第6話
「……マジかよ」
絶句するしかない。
……じゃあこのスマホで出来る事は……せいぜい、オフラインのゲームくらいか。
「…………」
掲示板の住民共に教えてやりたかったんだがな。
異能持ちゾンビ……アレは、俺が曲がりなりにも異能力者だったから倒す事が出来た。
だが、一般人に相手が出来るような物ではない。
「……学園から何匹か抜け出してないといいが」
俺はそうぼやきながらバッグの中身を確認する。
まずは3種の神器。俺のメインウェポン。
バール
シャベル
マチェット
これに関してはバックの横に立てかけてあった。
……なんか手入れされてるな……誰かがやってくれたんだろうか。
そして幾つかの缶詰。
あとはソーラー式充電器。
俺専用サプリ。
LEDライト。手回し発電型。
ラジオ。
あとはタオル。砥石。
んー、缶詰が少し減っているが……まぁやると言ったんだからそりゃ食うわな。
他は何もなくなってはいなかった。
「……んん……体力も回復してるし帰ろ」
肩をぐるぐると回し、最後に伸びをする。
そして、バッグを背負い屋上を出た。
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「んー、んっんー」
上機嫌で鼻歌を歌いながら階段を降りていく。
「せ、先輩!?」
「うわっ!?」
ビックリしたぁ。
えーと、確か君は……
「柴田 京介です」
あー、はいはい。
「ていうか先輩起きて大丈夫なんですか!?」
「俺からも言わせてくれ。縛ってなくて大丈夫なの?」
普通もうちょっと警戒するだろ。
「いや、一応、血塗れだったんで男総勢で洗ったんですよ……その時に噛み傷だとかそういう類のものは見つからなかったので」
「ゾンビになるかもしれんような奴にそんな事したのか」
だとしたらアホだろ。
曲がりなりにも異能力者だからね?俺。
ゾンビになったらヤバいとか思わないの?
「……い、いや、実は……先輩が異能ゾンビと戦ってるの見てまして……それで、その、一定の信用というか、その……」
……はぁ?
「そういう油断が内部でのパンデミックを引き起こし、全滅へと繋がっていくんだ」
……って、プロサバイバーさんが言ってました。
「す、すいません……」
腰低すぎだろ。
「とにかく、俺はもう帰るから。休ませてくれてありがとね」
「えっ」
えっ、じゃねぇよ。
いやマジ帰るから。帰らせて。
「缶詰ならある程度置いてってやるから」
「ち、違うんです!僕達はそんな理由で先輩に留まって欲しい訳じゃ……」
……じゃあ何なんだよ。
「……と、とにかく!今から会議なので少しだけ!少しだけ聞いていってください!!」
……まぁ聞くだけならタダだし。
「下らないようならすぐに帰るからな」
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「あっ、来てくれたんですか!」
俺が部屋に入るなり、どこかほんわかとした雰囲気の女子生徒が近寄ってきた。
恐らく、中等部……柴田と同じ学年か。
まったく、最近の娘の発育はけしからんな。
「……こんな安っぽい色仕掛けをしてくるようなら俺は帰るぞ」
だがそう簡単に騙されてやる俺ではない。
……騙されてやる俺ではない。
「あっ、いえ!違います!コラ!理恵ちゃん、離れて!」
いや別に離れなくてもいいんだけどね?
ただ、騙されはしないよってだけでね?
「ご、ごめんなさい……」
「…ちょっと勘繰り過ぎたかな?でも俺からすると君らのいう“会議”っていうのがそれ程胡散臭いってのは理解しておいて欲しいかな」
「……はい……」
……さて、俺の席は……
「こちらです、先輩」
活発そうな男子だ。
俺と同じように日に焼け小麦色……という程ではないが適度に焼けている。
短髪で前髪はかきあげられている。
……腰に付けている兵装を見るに……
「剣士か……特殊肉体強化系……及び感覚強化系」
「うおっ!?なんでわかったんスか!?」
「兵装を見れば分かる………なかなかレアな異能だと思うが」
剣士は基礎的な肉体強化だけでなく、感覚強化系の名の通り剣筋や相手の攻撃への読み等の感覚が強化される。
剣士と名がついてはいるが、兵装は人によって剣だったり槍だったり斧だったりする。
「……なるほど……そういう観察が勝利へと近付くために重要って事っスね?」
「勝利へ近付く?兵装から異能の割り出しをするなんざ当たり前だ……前提条件だ、前提条件」
……いやまぁ俺の知識量はちょっと異常だけどね。基本的な異能くらいは皆抑えといて当然だと思うよ?
……ほんと俺、劣等感激しすぎだろ……
「……で?会議は?」
「あっ、はい!わかりました!」
勘弁してくんねぇかなぁ。
はやくしてくれよ……
「皆、俺達の目標は、何だ!」
「「「この学園から脱出する事!」」」
……ちょっと待って何が始まったの。
「何故この学園から脱出しなきゃならないのか、理由を……えっと、理恵ちゃん!」
「はい!学園内には、異能ゾンビが大量にいます。よってここで生き延びていくのかかなり困難です。ですが、1度外に出られれば、襲ってくるのは普通のゾンビばかり。私達の相手ではありません!」
そこまで言い終え、俺の方をチラリと確認する。
「じゃあ、何でまだ俺達は脱出出来ていないんだっけ?……えーと、緋村君!」
「は、はい……えと、門番をやってる軍所属の人が異能ゾンビ化してて……めちゃ強くて通れないからっス」
……ふーん、そうなのか。
てかあの活発そうな奴の名前は緋村……ね。はいはい。
「じゃあどうすればいいと思う!?……えーと、福部君!」
「そうですね、あの……人を増やして戦力を増強して……そうすれば突破……」
おかっぱの背の低い少年が喋り出したあたりで俺は席を立った。
「あ、あれ?先輩?」
「なんだこの茶番は?……そうやって人を増やして……また減らして……を繰り返してきたのか?少しは学習しろ」
俺の発言に会議室にいた4人が一斉にうつむく。
「ち、違います……今回は……」
「何が違う?言ってみろ」
「……せ、先輩が戦術を……」
「はあ?」
……っと危ない、危ない。
柴田の胸ぐらに掴みかかる所だった。
「この建物の目の前にいた……刃指の異能力者……あれは元お仲間……か?」
「……そうです」
「お前らは元々とあるスーパーで篭城していた……か?」
「っ!何で知って……」
「なるほど。じゃああそこにいた爆弾射出の異能力者は……!」
「……あ、あの人は……」
「言い訳しようとしてんじゃねぇぞッ!!」
今度こそ俺は柴田の胸ぐらに掴みかかった。
「無責任が過ぎるんじゃねぇのかぁ!?お仲間犠牲にして、その処理もしきれず他の生存者を脅かし!!挙げ句の果てに学園を出るぅ?戦力集めて強行突破だぁ?……ふざけてんじゃねぇぞ」
そして俺は手を放す。
柴田は何も言えず、そのままその場に座りこんでしまった。
「……お前らみたいな根性無しと組んだって俺には何の得もない……帰らせてもらうぞ」
そう吐き捨てると俺はバックを背負い直し、部屋を出た。