カイリと鍛冶師
「無理じゃな」
ドワーフの老人は一言発すると背を向ける。
カンッ カンッ カンッ
鎚を振り上げ鉄を叩く小気味良い音が繰り返し鍛冶工房に響く。
「“ニックスランド”さんなら直せますよね」
ルークはつれなく返された返事にも関わらず笑顔のままその背に声を掛けるが、「ふん」とニックスランドは振り返らずに鎚を降り続ける。
「やはりここまで壊れてしまうと無理なのでしょうか?」
今度はカイリが尋ねるとニックスランドは首だけをわずかに振り返りこちらを一瞥する。
「なんじゃ、そこの槍は“聖剣の”じゃなく、グータラエルフの弟子、お前さんのか?」
「はい」
「ワシはな、武器を粗末に扱う奴は嫌いじゃ」
カイリはボロボロになった槍を見て言葉を返せない。
「ふん……付与魔法を掛けたんじゃろ」
「わかるんですか」
「付与魔法を失敗した時の壊れ方に似とる。まあここまで酷いのは初めて見たがの」
カイリは失敗という単語に反論しようと思ったが、やめた。修行中にただの属性付与ならば武器が壊れたことはない。今回は初めて試みた属性付与の“重ね掛け”で壊れたのだ。付与自体に失敗したという感覚はない、が実際に武器が壊れたのだ。まだ自分でもよく分かっていない魔法だ。
そんな魔法に頼らざる得ないほど、あの時のカイリには手がなかった。
「ニックスランドさん、そう言わずに。この槍はカイリ君の親から贈られたものなんですよ。大事にしていても冒険をしていれば武器なんていずれは壊れるものでしょう」
「黙れ“聖剣の”、いや“冒険バカ”が!武器を粗末に扱う奴は嫌いじゃがワシはオヌシも嫌いじゃ!」
「なんでですか?昔僕に剣を打ってくれた仲じゃないですか」
「オヌシ、言っておったらしいの。“鍛冶師の打った武具よりもダンジョンで手に入れた武具の方が優れてる”と」
「あれ、言ったかな」
ルークはヤバいっ、と一瞬目をそらすが全く誤魔化せていない。
「オヌシが今、腰に提げてる剣は、誰が打ったモノじゃ」
「これですか?これは少し前に西の孤島で新しく発見されたダンジョンで手に入れた剣です!すごいんですよ!Sランクダンジョンの魔素で変質したダンジョンウェポンで、この剣自体にスキルがーー」
「えーい五月蝿い!そんな事まで聞いとらん!でっ!ワシの剣はどうした!?」
「あの剣は売りましたよ?その時のダンジョン攻略費用が思いのほか嵩んでしまって、手に入れた武具は売らずに手元に置いておきたかったので」
えへっと苦笑しながらもなぜか満足気なルーク。
「かーっ!ぺっぺっ!ワシが造った剣を売ったじゃと!?知っておるよな!ワシは依頼では武器を打ったんと」
「ええ、もちろん知ってますよ。お金じゃなくてニックスランドさんが打ちたいと思った者にしか剣を打たないんですよね。いやぁ、大陸一と言われる鍛冶師に剣を打ってもらえるなんて光栄ですよ!」
「その剣を、なんで、普通に、売っとるんじゃと言うとるんじゃ!」
息を切らしながらツッコミを入れるニックスランドだがルークは頭に?を浮かべていた。
「ん?それは冒険の費用の補填に充てるためにってさっき言ったじゃないですか。もしかして物忘れ激しくなってます?……あっ!そうだ!もう一度打ってくれませんか?ニックスランドさんの武具は市場になかなか出回らないんで買った時よりもいい値で売れたんですよ!もう一度売れば今度は帝国領のダンジョンの遠征費用にあてられます」
「んぬぬぬっ、この冒険バカがぁ!転売目的の者に売るわけなかろうが!そもそもワシがオヌシに剣を打ったのは代名詞でもある“聖剣”を見るのが条件じゃ!もう打たん!」
「聖剣ならもう一度見せますよ?」
「魔法剣の最上とはどのようなものか一度見ておきたかっただけじゃ!そもそも聖剣と名付けて起きながらあんなもん“剣”ではない!“魔法剣”はそもそも剣を名乗るな!」
「魔法剣という名称は僕が名付けた訳じゃないですし、なんなら聖剣と言い始めたのも僕ではないんですよ」
「うるさい!それにこの槍じゃが、確かにワシなら直せないこともない」
「それならーー」
「が、一度壊れたら耐久は元のモノよりもどうしても下回る。そんなモノを直してどうする?一度壊れたモノは完璧には直らん。人生と一緒じゃ。元に戻ったように、直ったように見えても見えないところで綻びは生じているもんじゃ」
「でもニックスランドさんの言う武器を大切に扱うことにもなるんじゃ?」
「一度壊れた武器に、自分の、仲間の命を預けるのか?……それと、武器を大切にせんオヌシが言うな!ぺっぺっ!」
「そうですね。それに固執して怪我したり命を落とす方が父も望んでないでしょうから、諦めます」
カイリはご迷惑をお掛けしましたと深く頭を下げる。
さすがに落ち込んでいる筈の子供が頭を下げている姿に気まずさを覚えたのかニックスランドは別の提案を述べる。
「ん、んまあ打ち直すことはせんが、使える部位をを素材の一つとして買い取ってやってもいいぞ。新しい武器を買う足しにすればいい」
カイリは少し考え、首を横に振った。
「やめておきます。短い間ですが命を預けた相棒みたいなものですから、壊れたら即用済みというのは、少し……申し訳ないというか」
「ふむ、まあな。どっかの誰かと違い武器に対する姿勢は悪くないの」
そう言ってルークを軽く睨むがニックスランドの頭には一つの疑問が浮かんだ。
「この槍がここまで壊れたのはなんでじゃ?」
「ニックスランドさんの予想通り属性付与魔法を使用したら壊れました。ただ、魔法自体は失敗していなかった、と思うのですが……」
「ちゃんと属性は付与されていたと」
「はい、今までも属性を付与したときも何ともありませんでしたが、今回初めて“重ね掛け”をしたのが原因かと」
「付与魔法の“重ね掛け”か。遠征隊の連中に聞いていたが初めて聞くスキルじゃの。一度見てみたいんじゃが、可能か?無理にとは言わん」
今は遠征の仲間だが、冒険者の中には、特に魔法師は手の内を晒すことを嫌がる者が多い。
「はい、この属性付与の重ね掛けはまだソフィアにも見せてはいないのですが、冒険者であり鍛冶師のニックスランドさんの視点から見てもらえれば原因が何か分かるかもしれません」
「よし、なら場所を変えるぞ。少し外で待っておれ。ワシはコイツを仕上げてしまう」
カイリは工房から出ようと歩き出すがルークは足を止めたままニックスランドの手元を見ている。
「ちなみに今打っている剣は誰かに渡すものですか?」
「えーいっ!転売するものには売らん!いいからさっさと出て行かんか!」
鍛冶工房の裏の空き地に移りしばらくするとニックスランドが汗を拭いながらやって来た。
「では早速見せてくれるか」
カイリは頷きマジックバックから投擲用ナイフを取り出す。
「属性付与・炎」
「二重付与」
カイリの右手に持つナイフの刃がほんのり赤い色を纏ったと思ったら続く言葉と共に真っ赤に光出す。
「カイリ君」
ルークは近くにあった竈門用の薪をカイリに向かって投げる。
それを下から切り上げると薪の切れ目から一気に炎が吹き出しあっという間に炭に変わった。
「なるほど。付与魔法の重ねがけか。確かに普通の属性付与武器の威力ではないのぅ」
ニックスランドは、まだ熱い筈の炭木をひょいっと拾い上げマジマジと見る。
「だが、それでは実戦には耐えられんじゃろ」
カイリの持つナイフは刃が溶けて歪んでしまっていた。
「駄目ですね。マレプランテの時は槍を投擲して手元から離したのが原因なのかと思いましたが、どうやら違うようです……」
「そのナイフは何で出来ておる?」
「鋼?ですかね」
カイリはマジックバックから同じナイフを取り出し、壊れてしまったものと合わせて2つのナイフをニックスランドに渡す。
それを軽く一瞥してニックスランドは“ふむ”と頷くとナイフの刃先をトントンと指で叩く。
「普通の素材じゃな」
「普通、ですか?」
「魔石や特殊な鉱石、魔物の素材が使われているモノではないということじゃな」
カイリは首をかしげる。
「今言った素材を使えば武器に様々な性能を持たせる事が出来る。とても硬くしたり、大きさとは比較にならない程重くしたり、軽くしたり、極めつけは風を起こしたり、炎を出したり」
「それって魔剣と言われるモノですか?」
「まあ、魔剣と言ってもピンキリじゃがな。それで言えるのは造るには希少な素材と高い技術が必要になるということじゃ。それと思い出したことが一つ」
ニックスランドは歪んだ刃のナイフを目の前に掲げる。
「付与魔法失敗に似ていると言ったがここまでこうはならん。どちらかというと魔剣製造を失敗したときのモノにそっくりじゃ」
「てことはカイリ君は付与魔法で魔剣を作ったってことですか?すごいじゃないかカイリくん!」
「魔剣と言えるかどうかはわからん。じゃが、カイリと言ったか。嬢ちゃん、今のままじゃその魔法は高い攻撃力と引き換えに武器を損失する。戦闘中に武器を失くすなど悪手もいいところじゃ。じゃが方法がないでもない。協力してやろうか?」
ニックスランドの思わぬ申し出に驚くカイリ。
「えっ!いいんですか?」
「ああ、魔剣は鍛冶師の中でも一握りの者にしか打てん。ワシが打つ方法と明らかに違う手法で魔剣らしきモノが一瞬とはいえ出来た。面白い。うむ、面白い。うむ、久々に楽しくなってきたわい!」
読んでいただけてありがとうございます。
今回で100回目の投稿になります!
……がなんでじじいメインの話を書いているんだろうとキーボードを打ちながら首を傾げていました。
書くのなら女の子を書きたいのに!
なので今後、本筋と少し離れた話も投稿しようと思っています。(もちろん女の子がメインの話を!……多分)
遅筆な本作に付き合っていただきありがとうございます。
今年に入って特に仕事が忙しいという事を言い訳にして投稿間隔が空いていましたが、もう少し間隔を詰められるように、、、出来たらいいなぁと思います。
初めて書く小説がまだ構想の2割も進んでいないことにわたし自身が恐れ慄いています。(最初は短編小説書けば良かった)
拙い作品ですが感想など頂けたらとても喜びますし力になります。
今後とも本作をよろしくお願いします。




