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居待ち月の夜に  作者: 峰丘 馨子
初雪
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第二十話 灯火


 「お前さん、灯火ともしびという男を知っているかい?」

 聞き覚えの無い名である。


 「そうかい。まあ、あいつは早くに隠居していたからね。灯火は先々帝の弟宮でありながら、自ら従七位の陰陽師となった変わり者さね」


 変わり者の陰陽師というのは、どこかで聞いた話だが、案の定、灯火という人は白鷺殿の祖父であった。


 「灯火は陰陽師としての才を、早くから開花させていたよ。だがね、信用されていたのはその腕だけ。あいつの性格は誰とも合わなかった」


 白鷺殿が少々変わっているのは、その灯火殿に似たのだろうか。


 「多分ね。でも、白鷺の方が利口だよ。灯火はね、ちと真面目が過ぎたんだ。曲がった事が大嫌いで、公平性を欠くような事は、絶対に許さなかった。それ自体が悪い事だとは思わんが、時には目をつむって、相手との折り合いを優先するってのも必要だろう?灯火にはそれが出来なくてね。とにかく不器用な奴だったよ」


 真面目が過ぎるという彼は、頑固で融通の利かない部分もあったようで、

 「身分が高いから何だというのです。それで過ちが許されるなんて、どうかしている」

 などと相手を選ばず言ってしまっていたそうだ。


 そもそも皇子としてお生まれになった方なので、貴族相手に怖じ気づくようなことは無かったのだろう。天狐殿も「奴は従七位という位がどういうものか、その自覚が足りんかった」と話す。


 「役人にはなれないような、身分の低い連中の生活を知ってから、ますます角が立つようになった。あいつは格差とか、差別とか、大嫌いだったからね。貴族達の贅沢な暮らしに反感を持ったのさ。美しい衣を着た貴族に向かって『ただ生きるにも苦労する者があるというのに、どうしてそんな高価な衣を仕立てようと思えるのです』なんて言うからね。あっという間に孤立していったよ」


 灯火殿の言葉も理解出来る。けれど、それを貴族に言ったところで、受け入れられるはずがない。本当に損な性格だったのだろうと思った。白鷺殿も、身分や家柄を重んじる貴族社会を「くだらない」と一蹴していたので、このあたりの価値観は灯火殿と似ているのだろうが、白鷺殿はもう少し上手く立ち回っている印象があった。


 そんな灯火殿にも、僅かながら理解者がいたようである。


 「中将……今の左大臣は、灯火の考え方に共感していたよ。といっても、灯火のような馬鹿はやらん。自分の考えを他人に押し付けたりはせんかった。『上流貴族にしては』質素な生活を、一人で勝手にやっておった」

 その方が、利口である。生きやすい選択だ。何の解決にもならないけれど。


 「女達に対しても同じ。『派手に着飾る人を美しいとは思わない。どんなに美しい衣をまとっても、その人自身が美しくなれるわけではないし、化粧に心の醜さまで隠す力は無い。結局のところ、正直で誠実な人が一番美しい』って」


 「それを女性の前で言ったんですか」

 「言った言った。その本人が美男子で有名だったんだ。笑えるだろ」

 その後については聞くまでも無かったが、「摩擦しか無かった」そうである。


 しかしながら、孫である白鷺殿がお生まれになっている以上、灯火殿もご結婚されていたはずである。


 「灯火の北の方は、大らか過ぎるくらい大らかな娘だったよ。そうでなきゃ灯火とは付き合えん。ただ、最初の子供を産んだ後に病気をしてね。そのせいかは分からんが、二人目は出来んかった」


 白鷺殿の性格が灯火殿に由来するというなら、灯火殿のお子はどんな人物に育ったのだろうか。


 「何も変わったところは無い、普通の男の子だった」

 意外である。


 「陰陽師にはならず、伯父宮の厚意で太政官に入った。少外記だから、正七位だね。普通に結婚して、普通に生活してた。が、十六になった年の夏に白鷺が生まれた。髪も肌も白い子供が生まれて、邸中が大騒ぎさ。まあ、それも一時のことで、皆すぐに慣れたがね」

 私も、初めて白鷺殿とお会いした時は驚いたが、今は何とも思わない。頻繁に会っていれば、そんなものだろう。


 「あれだけ平凡に生きた奴だ。死ぬ時だって、病だとか、老いだとか、平凡で良いはずだったんだ」

 「何かあったのですか?」


 突然、天狐殿の言葉に、不穏なものが宿る。


 「殺されたのさ。白鷺がまだ、五歳の時にね」

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