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第1話

本日から1週間、1日1話更新です。


追記:日間ホラーランキング1位!ありがとうございます!

 退屈とは毒のような物だ。


 今まさにその毒が、俺の精神を蝕んでいた。



「……あ゛ー」


 ゾンビの声マネももう何度目だろうか。


 何度もやったわりには大して上達もせず、これも暇を潰すには向かない。


 いやまぁ退屈つっても一応やろうと思えば色々とあるにはあるんだが。



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 そういえば、俺がここ数日あえて無視していた存在がある。



 ここはしょぼいながらも、マンションである。


 つまり他にも住民はいるわけで。




「よいしょっと」


 例えば今俺が乗り越えたバリケード。


 勿論、俺はこんな物を作った記憶はない。


 恐らくあのマンションにいる誰かが作ってくれたのだろう。


「……ん」


 バリケードを乗り越え、無事マンションに帰宅した俺は、扉が開けっ放しとなっているある一室へと足を運ぶ。


「誰だわざわざポテチ取ってきた奴……ありがとうございます」


 軽く手を合わせポテチを拝む。


 そしてポテチを持っていく対価として先ほど手に入れた缶詰を1つ置き、部屋を後にした。



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「はぁ、曇ってんなぁ」


 俺はいつもの如く、屋上にて日光浴に勤しんでいた。


 しかしどうも天気がすぐれない。


「……部屋でなんか食うか」


 となれば、嗜好品の類い……まぁポテチの事であるが……そういった物が置かれていないか、マンション住民共有食料庫へと確認に向かった。



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「……ん?」


 食料庫の前に着くなり、俺は何か違和を感じた。



「人の気配?」


 ……ならば特に驚く事はない。


 ……しかし、欲しい物が少しアレなため、食料庫で鉢合わせになるのもどうもバツが悪い。


「一旦部屋に戻って出直すか……?」


 しかし、俺が部屋に戻る決心をするよりもはやく……食料庫の一つ先のドアが、ガチャリと開いた。






「あれ?誰かいた気がしたんですけどね……」


 咄嗟に隠れてしまった。


 てか人がいたの隣の部屋かよ!!?


 そんな俺の驚きをよそに、その男は再びドアを閉じた。




 ……え、何、どういう事。



 困惑しつつも、抜き足差し足、俺はドアにそっと近づいた。


 すると、恐らく食料庫に注意がいきすぎて見つけられていなかったのであろう……張り紙を見つけた。


「歓談室……?」


 ……ぼっちには敷居が高いですね。


 そう判断した俺はくるりとドアから踵を返し食料庫へと向か……


「……あっ、やっぱりいるじゃないですか」


 ……えなかった。



 諦めてその男と向き合う。


「……何か用か」


 声がちゃんと出せたのは日頃の訓練(独り言)のお陰だな、とどうでもいいような事を考えていると。


「あ!あれですよね、屋上でいつも日光浴してる人……あと、雨水を使えるように色々設置してくれた……」


 えっ、見られてるの俺。


 誰にも見られていないと思い、やってしまった幾つかの奇行が脳裏によぎる。


「良かったら、少し話していきません?ポテチもありますけど」


 ……まぁ、少しだけなら。


 決してポテチに釣られたわけではない。


 断じて違う。




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 ボリボリとポテチを貪りながら、俺は歓談室の面々をじっくりと観察していた。


 1人は、俺を部屋へ連れ込んだ男。


 短髪でスッキリとした顔立ち。そして高身長。

 なんとも爽やかで、青年、という言葉がぴったりな男だ。



 そしてもう2人。


 これは老夫婦であった。


 夫の方は歳の割には若々しく、眉間に深く刻まれた皺からは過去の苦労を察する事ができる。

 しかし、決して悲壮感のある顔というわけではなく、歳を重ねそういった苦労を乗り越えた、そんな熟成したような雰囲気が漂った、威厳のある顔付きだ。


 そして妻。

 これは絵に書いたような優しいお婆ちゃん、といった感じだった。

 おそらく、苦労人の夫の良きパートナーとして日々の生活を支えていたのだろう。



 ……と、そこまで人物分析を終えた俺は達成感を抱きつつ優雅にジュースを飲み干した。


「えーと、お腹は満たせました?」


 そんな俺に声をかけてきたのは例の青年である。


「……まぁ、な……」


 どうも口が重い。


 ……やはり対人会話は難しい。

 訓練のしようもないし。


「……そうだ、缶詰……缶詰を食料庫に置きに来たんですよ」


 そんな適当な……(あながち嘘でもないが)理由を並べ、俺は部屋を出ようとする。


「あっ……」


 青年が何か言おうとするがその前にそそくさと俺はドアノブに手をかけ。


「……失礼しました」


 部屋を出た。



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「……はぁ」


 なんだあの妙な空間は。


 俺はそう心の中で愚痴をこぼしつつ階段を登っていた。


「曇ってて日光浴もできねぇし……今日は厄日だな」


 ……おおかた、俺が異能者だと知ってのお誘いだろう。


 あの部屋一つ増えただけで、こんなにも過ごしにくくなるとはな。


 ……そう悪態をつきつつ、階段を登っていた時。


「……あっ」


 どん、と誰かとぶつかる感触。


 そして誰かが倒れる音。


 見れば、中学生くらいであろうか、ひ弱、という印象の残る少女がこけて倒れていた。


「……すまん」


 履いているのがズボンだったお陰か、そういったハプニングは無くて済んだが、それでも俺がぶつかり倒してしまった事に変わりはない。


「い、いえ、私こそすみません……」


 ……妙に長い髪をバッサバッサとしながら立ち上がる少女。


 この状況だ。髪を切る時間、そして精神的余裕が無いのだろう。


 伸びた前髪は、目をもう少しで覆う所まできていた。


「大丈夫?」


「え、あ、あ、はい」


 妙にあたふたとしている少女。


 ……そういや今の俺の面は完全に犯罪者レベルだっけか。


 ビビらせて申し訳なく思う気持ちと、久々の特に裏表の無い会話への歓喜で思わず頬が緩む。


「……じゃあ、俺は部屋に戻らなきゃいけないから」


 ……だがここの住民と必要以上に関わり合うのは良くない。

 さっさと部屋に戻って睡眠でもとろう。


 そう思い少女の側を通り抜けた。



「あ、あの!」


 だがそんな俺の背中に再び声がかけられる。


「わ、私寂しくて……下に、歓談室を……あの……作ったんですけど……」


 喋るにつれ小さくなる声。


「……そうか、君が」


 ……てっきり、あの青年が俺のような異能者を何かに利用するために設置したのかと思っていた。


 だが、どうも違ったらしい。


 確かに、この少女の気持ちもわからなくはない。


 だが……



「……そういうの、迷惑だからさ。やめてくれないかな」


 その思いつき一つで、平穏で釣り合いの取れていたこのマンション住民の関係が、崩壊しようとしている。


 その事実に変わりは無い。



 唐突に冷たい口調に変わった俺に対し愕然とする少女を尻目に、俺は部屋へと戻った。

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