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1話

突如として目の前が眩い光で覆われた男は、ほんの一瞬だがその光に視界を奪われる。

 この時、既に世界はこの男を除いて、全て別次元の物へと変貌を遂げていたのだが、男がこの先それに気付く事はないであろう。

 それはただ鈍感だから、という理由ではない。男はそんな事に一切の興味を示さないのだ。

 すぐに視力は回復したが、先程までと景色が一変した事に、作業つなぎを身に着けた身長2メートルはあろうかというこの大男は、不思議そうに首を軽く傾げる。

 今、男はレンガ造りの住宅が建ち並ぶ住宅街に立っている。

 そしてここから正面には、巨大な城が聳え立っているのが見えた。ここからその城までは若干距離が離れているようだ。

 日が沈み始め、その城や周囲の住宅の全てが赤黒く染まり、ただひたすらに不気味な静寂が包み込む。

 普通の人間であれば、突然見知らぬ場所に自分が立っている事に気付けば、個人差はあれど多少なりとも困惑し取り乱すものだろう。

 しかし、男は直立不動のまま動く気配は無い。さらに、頭部全体を覆う白塗りのハロウィンマスクを身に着けている為、その表情を確認することは困難である。

 ただ、荒々しい呼吸音がマスクの隙間から僅かに溢れる。それだけが辛うじてこの男が生ある者である事を伝えているようだった。

 数秒間の沈黙の後、男はゆっくりと周囲を見渡す。その姿は、獲物を見失った狩人が再び獲物を探し出そうとする、限りなく殺意という感情に近いがどこかで僅かに異なる、そんな異様な雰囲気を全身から放っていた。

 しばらく見回してみるが、人の気配や人影がない事を理解すると、男はこの地点から最も目に留まる建物へと視線を移した。

 装着している者の視界を確保するためにマスクに開けられた目の穴、その向こうで鈍い光をギラつかせる男の瞳に浮かび上がる感情は、誰にも理解し得ないものであろう。

 そして男は、その瞳と同じかそれ以上の光を放つ、手に握られた刃渡り30cmはあろうかという程の洋包丁を、更に強く握り締める。

 そして、眼前に聳える巨大な城へとゆっくりと、だが、着実に歩みを進めていくのだった。

 

 

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