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世界と芽生えるユグドラシル  作者: 風無彩華
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第1話「芽生えた命は特殊なもので」

長編処女作。

俺は植物状態だ。その真実を知るのに、俺は長すぎる歳月を過ごした。



======

いつものように高校生活を終えた学校の帰り道、そこで俺はトラック車に撥ねられた。

運転手の飲酒が原因によって起こった、自転車用歩道への侵入だった。


撥ねられた瞬間俺は空を舞い、接地地点で凄まじい衝撃を受けた。


刹那、俺の意識は途切れ、今に至る。


-----------


俺は死んだのだろうか?




意識がはっきりとしていない脳で思考した。


その疑問は意識が覚醒してくると同時に、考えるという動作を行えたという事実から、答えを導き出すことができた。

それは、俺はまだ生きているという証拠だ。


痛みは無いのだが、多少記憶の曖昧な部分がある。


あまりにも唐突に訪れたトラックは生を保ててるのが不思議だと思うほど、猛烈なスピードで突如襲い掛かってきた。


それを考慮するならば、記憶の混乱は優しいほうなのだろう。


予想外の事故に巻き込まれた俺は、記憶の混乱とは別に、大きな重症を負った。

細かく言うならば、目が開けず、耳は聞こえず、鼻は効かず、手や足の感覚も無く、全身に麻酔をかけられているような状態である。


全身不随。



それが今の俺の状態だ。


轢かれた時に貰った衝撃は、全身へ行き渡り、最悪な置き土産を残していき、無残にも俺の体はボロボロにされた。


動くことが当たり前の生活だとして、突如それが全て奪われたら適応することはほぼ無理だと俺は思う。


ましてや、自身の場合は行動に必要な全てが無くなったと同等だろう。

全身が動かないという現状を、簡単に受け入れることは不可能だった。


ただ、最高に最悪という訳ではない。


奇跡的にも、思考の機能が失われることは無かった。

これがもし、消失していたら、俺は今頃生命活動を停止した肉となり、残酷な未来が待っていただろう。


そう考えると、絶望的なこの重症でも治る可能性は十分にあるのではないかと、希望的観測をすることができた。


きっと、動かせなくなった身体へ、感覚が戻ってくるだろうとその時は思っていた。



そんなものは露知らず、この先彼が目指す終点は、遥か彼方にあった。


----------


事故から何日か経った。


いや、正確には分からないのだけれども俺の感覚で測ればそれぐらいは時間が経過しているだろう。


この数日を過ごして少しおかしいと思うことがあった。


眠くならないのである。1日や2日の感覚なら不思議と思わなかっただろうが、流石にこれは妙だ。


重症を負ったことで、初めて分かることなのかもしれない。


でも、やばい怪我をしたときの意識は全く眠くならないなんて情報聞いたことがない。


考えられることと言えば脳と心臓を抜かした臓器の全てが働いてないおかげで脳のキャパシティ容量に余裕がある可能性だ。


衝突事故なんて人生で一度か二度経験すれば多いほうだと思う。


納得がいく回答を自分の頭で引き出すことはできなかったが、こんなものなのだと、俺は勝手に認識することにした。



----------

眠くならないことに疑問を抱いてから、数週間だと思う今日。


未だに睡眠欲というものは生まれない。


思考だけして時間が過ぎる日々はなんとも言えない退屈さがある。


事故前の日々を振り返り、あの日は、○○と遊んで楽しかったな……。とか、事故が起きて数時間から1日ぐらいで意識が回復できたと仮定したら今は大体で図ると5週間ぐらい経過したと推測をすると今頃テスト期間じゃねぇか?!……死にてぇ……。とか、気になってた女子は今どうしてるだろうか。とかお寿司食べたいなぁ。とか趣味で読んでた小説途中だったのに...続き気になるなぁとか。


消化し切れていない日々だったり、楽しかった思い出だったり、思い出深いあの時だったり………。


詰め込んだタンスから衣服を取り出していくように、人生で経験して覚えた記憶を、こと細かく想起していった。


こんなことなら妄想癖でも付けとけばよかったかな……と脳を働かせる。


通常なら、考えてから実行するために、脳から神経へ指令を飛ばして、正確に実行するのだが、一切のコントロールを受け付けない今の自身の体は、人の言うことを聞かずにただずっと寝ている人と一緒である。


思考ができても動けないというのは、本当に何もできない。


考えることと動くということを切り離してしまうのはタブーなのだ。


微々たる発見をすることも叶わない運動機能の制限は、無慈悲にも俺の精神に悪影響を及ぼしていく。



嗚呼、退屈だ。 

そろそろ目覚めてもいい頃なんじゃないか?


時間とともに比例する焦燥感が増えていくばかりだった。



---------


それから数週間……数ヶ月……数年……数十年……数百年……数千年……


千秋万歳を闇の中で過ごした彼の心は枯れていた。


時間は楽しい時ほど早いという考え方があるが、彼から見れば、とてつもなく退屈な時間であったため、文字では詳しく表せないほどに、時の感じ方は恐ろしく酷く、そして遅いものだった考えられるだろう。


彼が感じている虚無感を例えるなら、無限に続くコンベアに、箱に入った荷物として置かれ、誰にも空けられることがないまま、いつまでも流されていく感じといったら伝わるだろうか。


発見も何もない無の日々。


面白みの欠片のない退屈な日々。


考えるだけで実行も出来ない妄想が、買うだけで積みゲーにしてしまうゲームコレクターのように無限に溜まっていくだけの日々。



そんな日々に彼はもううんざりしていた。


--------


俺は今どうなっているんだろう……


この問いを繰り返すのは何回目だろうか。


幾多の問題を頭の中で提起しては解き、提起しては解きを反復したがこの謎だけは解き明かすことが適わなかった。


本当の答えはまだ分からない。


これまでのことから、彼はもう直ることは無いのだと、察していた。


この事故が起きてから、少しでも良い方向に思考を傾けたかった。

自分が治ると言い聞かせていた。


でも、そんな幻想は絶対存在しないと心を闇に侵食された彼は既に感付いている。


自分が植物状態なのだろうと。


植物状態とは大脳の機能の一部又は全部を失って意識がない状態だが、脳幹や小脳は機能が残っていて自発呼吸ができることが多く、まれに回復することもあり脳死とは根本的に違うものだ。


自分の場合は少し違い、大脳が完全に働いているが、末梢神経が全て死んだのではないかと思う。

全身が動かない。意識だけははっきりしている。


植物状態でなければ何が考えられるだろうか。


天国?いや、どう考えても生き地獄だろう。


自分はもう死んでいるのではないかとも感じる。


この人生の中ではあの事故までが幸せで、今があることを恨み、死にたいと考える。


この退屈が続く自分だけの世界に嫌気が差してから、とても長い時間が経った。



生きていることのみが許される地獄を早く脱したい、そんな一つの意思とは反対に、時間は過ぎていくのだった。




_______


_何かを意識が感知した_



それは何の前触れもなく訪れ、ただただ唐突に俺を司った。


感覚という意識の現象を憶えるのは、事故後初だった。


何もかもが新鮮で、人生の転換点から初めて出会うこの感触に、喜びを思い出し、意識の中で俺は舞い踊った。



しばらくの幸福の後、俺はこれが何かを真剣に追求することにした。


正直なんでもいい、誕生日に欲しいものがもらえた子供以上に喜んでいるのだから。


さて、一体これは何なのだろうか?


隅々まで調べに調べ尽くして、もうこれ以上無いってほどサーチする。それが今の俺に唯一できることだから。


もし、まだ自分がどこかの病院で未だに植物状態だとしたら、奇跡的に回復の兆しが見えたと捉えてもいいかもしれない。


彼は、諦めかけていたその考えを、久々に取り出すことが出来た。




ただ、そこに転生という文字はなく、現実世界で生きているということを信じ込んでいた。


実際は数千年経っていて、もう人間という生物でないことが真相だというのをまだ彼は知らない。


_______

探ろうと色々してもそれに何か干渉することができるわけではなかったけど、


水のようなものが体内を埋め尽していくような、流れを感じ取れた、


この短期間で、発見が多過ぎて興奮が隠せない。


唐突に訪れたあの感覚は、ふいに自分の知識では検討がつかない未知の物質として体の中を巡りはじめた。


表現しようとするならば気体か液体の境目ぐらいの物質と言えると思う。


足先に補助パーツをつけて、その先端で受けたような感覚は今や全芯を表現してくれるように、凄い勢いで全身へ行き渡る。




貯めすぎたダムが決壊するのを連想させる出来事だった。


______


分かったことをまとめていこう。

まずは最も大事なことから。



俺は木だった。




そう、地球では多分誰もが知っているであろう木。


体内に溜まったあの物質が、体の輪郭を示してくれたために判明した。


最初俺はこの真実に戸惑ったけど、何もできない状態は木だったと思えばすぐに納得が行くものだった。


むしろ、動けたらそれはそれで恐ろしいと思う。


そして、凄く大きい。具体的なことは判別できないけど、日本の東京都を埋めるほどあるのではないか、と俺は見込んでる。


でかすぎる、それだけしか特徴がないと思ってしまうぐらいサイズが主張されている。


それから、木になったということから又、導き出されることがある。


それは転生したということ。


転生という物はファンタジー系の物語を良く読んでいたのでどんなものかは知っていたが、自分に置き換えてみると実感がわかないものである。


物語の中でしか存在しないと思っていたロマンは、木というプラスアルファの条件を加えて、現実となっていた。


俺は今どうなっているんだろう……と、暗闇の中で絶対に回答が出なかった問題の答えは、全て露になっていた


あの時、俺は「自分は今、植物状態」という誤解をしたが、あたらずもとおからず、ある意味ではその通りだったみたいだ。


考えもしなかった結末に、衝動的に苦笑いが出てしまう。



そしてさらに、未知の物質の正体も判明した。


俺が木だということから根が成長するにつれて伸びていき、根っこの先端が物質の溜まりに突き当たり、そこから植物の本能的行動である吸収を行ったと推察できた。


取り入れたのは魔力だ。 実物は見たことも触れたこともなかったが、勘が激しくそう言っている。


膨大な量の魔力溜まりにぶち当たったである。どうやってこれが生み出されたのか知らないけれど、きっとチャートと同じような構造のものだろう。


樹木内に流れてきた魔力は人間で言う神経の代わりをしてくれているみたいで、それで自分の全体図を捉えることが可能となった。 


地球では考えにくいこの事象だったが、魔力があり、自分が木に転生した。


それは、此処がファンタジーの世界であり、自分の想像を遥かに覆すような事が起こる場所だということを暗示させている。



彼は、今後魔力を使い色々できるんじゃないか?と、失いかけた期待と願望に好奇心を駆り立てられているが、これから先に発生する事例は、特殊なものだらけになるだろう。



この時はまだ、物語のほんの序章にすぎないのだから。

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