第12話 猟師
山に入るとまず世話になっている猟師に会いに行く。
毎日のように山に通いはじめて一年になる。
最初の頃は、
「危ないから駄目よ」
とアイリに引き留められてのだが、
「カイリならこの辺の山なら問題ない。
武器を忘れなければ狼や熊程度なら倒せるさ。」
とゲインのお墨付きを貰ってから自由にさせてもらっている。
いや、狼や熊って……。
身体能力が上がっているからといって盛りすぎだろう。
当時7歳児だ。
さすがに冗談が過ぎる
山の頂上付近に丸太小屋があり、ノックをするも返事なし。
「失礼しまーす」
と言ってドアを開くと中には誰もいない。
「おじいさーん」
やはり返事はない。
いや、そもそも呼び掛けて返事をする人ではないのだが。
小屋の中は簡素なテーブルと椅子、棚に酒ビン、壁に干し肉がかかってるくらいであとは何もない。
いつもと違うところは弓がないということ。
どうやら家主は狩りに出掛けているらしい。
以前も無人で無施錠だった際に無用心ですよと伝えたところ「ふん、何がある」と短い返事を貰った。
『別に盗まれて困るものなどありゃせん』ということだろう。
家主は言葉数が少なく、さらに無愛想の為、はじめはコミュニケーションに難儀した。
しかし、無愛想なだけで実は親切な人だとわかるとなんとなく言いたいこともわかってくる。
まあ、こちらが間違った解釈すると眉間に皺の寄った困った顔(はじめは怒った顔かと思った)をするので判別の手段にもなったのだが。
猟師のおじいさんは一人暮らしの長い老人なのだが、背筋がぴっとして姿勢がよく、なおかつ弓の名手だった。
薬草採取のときに、弓では通常射えない距離から鳥を狩った瞬間に偶然居合わせ、教授を願い出た。
最初は無視されたが、何度も通っていたらある日無言で弓を渡された。
教えてくれるのかと思って喜んでいたら、おじいさんがもう一つの弓を持って無言で歩いて外にでてしまう。
急いで後を逐うとおじいさんが突然足を止めた。
するとゆっくりと弓を弾き始めた。
そして矢を離す。
その一連の動作は、弓について何も知らない俺にも洗練されて見えた。
ボトッ
次の瞬間には、枝にとまった鳥の首に矢が刺さっており地面に落ちた。
おじいさんは鳥に近づくと血抜きをして腰に垂らした袋に詰めた。
こちらを無言で見やり、また歩き出す。
5分くらい歩き、急に少し先の木を指差す。
その先にはさっきと同じ模様の鳥がいた。
『やってみろ』という意味だろう。
おじいさんが弓を弾く姿を思い出して真似するが、いざ矢を離すときに鳥に気付かれ逃げられてしまう。
おじいさんはそれを見て一言、
「もう教えた」
と残し帰ってしまった。
(おおう、まじか。)
だが自分の手元には弓がある。
絶対見返す。
それから三日間朝から晩まで山に入り、同じ鳥を見つけては弓を弾いた。
三日目の夕方にやっとしとめて、小屋のおじいさんに鳥を見せると、
「……明日来い」
と一言言ってドア閉められた。
褒めるとかはないが認めてはもらえたようだ。
鳥を担いで山のふもとに降りると町中に住む猟師に出くわした。
「こら、子供がこんな時間まで山で遊んでるもんじゃねぇべ」
「ごめんなさい」
「ん、その鳥どうしたんだ?」
「弓で射った」
「いやいや、冗談いうな。
この鳥はな、山奥にしか生息しない上に警戒心が強くて猟師でもなかなか狩れるような鳥じゃねぇべ」
おいおい、あのじいさんそんなのを狩れって言ったのかよ。
初めから教える気なかったのか、これくらい出来なきゃ教えないというのか。
とにかく次の日からおじいさんに弓を教えてもらえるようになった。
「おじいさーん」
いないんじゃ仕方ないな。
とりあえず薬草採取を済ませてしまおう。
おじいさんにいくつか教えてもらった穴場の一つを目指す。
そこは薬草の他にも花がたくさん咲いており、以前母や妹、レイラにいくつか持ち帰ったら喜んでいた。
特にレイラなんかはよっぽど花が気に入ったのか顔を赤く興奮させ喜んでいた。
しばらく歩き到着すると先客が一人。
見知らぬ女性が仰向けになって寝ていた。
本当は後半の人物をピックアップするつもりだったのですが、老人をピックアップしていました。
おかしい・・・もっと女の子を書くはずなのに、気付くとおっさんやおじいさんばかりに(・・;)