タイトル未定2024/08/16 20:42
「ほれ!引き付けて流せ!」
掛け声に合わせ、カイリが宙に跳ぶ。
結った銀のおさげ髪が追従して舞うと、先ほどまでいた空間に巨体が駆け抜けた。
巨体の主はガラディーク。体長は10メートルを超え、その巨体に見合った大きな角を持つヘラジカのような容姿の魔獣だ。
だがヘラジカと違うのはその突破力。
複数の大木をなぎ倒しながらも平然と進む。
その巨体を横から闘気の弾丸が襲う。着弾と同時に爆発が起こり、煙が舞う。視界が開けるがそこには首をブルブルっと振り、ダメージが見られないガラディークと舌打ちをするバゼルがいた。
「なにやっとんじゃ!頭角でしっかり防がれおって!闘気の無駄じゃ無駄じゃ!はぁ、近い頃の若いもんは。口ばっかで腰が引けていかん!げんこつで当たらんか!遠いところからチョロチョロと攻撃とか、なっさけないのう!」
先ほどから大声で指示(野次?)するのはニックスランド。その横にはルークと聖女が立って2人の戦いを観ている。
「カイリ、お主もじゃ!もっと引き付けんか!ビビりおってからにこのヘタレが!なんならそのまま角持って正面から受けとんか!ほれ!ぐっと角握るんじゃ!ほれ!」
カイリは「ほれっ!ほれっ!ほれっ!?」と手をグッパーする老人に何か言いた気に一瞬目をくれるが、一息吐くとすぐガラディークに向き直る。
「はぁ~最近の若いもんはなっとらんのぉ!この程度の実力で王国が結成した討伐隊、その帯同組とはいえ参加できるんじゃからのぉ。そんなんじゃ荷物待ちすらままならんて。もう帰った方がええんじゃないかぁ?」
バゼルは相当苛ついているのか犬歯剥き出しで歯軋りをしている。普段なら怒鳴り返しているところ、ガラディークを前にそんな余裕はない。刺激して攻撃再開の合図になられては堪らない。
「煽りますねえ」
それを笑って見ているのはルーク、そして「あらあら大きい鹿さんですね」と緊張感もなく感想を述べるのは聖女だ。
「2人がかりでまだ倒せんのか?儂が同じ年の頃は1人で倒していたぞ」
「それはしょうがないでしょう。カイリ君は慣れない盾役、そのぎこちなさで上手く攻撃出来ていないバゼル君。そもそもなんでカイリ君が盾役なんですか?バゼル君の方が腕力は強いでしょうに」
ニックスランドは2人を鍛えるにあたって盾役と攻撃役の分担をさせた。
「あのバゼルとかいう小僧に盾役は向いとらん。獲物を仕留めることに集中しすぎて周囲の動きを見ていないからの。なら、獲物と距離を置いてカイリの動きに合わせることを考えさせる。まずはそれからじゃ」
「カイリ様ではあの突進は止められないのでは?」
聖女は当然の疑問を投げる。
「別に攻撃を受け止めるだけが盾役ではない。意識を向けさせて躱しつつも密着し続けることで攻撃の機会を作る、これも1つの盾役じゃて」
「意外と考えているんですね(さっきは正面から受け止めろとか言っていたのに…)」
「意外とはなんしじゃ!」
「うぉっと、槌を振り回さないでくださいよ。それシャレにならないんですから」
「涼しげに避けておいて何を言うか。カイリ!今のコヤツのようにギリギリで避けるんじゃ!聞いてるんか!?こっち見んか!ほい!聞いとるんか!」
カイリが嫌そうにニックスランドを見たところに、すかさずガラディークが突進をかける。
「何をよそ見してるんじゃ!」
「あっちを見たりこっちを見たり盾役というのは大変なんですね」
天然聖女が感心する。
いつも怠惰妖精人にツッコミを入れているカイリにも今回は聖女の感想を訂正する余裕はない。
冷や汗は止まらず、ガラディークの攻撃を避け続ける。一撃でもまともに喰らえば致命傷だ。
カイリもただ避けてばかりではなく木や岩を背にして躱すことで、攻撃を鈍らそうとするも角が岩を軽々と砕いて隙がない。
バゼルも攻撃に加わろうとするが、ガラディークの攻撃を必死に躱すカイリが邪魔でやりづらい。いっそのこと気爆の余波を考えずにカイリごと、とも思ったが敵が怯まず攻撃してきたらカイリの致命的な隙になる。
考え始めたバゼルの動きは明らかにいつもの精彩を欠いていた。
ニックスランドはそんな2人の様子を見て満足そうに頷いていた。
(うわぁ、若者が苦労してるのを見てめっちゃ楽しそうにしてるよこの人。本当にどこの老人もそういうの好きだよなぁ)
ルークは苦労をするようにに差し向けられた若者2人を見る。
(はたして意図に気付くかな?)
苛立つバゼルとは裏腹にカイリは滝のような汗を流しながらも徐々に気持ちが落ち着いてきた。
(いつもの俺とバゼルなら無傷とはいかないまでも恐らくこの魔物を倒せていただろう。盾役を与えられて連携がうまくいかなくなった。正直、攻撃役2人の方が動きやすかった…)
「っ!観てて!」
カイリは片手でバゼルを制すると、ガラディークに向き合い初級魔法の“火球”を撃ち込む。
もちろんそんな攻撃が効くわけもない。
再びガラディークの突進が始まる。
止められ訝しむバゼルと、頷くルーク、小さく手を叩きながら応援する聖女。
そして「ほれっ!そこじゃ!ほれっ!?」と手をグッパーする老人。
カイリはなるべく老人を視界に入れないようにしながら敵に意識を集中させていく。




