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#12 戦場告白

「鍵をここに差し込むと、鍵が外れる。で、中に入ると……」

「うわぁ!なんだここは!?」


6畳ほどの個室には、机と椅子にベッド、そして壁にはめられたテレビモニターがある。


「ベッドや椅子、机の使い方は言うまでもないだろう。食事は食堂でするから、ここは寝るか暇つぶしをするかのいずれかだ。」

「暇つぶしって言ったって、こんななんもねえとこで、どうすりゃあええんだよ!」

「そうだな。スマホを持ってる奴なら、コンテンツを入れてそれを見ているが、こういうのものある。」


そう言って、私は机の上にあるリモコンを持つ。


「この赤いボタンを押すと、電源が入るんだ。」


すると、壁際のテレビモニターが付く。駆逐艦内には、地球(アース)509で流されている番組を録画した動画がある程度蓄えられている。戦艦での補給時にそれらが更新されるようになっているが、それがこのテレビでは、繰り返し流されるようになっている。

5つくらいのテレビチャンネルと、外のカメラと連携したチャンネルが3つ用意されている。だから、このテレビで駆逐艦外の映像を確認することも可能だ。


『はぁい!こちらは地球(アース)509、グルメチャンネル!今日紹介するのは……これ!今流行りのスイーツ!』


たまたまつけたら、ちょうどグルメ番組をやっていた。突然、壁に貼られたテレビから人がでてくて話し始めたため、おリンは壁のテレビの裏側を見ようとする。


「おい、まさか壁に中に人が入ってるのか!?」

「そんなわけないだろう。よく見てみろ。それはスマホと同じ、映像を映す機械だ。」

「は?これが絵だっていうのか!?まるで本物みてえだが……一体何をやってるんだ!?」

「どうやらグルメ番組のようだな。スイーツの特集らしい。」

「グルメ?スイーツ?なんでえ、それは?」

「グルメというのは美味しい料理、食べ物って意味で、スイーツというのは甘い食べ物ってことだ。」

「つまり、茶屋の団子見てえなのを紹介してくれるのか!?どんなもん出てやがるんで!?」


で、出てきたのは、ケーキにパフェ、アイスクリーム、クッキーなどなど、甘いものばかりが紹介される。

が、赤や紫、茶色などあまり見慣れない色の食べ物まで出てきて、おリンは少し懐疑的だ。


「おい、あんな色の食べ物が食べられるのか?とても食えそうには見えねえけど……」

「実際に、番組の中でもほら、食べてるじゃないか。」

「んだけどよ、あたいの口に合うかどうかは……」

「賭けてもいいぜ、おリンの口に、絶対に合う!まあ、いずれわかるさ。」

「はあ?あたいがこれを?んなこたあねえだろう。だったら、早速あの食堂で食わせてくれよ。」

「この駆逐艦では無理だ。ここにはスイーツというものはない。だが、これから向かう戦艦ラングドックの中にある街に行けば、ケーキやパフェを食べられる店はあるぞ。」

「ほんとか!?ぜひ行きてえ!」


2人とも、ベッドの上に座ってテレビを見ていたが、この番組を見ながらおリンのやつ、私の腕にしがみついてきた。

あの着物ほどじゃないが、胸の部分が当たる。しかも、さっきまでの着物姿とは打って変わって美人になってしまったおリン。そんなおリンに迫られると、やはりどうしても煩悩というやつが脳裏をよぎる。


「なあ、このテレビ、消してくれねえか?」


突然、おリンが言い出した。


「ああ、どうした?うるさいのか?」

「いや、そんなんじゃねえけどよ。」


私はテレビのリモコンを押して、テレビを消す。するとおリンが、さらに腕にぎゅっとしがみついてきて、私にこんなことを言い出した。


「なあ、今のあたいを見て、どう思う?」


なんか以前にも似たようなことを言ってきたな。私は応える。


「お前はいい岡っ引きだよ。現に、おエドの危機を救ったじゃないか。自信を持てよ。」

「違う違う!そういうのじゃなくてよ!」


なんだ、違うのか?するとおリンは、私の手を握りながら、こう言った。


「さっきあたいのことを、綺麗だって言ってくれたじゃねえか。だからよ……なんていうか、その、女としてのあたいは、どうなのかなぁって思ってよ。」

「あの、おリンさん?ど、どうしちゃったの?」

「この宇宙の旅が終わったら、また別々に暮らすんだろう?でもよ、あたいはできればおめえと一緒に……」


なんだか急に胸がドキドキしてきた。ストレートヘアーに、薄いシャツにジャケットを羽織った今風の姿をしたこの美人の岡っ引きが、どうやら私に迫ってきている。

が、こういう時に、悪いことは起きるものだ。

おリンが何かを最後まで言いかける寸前に、急に艦内にサイレンが鳴り出した。

けたたましい音が、この部屋の中にも響き渡る。


「な、なんだ!?なんでえ、この音は!?」


私には分かる。この音は、接敵を知らせる警報だ。その警報の直後に、艦内放送が入る。


「達する!艦長のアメレール中佐だ!艦隊司令部より入電、敵艦隊発見の報あり!現在、艦隊主力が展開する小惑星帯(アステロイドベルト)より、1500キロの距離!こちらへ接近中!総数、約1万隻!」


なんだと!?突然この星域に、1個艦隊もの敵艦が現れたのか!?


「我々も直ちに艦隊主力に合流し、戦闘に参加する!各員、持ち場につき、戦闘準備態勢に入れ!戦闘開始は3時間後の予定!艦内哨戒、第1配備!」


このタイミングで、突然艦隊戦が始まる。しかも、1個艦隊同士の大規模な艦隊戦だ。私はおリンに言う。


「おリン、よく聞け。これから戦闘が、大きな戦さが始まる。」

「い、戦さ!?」

「戦闘時には、パイロットである私や戦闘中に非番の乗員、および非戦闘員は、食堂で待機することになっている。だが、私はその前に私は格納庫に行って、哨戒機の発進準備をしなきゃならない。」

「じゃあ、あたいはどうすればいいんだ!?」

「食堂で待機だ。そこで、周りの人の指示に従って行動しろ。」

「お、お前は、サブはどうするんだ!?」

「私は準備が終わったら食堂に戻る。だが、戦闘中に発進する可能性もある。」


私の話を不安げに聞いているおリン。私の手を握ったまま、震えている。

そういえば、私はさっきから不安を煽ることしか言っていないな。おリンの気持ちを考えてはいなかった。そこで、私はこう言った。


「大丈夫だ、問題ない。戦さといっても、数時間ほど撃ち合えば相手が諦めて帰っていく。戦さといっても、生き残ることはあの大安宅船の陰謀を暴くことよりもずっと簡単なことさ。だから、心配しなくていい。」

「ほ、本当か!?」

「私も戦うし、この艦の全員が全力で戦う。負けるわけがない。大丈夫だ。だから、とにかく食堂に行って、皆の指示に従って行動して欲しい。」

「分かった、サブの言う通りにするぜ!」


そこで私はおリンを連れてまず食堂に行き、おリンをロレーヌ少尉に託す。

その後、格納庫に向かって、哨戒機の整備に入る。

戦闘中に哨戒機が出撃するときは、2種類の任務が与えられた時だけだ。

まず、哨戒機は戦闘には参加しない。と言うより、我々の戦闘では、航空機が戦闘に参加する機会がない。

我々の戦い方は、30万キロもの長距離での撃ち合いが基本。航空機でその30万キロを飛ぶには、ゆうに5時間以上かかる。戦闘は長くても5時間以内。航空機が到着する前に、戦闘が終わってしまう。

仮に到着してミサイルやビームで攻撃したところで、駆逐艦のバリアシステムに阻まれて攻撃が効かない。今の時代の戦いでは、航空機が戦闘に参加する意味はまったくない。

だから、我々哨戒機が発進するのは、戦闘以外の目的だ。

一つ目は、この艦が被弾して退艦命令が出た際、多くの乗員は脱出カプセルや船外服を着たまま宇宙空間を浮遊することになる。これらの乗員を一人でも多く牽引して、助け出すと言う任務。

もう一つは、ビームの撃ち合いによって発生する電磁パルスによって、駆逐艦のレーダーの精度が落ちた際に、複数の哨戒機のレーダーを使って、離れた場所に補助レーダーを展開すると言う任務。

私が今準備しているのは、その補助レーダー任務に備えた機材の積み込みだ。また、退艦時の乗員救出用の牽引ロープもチェックしておく。

これらを確認した後、私は船外服を着る。

戦闘開始まで、あと30分に迫っていた。すでに、艦内の全乗員に船外服着用の命令が出ている。

ようやく格納庫での仕事を終えて、私は食堂へと戻る。ここにいる乗員も皆、すでに船外服を着ていた。

そういえば、おリンはどこに行った?全員ごつごつの宇宙服を着ているため、誰が誰かわからない。


「サブ!」


だが、その一人が叫ぶ。こちらに向かって、手を振っている。おリンだ。私は手を振るおリンの方に向かう。


「どうだ!?準備は終わったのか!?」

「ああ、終わった。こっちの方は、いつでも出られる。」

「い、戦さってよ、どうやるものなんだ!?あたいんところは、もう400年もの間、戦さをしていねえんだよ!太平の世が続いていたからよ、そう言うものに慣れていねえんだ!」

「ああ、でもどのみち、お前んところの戦さのやり方とはずいぶん違う。」


私は、我々の戦闘方法の説明をした。この駆逐艦から砲撃をする際には、ものすごい砲撃音がすること、そしてバリアによって着弾を弾くときにも大きな音がすることを説明しておいた。


「ものすごく大きな音が鳴り響くだろう。多分、最初のうちは生きた心地はしないかもしれない。だが、安心しろ。大きな音が出てるってことは、戦いに負けていないって証拠なんだ。だから、音にはなるべく気にするな!」

「お、おう!」


とは言っても、これから起きる実際の戦闘に、彼女は驚愕せざるを得ないだろう。この程度の忠告では、気休めにもならない。


「敵艦隊まで、あと31万キロ!接触まで2分!」

「航海科へ、操縦系を砲撃管制に移行!」

「航海科より砲撃科!操縦系を砲撃管制室に移行します!」

「砲撃科、了解!操縦系、いただきました!」

「まもなく、砲撃射程内!30万キロです!」

「総員、砲撃戦用意!」


艦内放送で、戦闘が迫っていることが知らされる。


「司令部より、砲撃開始の合図です!」

「よし、砲撃開始!撃ちーかた始め!」

「主砲装填完了!撃てーっ!」


砲撃管制室からの号令の直後、猛烈な砲撃音が鳴り響く。食堂のテーブルが、ビリビリと振動する。

よく砲撃音は落雷の音に例えられる。確かに、あれに近い音が鳴り響く。ただし、間近に落ちたときのように、とてつもなく大きな音だ。


「ひ、ひぃ~っ!」


さすがのおエドの岡っ引きも、この駆逐艦の本当の力を発揮した際の音の前には形無しだ。私の腕にしがみついて震えている。

さらにその砲撃は第2射、第3射と続く。砲撃が鳴り響くたびに、おリンは私にしがみついて離れない。

だが、周りは特に砲撃に関して動揺する様子はない。ビビっているのはおリンと、あの学者くらいのものだ。


「お、おめえら、よくあの大きな音がしても平気でいられるな……どうなってやがるんだ!?」

「砲撃訓練を何度もやってるからね。慣れだよ、慣れ。」

「こんなものに、慣れもへったくれもあるかよ!?」

「不思議と慣れるんだよ。だけどな、我々にも慣れていないものがあって……」


私がそう言いかけたときだ。まさにその我々が慣れていない音が響き渡ろうとしていた。


「直撃弾、着ます!砲撃中止!バリア展開!」


この放送のすぐ後、ギギギギッという、なにか重い金属状の何かを無理やりこすりつけたような不快な音が鳴り響く。この音は、さすがの私も慣れていない。


「な、なんだあれは!?」

「敵のビームが、バリアによって弾かれた音だ。」

「は?バリアって、あの、おめえが刀や鉄砲をはじき返していた、あれか!?」

「そうだ。あれの大きいやつだ。上手いタイミングでこいつが作動すれば、今みたいに敵の攻撃を跳ね返すことができる。」

「じゃ、じゃあ、弾き返せなかったら……」

「その時は……この艦もろとも、吹き飛ぶ。あるいは宇宙空間に投げ出されるかのどちらかだな。」

「そ、そんなぁ……」


船外服のヘルメットの奥に、おリンの悲壮な顔が見える。腕にしがみついたまま、私に言った。


「ああ、せっかくおエドを守ったって言うのに、ここであたいの命は果てるのかな……」

「バカ!そんなことはない!絶対に生き残る!そのために我々は全力で戦っているんだ!」

「そ、そんなこといってもよ……あんなのがまたきて、大丈夫だって言えるのかよ!?」


ここで砲撃音が響く。落雷のようなこの音におののいて、私の腕にしがみついて離れない。

ああ、彼女はこの極限の状況に、希望が持てないんだ。絶望しかない。だから死ぬんだと言い出したり、震えが止まらない状態に陥っている。

そう言う私も、バリアの着弾音が響いた時はさすがに恐怖を感じた。もしバリアの展開が一瞬でも遅れていれば、我々は今頃……

こういう恐怖に陥った時の人間の心理状態というのは、本能的になにか希望のようなものを見出そうと必死になるようだ。

私も、おリンもこの時、まさにそういう状態になっていたのだろう。


「おリン!」

「な、なんでぇ!?」

「この戦いを乗り切ったら……」


ここで再びバリアのビームを跳ね返すあの不快な音が鳴り響いた。おリンが私にしがみつく。


「なんでぇ!こんな時に!」

「この戦いを乗り切ったら……私とお前、一緒にならないか!?」

「はぁ!?なんだって!?どういう意味だ!」

「だから……要するにだ!結婚しないかって言ったんだ!」


一緒におエドを走り回り、命をかけて難を乗り切り、一晩を共にし、そして今、見違えるように綺麗になったおリンを見て、私は思わず自身の願望を彼女にぶつけてしまった。

普通ならば、そういうことは心の奥底にしまっておくものだが、恐怖心というやつは、その心の奥にあるものを引き出す効果があるらしい。

それを聞いたおリンは、私の顔を見る。


「お、おい、それって、あたいとお前が夫婦(めのと)になろうって言ってるのか!?」

「あ、ああ!そうだ!ダメか!?」

「い、いやあ、願ってもねえことだ。なんなら、今ここですぐに夫婦(めのと)になってもいいぜ!?」

「はぁ!?いいのか!?」

「いいのかって、おめえが夫婦(めのと)になりてえって、たった今、あたいに言ったところだろうが!」

「いや、予想以上にあっさりとOKがもらえたから、ちょっと拍子抜けしちまって……」

「何を言ってやがんでぇ!おエドの男ならよ、歌舞伎役者やお奉行様みてえによ、もっとビシッと決めるもんだ!」


そこで私は、おリンの両手をつかむ。そして、言った。


「私はおエドの男じゃねえから、ビシッとは言えないけど、なんていうかさ、おリンと出会い、おキョウのことで走り回ってたあのあたりから、なぜかお前が他人には思えなくてさ。一緒におエドを走り回って、何度かお前が命を落としそうになった時に、私は必死になってお前を守ろうとして、そのあたりくらいからなんとなく確信していたんだよ。私は、お前と一緒になるんだって。だから、お前のいう夫婦(めのと)になろう。そう思えば、私はこの戦さを乗り切れる気がする。」


砲撃音が何度も響いているが、おリンはもう砲撃音どころではなくなっていた。私の言葉にじっと耳を傾けている。


「それにだ、私はお前を今よりずっと幸せにできる力がある。そして、お前も私の人生を豊かにしてくれる何かがある。だから、一緒になりたい。こういう言い草では、ダメか!?」

「い、いや、確かにおエドの男らしくはねえけど、言いてえことはよくわかった。つまりだ、あとはあたいがちゃんと返事すりゃあいいんだな?」

「そういうことだ。」

「で、では、サブ、いや、サブリエルさんよ。ふつつか者じゃあごぜえますが、この先の人生、共に歩ませていただきます。よ、よろしくお願い、申し上げます!」


実は途中から気づいてはいたのだが、ここは20数名がいる食堂。このやりとりは、この食堂にいる20数名の皆が、固唾を飲んで見守っていてくれた。

このおリンの宣言に似た言葉を聞いて、まずロレーヌ少尉が叫ぶ。


「お、おめでとうございますぅ~!これが戦場伝説でよく言われる『戦場告白』ってやつですね!まさか、生で見られるなんて思いもよりませんでした!」


他の乗員も、文句のような祝いのような、そんな言葉を投げかけてくれる。


「ちっ!上手いことやりやがって、サブリエル少尉!」

「ちゃんと式には呼んでくださいよ!少尉殿!」

「そういやあ、戦場告白する奴がいると、その艦は絶対に沈まねえって言われてるらしいぜ!」

「ええ~っ!?そ、そんな伝説、あるんですか!?じゃあ私達、生き残ったも同然じゃないですか!」


なんだか、周りが盛り上がり始めやがった。


「ああ、もう!!そういうことだから、私のおリンには手を出さないでくださいよ!みなさん!」

「わかってるよ、少尉!」

「あーあ、それにしても、20人以上が詰めているこの食堂で、しかも戦闘の真っ最中で……大胆ですねぇ、少尉も。」


口々に私とおリンのやり取りを弄り回す周りの乗員達。

そういえば、こういうのをよく「戦場告白」というんだった。戦闘中、もしかしたらもう死んでしまうかもしれない、そういう激しい戦闘中の極限状態で、そばにいる思いを抱いていた人に向けて告白してしまう……ああ、まさに私がやったことは、その戦場告白だな。

だけど、元々は戦闘開始直前におリンが迫ってきたのが原因であって、戦闘中にその続きをやったに過ぎないというのが私の想いなのだが、まあ、周りは私が戦闘中に大胆にもおリンに結婚の約束を取り付けたということになってしまった。

頬を真っ赤にして、私の方をじーっと見つめるおリン。私も、おリンをじーっと見つめてしまう。


「おいおい、まだ戦闘中だ、まだキスはするなよ!」

「な、何言ってるんですか!船外服のヘルメットが邪魔で、そんなことできない……って、そんなこと人前でするわけないじゃないですか!」

「ふうん、でも、ヘルメットがなければ今にもしそうでしたよぉ~!?」

「ロレーヌ少尉まで……いくら何でも、私も人前では節度を持って行動する!んなことするわけないだろうが!」

「人前で大胆に戦場告白することが、節度ある行動だったんですかねぇ~!?」

「うう……」


なぜか私はロレーヌ少尉にからかわれる。すると、おリンが立ち上がって叫ぶ。


「おう!お前らと違って、サブはおエドの岡っ引きらしく、みんなの前で筋を通したんでえ!好きなものが好きだとはっきり言える、そんな度胸のある男が、ここにいるのかい!?とまあ、そんなわけで、あたいら岡っ引き夫婦を、どうか皆様、今後ともご贔屓に、よろしくお頼い申し上げる!」


頭を下げるおリンに、思わず一同起立し、同様に頭を下げた。おリンのこの迫力には、うちの男どもはかなわない。そんな最中も、まだ外では戦闘が続いており、時折砲撃音が鳴り響き、時々バリアがビームを跳ね返している。

すると今度は突然、哨戒機隊に出撃命令が出た。


「哨戒機隊に命じる!直ちに出撃し、補助レーダー任務につけ!以上!」


私は立ち上がり、おリンに言う。


「じゃあ、ちょっと言ってくる。」

「おう!頑張ってこいよ!」


さっきと比べて、恐怖心がかなり和らいだようだ。笑顔で私を迎えに出してくれる。

私は格納庫に走る。格納庫内には、すでに発進準備の整った哨戒機があった。


「少尉殿!早く!」

「了解した!整備員は直ちに退避!哨戒機1番機、出撃する!」


バタバタと格納庫内から人が退避する。直ちに減圧が始まり、発艦可能になるのを待つ。

その間、ついさっきまでのことを思い出していた。私はついに、おリンに告白した。しかも「付き合い」をすっぱかしていきなり「夫婦(めのと)」だ。

今さらだが、いきなり結婚はちょっと早過ぎたか?だが私は、敵の直撃弾が何発もかすめるあの極限状態で「生きる目的」が欲しかったのかもしれない。

だから、私は死ねない。なんとしても、おリンのためにも絶対に生き残る。そう思えるようになると、少し強くなれる気がした。

などと考えていると、奥のランプが赤色に変わった。庫内の減圧完了の合図。私は無線で連絡する。


「1番機より6443号艦!発艦準備完了!発艦許可を!」

「6443号艦より1番機!発艦許可了承!周囲に注意しつつ、発艦せよ!」


格納庫のハッチが開く。外には、青白いビームが何本も飛び交う。

アームが伸びる。私の哨戒機は、艦の上面、左側格納庫にある。駆逐艦の甲板が見える。前には、装填中で青白く光る艦の先端部が見える。私が発艦のため、レバーを引こうとした瞬間、無線で受信していた艦内放送が聞こえてきた。


「直撃弾、来ます!」

「発砲中止!バリア展開!」


次の瞬間、私の機の間近で艦砲のビームが掠め飛ぶ。私は、思わず叫ぶ。


「うわぁーっ!」


ギギギギッというあの不快音が鳴り響く。この哨戒機のすぐ上に、敵のビームが通り過ぎている。手を伸ばしたらすぐ届きそうな距離に、数千万度のビームの壁がある。とても生きた心地がしない。

しばらくすると、光が止んだ。どうにか無事だったようだ。だが、あの時発艦レバーを引いていたら、今ごろは敵のビームか味方のバリアかの、どちらかの餌食になっていたはずだ。本当に、危うく死ぬところだった。


「機内点検!異常ないか!?」

「レーダー機器、異常ありません。これくらいのことでそうそう異常をきたすような機体ではありませんよ、哨戒機は。」


同乗するレーダー担当の士官がそういうが、私はつい数日前に、そのそうそうありえないない異常に出会ったんだ。油断はできない。


「1番機、発艦する!」


とりあえず私は発艦レバーを引く。アームから機体が解放されて、外に飛び出した。スロットルを引いて、駆逐艦を離れる。

外から見ると、敵味方、無数の青白いビームが飛び交っている。まるで、ビームのシャワーだ。縦に10列並び、それが5キロ置きに1000行並んでいる。横に長く並んだ全部で1万隻の艦隊。敵も同数で、計2万隻がこのビームのシャワーを形成している。ずっと向こうの方まで、ビームの束が見える。

万一にも、あのビームの一本に当たったら大変だ。哨戒機など、一瞬にして吹き飛んでしまう。私はスロットルを引き、艦隊の上方に移動して、集結地点を目指す。

他の艦から発進した哨戒機らと合流する。そこで、碁盤目状に各哨戒機が並ぶ。哨戒機の持つレーダー一つ一つは弱いが、これらを同期、連結させて、敵の艦隊を捉える。

下では激しいビームの応酬が続いている。機内のレーダー担当の士官が叫ぶ。


「スパースレーダー、展開完了!これより味方の艦隊にデータリンクを開始します!」


私の手元のモニターにも、敵の艦隊をくっきりと捉えているのが見える。敵も横一線に、縦に10、横に1000並んだ状態で攻撃しているようだ。

だが、我々がレーダーを展開した途端に、その敵の艦隊に動きがあった。どう見ても後退を始めている。

戦闘が始まって2時間。敵はこれ以上の攻撃を諦めたようだ。徐々に後退速度を上げている。

おかげで、レーダー任務に就いてわずか30分ほどで、戦闘は終結した。せっかくレーダー網を構築したのに、たいして役に立つ間も無く戦闘が終わってしまった。

そうなると、心配なのは6443号艦だ。まだ、生きているか?沈んではいないか?

駆逐艦6443号艦のいる場所に向かう。私は無線で連絡する。


「1番機より6443号艦!貴艦の状態を確認したい!応答せよ!」


さっきまでの戦闘で発生した電磁パルスやノイズで、なかなか通信が通じない。私は、何度か無線で呼びかける。が、なかなか応答がない。

まさか……沈んだのか!?そう思った矢先、ようやく応答が帰ってきた。


「6443号艦より1番機!当艦は被弾、およびトラブルなし。順調に航行中。直ちに帰投せよ。」

「了解!1番機、直ちに帰投する!」


いきなり起きた大規模戦闘には肝を冷やしたが、ようやく乗り切った。私は、意気揚々と帰投する。

目の前に6443号艦が見えてきた。格納庫ハッチが開き、私は伸びてきたロボットアームを目指す。

まだ敵の艦隊は120万キロ彼方にあり、予断を許さない状態らしいが、再び前進に転ずる恐れはなさそうだ。ともかく戦闘は終わった。

もっとも、帰ってからが大変だった。

おリンと私、あの戦場告白のおかげで、艦内全ての乗員からいじられることになってしまったからだった。

船外服を外し、2人で食堂に呼ばれる。そこで、艦長まで呼ばれて「戦場告白パーティー」なるものが行われた。

まあ、こうしてからかわれることは、生き残れた証でもある。私とおリンはやけになって、夫婦アピールをしてその場を乗り切った。

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