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黒龍殺しの付与術師  作者: しきな かいどう
少年期
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第18話 カサブタ

 3才を越えたときに体の変化に一つ気付いた。

 それは長い時間の睡眠が取れなくなっていたこと。

 この世界の身体のメカニズムはそういうものなのかと思ったがゲインやアイリにそのような様子はなかった。

 大体いつも90分程で目が覚めてしまう。


 前世でもストレス性の不眠症に悩まされた。

 その時は自分の叫び声やベッドを殴る衝撃で目が覚めた。

 けど一番目覚めが悪いのは、見た夢を覚えていたときだ。

 より最悪な内容は裏切られたものよりも、夢の中で何もなく普通に仲間だと思っていた者たちとしゃべっていたときだ。

 夢の中の自分の能天気さ、それにその光景を夢で見ることの意味を考えて吐き気がした。

 そんな日は一日気分が沈んだ。


 転生前の不眠症と違う点は、睡眠時間が短くても体が怠くならないということ。

 また、夢を見る頻度は確実に減ったこと。

 その代わり暗い部屋で考える時間が増えた。

 この世界でどう生きていくか。

 どうしたいか。

 どうしなければいけないのか。

 どうやって終わりたいのか。

 ゲインとの特訓が始まるまでの3年間毎夜独りで考え続けた。

 そしてゲインとの特訓が始まったころには別に部屋を貰えたことを切っ掛けに、夜中目が覚めては家を抜け出し訓練をしていた。

 訓練をしていると日が登りだし、井戸水を汲みに行き、何気ない顔でゲインと稽古をする。

 午前中は山に弓と狩りに、昼からはソフィアとの魔法の修行を日が暮れるまで続けた。

 家に帰ると歩きながらでも魔力感知の訓練をした。




 ソフィアとの修行を続けて一ヶ月が経ち、火属性の初級を習得していた。

 帰り道、ソフィアは鼻歌を唄っていた。


「いやぁ一ヶ月で一つの属性の初級を習得とか聞いたことないよ。

 普通は半年以上はかかるから」


「けど師匠も一ヶ月で覚えたんですよね。

 しかも僕より幼いときに」


「まあ、そうだけど私は一月ちょっとかかったし、私以外でははじめて聞いたよ。

 そんなわけで順調だから明日は休みにしましょう」


「はい?」


「だから明日は休み。

 のんびりしましょう。

 なんだったらこの山でピクニックでもする?」


「分かりました」


「うん、じゃあシウバさんに昼食用のパンとオカズ注文しておくよ。

 あの人顔は怖いけど料理はなかなか繊細な味出してくるのよね」


「あ、いえ、僕は大丈夫ですので。

 師匠の都合も考えず毎日修行に付き合ってもらってすみませんでした」


「ん? カイリは明日何かあるの?」


「・・・・・」


「武芸の訓練?」


「・・・・・」


「当たりかな。

 前から思っていたけど君は何故そんなに頑張るの?」


 以前ゲインにも言われた言葉だった。


「今その時に頑張れることを頑張っているだけですよ」


「“今”じゃなくちゃダメなの?」


「ダメです」


 “今”は明日には無くなっているかもしれない。


 もしくは無くなっていなくても変わっているかもしれない。 


「ねぇ、君の今が何を指しているのか私にはわからないけど、少なくとも明日、明後日に私と君の“今”がなくなることはないよ」


「・・・・・」


「まあ私の師匠から言わせたらお前が言うなって言われるだろうけど、君の魔法習得は非常識なくらい順調だし、それに私は君を“弟子”にしたんだよ。

 急にやめたなんて言わない。

 だからもっとゆっくりでいいんだよ?

 君の存在を背負うし導くよ。

 他の師弟関係は知らないけど私にとって師弟はそういうもの。

 だから、ね?

 大丈夫だよ」


 そう言って左手を伸ばし、こちらの右手を握る。


「帰ろう」


 ソフィアは子供のように繋いだ手をぶんぶん振りながら歩く。

 また鼻歌を唄い出した。


 気付いた時には雨が振ってきた。

 急な天気雨だ。


 こんなことで、と自分でも思う。


 前世では誰も触れなかった手を握ってくれた。


 たとえ理由など理解してなくても大丈夫だよと言ってくれた。


 あのとき、繋いで欲しかった。


 何でもないただの一言が欲しかった。


 けど、なかった。


 何もなかったのだ。


 色んなものを諦めた。


 時間が経って思い出すことは減った。


 けど思い出すのだ。


 鋭い痛みではなくなった。


 でも鈍い痛みでうずくまりたくなるんだ。


 消えない厚いカサブタから血が滲む。


 滲んだ血が誰にも気付かれずに垂れてくるんだ。


 人によってはこの程度の痛みでという輩がいるかもしれない。


 わかるよという奴がいるかもしれない。


 勘違いすんな。


 別に知って欲しくも、わかって欲しくもない。


 これは俺の痛みだ。


 お前らなんかと共有するつもりはない。


 俺は彼女の右手に、一言に救われたんじゃない。


 嬉しかったのだ。


 そう


 嬉しかったんだ。



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