第五十一話 再訪
何故か、高天原の住民達は私を歓迎した。
匂い袋捜しの折りに見かけた顔もあるようだったが、そうでない顔も多かった。そもそもこの住民達は、私と暁殿に対して冷ややかだったはずである。もしや、暁殿がいないから、態度を変えたのだろうか。そうであるなら、この歓迎ぶりは全く嬉しくない。
「籠乙女の庭で演奏していたのは、お前さんだろう?」
思いがけない言葉が、住人達の口から発せられた。
「あれは良い音だった。実に晴れやかな気分になる」
「もう一度聞きたいもんだね」
と、皆が言う。
篳篥の音は大きい。籠乙女の庭での演奏が、周辺に住まう神々の耳に入ったとしても、不思議では無い。彼等は、私の篳篥を聞いた感想を一通り言い終えると「暁に悪いことをした」と口にした。
「橋姫がね、言いに来たんだ。『もう止めよう』って。私達は、もう十分あの子を責めた。あの子に全く関係の無いことで、理不尽に文句を言ったこともあった。酷いことをしたよ、私達は。その酷いことを、全部止めようって、橋姫が言うんだ。『口に触らなければ、それで良いんだ』って、そう言うんだ。素直に『ああ、そうしよう』と思えたのは、きっと、あんたの演奏を聞いたからだ」
「母親が死んでしまって、あの子だって辛かったろうに。可哀想なことをしてしまった。思えば、あの子が我々に危害を加えたことは、一度も無かった。あんな目に合いながら、一度も。我々が気付かなかっただけで、優しい子だったのだね。君の演奏を聞いて、我々も優しくなれた気がするよ。ありがとう。これでもう、あの子を苦しめずに済む」
そう話す住民達の顔は穏やかだ。きっと、彼等と暁殿の間に出来た溝は、決して浅くは無い。けれど、その溝が埋まるまで、さほど時間はかからないだろうと、私はおもった。
私が籠乙女との再会を望んだ一番の理由。私はそれを彼女に手渡した。
「これ、もしかして……」
「碁盤と碁石です。私は二つもっているので、片方を貴女に」
彼女には、私がもともと持っていたものを譲り、私の手元には、良成の遺品として持っていたものを残した。
「紙で代用した時より、線が多いわね。それに、碁石が凄く綺麗だわ」
新品でないのが申し訳無いと思っていたのだが、喜んでいただけたようなので、良しとしよう。
「貴女が碁盤を持っていれば、私が訪ねた時、また対局出来ると思いまして」
「ええ、ええ。いつでも遊びに来てちょうだい。もちろん、今日も遊んでいってくれるのよね?」
皆が心配するので長いは出来ないが、ちょっとくらい大丈夫だろう。私は彼女と再戦した後、篳篥を演奏。籠乙女や、篳篥を聞きに集まった住民達に見送られ、私は都へと戻った。




