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空の鏡に照らされて  作者: のこりごころ
一章 巫術を身につけて、異世界を知る
28/31

決勝戦 後半

 一方、陽太、治郎、優作はというと。

「『頑固な水は逃さない』」

「うおっ!?」

「水が……。」

 優作が術を発動すると、扇状に水がどくどくと溢れ流れ、陽太と治郎の足元に到達する。

「靴が濡れて歩きづらい。」

「行動を制限するのが目的か。でもこれくらいじゃ、さほど支障はないぜユウサク!」

 治郎と陽太が声を出す。2人の足元に流れている水の高さはくるぶしほど、歩きづらいが支障が出るほどじゃなかった。

「まさか。これで終わりじゃないぞヨウタ!」

 そう優作が言った瞬間。

「うわっ!」

「水が一瞬で凍った!?」

 足元に流れていた氷が一瞬にして固い氷に変わった。

「足が…とれねぇ!」

 治郎が抜け出そうと足元に力をこめるが、まったくビクともしない。


「あーアニメとかでありそうな奴だな…。」

 観客席で京也がポツリとつぶやいた。

「あれは初級の水巫術だが、威力を見る感じユウサクも中級の実力があるな。」

 フレディが治郎たちの足元を封じている氷を見ながら言う。

「ユウサク君もそんなに上達していたんだ…。」

 千恵里が驚いた声で言った。

「水はどんな巫術なんですか?」

「水の系統は浄化と剛柔を司る。あの術みたいに水を凍らせるなどして固さを変えて敵の邪魔をしたり、防いだりするんだ。水巫術を相手にすると厄介だぞ~。」

 フレディが苦虫を噛み潰したような顔で言った。

「あっヨウタ君が!」

 千恵里が声をあげた。

 

「『太陽の熱波』」

 そう陽太が術を発動させると、彼の体からものすごい熱量が噴き出る。彼の足元の氷が少しとけ、脱出する。

「あっずりぃ!」

 まだ氷に足が捕らわれている治郎が声をあげる。

「やるなヨウタ!『軟弱化』!」

 優作が再度術を唱える。治郎の足元以外の氷が解ける。

「『軟弱者の水遊び』」

 流れていた水が浮き出して優作の周りで渦を巻き始める。

「じゃあ次は僕の得意技だ!『水遊び・槍』『水は頑固者』行け!」

 槍の形になった水が凍り、陽太に向けて飛んでいく。

 陽太は腕を引き、腰を落とす。

「はっ!」

 そして掛け声と共に手のひらを優作に向けて伸ばした。

「!?」

 陽太の手のひらから熱波が放たれた。氷の槍を一瞬で溶かす。

「嘘だろっ!」

 流石にこれには驚いた優作が声をあげながら熱波を避けるために横へ飛ぶ。

「危ない…。氷を一緒んで溶かす熱波なんて受けたらオレまで蒸発するところだった。」

 優作は地面に片足をつきながら冷や汗を流す。

「ユウサクーー!今、一人称がオレになっていたぞー!」

 陽太が笑いながら優作に声を飛ばした。

「うるさい!」

 優作が若干切れつつ、立ち上がり膝の泥を払う。

「だいたいなんだあの熱量は!僕を殺す気か!?」

「ここじゃ死なねーよー。それにユウサクなら避けられると思ったぜ!」

 陽太が優作に笑いかける。

「はぁ、まったく変に信頼され「ぺちゃっ」冷たっ!」

 唐突に優作が叫ぶ。彼の首には透明な粘着性のある液体が付いていた。

「俺を忘れるなお前ら!」

 治郎が片手に優作についている液体と同じものをもって叫んだ。

「どうだ!氷を変化させて粘着性のある液体にしたんだ!」

「くそっ!冷たい!とれねぇ!!」

 服の中に入ったのか飛び跳ねながら叫ぶ優作。

「あははははははは!!!」

 それを見て笑う陽太。普段澄ました顔を常にしている優作の焦る顔が見れて大喜びだった。


「決勝戦に見えないな…。」

「ぷっ。ユウサク君可哀そう。」

 観客席で京也が呆れながら、千恵里が笑いをこらえながら言う。」

「確かにな。でも3人ともやっていることはそれなりに高度なことなんだぜ。」

 フレディがフォローを入れた。

「ユウサクの連続巫術はもう初心者とは言えないし、陽太の氷の槍を一瞬で溶かす熱波は中級者以上だ。そしてジローに関して言えば、相手が生み出した氷をあそこまで変化させるのはなかなか難しい。」

「「へぇ~。」」

 感心する京也と千恵里だった。


「『循環せし聖水』…やっと取れた。」

 浄化の術でようやく取り除けた優作。

「おいジロー!許さねぇからな。あと笑っているヨウタお前もだ!」

 普段ではありえない目つきで治郎を睨む優作。

「うげっこわっ!」

「悪かったよ優作ー!」

「許さん!『呼び水』『純水無垢』『水遊び・塊』『水は頑固者』『止まらぬ鉄砲水』!!」

 『呼び水』で周囲から水を集め、『純水無垢』で不純物を取り除いて『水遊び・塊』で巨大な塊を2つ作って『水は頑固者』で凍らせ、『止まらぬ鉄砲水』で勢いをつけて2人に放った。

「「うわあああああああ!?」」

 治郎と陽太が叫び声をあげて逃げる。流石にこれは陽太の熱波でも溶かし切るのは無理であった。

ドシンッ!

 避けられた氷塊は壁に激突し鈍い音をあげる。

「『呼び水』」

「おいおいマジかよ!」

 優作のもとに壁に激突した氷塊が戻った。

「『止まらぬ鉄砲水』」

「「うわあああ!」」

ドシンッ!

「『集陽光線』!」

 避けた直後に陽太が術を発動する。優作にひとさし指を向ける。

「あつっ!熱い!熱い!」

 陽太の指から光線が照射され、優作のむき出しの肌に当たる。優作の服装は水の教団からの支給品で露出が多かった。

 優作は光線を避けようと動き回るが、陽太が楽々と追撃する。

「熱い!やめろっ!ヨウタ!」

「降参するなら。」

「絶対しねぇ!」

 じゃあしょうがないなと陽太が続ける。

「隙あり!『天誅』!」

「うおっ!?」

 陽太の死角から治郎が術を発動し襲い掛かった。陽太は驚いて体を向けた。優作に向けていた指ごと。

「うがああああ!?目があぁぁぁぁぁぁ!」

 運悪く指先が上を向き、治郎の右目に光線が刺さってしまった。

「あっごめん。」

 右目を抑えながら尋常じゃない叫びを発する治郎に思わず謝る陽太。

『そこまで!試合を終了してください!』

 とここで試合が終了した。聖域が解かれる。

「ふーふー、死ぬかと思った。」

 痛みが消えた治郎が安堵の声を漏らす。

「ごめんな?ジロー。」

 陽太が手を合わせ治郎に謝る。

「最後の試合だったのになんか締まりませんね。」

 落ち着きを取り戻した優作が陽太と治郎に声を掛けながら近づいてくる。

「そういえば、自然と2手に別れてしまいましたが、あちらはどうなったのでしょう。」

 3人がもう片方の3人をみると、

「いえーーーーい!」

 かずみと俊が地面に倒れている中、奈美がピースをしてはしゃいでいた。


「終わりましたね~…。ジロー哀れだったな。」

「ヨウタ君!奈美ちゃん、みんなお疲れ様ーーーーー!」

 観客席の2人もコメントをする。

「あとは結果発表だな。誰が優勝するかな~。」

 フレディがひげを触りながら言った。

「誰が勝ってもおk「あれはなんだ!」!?」

 千恵里が言いかけている途中、観客の1人が空を指さし叫んだ。

「?」

 空を見ると、黒い塊が浮かんでいた。いや、落下してきていた。

「あれは…まさか!」

 フレディが険しい顔をする。

ドシン!

 そう地響きを出しながら黒い物体はステージの真ん中に落ちた。

「「「「「「!?」」」」」」」」

 選手も観客も謎の物体に驚いて固まる。

「ググッ」

 黒い塊が動き出し、

「グギャアアアアアアアアア!」

 大きな化け物になった。

 フレディが顔を赤くさせ言う。

「あれは…魔物だ!」

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