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世界と芽生えるユグドラシル  作者: 風無彩華
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第2話「歴史の序章と視覚の復元」 

その樹木は世界の創造と同時に誕生した。



広大な大地の中心に並外れてそびえる木が一本生えている。


「レア」にすむ人々はその木をユグドラシルと呼ぶ。


人類が栄える前から不動で、この地を潤している影の立役者だ。


神をも等しい存在であり、世界の人々はユグドラシルの元に繁栄したともいえる。


豊かな自然をもたらし、ユグドラシルの加護を受けた動植物は健康的な人生を送るとされている。


ユグドラシルは意思を持っている、その葉で死人を生き返らせることができる、中身がダンジョンになっていたりする。などのうやむやな迷信が多数あり、謎が未だに多く残っている。



序章 ~ユグドラシルについて~

著者 ヘズリア=フィンフール XXXX年 X月XX日

============



俺は魔力を動かせるようになった。




具体的にどうやったかは形容しずらいが、まずは大樹の中で一点に魔力を集中させることを目標に、魔力操作の練習する日々を開始した。


結論を先に述べると、奈落の底に落とされたようなあの頃に比べれば短すぎるほどで済んだ。


魔力というのは、硬度の低い水と似たような印象と感触をしている。


意識を集中させれば、魔力をコントロールすることが出来ると気付いてから、毎日同じことを念入りに鍛錬し、練習する時間と比例して次第に操ることができるようになっていった。


リハビリの患者の人が、失いかけた身体機能を精一杯努力して取り戻す感覚を思い浮かべる。


最初の頃こそ、ほんの少しの感覚しか体感できずに苦労を要したが、やればやるほど形になっていく過程に面白さを感じた俺は、苦痛を一切感じないままそれをマスターした。


そして、地球で学んだ物理などの授業のおかげか、間接的に特徴を把握することもできた。


例えば、魔力という物質は、様々な物に変化すること。


ダークマターのように未知で溢れていたが、小説で得た魔力の認識を使う時が来るとは思ってもいなかった。


前世の妄想が実在していることに、違和感を覚えることもあるが、ファンタジー作品でよく読んだ世界は今や自分の目の前に存在していて、これから何が起こるか予想できない高揚感に胸が躍る。


ただやることは、ゴールがある一本道を躓きながら踏みしめていくのみ。


今の自分に挫折という言葉は無く、来る日も来る日も同じことばかりを練磨した。


気がつく頃には、自分でも職人並みの技術だと思うほど、精度が高い操作ができるようになっていた。


練習したら上手になることは木でも言えるらしい。元は人間だからかもだけど。


体内での魔力操作をほぼ完璧に習得した俺は新しいことにチャレンジすることにした。


まずは魔力感知だと前世からの知恵で獲得を目指して行うことにする。


操作の時と同様に、練習の日々を開始した。


一歩も行動できないという点では実に不便かもしれないが、動くという機能がない分集中しやすいのかもしれない。魔力操作の時とは段違いの速さで習得をすることができた。


感知といっても、外気に混じった魔力は微量だった。


幹の表面付近に、何か特別な物があるわけでも無く魔力の他は、地球とあまり変わらない気がした。


ただ……感知を行ったことで、ここがファンタジー世界だと、確証を得ることができた。


___________


そんなこんなで、俺は魔力という媒体を得たことにより、様々な異世界特有の初歩的能力をほぼ完璧に身に付けることができたと思う。


覚えてる範囲で何年かかったかは不明だが……


自分の思いつくものは全て覚えた。

魔力操作、魔力感知はもちろん、物質生成、複合発動……などなど沢山。


一番使い道が多そうな物質生成は最初、魔力をどう変化させるか分からず、四苦八苦した。


できた物が、どうなっているかを確かめるために、感知の能力が行き届く体内に穴を開け、そこで行うことにした。


練りあめを思い描いた形にするような感覚で、生成を行う。


不完全な物が出来上がることが9割9分で、納得がいくほどの物を創造するのには流石に骨が折れそうになった。 


出来上がった失敗品、成功品は体内の穴に溜まっていく。


中々上達しなかったが、一度コツを掴むと作業が捗るようになっていった。


小物を中心に、細部まで細かく作り上げていくには、集中力・持久力・精神力、そして、どのような物質かをしっかりイメージする想像力が不可欠だった。


魔力が無い時に散々行った想像は物質生成において効果を発揮し、それに気付いた瞬間飛躍的に技術力が向上した。


積みあがっていくものを感知して、失敗品は何処が悪いのかなとか成功品を眺めて此処が上手くできたなとしっかり見定めて、今後に生かす。


それを繰り返していき、物質生成というオーバーテクノロジーを手に入れることができた。



そんなこんなで、そろそろ技術の習得は置いておく頃合だと思う。


物質生成を覚えたのにはちゃんと理由があった。


視力、聴力、その他感覚の全ての確保だと俺は踏んでいる。


本格的にこの世界の情報を入手する時がきたのだ。


……さて、最も優先するべきなのは視力だ。


視力により入手できる情報量は、聴覚、味覚などと比べて非常に多く、科学的に見ても全体の8割が目からだとか。


幸いにもこの体は魔力が神経の役割をしているため、目の構造部と神経、目に映った被写体を投影するためのフィルムのようなものを作れれば視覚を作り出すことも可能なのではないかと、成功する祈りを込めて試みることにする。


努力の末に磨かれた魔力での物質生成は、今ならどんなものでも作れる気がした。


成功したかは視覚と聴覚が無いため判断ができないが、自分の思念の中で正確なイメージを作れる自信がある。



目に必要なのはレンズ、水晶体、角膜、虹彩、エトセトラ……


難しそうなものばかりだけど、魔力生成で作れないものはないはずだ。


俺はこれ異常ない集中力を発揮し、地球の医療機関でも使われていそうなぐらいの完成度を持つものが完成した。


こんな作り合わせの物で本気で視覚が回復する確信は無かったが、視覚が戻るかもしれないという期待は、この世界へ転生してから一番大きいものだと思う。


作り上げたものは、お手の物となった魔力操作の応用技、サイコキネシスで想像した形へと構成していく。


非現実的だけど、魔力には無限大の可能性があった。魔力で作り上げた物は根本が魔力だから、動かすことができたのかもしれない。

本来のこの世界に元からある物質ではわからないのだけどね。


作り上げられた眼に、さらに創造した視神経、フィルムを組み合わせ、一番目立たなそうでなおかつ良く辺りが見渡せる木の幹の真ん中の枝でちょうど隠れている場所に気づかれない程度に露出させて魔力を通してみた。




何千年も開くことの無かった彼の眼は今、一つの折を迎えた。

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