第15話 ポンコツ師匠
「それじゃあ今日はひとまず帰ろうか」
「はい」
ソフィアの弟子になる返事をしたときにはもう日が落ち、辺りは暗くなっていた。
「暗いけど降りれる?」
「僕は大丈夫ですけど師匠こそ降りれるんですか?」
この場所は山の中でも崖の上になり、普通の身体能力では登り降りはかなり難しい。
ソフィアは女性にしては背が高く細身だが、雰囲気的に運動が出来そうには見えない。
「ふふん。
弟子よ、師匠を舐めてもらっちゃあ困るよ」
あ、師匠って言われたのが嬉しかったんだなこの人。
ソフィアはちょっと得意気に鼻を鳴らすと、目を見開く。
すると足元からツルが伸びだしていく。
それも幅が一畳程に太くなり階段のように段差を作りながら下に向かっていく。
「これが魔法ですか」
「そ、便利でしょ」
感心しながら伸びていくツルを見ていると、ソフィアはどうだと言わんばかりの顔でこちらを見ながら足を踏み出した。
その瞬間、
ツルッ
足を滑らせ、頭から滑り落ちていく様はまるでウルトラ○ンの飛び立つ姿を彷彿とさせる。
ウォータースライダーでやっちゃいけないやつだと思いながら眺めていると
「おほおぉぉおぉぉ!?!」
女性にあるまじき悲鳴をあげながら姿が小さくなっていく。
すると地面に到達したツルがL字から曲線を描き滑り台のように変形する。
どうやら無事にたどり、いや滑り着いたようだ。
俺は崖の斜面を確認する。
今夜は月が出て明るいので大丈夫だろう。
崖の出っ張ってるところを足場にしてぱっぱと降りる。
ソフィアに怪我はないようだったが立ち上がって歩くときに小鹿のようになっていた。
師弟関係今からでも解消出来るかなと本気で考える。
ソフィアが気まずさをまぎらわす為に話を振ってきた。
「どう? 魔法を使いこなせばとっさのトラブルでも回避出来るのよ!」
「トラブルの元も魔法でしたけどね」
「・・・いやぁツルだけにつるっと滑っちゃったね」
「ギャグも滑ってますけどね」
「うぁぅぅ、弟子が冷たいよー!
弟子がいじめるー!」
いい大人が子供にいじられて泣き出した。
「ああ、はいはい、泣き止んでください。
家まで送りますから」
完全に大人と子供が逆転していた。
「うぅぅ、・・・家?」
「はい、家です。」
「・・・・・」
「・・・・・え?」
「私流れ者だから。
あてが外れちゃって・・・ない。
宿ってどこにあるの?」
「・・・送ります」
「ありがとう!」
「ソフィアさん、弟子の件なんてすけd」
「口約束も約束だよ!
師弟の絆は血よりも濃い!」
マフィアかよ。
「まだ修行してないでしょ!
修行をしてから決めましょう!?
ね!?」
あまりの必死さに根負けして明日の昼から修行の約束を受けてしまう。
取り敢えず、ソフィアを宿に送り届けてから自宅に帰る。
もう夕食の時間も過ぎており、家に着くとアイリに遅いと叱られた。
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