少女
「また守ってね。」彼女がはそう言って笑った。
今思うと、これが僕の世界の始まりだった。彼女を一生守ろうと心に誓った。
物心ついたときから、彼女は僕の隣にいた。
僕は気弱で人見知りが激しく、人と関わるのが苦痛ですらあった。
そんな僕を、彼女は「しょうちゃん、こっちおいで。」と誘い出してくれた。 「しょうちゃん」と呼ばれることは少しばかりこっぱずかしかったが、僕はそこに彼女の暖かさを感じた。
活発な彼女は、友達が多かった。僕は、焦燥に駆られた。
このまま、彼女がどこか遠くに行ってしまいそうな気がしてならなかった。なので僕は、彼女の背中を必死に追いかけた。いつも血眼になり彼女を探した。彼女はそんな僕を拒絶しなかった。「しょうちゃん。」と誰よりも優しい声で僕を安心させる彼女。僕にとっては彼女がすべてだった。
ある日、公園でいつもように遊んでいると、彼女の悲鳴が聞こえた。そこには、野良犬に襲われている彼女がいた。犬は鋭く尖った歯を剥き出しにし、汚い唾をはきちらしていた。
彼女の友達は、「逃げてー」など言っている奴もいれば、泣きわめいている奴もいた。誰も助けようとはしなかった。
犬が彼女との距離をつめた。今まさに噛みつかんとした、その刹那、僕は近くにあった棒を握りしめ、猛然と走りだし、犬に殴りかかった。
犬は「キャウン」とないた。耳の後ろから汚い血がポタッと滴り落ちた。
間髪入れず、僕はもう一度棒を高々とかかげた後、降り下ろした。
「死ね。」「死ね。」と何度も何度も殴り付けた。犬は動かなくなった。
彼女は僕が守る。僕は誓った。
我に帰ると夕暮れどきで、彼女の友達はいつのまにか帰っていた。彼女が「帰ろう。」言うので、僕はそれに答えた後、いつものように彼女の少し後ろを歩いた。
帰り道、何となく手を繋ぐと彼女は拒絶せず、グッと握り返した。
彼女を見ると、笑いながら「また守ってね。」と言った。「うん。」と答えると、またグッと手を握ってきた。
目の前の道路が夕日に照らされて、オレンジ色に染まっていた。
僕達はその中をゆっくり歩いて帰った。