#16 おエド宇宙港の岡っ引きおリン
あの24人との対決から、7か月が経った。
おエドの横に宇宙港が作られ、そこで我々の生活が始まっている。
そこには、おリンが「馬鹿に高い長屋」と呼ぶ高層アパートが建てられ、そこに私は部屋をもらう。もちろん、おリンも一緒に暮らす。
おリンの姿はというと、髪は結わず、最近はストレートヘアーである。が、どういうわけか、白い髪飾りに黒いメイド服を着ている。
なんでも、あの着物姿はここでは刺激的すぎるというので、ここで合う服にしてくれと私が頼んだ結果なのだが、おリンは岡っ引きのように動きやすい服を探していたようだ。
で、ある日、出来たばかりのショッピングモールのある店で「岡っ引きのように動きやすい服をくれ」と言ったら、出てた服らしい。
その結果、「メイド服」となった。確かに、動きやすい服なのかもしれないが……これが、岡っ引きか!?いや、その前におリンよ、こんな服をどこの店で手に入れた!?
ところで彼女は、この街の「自警団」に所属している。私と結婚し、その結果、この街で住むことになり、岡っ引きではなくなってしまった。
「あたいは、なんとしても岡っ引きのようなことをやりたいんだ!何かそう言うものはねえのか!?」
「何かねえかって言ってもなぁ。そういう仕事は警察がやるし……いや、そういえば……」
といって思い出したのは、自警団という組織のことだ。
街の人々が、自主的に街の治安維持のために動くその組織。まさにおリンにはぴったりな組織だ。
とはいえ、ここは地球509の人々が住む街。そうそう犯罪や問題など、起こりようがないから、どれだけ活躍の場があるのか……
などと思っていたら、突然おリンのスマホに知らせが届く。
「何!?公園で不審者が現れただぁ!?分かった!すぐに問い詰めてやらあ!」
まだ3万人程度のこの街でも、細かい案件はあるようだ。メイド服姿で、十手を腰に挿して飛び出していくおリン。それにしても、やはり女一人はおっかない。何かあってはと心配で、平日はともかく、休日の際はおリンについて行く。
で、行ってみると、そいつは女性に声をかけて回る男だった。いわゆる「ナンパ」と言うやつだ。
メイド服姿で、可愛い顔をしたおリンがその男に近づいていく。当然この男、おリンを誘おうとする。
「やあ、君!俺と一緒にさ……」
だが彼は、声をかけた相手を間違えたことに気づくことになる。
「おうおう!てめえか、この辺で女に声をかけて回っている不審者ってえのはよ!」
「へ?」
その容姿からは想像もつかないような話しっぷりに、この男は思わず聞き返す。
「あ、あの……あんた誰!?」
「このおエド宇宙港で唯一の岡っ引き、おリンたぁ、あたいのことだ!おいてめえ、なんだって女に声かけて回ってるんでぃ!?」
「あ、いや、綺麗な人と仲良くしたいなあって思って……」
「馬鹿野郎!そんな理由で声かけて回ってたのか!?んなもん、この街中でやるもんじゃねえだろう!もっと正々堂々と、しかる場所でやりやがれ!」
おリンのもの凄い剣幕に押されて、すごすごと帰っていくナンパ男。この街の住人じゃあ、おリンにかなうやつはそうそういそうにない。
とまあ、この通り普段は粋がるおリンだが、こんなおリンでもショッピングモールのスイーツ店では、頬を抑えてにやにやしながらパフェを食べ、映画館では「魔王」シリーズの勇者の活躍に涙し、そして夜の風呂は私と一緒に入りたがる。
一見そこら辺にいる女子のようで、それでいて甘えん坊で、しかも粋なお江戸っ娘。
あれだけ勢いはあるのに、ベッドの上では甘え気味な我が妻の元岡っ引きのおリン。そんなおリンが、ベッドの中で私の腕に抱きつきながらこういった。
「そういやあ、そろそろじゃないか?」
「何がだ。」
「あの24人だよ。模範囚として、刑期が4か月縮んだと聞いたぞ!」
「ああ、禁錮1年と言う沙汰だったからな、4か月縮んだとなれば、確かにそろそろ出てくるはずだな。」
「さすがに連中も、あんときのおめえの言葉の意味が、分かり始めているだろうな。」
「まあな。私も驚くほど、このおエドは変わったからな。」
宇宙交易が始まり、人々の暮らしの中に豊かな物資が流れ始めた。
と同時に、この地球830の他の国とも結託しなければならなくなった。防衛艦隊の結成のための人材育成、統一政府の設立、他国の同盟成立の補助、などなど、やることは盛りだくさんだ。
そんな大事なことへの決断や行動を、幕府の中央にいる老人どもができるわけがない。だが、やらねばおエドがこの星の中で埋没してしまう。
このため、幕府の中枢にいる老人のほとんどが、隠居してしまった。
あろうことか、18代将軍も隠居する。
そして、29歳の若い19代目将軍イエモチ様の治世になる。
「やあ、サブリエル大尉殿、貴殿に会えるとは光栄だな!」
「い、いえ!こちらこそ光栄です、将軍様!」
「はっはっは!イエモチでいい。それよりもだ、これから我が防衛艦隊の設立にあたり……」
ある立食パーティーで出会った19代将軍は、この調子だった。スマホを使いこなし、ちょんまげはやめて我々風の姿で他の人と接する、野心的で先進的な指導者となっていた。
私が24人にいったことは、正しかった。ただし、私の想像をはるかに超える速度でそれは起きていた。
ところで、私にも大きな変化が訪れていた。
パイロットから「艦長職」となるべく、配置転換されてしまったのだ。
住人との接触に、あの事件解決の功績もあって、この7か月で2階級も昇進してしまった。来年には、少佐となる予定である。
どう考えてもこの星に残留することになるであろう私は、もっとも数が足りないとされる艦長職として育てた方がいいと判断された。おかげで今はパイロットをしていない。
駆逐艦6443号艦で、副長補佐をしている。いずれ副長となり、いずれ艦長にさせられる予定だ。
艦長にされてしまう話が出たきっかけは、あの24人の襲撃事件の作戦立案と、実質的にそこで指揮をとってしまったことが原因なようだ。あの出来事のおかげで、私自身も大きく変わり始めている。
無論、おエドの街の生活にも徐々に我々の文化が入り始めた。スイーツの店や、我々の服がおエドの街にも入り始めている。
電化も進み、長屋でも家電製品を使ううちが出始めた。私が言った通り、庶民の暮らしが大きく変わり始めている。
が、同時に、おエドの文化に我々の方が入り始めている。
茶屋や料亭、そして歌舞伎場は、地球509出身者でごった返しているそうだ。我々にとってはここの文化が珍しくて、おエドの街に押しかけている人が多い。いや、実は一番の人気はあの「湯屋」だそうだが。
おかげでおエドの経済は活性化し、宇宙に共通通貨であるユニバーサルドルを手にする住人が増えた。そのお金を持って、おエドの街の人々がこちらの街のショッピングモールにやってくる。おエドの民も、これまで食べたことのない食べ物や、見たこともない道具や文化に触れ始めている。
1、2年どころではなかった。政治も庶民も、このおエドは猛烈な勢いで変わり始めている。
その中に、あの24人が加わるのは、もうじきのことだ。
「なあ、サブよ。」
「なんだ。」
「今日はもうやらねえのか!?」
「やるってお前、今やったばかりじゃ……やっぱり、おリンは元気だよなぁ。」
「何いってるんでぇ!あたいはどうしても2人欲しいんだよ!一人っ子だったからな、兄弟ってものに、どうしても憧れてるんだよ。でさ、そう言うわけで、おめえには子作りに励んでもらわねえといけねぇんだよ。」
「はぁ!?だからって一日に何度もやることは……」
「何いってやんでぇ!それでもおめえ、おエドの男かよ!?」
いや、おエドの男では……もはやないとは言い切れないな。ここだっておエドの一部。今は確かに、おエドの男だ。仕方なく私は、おリンの相手をする。
そういえば、アシハラのあの茶屋の娘も、私の同僚であるブルーノ中尉と結婚してしまった。ブルーノのやつ、あの茶屋の娘に一目惚れしてしまったらしい。それでお付き合いを申し出たらOKが出て、そのまま意気投合して夫婦になってしまった。今ごろやつも、同じような夜を過ごしていることだろう。
とばっちりを受けたのは、あのゲンサイ殿だ。あの茶屋の娘がお気に入りであの茶屋に通っていたのに、その娘を取られたとぼやいていた。が、我々からもたらされる大量の知識を吸収すべく、たくさんの本を読み漁っているとも聞く。もはや彼も、茶屋通いなどしてる場合じゃないらしい。
この調子で変わり続けると、10年後にはおエドはどうなっているんだろうか?宇宙港の横の街で続く建築ラッシュを見ながら、私は想像以上に変わるこのおエドの街と、可愛くも粋なおリンを眺める日々を続けている。
(完)




