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黒龍殺しの付与術師  作者: しきな かいどう
少年期
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第27話 才能の限界

 ソフィアと修行を始め一年が経ち、俺は9歳になった。

 火·水·風·土さらに光·闇まですべての属性の初級と中級を習得しソフィアをおどろかせた。

 しかし、思わぬことにニヶ月前から上級魔法を何一つ習得できなかった。

 最初は属性の相性のせいと考え、ソフィアは俺に全ての属性の上級に試させた。


「どうやら僕には無理みたいですね」


「そんなことない!

 きっとあたしの教え方が間違ってるんだよ。

 だからカイリはきっと出来る!」


 ムキになってソフィアが俺の言葉を否定する。


「師匠、以前無詠唱を説明したとき、努力の問題じゃないって言ってましたよね。

 そして魔法自体が才能によるところが大きいとも。

 上級魔法ってそんな努力すれば誰でも出来るものなんですか?」


「っ、でも君は今まで異常な速さで魔法を習得してきた!

 だからこれ以上の魔法が習得できないなんてことは――」


「異常だったからこそ不思議じゃないんじゃないですか?

 武術面では最近、組み手で父とようやく良い勝負出来るようになりましたし、人間族の能力値的に魔法は頭打ちなんだと思います。

  何せまったく発動の兆しがないんですからそういうことですよ」


「まだ早いよ!

 このまま修行を重ねたり、魔物と戦って経験を積めば」


「それで得られるのは魔法習得でなくて魔力の増加ですよね」


「でも君なら私よりも上に」


「俺、師匠よりも上手くなれるとは思ってませんでしたよ。

 無詠唱も未だに構えが必要ですし」


 ソフィアの言われた通り構えなしで無詠唱を特訓したところ狙い通りの場所に魔法が当たらなかった。

 それどころか()()()()()()()()こともあった。


「私、王都に戻る」


「不甲斐ない弟子ですみません」


「違う!ババアにあって方法を聞いてくる!」


 ソフィアはポケットから魔石をとり出すと空に向け投げ、大きく目を見開く。

 すると周囲に風が巻き上がり、ソフィアの体が浮かび上がった。

 精霊召喚術だ。

 肉眼では見えないが精霊がソフィアを乗せて飛んでいるのだ。


「3日、いえ2日で戻るから!」


 そう言い残すと王都へ向かって飛び、あっという間に見えなくなった。


「“あれ”を越えるとか、 あの人自分のスペックわかって言ってんのかな?」




 ~ソフィア視点~


 納得がいかない。

 なんであれだけの成長速度をもって、無詠唱まで出来るあの子が中級止まりなのか。

 納得いかない。

 なんであんなに一生懸命修行していたのにあっさり諦めてしまうのか。

 納得いかない。

 なんで本人が一番つらいはずなのにあっさりと笑っていられるのか。


 苛立ちを隠しもせず導師クッカの家に突撃する。

 勢い余ってドアを突き破ってしまうが構わない。

 そのまま執務室へ押し掛けると家主は眉を寄せて机の前に座っていた。


「お前は扉の開けかたも録に出来んほどものぐさになったのか」


 この人が私の師匠クッカだ。


「ばあさん、相談がある。

 私の弟子が行き詰まった。

 いや、違うあたしの教え方が悪いせいで支障がでた」


「ほう、お前が自身より上にいくとずいぶんと買っていた坊主か。

 まだ一年やそこらだろ。

 それでつまづくとは買いかぶりだったんだろ。

 で、何につまづいた?」


 あたしは導師の言いぐさにかっとなるも堪える。

 今目の前にいる者は導師と呼ばれ、数多くの魔法師を育ててきた人物だ。

 彼女の魔法に関する知識量は王国で並ぶものがいない。

 カイリのために何か持ち帰らないと。


「上級魔法」


「ちょっとまて、初級はどうした?」


「初級も中級もニヶ月前に全属性習得した」


「一年でか?

 なるほど……それは確かにお前に並ぶ才をもっている。

 そんなものがなぜ上級でつまずく?」


「わからない。

 わからないからここに来た」


「本人は何て言ってるんだ?」


「自分には無理みたいだと、努力の問題じゃないと」


 私はその言葉を思いだしまた憤りを覚える。

 なんで、と。

 私の言葉を聞いた導師はそうかいと小さく呟くと私を見据えた。


「では、その通りなんだろ」


「なに?」


「本人の言う通り才能の限界なんだろと言っている」


「違う!

 だってあの子はこれだけの成長速度と無詠唱の才能だってある!

 それを考えればっ」


「ソフィア、 あんたはまだ才能の限界を感じたことはあるまい?

 あたしは感じたよ。

 若い頃に聖級を習得し、今代の初の神級使いになると周囲から期待され、自分自身でも成し遂げられるのは己しかいないと思っていた。

 だが、無理だった。

 何度も何度も挑戦し実感した。

 無理だと。

 技能でも、知識でも、経験でも、運でもない。

 才能の限界だと。

 わかるんだよ。

 己で。

 魔法ってのはそういうもんだ」


「違う!

 あの子はそんなんじゃない!

 何か、何かないの?」


 導師はゆっくりとかぶりを振った。


「ない」


「そんな言葉を聞きに来たんじゃ……っ」


 私はこの事をあの子に伝えなくちゃいけないの?

 いや、あの子は自分でわかってるんだ。

 あれだけの魔力操作と感知能力の才で自分の限界を理解してしまったのだろう。

 わかっていないのは、私の方だったのか。


「ソフィア、そのカイリって子は学院に、魔法科に入るのかい?」


「わからない、けどあの子は私に気を使って入らないと思う」


 学院は5年制だ。

 最初の3年間に中級魔法を4属性習得しないと4年生に進級出来ない。

 カイリは既にこの条件をクリアしている。

 けれども卒業するには上級魔法を二つ必要になる。

 この上級魔法二つが難しい。

 卒業出来れば魔法師団にへの入団試験資格を得られるが、卒業出来なければ冒険者や魔法研究ギルドに入るものが多い。

 王立学院において騎士科と違い魔法科の進学が軍以外の者が多い要因がここにある。

 導師の話を信じるならば、カイリには卒業は出来ないということだ。

 中級を4属性というだけで通常ではすごいことなのだ。

 カイリはそれを全属性の中級が使える。

 それをあの歳でだ。

 規格外と言えるだろう。

 だが、それまでだ。

 いくら中級を使えても上級が出来なければ学院は卒業出来ないし、魔法師として一人前と見られても“一流”とは認められることはない。

 いくら稀少な無詠唱が出来ようとも。

 あの子は私の面子を気にするだろう。

 卒業が出来ないとわかっていたら入学しない。


「もし、あんたとその弟子が望むなら……」


「いい」


「……そうかい」


 導師は学院に顔が利く。

 コネで卒業なんてあの子は望まない。


「弟子はあのゲインの子供なんだろう。

 武術の方はどうなんだい?」


「そっちは、っ」


 “は”という言い方はしたくなかった。


「……順調みたい」


「そうかい。

 ゲインのかみさんも人間族だろ。

 純潔の人間の子で全属性中級魔法が使えて、しかも武術も未だ発展途上。

 十分だろう?

 しかも無詠唱。

 お釣りがくるさね」


「でも!」


「全属性中級ってだけでも冒険者としてならば引く手数多なんだ。

 本人が良いと言っているのならそれ以上口を出すべきじゃない。

 それに上級魔法でなくても魔力の“質”が上がれば下位の魔法でも威力は上がるんだ。

 魔法師としての生き方や価値は別に上位魔法の修得だけじゃない」


 悔しいがその通りだと思ってしまった。

 けれどこれでいいのか? 

 カイリの修行量ははっきり言って異常だ。

 魔法の修行は魔力だけでなく神経を磨り減らすもの。

 失敗をすれば大怪我につながるモノも多い。

 あの子はそれを弱音も吐かずにやりきる。

 それどころか、翌日会うと更に上達しているのだから家でも魔力感知や操作の基礎練をしているのだろう。

 そしてそれとは別にゲインとの武術訓練、さらに“あの猟師”の指導も受けているという。

 本人はあまりにもけろっとしているのでつい忘れてしまうが何となくで出来るものではけっしてないし、そんな考えでは一つもこなせないものばかりだ。

 私は 以前なんでそんなに頑張るのか聞いたとき、『頑張れるときに頑張っているだけ』と言っていた。

 それは理由であって“目的”ではない。 

 あの子は何のために頑張っていたのだろう。

 私は師匠なのにそんなことも知らなかった。


「師匠失格だ」


「落ち込んでいるところ悪いんだが、一つあんたに言っとかなきゃいけないことがある。

 “北”で兆しがあった」


 どうやら今日は良いことは何もかも聞けないらしい。

 そればかりかすぐには帰れそうにない。

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