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空の鏡に照らされて  作者: のこりごころ
一章 巫術を身につけて、異世界を知る
29/31

魔物と千恵里とロマンティスト

ようやく主人公が戦うよ。

「あれが魔物!」

 京也はステージ内に現れた魔物を凝視する。魔物はサイを巨大化して、醜悪させたような見た目であった。

「まだ落ちてくるぞ!!」

どしん!どしん!どしん!

「!?」

「「「「「「グワアアアアアアア!!!!!!」」」」」」」

「きゃああああ!観客席に!」

 ステージほどの大きさではないが、似たような魔物が観客席に数体落ちてきた。

「魔神の手先か!各教団が集まっているというのに舐めた真似をしやがる!」

 フレディが激昂する。

「お前たち二人は避難するんだ!いざないの者が目当てに違いない!」

 京也と千恵里をみてフレディが言う。

「だけど!」

「大丈夫だ!周りを見ろ!各教団と教団庁が魔物の相手をしているだろ!」

 確かに各教団らが観客を避難させつつ、魔物と対峙していた。ステージの方にもその内救助が行くだろう。

どしん!どしん!どしん!

「「「「「グワアアアアアアア!!!」」」」」」

「!?」

 更に数体落ちてきた。

「流石にこれは…。」

「いや、大丈夫だこれくらいなら…。」

ブゥゥン

「ステージを囲むように紫の光る壁が…。」

 京也がステージを見て言う。

「!?結界だ!やはり魔人が侵入していたのか!」

 ステージの中にはまだ治郎たちが取り残されていた。

『ヘンデルだ。全教団、教団庁に伝える。中級以上の者は魔物を倒しつつ、結界の解除を。下級の者は観客の誘導をするのだ!』

「「「「「「「「「「「おーーーー!」」」」」」」」」」

 各教団、教団庁の人々が声をあげる。

「よーし、結界を解除しつつはちとキツイがやってやるか。」

 フレディがそう言いながら腕まくりをして近くに落ちた魔物に対峙する。

「さぁ、2人は逃げるんだ。」

ドシン!ドシン!ドシン!

「「「「「グワアアアアアアア」」」」」

「まだ増えるのかよ!」

 フレディが少し顔をひきつらせた。

「フレディさん。魔物に挟まれました。俺も戦います。」

 京也が自分たちの退路に落ちてきた魔物を見て言う。

「……しょうがねぇ。いざないの者に万が一があったらいけないから戦わせたくなかったが…。任せたぞキョウヤ!」

「はい!」

 京也も魔物に対峙する。

「ち、チエリ!」

 結局千恵里の名字を思い出せず、どぎまぎしながら彼女の名前を呼んだ京也。

「なに?キョウヤ君。」

「チエリは俺が隙を作るから逃げてくれ!」

 千恵里が目を丸くする。

「どうして!?」

「戦うのが怖いと言っていたじゃないか!」

「それはキョウヤ君もでしょう!それに怖いのは人と戦うこと!」

 千恵里が引き下がる。

「キョウヤ!慢心するな!2人で戦え!」

 フレディが魔物と戦いながら叫ぶ。

「別にそういうつもりじゃ…。」

「ギャアアアア!」

「!?うおっ」

 魔物が京也に突撃してきた。

「キョウヤ君大丈夫!?」

「大丈夫!間一髪で避けれた。」

 すれすれで避けた京也。

「『陽光の輝弾』」

 千恵里が術を発動する。光の弾が魔物に飛ぶ。

「グワンッ!」

 それを魔物は首を振り角で消し去った。

「うそっ!効いていない!?」

 千恵里が驚愕する。

「いや、大丈夫だ効いている。角を見てみて!」

 京也が言う通り角を見ると、弾に当たった箇所が焦げていた。

「それよりもチエリ。本当に戦うのか?」

「くどいよキョウヤ君!私がいたら邪魔っていうの?」

 千恵里がむっとして言う。

「い、いや、そうじゃなくて…。」

 彼女の雰囲気がクラスでの時と違い、とまどいながら言う京也。彼女はアドレナリンがバシバシ出ていた。

「じゃあ、どうなの?!」

「グギャアア!」

 千恵里が魔物の攻撃を避けて怒気をにじませて言う。

「……わかった。戦いの最中の俺のことを皆には黙ってて欲しいけどいい?」

 京也が静かに言う。

「?わかったわ。」

 千恵里が不思議そうな顔で言う。

 返事を聞き、京也が祈りを捧げるために静かに眼を瞑る。

「『月を見る者』」

 これは使用者の身体能力を『月昂』ほどではないが高める術である。そして京也にとってはあることのトリガーになる術であった。

「グギャアア!」

「!キョウヤ君そっちに行ったよ!!」

 千恵里が叫ぶ。

 京也は目を開け術を発動する。

「『月哮(げっこう)』」

 周囲の空気が震え、魔物の動きが止まった。

「ふぅ、まったく無粋な奴だ。せっかく良い月を瞼に思い浮かべていたというのに…。」

 京也がゆったりとした口調で語りながら静かに魔物の方へ歩きだす。

「ああ、今夜は一体どんなお月様が昇るのだろうか。」

「グギャアアアアアアアアア!」

「……。ふん。」『冷月の縛り』

 京也が右手を振るうと術が発動し、魔物の動きが急激に固まる。『冷月の縛り』は『氷月の戒め』の狭地バージョンである。


「キョウヤの奴、まさか動作発動術を扱えるとはな…。」

 フレディが京也の上達ぶりになかば呆れながらつぶやいた。

 動作発動術とは、上級テクニックの1つであり、言葉ではなく特定の動作を発動のキーにするものである。ただ言葉から動作へ意識の切り替えが難しいため、拾得者は少ない。


「きょ、キョウヤ君!?」

 千恵里が思わず声を掛けた。

「?おや、どうしたんだいチエリ?」

 京也が千恵里の方をゆっくり振り向いた。

「な、なんか雰囲気変わっていない?」

 アドレナリンが出まくっている自分のことを棚に放り投げて尋ねる千恵里。

「ああ、どうも俺は月のことを考えると気分が高揚してしまってね。」

「そ、そうなんだ…。」


「そういえばモモッモが言ってたな~。キョウヤは近頃、能力向上系の巫術を使うと人が変わるって。」

 フレディが2体目の魔物と戦いながらつぶやいた。

 もし仮に治郎がこの場にいたならこう言っていただろう。

「キョウヤの厨二病(ロマンティスト)が再発している!?!?」

 と。京也は月の巫術を特に身体能力向上系の巫術を使うことで、昔封印した厨二病の人格が呼び起こされるようになってしまっていた。

 いや、月の巫術らしく覚醒したともいえる。


「チエリはどう思う?」

「えっなにが?」

「今夜のお月様はどんな形かどうかさ。」

「ええええ!?別に今聞かなくても…。」

「はははは。確かにな。」

「……。」

 京也の変貌ぶりに目を白黒させる千恵里。

 ちなみに魔物はというと。

「きゅるるるる。」

 京也の術でかなり弱体化していた。

「はぁ、それにしても残念だ。」

「な、なにが?」

「初戦は星空のもと、月の光に照らされての一騎打ちが良かったなと。」

「は、はぁ。」

「でもまぁこれもこれでありかな。逆に初戦で地味な戦いをしてこそ後の戦いが映えるというもの。」

「そ、そうだね。」

 千恵里はもうすでにアドレナリンの供給は終わり、素面に戻っていた。それ故にこの京也をどうあしらえばいいか分からないでいた。

「(だ、だれか助けて!)」

「魔物よ。…君はお月様が好きかい?」

 魔物に話しかける京也。

「ぐるるるる。」

「そうか。嫌いか。残念だ。」

「会話してる!?」

「ならば月の巫術使いのはしくれとして君にお月様の素晴らしさを今夜教えてやろうではないか!」

「ぐえええ!?」

 魔物が驚愕した声を出す。

「きょ、キョウヤ君その子を倒さないの!?」

「ああ、もちろん。月を嫌いなままでこの世から消すなど…そんな非道なことを俺はできない!」

「ええ!?」

「ぐるる!?」

「そうだ!チエリ、君はどうなんだい?お月様は好きかい?」

「えっ!?わ、私は好きだよ!大好き!とっても好き!!!!」

 千恵里は慌てて手ふり身振りで月好きをアピールする。

「ぐるるるる…。」

 魔物が「絶対コイツ嘘言っているだろう。」といった感じの声を出す。

「それは素晴らしい!!!」

 京也が天を仰ぎ叫ぶ。そして千恵里に近付き彼女の両手を握った。

「まさかこんなに身近に月が好きな同志がいたとは!!どうして今まで俺は気づかなかったのだろう。罪深き俺を許しておくれ!!そして今夜共にこの哀れな魔物に月の素晴らしさについて教えよう!!!」

「あ、うん、ええ、んん!?」

 千恵里が最後の言葉に固まる。

「ぐるるるるっ」

 魔物が「ざまぁ」と嬉しそうな鳴き声を出す。

「ああ、今夜が楽しみだ。いいスポットがあるんだ。夕食の1時間後に迎えに行くよ!」

 京也が千恵里の手を強く握り笑顔で言った。

「えっ?ええええええええええええええええ!?」

明日はお休みするかも。

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