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居待ち月の夜に  作者: 峰丘 馨子
満天の星
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第六十八話 星夜の晩に


 昔、少納言の姫が、謎の大男に連れ去られるという事件があった。それを解決したのは、姫に仕える一人の女房。彼女は没落貴族の娘で、少納言の姫が大好きだったそうです。大切な人を助けたいと願った彼女に手を差し伸べたのは、不思議な老女。姫を助けられたのは、その老女のお陰だったと、女房は語る。


 姫が連れ去られ、悲嘆に暮れた女房は、見知らぬ老女に縫い物を頼まれました。女房は、言われた通り、衣を縫いました。衣を受け取った老女は、縫い物のお礼にと、上等な布地を女房に譲ります。その布で縫った衣を羽織った女房は、姫そっくりの姿になりました。


 その後、再び老女は現れ、やはり縫い物を頼み、お礼の品を置いて行きます。姫そっくりになれる衣の次は、着た人を透明にしてしまう衣です。女房は二枚の衣をまとい、姫の元へ。姫に透明になれる衣を着せ、外へ逃がし、女房は姫の振りをして、その場に留まりました。


 そこで、例の老女と再会した女房。老女は布と裁縫道具を女房に渡し、日が暮れるまでに仕上げるよう、指示しました。仕上がった衣は、女房の身体を小さくしました。山鳥の背に乗って、辿り着いた場所は小人の世界。そこで出会った男性と結婚し、夫を連れ、彼女は無事に帰還したのだと言います。


 その女房というのが、浜菊さんのお母様だそうです。

 「浜菊が全然来ないんだもの。心配になってしまって。山鳥を迎えにやったのよ。そうしたら、山鳥が何も無い空中を突っつき出してね。山鳥の姿が見えなくなってしまったの」


 それを聞いた私は、山鳥のそばへ行き「さっきは怖がってごめんなさい」と言いました。せっかく助けに来てくれたのに、失礼な態度でしたね。山鳥に伝わったのかは分かりませんが。


 それにしても、山鳥は何を突っついていたのでしょう。あの、何かを通り抜けたような感覚といい、きっと、山鳥が突っついていた場所は、何も無い空中なんかじゃなかったはずです。兄と話し、後日暁さんに聞いてみようということになりました。


 邸の女主人、花菱姫が五条の邸に使いを出してくれ、私達兄妹は一安心です。


 「お迎えが来るまで、おばさん達と待ちましょうね」

 そう言って、幼い私達の相手をしてくれる邸の方々は、皆優しくて、とても良くしてくださいました。双六で遊んだり、美味しいお菓子を頂いたり、私達兄妹が退屈しないよう、手を尽くしてくれたのです。


 けれど、私の中に残る四条邸での楽しい記憶は、あまり多くありません。単に忘れてしまったのもそうですが、私は遊んでいる途中で寝てしまったらしく、気付いた時には、もう四条邸を出ておりました。


 「お父様?」

 「ん?夕星起きたのかい? もうちょっとでお家に着くよ」


 私を背負った父の声。


 「駄目だよ、子供だけでうろうろしては。まぁ、目を離した私も悪いけど」

 聞き慣れた声と匂いに、私はまた涙をこぼした。


 「良かった、良かったぁ。もうお父様ともお母様とも会えないかと思ったの」

 「うん」

 「すっごく怖くて、誰もいなくて、女の人が変で、全部真っ白だったの」


 気持ちが高ぶり、要領を得ない私の言葉。父は、兄からおおよその経緯を聞いていたので、こちらの意思は一応通じていたのでしょう。

 「そっか、怖かったね」と私を労いました。


 星明かりに照らされた、五条の邸。毎日当たり前に過ごしていた場所が、とてもまぶしく見えた瞬間でした。出迎えた母が安堵の表情を見せる。私と兄を抱き寄せて、お騒がせな兄妹の無事を確かめると、今度はたっぷりのお説教。そもそもの原因を作った兄は、特にきつくお叱りを受けました。


 その晩、兄が父の部屋でぐずっているのを、私は見た。小さな妹の前では、自分がしっかりしなくてはと、ずっと我慢していたようです。本当はこの日、私は父の部屋で寝るつもりだったけれど「今日は私が我慢しよう」と、二人に気付かれぬよう、そっと自分の部屋へと戻った。

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