馬車での道中。
一行は馬車に乗り込み、中央宮殿がある都に向かっていた。
「キョウヤみろよ!すげーでけー鳥が飛んでるぞ!」
「どれどれ…おお、予想以上にでかいな!」
京也と治郎は馬車についている窓のカーテンを開け外を見ていた。
馬車一台に乗車できる人数は限られているので、クラスメートはそれぞれ分かれ、仲がいい人たちと一緒に乗っていた。幸いにもこのクラスにはボッチはいなく、特に問題なく分かれることができた。あと馬車には教団庁の人が1人以上同車している。
ちなみに、ミファーは陽太や千恵里達と同じ馬車に乗っていた。
「いや~それにしても、本当にこんなことが起きるとはな~」
「そうだな。」
「いやいや!なんでテンションがいつも通りなんだよ!!もっと驚きがあるだろ!」
「俺だって驚いていたさ。あることに気が付くまでな。」
「な、なんだよ気づいたことって。」
治郎が少しおじけづく。
「この星に月みたいな衛星があるのかってことにな。」
「月かよ!異世界まで来て考えることか!?」
「何を言う大事なことだ!もしなければ俺はいったい何で癒されればいいというのだ!」
「お前らしいな!!」
てっきり京也が己が気が付かなかった重要な何かに気づいたのかと思い構えていた治郎に反し、全くもってどうでもいい(京也にとっては大事)ことをいったため治郎は憤慨するのであった。
「ジローだって、あれがなくては困るだろ。」
「俺は月が無くたって大丈夫だけど?」
京也の発言に対し、治郎が何を言ってんだとばかりにいう。
「月じゃない。ジローが大切にしていたあれだ。」
「あれってなんだよ。」
「小学生の時に買ったイルカの抱き枕」
「ばっばか!お前何言ってんだ!?」
京也の発言に対し、治郎が赤面して怒鳴る。
「いつも寝る時に抱いて寝ているんだろ?」
「ちがっいや、そうだけどなんで知ってんだよ!」
「ジローの妹から聞いた。」
「あのばかっ」
治郎が頭を抱える。
「別にいいだろ。」
「よくねぇよ!高校生にもなってまだ小学生の頃に買ったもんを大事にしているとか恥ずかしいだろ!」
治郎が京也を睨みつけ。
「誰にも言ってないよな!」
「誰にも言ってない。」
京也が大丈夫だといわんばかりに力強くうなづく。
「よかった~。他の奴に知られていたら死ぬとこだったぜ。京也!他の人に絶対に言うなよ。妹にも帰ったらくぎを刺さないと。」
治郎は安心し、帰ったら妹をどうしてくれようかと考え始めた。
「わかった誰にも言わない。」
「ほんとよろしくな。」
「だが、」
ここで京也が辺りを見回す。それに釣られ治郎も辺りを見回す。辺りを見ると皆が見ていた。そう、一緒の馬車に乗っていた数人のクラスメートと1人の教団庁の人が。
「大丈夫よジロー君。私も小学生の頃買ったぬいぐるみ大切にしてるから!」
「ジロー君可愛いね!」
「ジローってイルカが好きなんだな。前に旅行に行ったとき買ったイルカのキーホルダー帰ったらやるよ。」
みんながとてもやさしくフォローしてくれた。
「ノオォォォォォォォ!!」
「ところで、質問があるのですが。」
京也が同乗している教団庁の人に声をかけた。ちなみに治郎は馬車の隅で悶え死んでいた。それに追い打ちをかけるように女子が「どんなイルカなの?」とか聞いている。
「何かな?」
「この星には月…じゃなくて衛星はあるのですか?」
月じゃわからないと思い言い直す京也。
「月かい?あるよ月。君たちの世界にも月があるのかい?」
「あ、あります!夜になるととても綺麗に光って素敵なんです!」
月があることに思わず興奮する京也。
「そ、そうなのかい。ここの月も夜になると光り輝いてとても幻想的なんだよ。」
「幻想的!ああ、早く夜にならないかな。」
「あははは。面白いね君。もっとこれからのこととか聞くことあるだろうに、まさかお月様について聞くとはね。君の名前を聞いていいかい?僕はフレディという名前なんだ。」
「キョウヤです。フレディさんよろしくお願いします。お月様は大好きなんです。元居た世界では毎晩月を眺めていましたから。」
「よろしくねキョウヤ。それにしても月が好きとは京也は『月聖術』と相性がよさそうだね。しかし『双月の炎学団』があんなことになってなければねぇ。」
フレディが残念そうに言う。
「『月聖術』?『双月の炎学団』?」
「ああしまった。今のは聞かなかったことにしてくれ。中央宮殿で説明があるまで巫術関連の話はしては駄目になっているんだ。」
フレディが慌てて言った。
「とてもとても気になりますが聞かなかったことにします。とっても『月聖術』が気になりますが。」
「あはは。楽しみにしといてね。」
「わかりました。…楽しみだな『月聖術』」
「ほんとに、黙っててね!特にヘンゼル様の前では。」
月に関連しそうなものに対してはしつこくなる京也であった。
ようやく主人公が表舞台に!
なるほど、うるさい奴らは引き離せばいいのか。