル?」


「えっ?

 あ!はい!

 私ククルっていいます!」


「そっか、そういえばお互い自己紹介してなかったね。

 俺はカイリ、ってか知ってるぽいけど周りから聞いた?」


「はい、カイリさんが寝ている間に色々教えてもらいました」


 色々って何か怖いな。

 するとアイリが一つ咳を挟み話を戻す。


「お父さんはしばらく村の中心にある詰め所に寝泊りだから私もその準備とギルとアリスの世話もあるし。

 ククルちゃんがいるととても助かるわ」


「まかせてください!」


 あっ今ので俺に選択権なくなったな。


「あとククルちゃんはこれからどこで寝泊りするの?」


「故郷に帰るまでは駐屯所の空いてる仮眠室を貸してもらえることになりました」


「そう、ならこのままウチにいらっしゃいな。

 そんな汗臭そうなところにこんな可愛い子を寝泊りさせるなんてかわいそうよ」


「いえ、そこまで面倒をおかけするわけには」


「ウチにいてくれたほうがカイリのことお任せしやすいし、お願い?」


 うまいな。

 こう言えばククルも断らないだろう。


「わかりました。

 こちらこそよろしくお願いします」


 こうしてウチでククルが暮らすようになった。





挿絵(By みてみん)

ケモミミ……いいですよねぇ

ケモミミ好きな人には“しゅがお”さんの『ケモミミキャラクターデザインブック』おすすめです。

特に威嚇するネコが可愛かった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] キツネ耳少女が気になり読んでみました。 むずかしいところもありましたが、キツネ耳少女のククルちゃん可愛いです!キツネ耳としっぽの気持ち良さも伝わってきました。 やっぱりキツネ耳少女や猫耳少…
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