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居待ち月の夜に  作者: 峰丘 馨子
葬送の儀
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第八十二話 一網打尽


 人間の劣勢。その状況が好転しないまま、私達は春を迎えてしまった。長の封印は、いつ解けてもおかしくなかった。


 「んー、これ以上は無理かなぁ」

 「無理って……。諦めるんですか?」


 白鷺殿は首を横に振る。


 「まさか。囮作戦が無理なら、他の策を考えれば良いだけでしょ。まぁ、そろそろ鬼が囮作戦に気付く頃合いだしね。ここらが潮時だよ」


 確かに、同じ手をいつまでも使うのは愚行である。


 「そこで、今度は封印の場所で囮作戦をやるよ」


 この時の私は、人生で一番引きつった笑顔をしていた。


 「おとりさくせん、やるよ」

 声による反応をしなかった私に、白鷺殿は発言を繰り返した。


 「聞こえてます。囮作戦に気付かれると困るから止めよう、という話じゃなかったんですか」

 「都での囮を止めよう、という話だよ。長の守衛を我々に引き付け、がら空きになった長を叩く」


 白鷺殿によれば、鬼はある程度の役割分担をしているらしい。守衛役の鬼は、戦う能力も他より高いようである。


 「あれ、守衛を引き付けてしまったら、結局私達が足止めされるんじゃ……?」

 長が無防備になっても、攻撃出来なくては意味が無い。


 「変なことを聞くね。どうせ全部殺すのに」


 虫一匹殺せないような空気を纏いながら、そんな発言を平然と出来るのが白鷺殿だ。分かっていても、毎度、見た目との落差に驚かされる。


 といっても、鬼を全滅させることに異論は無い。白鷺殿が付けた優先順位は正しい。守るべきは人であり、取り去るべき脅威は鬼である。守衛を排し、長を倒せば、都の鬼も勢力を弱めるだろう。もしかしたら、生気集めの手を止め、封印の場所まで戻って来るかもしれない。何にせよ、白鷺殿の策が逆転の目になりうることは、間違い無さそうだ。


 私は暁殿と共に、籠乙女の元へ向かった。彼女に協力を仰ぐためだ。籠乙女に仕える霊獣達は、鋭い爪や牙を持つ。戦力として借り受けたいと、相談した。


 「都がそんなことになっていたなんて。どうりで千咲さんも暁も、最近来ないと思ったわ。そうね……狼や鷹から霊獣になった子なら、力になれると思うわ」

 「それじゃあ……」

 「喜んで、協力するわ。きっと役に立つわよ」


 彼女が選んだ霊獣達は身体が大きく、鬼よりずっと強そうだ。


 「ありがとうございます。助かります」

 「千咲さんには沢山遊んで貰っているもの。都が滅んでしまったら、もう遊べないのでしょう?」


 遊び相手だから手を貸す。何とも彼女らしい理由だ。けれど、そういうものが平穏な日常を作っているのだろう。ささやかな幸せを見返りに、その優しさは差し出される。


 それから幾人かの協力者を得て、私達は新たに講じた囮作戦を決行した。


 作戦の序盤はいつもと同じ。都で無防備に走り回る。


  「また会ったな」

 「前回は逃げられてしまったが、今日こそはその身ぐるみ全部剥いでやるからな!」


 私の進行方向をふさぐように、いつぞやの賊が立ちはだかる。


 「へへっ、やっぱりこいつの衣は上等だ。当分食うに困らないぞ」

 彼等は、じりじりと私に詰め寄り、声高に叫ぶ。


 「そら、捕まえろ!」

 男達が手を振り上げ、私に掴みかかる。私はそれをかわし、身体を真後ろへ反転。一目散に逃げ出した。


 七条、八条と通り過ぎ、薄気味悪い羅城門を抜ける。私が向かうは都の南、とある林の手前。そこで私は賊に追いつかれた。衣を引っ張る彼等に、私は抵抗を続ける。


 「離しなさい、それは私の物だ」

 「ええい、往生際の悪い奴め。大人しく寄越せば良いものを」


 攻防を続ける私達。だが真の敵は、騒ぎを聞きつけ集まった、苔色の群れである。


 「げぇっ、本当に鬼じゃないか」

 「だから、そう説明したでしょうが」


 そう、彼等は私の協力者だ。私が封印の場所に近付く理由として採用した。賊に追われている内に、たまたま封印の近くまで来てしまったという設定だ。なので、怪しまれないよう、封印のある林の中までは入らない。そこまで行くと、私が封印の場所目掛けて走っていたことがばれてしまう。


 集まる鬼は数え切れない。


 「力の無い私にも見えるってことは、連中も生気を吸ったんだね」

 「冷静だなあんた、本当に俺達は無事に帰れるんだろうな?」


 「私だって怖いよ。それ以上に強くて頼もしい味方がいるってだけ」


 鬼と私達の間にあった何も無い空間に、次々と妖怪達が現れる。


 「追い付いたよ、少輔。囮ありがとう。もう少しだけ付き合ってくれるね?」

 「はい」


 鬼に気付かれぬよう、距離を取っていた白鷺殿が、和琴殿と共に合流した。私が知っている和琴殿は、美しい女人の姿であったが、この日は本来の姿である白狐として現れた。純白の体毛に大きな身体で、白鷺殿を乗せて来たのだ。


 小道の扉からは橋姫。と、誰であろう。見覚えの無い女人を連れている。


 「助っ人を連れて来たわ。陰湿で小賢しい鬼の相手には持って来いよ」

 「どういう意味かしら。貴女も十分性悪女のくせに」

 「あら、私にそんなことを言って良いのかしら。あまり余計なことを言うと、私も余計なことを言うかもしれないわよ。探女ちゃん?」


 橋姫の言う助っ人は、天探女らしい。詳細は不明だが、橋姫が天探女の弱味を握って、協力させているようだ。

 霊獣達の姿も見える。全戦力の集結を確認した白鷺殿が、静かに幕開けを告げる。


 「では、始めようか」


 妖怪や霊獣が、一斉に鬼へと飛びかかる。そして私と賊、否、私と元賊を橋姫が守る。


 「物理的な攻撃に寄ってて助かったわ。これなら私の壁でも防げるもの」

 橋姫の壁に阻まれた鬼が諦めて力を緩めた瞬間、暁殿が鬼を拘束。その腕を振り解くより先に、鬼の命は終わった。


 私の登場が罠だと気付いた鬼達は、逃亡を計る。だが、もう遅い。逃げ道には、茜殿が待ち構えているのだから。


 「逃がさないわ。全員ここで果てなさい」

 「赤色……!」


 茜殿の肌色は、鬼達を絶望させた。鬼は一族ごとに固有の色と能力を持つ。人間に取り憑いて生気を吸い、力を得る苔色と、生まれつき高い身体能力を持つ赤色。苔色に勝ち目など無かった。


 「前も後ろも駄目か。おい、どっかに抜け道は無いか。数ならこっちの方が多いんだ。上手いこと隙を作れれば……」


 苔色達は戦闘を諦め、逃げる方法を模索する。それを冷ややかな目で見るのは天探女だ。

 「何が『上手いこと隙を作れれば』よ。騙し合いで私に勝てると思わないでちょうだい!」


 こうして、鬼は逃げるどころか、どんどんこちらの猛者達の前に、引きずり出されるのだった。


 「ったく、何匹いやがる。これだけ潰してるってのに、減ってる気がしねぇ」

 「やはり何処かで繁殖してますね。生気を使えば、短時間で子供を成長させるくらい出来ますから」


 始めから戦っていた鬼と違い、別の場所にいる鬼達は、こちらとの戦力差を知らない。彼等は仲間を助けるべく、新たな戦力を投入し続ける。


 力の差は歴然だったが、いかんせん数が多い。いくら強くとも、その力は無限に振るえる訳では無い。戦いが長引けば、こちらの優勢が覆ってしまう。妖怪達はまだしも、白鷺殿の疲労は深刻な問題だ。皆が不安の色を覗かせる。


 「さすがに、ちょっとしんどいね。でもまぁ、大丈夫だよ。集めた生気はいずれ枯渇する。都から生気を持ち帰るには、ここを通らないといけないでしょ? そいつらをここで止めれば、生気の供給も止まる。短時間で繁殖することが無くなれば、終わりが見えるはずだよ」


 そう言って白鷺殿は、挫けそうになった彼等を鼓舞した。


 「そうかい? んじゃ、もう一頑張りしてみるか」


 勢いを取り戻した彼等に、怯む鬼達。生気集めに何匹割いているかは知らないが、一度に戻って来ても多分止められるのだろう。そして、その時は案外早くやって来た。


 「何だ、この騒ぎは」

 「ひっ、赤色だ」


 都から生気を持ち帰ったと思しき鬼が、数匹現れたのである。


 「駄目だ、向こうへ行け。逃げろ!」


 仲間の警告を聞き、生気集め役の鬼が引き返すが、その上空には鷹の霊獣。速すぎる動きに、鬼達はついて行けない。その後も、都から戻る鬼が長の元へ辿り着くことは無かった。

 

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