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聖羅バケツと雑巾を持って急いでリネン室にむかった。
(ぐ~)
聖羅のお腹が鳴った。
昨日、皿を1枚割ってしまったため、朝食抜きにされていたのだ。
食事を抜かれる仕打ちは頻繁で、生徒だった時はぽっちゃりと可愛らしかった顔も、半年でげっそりとしていた。
生徒の洗濯の殆どはクリーニングに出されていたが、従業員のメイドや調理人などの洗濯は聖羅が一人でしていた。
仕込みはもう一人のメイド百瀬春花と二人で90人分の仕込みをしていた。
ある程度は機械でするとはいえ、かなりの重労働だった。
「聖羅さん大丈夫ですか?」
中卒で家の都合で学校に行けず働いている春花は聖羅の1つ下で16歳、少ない給与からかなり家に仕送りしている。それでも聖羅より給与は高い。
在学中に学費以外で聖羅に投資したとして、園長からその分給与から天引きされているのだ。
「お腹すいて、」
手が止まっていた聖羅を見て春花は心配しているようだ。
春花は聖羅のことをとても慕っていた。
従業員だからと言って下に見たりせず、ほかの生徒と同じように接してくれ、
よく勉強も教えてもらっていたからだ。
お金をためて大検を受けて将来は教職につくのが春花の夢だった。
仕込みが終わり、調理をシェフ達が始めると食堂で皿を並べるなど、生徒たちのお昼の準備だ。
生徒たちが午前の授業が終わり、食堂に入ってきた。
給仕係りは別にいるのだが、聖羅は佳織のクラスの担当にされていた。
佳織の要望だった。
前菜・スープと順番に運んで行った。
その時、ふっとめまいがして、聖羅はスープを佳織とその横の佳織の取り巻きのひとりで浅水さおりに冷製スープだったが思いっきりひっかけた。
「きゃー、なになさるの。」
さおりは叫んで立ち上がった。佳織は冷静に聖羅を睨んだ。
「ごめんなさい。」
あわてて謝ったが、さおりの気はすまないようだった。
「汚れてしまったわ、もうこの制服、着れないわ。」
「あーそれにもったいない、」
「このスープ皆さんのお金で作られているのよ、役に立たないでくのぼうのくせして」
「さっきから、あなたのお腹の音がうるさいし」
くすくすと笑い声が広まった。
「そうだあなたなめなさいよ、床にこぼしたスープ。」
「お腹すいているんでしょう。」
(えっ?)と周りが静まり返った。
「さぁ、なめなさいよ」
さおりは聖羅の髪をつかんで床に押し付けた。
「やめて!」
朝、取り巻きの後ろの方にいた二人が立ち上がった。
それと同時に
「やめなさい。」
佳織がさおりにいった。
「佳織様・・・」
「さあ立ちなさい、聖羅」
「でも佳織様・・」
とまどうさおり、そーと立ち上がった聖羅に向かって。
バシッ
と佳織の平手が飛んだ。
「私はこれで満足よ。」
さおりも立ち上がった二人も呆然としていた。
聖羅だけはまるで分っていたように。
逃げもせず目をつぶって佳織の平手を受けていた。
「ありがとう、ごめんなさい。」
頬を手で覆いながら、深々と頭を下げた。
2人は一度寮に戻り、着替えをして再度昼食を食べていた。聖羅の給仕で・・・
昼食後の休み時間、心配そうに駆けつけた二人、
西尾香奈と
安西有紀
この二人も聖羅に優しくしてもらい、落ちこぼれの二人に熱心に勉強を教えてくれていて、とても恩を感じている二人である。
「さおりさんもほんとひどいわ」
「止めに入ろうとしてくれてありがとう、でももうやめてね、もしあなたたちの方に矛先がむいたら大変だからね。」
「でも聖羅様」
「様はだめよ、呼び捨てにしなきゃ。」
「・・・くすん」
2人は泣き出した。
「私は大丈夫だから、ね。」
「佳織様もこんなに酷くたたかなくても。」
口の中が切れて血が出ている。
「いえ、佳織様に助けられたのよ 私。」
「え?」
「さおり様の怒りを静めるためにはこれしかないのよ、それに手加減なんかしていたら収まらないから」
「さあ、私は大丈夫、授業がはじまるわよ」
2人は納得していない様子だったが授業に向かっていった。
お昼のかたづけをして、寮生のベットメイキングをして、夕食の仕込み、夕食の給仕、かたづけと一日くたくたになって働いた。しかしお昼の失態の罰はさらに厳しく、一日中食事抜き 結局この日食べたものは、春花が差し入れてくれた菓子パン1つだけだった。
「お腹空いていて、頬が痛いのとで眠れないわ・・・」
ずきずきと痛む頬を抑えながら布団に丸まった聖羅だった