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居待ち月の夜に  作者: 峰丘 馨子
籠の乙女
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第五十話 起床


 私が目覚めて最初に見たのは、心配そうにこちらを覗き込む時雨殿のお顔だった。


 「大丈夫か? どこか痛いところは?」

 「君は本当に過保護だなあ」


 私を心配する時雨殿を、白鷺殿が笑う。私は二人の話声を聞き、都に戻って来たことを実感した。


 身体を起こし、部屋の中を見渡す。いつか、天狐殿に通された部屋だ。すなわち、西六条邸である。どうやら、暁殿が白鷺殿に頼み、倒れた私を保護してくださったようだ。


 私が高天原にいる間、都ではちょっとした騒ぎになっていたらしい。私の姿が見当たらないと、五条の義父が左大臣邸に連絡。牡丹の君と私が一緒にいないことを確認した左大臣殿が、大慌てで都中に使いを放ったのだという。当然、時雨殿の耳にも入った。


 その内、私が賊に追われて鴨川に飛び込んだ、との報せが届き、関係者は皆、顔を真っ青にしたそうだ。


 「すみません。私もこんな騒ぎになっていると思わなくて」

 部屋の隅に控えていた暁殿が、おずおずと口を開く。


 「一度都に戻った時『千咲君が高天原にいる』と白鷺に伝えていたから、てっきり皆知っていものだと……」

 「え?」

 「は?」


 今、何と? 私と時雨殿、部屋にいた数名の妖怪達が、一斉に白鷺殿の顔を見遣る。時雨殿は立ち上がり、白鷺殿の前へ。


 「知っていたくせに黙っていたのか、この馬鹿!」


 文字通り、雷が落ちた。時雨殿の怒声に、私や妖怪達はわずかに身体を強ばらせたが、当の白鷺殿は何とも思っていないようだった。


 「暁が気を回して皆にも伝えてくれてると思ったんだよ」

 と、悪びれること無く責任転嫁する白鷺殿。


 「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

 「いや、待て。お前のせいじゃない。待て待て、な?」


 素直に謝罪する暁殿を、時雨殿が慌てて擁護する。その隙に白鷺殿が部屋を出ようとしたが、時雨殿が見逃してくれるはずも無く、すぐに捕まった。


 白鷺殿は、時雨殿にしこたま怒られ「もう、分かったってば。次から気をつける」と、投げやりな反省を述べ、何事も無かったかのように、私の前で腰を下ろす。


 「高天原とはまた、えらい所に行っていたね」

 珍しく見開いた鉛色の瞳。彼の言葉を聞くまでも無い。これは、私を散々困らせた彼女の目と同じ。


 「……聞きたいですか?」


 私が問うと、白鷺殿は数回、大きく頷いた。私の身体を気遣う時雨殿は「起きたばかりで無理をさせるのは良くないだろう。明日、いや三日後まで待て」とおっしゃる。


 しかし、白鷺殿は聞く耳を持たない。


 「大丞は疲れて眠っていただけだよ。重病で伏せっていた訳じゃ無いんだから」

 こちらを軽んじるような言い方ではあったが、白鷺殿の言う通りで、睡眠により疲れが取れた私の身体は、とても軽く感じられた。


 私は時雨殿に「大丈夫ですよ」と伝え、橋姫と会った経緯や、籠乙女と親しくなったことを話した。


 「いやあ、想像以上に面白い経験をして来たね。暁からも大体の話は聞いていたけど、やっぱり真人間である君に聞くのが一番良いからね。高天原にはまた行くの?」

 「そのつもりです。ちょっと用があるので」


 西六条を後にした私は、時雨殿と共に五条の邸へ。邸には左大臣殿もおり、皆で私を大袈裟に出迎えた。それだけの心配をかけたのだろう。だと言うのに、当の私が遊びに夢中だったものだから、彼等の心中を思うと本当に申し訳無い。


 心配性の彼等は私の外出すら反対した。が、私は籠乙女の庭を再訪する。五条の邸から最も近い扉は東市の中。鍵を持つ者には、高天原に抜ける扉が視認出来るそうで、私の目にも、それははっきりと映った。扉といっても柱が二本立っているだけで、どちらかと言えば門に近い。

 私は柱の間を通り、高天原へと抜けた。

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