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第7話

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「やっぱり家は落ち着くな」


 晴天の日。俺はマンションの屋上に出て日光浴を楽しんでいた。

 あの後、ショッピングモール内の本屋で色々と娯楽小説や漫画も選び、持ち帰ったのだが……


「本を持ってくなら食料置いてけ、ねぇ……」


 おそらくアイツらは、食料を取られれば俺が生きていけないと思ったのだろう。


 いや、普通そうなんだが。


 俺は快諾し、晴れて娯楽用品をゲットした。


 晴れるってのは良い事よなぁ。


 正直、俺は娯楽を求めて外出したのだ。

 食料も、娯楽の一環として持っていたに過ぎない。


 勿論、胃の中は完全に空っぽなため、飢餓感が絶えず襲ってきているが、最近はそれすらも娯楽として感じるようになった。


「寝て、娯楽を楽しんで、寝て……ははは、楽ちん楽ちん」


 これで掲示板が使えれば文句無しだったんだがなぁ。


 情報が入って来ないのは困る。


 何より、誰とも会話が出来ないというのは精神衛生上よろしくない。


 かといって……


「あの集団はないわー」


 ほんと。何で全滅してないのかね。




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 カチッと音がしカセットコンロが点火される。


「ふんふふーん」


 今日は娯楽の日。


 食の娯楽の日である。


「……じゅるり」


 先程から涎が止まらない。


 今から俺が作ろうとしているのはレトルトカレー。


 祭り、と称して色々と買ったあの時物の中にあったのを、今更ながら見つけたのだ。



「そろそろか」


 部屋中に、カレー特有のあのなんとも食欲を唆る香りが充満する。


「米、米……」


 勿論、米も用意してある。


 そしてカレーを取り出し、米の上にそそぐ。


 カレーが袋から出てくる度に湯気と共に香りを周囲に拡散させてくる。


「はっはっは、そう焦るな……」


 恐らく今の俺の眼光はとんでもなく鋭い物となっているだろう。



 ……さて、と。



「いただきます」


 そう呟き、カレーをかきこむ。


「うまっ、うまっ」


 空腹は最大のスパイスとは至言である。


 ましてや俺は1週間飯を食っていない。


 旨くないはずがあるか。


「……っはあ!」


 食べる事に夢中で呼吸を忘れていた。

 危ない、危ない。


 流石の俺も、呼吸はしないと生きていけない。


「……ご馳走様でしたッ!!」


 そして、食後の余韻に浸る。


 ……やべ、俺泣いてんじゃん。



 こんな状況下において、涙が出る程幸せになれるというのは、素晴らしい事だ。


 ……あー、そうだ。屋上菜園でも始めてみようかな。


 と、なると……外出の必要が……



 あった、あった。俺の新たなメインウェポン。


 剣士(ザ フェンサー)用兵装の剣。


 ……顔がぐちゃぐちゃだったため、あの時会ったアイツかどうかはわからないが、とにかく俺は剣士の異能ゾンビと会い、そして殺し、武器を奪った。



 あ、そうだ。



 最近、趣味で日記を始めてみた。


 欲しい物品だとか、今日みたいに感動した事や、新たな娯楽を思いついた際のメモを書いている。


 最新のページを見ると、米を確保できたという事と、感覚強化系の異能はゾンビになるとまるで機能しなくなる、といったメモが残されていた。


「カレーは偉大、っと」


 ページの隅に簡単な雨のイラスト……及び落書きも加える。


 その日の天気を記録しているのだ。


 晴天の日も好きだが、一部を飲み水に出来るよう俺が購入しておいた物品で屋上にそういった浄水装置を配置しているため、雨の日も重要な日である。


 流石に水分は取らないと俺も死んでしまう。



 ……さて、今日はこの雨の音を子守唄代わりに、眠りこけるとするか。




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「……ん」


 もう起きてしまったか。


 最近、眠りが浅い気がする。


 カレーでも食えば熟睡出来ると思ったんだがな……


 睡眠は、正気を保つ上で非常に重要なファクターである。


 寝ている間は余計な事なんて考えなくていいし、なんなら楽しい夢だって見れる。


 ……たまに悪夢も見るが。


 その睡眠がうまく行えないというのは死活問題である。


「んー」


 俺はボサボサの髪の毛をワシャワシャと搔きながら、日記の前に向かう。


 そして、必要な物 睡眠導入剤、と書き殴った。



「すっかり目が覚めちまったか」


 独り言は必要だ。

 声が出せなくなってしまう。


 俺は人間として生きたい。


 ……いや、まぁ今の生活は到底人間がおくれるような物ではないのだが。


 最低限、文化的な生活って奴だ……奴か?


 あっ、そうだ。散髪でもするか。



 そう思い立ち、鏡の前に鋏を持ちつつ座った。


 鏡の中には、鋭い眼光を宿した、小麦色の肌の男が座っていた。


「……うーん」


 どうも思いつかない。


 ……髪はやっぱ短い方がいいのだろうか。


 そうすると、どうしようもなくあの集団の中の1人……確か……


「……緋村、だったか」


 アイツを連想してしまう。


 いや、そこそこイケメンな感じだった緋村と比べ、俺は完全に犯罪者面という違いはあるが。


 それに緋村が生きていた場合、会う事もある……かもしれない。

 そうなると気まずい。


「やっぱやーめた」


 俺は鋏を鏡の前に放り、再び睡眠を求めてベッドへと向かう。



 ドサッと、ベッドに倒れ込み、俺はぽつりと呟いた。


「俺は、絶対に人間をやめない」


 某マンガのセリフとは真逆の発言である。


 ……だが、俺の偽らざる本心であり、守るべき一線だ。


「絶対に、だ……」


 そこまで呟いた所で、俺は再び眠りの世界へと落ちた。

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