閑話休題 優等生
今話の投下後、再び書き溜めの補填期間に入ります。
遅くても5日程とみています。
赤嶺 美智は優等生である。
誰にでも分け隔てなく接し、成績も優秀だ。
「……つまんないなぁ」
皆、彼女に媚をうった。
一部を覗き、先生でさえ。
「ほんっと、つまんない」
だからだろうか。
声をかけても、まるで興味の無さそうな視線を返してきた彼に、興味を持ったのは。
「……ちょっと買い物手伝って欲しかったんだけどさ……駄目かな?」
「ごめん、急ぎの用だから」
……普通の男子なら快諾して率先して荷物持ちをやってくれるはずなんだけど。
続けて私が何か言う前に、逃げるようにして彼……青葉 茂は教室を出て行った。
「何アレー、感じ悪いー」
気が付くと、横に私の取り巻きである、一条 美弥乃が立っていた。
「せっかく美智ちゃんが気を使ってあげてるのに……何なのアレ」
「まあまあ……本当に急ぎの用だったみたいだし……ね?」
「美智ちゃんやさしー」
そんな空虚なやり取りが交わされる。
……つまらない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
「はぁ……」
女子寮に帰るなり、ドサッとソファーに寝そべる。
「お風呂入んなきゃなー」
体を嫌々ながら、といった体で起こす。
そしてスマホを防水ケースに入れ、その他、化粧水等を準備し風呂場へと向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
「まぁこの時だけは優等生で良かったと思うけどなぁ」
部屋に個人用の風呂場がつくのは、成績上位者のみの特権である。
他の風呂場の無い部屋の生徒は寮の近くの銭湯に行くしかない。
そんな優等生にのみ許される至福の時間に酔いしれていると。
ピロン、という音と共に通知が飛び込んできた。
「一条 美弥乃……はぁ、こんな時間にまで私に粘着しなくたっていいっつーのに」
少し言い方に棘が混じってしまうのは、せっかくの時間に水を差されたからか。
「……同室の生徒の様子がおかしい?」
高熱が出るわ、血は吐くわで大変らしい。
「いや病院連れていきなさいよ」
そう返信するも、すぐに。
一条 美弥乃:
いやなんか似たような症状訴えてる人多いらしくてー。
今、病院内凄い事になってるらしいんだよねー。
さっき電話した時、悲鳴とか聞こえたし。
待合室で待つのも辛そうだし暫く保険担当の先生に看てもらっとくのがいいかなーって。
と、返ってきた。
「ふーん」
だが所詮、どうでも良い人間のどうでもいい知り合い……つまりどうしようもなくどうでも良い存在である。
だが病院内が凄い事になっている、という事に関して少し興味が沸いた。
「……学園、感染症……んー、検索しても出ないかぁ」
ネットで検索をかけてみるも、どうも妙な記事しか出てこない。
その妙な記事も……
「狂人……?あー、ニュースでやってたやつね……」
どうにも信憑性に欠ける物ばかり。
「はー、もういいや」
美智は早々に興味を失い、それ以上の思考を放棄した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
次の日の朝、美智は爆音、そして異様な暑さで目を覚ました。
「な、何……?」
朝から生徒同士で喧嘩だろうか。
だが、この振動や音の様子では、外からも攻撃が……
慌ててパジャマから制服に着替える。
この制服はただの制服ではない。
優等生専用の、駆動補助システム付きの制服である。
着替える間、テレビをつけ少しでも情報を集める。
『速報です。国立異能研究学園、通称いのけん内にて暴動が発生している模様です』
「暴動……?」
学生によるデモか何かだろうか。
だが、そんな様子は見受けられなかった。
……じゃあ、いったい……?
「……狂人……もしかして」
理性を崩壊させるような何かがこの学園に蔓延した……?
「兵装、持っていった方が良いかな」
肉体強化系における1つの到達点。
剣豪
剣士の異能、そしてソレを才能ある者が鍛える事によって到達できる異能。
特に先見、と呼ばれる一種の予知能力は戦闘において多大な効果を発揮する。
「よし」
剣豪 赤嶺 美智専用兵装
紅の巨剣
血の如く紅く、巨人の扱う物の如く巨大な剣である。
特殊合金により出来たその刃は恐ろしく頑丈で錆びにくい。
話によると、異能と科学の力を掛け合わせた結果出来た物なのだとか。
「そんなのはどうでもいい事なんだけどね」
そして、私は部屋を出た。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
外には凄惨な光景が広がっていた。
基本的に、異能者同士の喧嘩等を考慮してか丈夫に作られているため、完全に崩壊したような建物は無いが、あちこちで火の手が上がり、絶えず爆発が地面を揺らしている。
「不味いわね」
緊張で乾いてきた唇を舐めながら周囲を警戒する。
「……あ」
そんな中、知り合いを発見する。
「委員長……」
フラフラと上を見上げ唸り声をあげている、クラスの委員長であった。
「……」
明らかに様子がおかしい。
慌てて路地裏に身を隠し、フラフラと彷徨う彼を観察する。
委員長は相変わらず上を見ながら唸り声をあげている。
「……いったい何を」
その時だった。
「グルゥォ!!」
彼が、唐突に異能を放ったのは。
「ッ!?」
いったい何に対して放ったのか。
その答えは知れずとも、直後に発生した爆音、そして墜落音により察する事はできた。
正規の手続きを踏んで取材に来た記者等であれば護衛用の異能者がつく。
だがこういった状況で、混乱に乗じスクープを狙って取材に来た記者であった場合……
「……」
彼がそういった記者に対し憤りを感じるタイプの人であった事は知っている。
だがそんな理由で……
「殺していいはずがない」
刹那、路地を飛び出し彼へと向かう。
このまま彼に罪を着せてはならない。
切りかかる瞬間、剣の握る向きを変え
剣の側面による打撃……平打ち、又は峰打ちと呼ばれる剣撃に変化させる。
「……ッフ!!」
それをそのまま彼の後頭部へ放ち……
ガコン!!!
そして、峰打ちが命中した彼はそのまま気絶する……
はず、だった。
「ガァ!!!」
「はぁ!!?」
赤嶺は知らない。
コレはゾンビである、という事。
そしてゾンビは死ぬまで動き続ける、という事。
「グォアァ!!!」
その時の赤嶺の反応を誰が責められようか。
襲いかかる彼の動作は獣のようであり
普段の異獣討伐で鍛えられた赤嶺の身体は……
まるで勝手に動くかのように反応した。
そう、襲いかかってきた彼の首を……はねたのだ。
崩れ落ちる彼の身体、それと相反し宙に舞う首。
そんな光景を見ながら赤嶺は。
剣が赤かったのは、返り血をあまり見ずに済む、という精神衛生面での意味合いもあったのだな、と
どこか場違いな事を考えていた。