第5話
……近隣を探索し、どうも誰かが篭城しているらしいショッピングモールを発見した。
何故わかったかというと。
入り口のバリケードに
『生存者の方は裏口からお入り下さい』
と書かれたポスターの裏紙が貼ってあったらからだ。
……生存者、ね。
てか鍵開けっ放しなのかな。
「ヴォウ……グルゥ」
……とりあえずアイツを処理しない事には始まらないみたいだが。
…でもあのゾンビも恐らく異能持ちだ。
異能者は系統毎にある程度決まった兵装がある。
学生に支給される物は、戦場や異獣(異能持ちの獣)の討伐の際に使われる物と比べ数段劣るものの、使うのと使わないとではかなり違う。
先程の爆撃系の異能者も腰にコントロール補助用のワンドを指していた。
ゾンビとなってしまったため、使用する事は無かったが。
アレまで使われていたら流石に勝てる可能性はほぼゼロだった。
そういった能動的に使用しなくてはならない類の兵装であれば、ゾンビが使用してくる可能性はほぼゼロであろう。
ただ、問題なのは装着式の兵装である。
肉体強化系の異能者はその性質上、兵装は装着系である事が多い。
一部の例外もあるが。
しかし今回のゾンビは例外ではなく……
「兵装、刃指用、鉤爪」
刃指、肉体強化が握力に偏ったタイプの異能の総称である。
その名の通り、その指で握られると、刃で切り刻まれたかのような傷が残る。
ちなみに対応兵装は腕から指先にかけて装着するタイプの刃。
握力に偏っているため、速度においては俺の方が優勢か。
「バールぐらいは砕いてきそうなんだよな……」
対して俺の兵装。バールである。
あとはマチェット。シャベル。
一応、俺に対応した俺専用の道具はある。
ただしソレは回数に限りがある。あまり率先して使いたい物ではない……が。
ただ、ゾンビともなると更にスピードは低下しているはず。
……使うか、俺専用の。
超栄養剤。
この俺の異能、超光合成は今の所、世界で唯一の物である。
科学的に俺の異能を解明出来れば世界中の食糧難の解決が可能となる……とか何とか言っていたが研究は割と初歩の段階で詰まっているらしい。
その研究の過程で出来たのが超光合成の専用兵装……いや、この場合は兵糧というべきか……超栄養剤だ。
それは1粒食えば肉体のフル強化を15分程キープできるという明らかにヤバいサプリ。
使用後、眩暈にも襲われるためあまり使いたくない所か見たくもない物ではあるが……
「……30粒もあるし……はぁ、1粒食うか」
嫌だなぁ。マジで嫌だなぁ。
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さて、漲ってまいりました。
手始めに、そこらの石を拾い、投脚を行う。
「ガァッ」
頭がグラリ、と揺れ、石が飛んできた方向へと意識が移る。
だがその時、既に俺は背後に周り込んでいた。
そしてそのままゾンビに向かって全力で疾走する。
「ヴァア!!」
流石に足音で気付いたのか俺の方へ爪を向け突進してくる。
そこで俺は背中からシャベルを取り出し、突進するゾンビの鳩尾に思い切りぶち当てた。
そして更に飛び蹴りでシャベルをねじ込みつつその反動で後ろへと跳ぶ。
シャベル越しにゴキリ、と内部にまで至り骨の破壊に成功した事が伝わってくる。
ゾンビはその衝撃で吹き飛ばされる。
すかさず俺は助走を付けつつ鉄パイプを掲げ、倒れたゾンビの腹に突き刺した。
「よっしゃ、動きは封じ……」
だが、俺は計算していなかった。
ゾンビのタフさ、そして何より、ゾンビは死ぬまで動くという事を。
ゾンビは、鉄パイプを体に貫通させながら起き上がり、俺に襲いかかってきた。
だが、ゾンビはやはりゾンビであった。
普通であればそのまま兵装である鉤爪で相手を切り刻むはずだった。
だが、ゾンビの本能は人間を食らう事。
咄嗟のゾンビの攻撃手段は、噛み付きであった。
間抜けとも見える大口を開けたゾンビの口にマチェットをねじ込み再び転倒させる。
そしてそのままバールで頭部を殴った。
「はぁっ!!ああっ!!うらぁ!!」
動かなくなるまで、何度も何度も。
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「はぁ……はぁ……」
なんとか速攻で終わらせる事ができた。
付近を確認するがゾンビは来ていない。
もしかしたら、爆音を鳴らしまくっていたスーパーの方に行っているのかもしれない。
結論から言うと、異能ゾンビは意外と弱い。
何故なら知能が無いからだ。
少しでも知能があれば、先程の戦いにおいて俺はバラバラに切り刻まれていたはずだ。
「……効果切れる前に裏口から入らねぇと……」
既に重くなり始めている体にムチ打ち、カン、カン、カンと非常階段のような場所を登り、扉へとたどり着く。
ガチャリ
「…誰か……いるか……」
というかマジで鍵開けっ放しかよ。
入った先は、店員の控え室?スタッフルームのような場所だった。
ガチャン、と扉を閉め床に、ドサリと崩れ落ちるようにして座る。
「誰も……いないのか……」
その時。
ガチャ、と音がし何者かが入ってきた。
「……誰だ」
「いやぁ、それはこっちのセリフなんだけどね……」
そんな事を言いながら、たはは、と苦笑した男。
……誰だっけなー。なんかね、顔は見た事あるんだが。
「……えーと、一応、生徒会役員をやっていた柴田京介といいます……えっと、貴方は?」
「……あぁ、俺は高等部2年の青葉茂という……すまないが、ここは屋上に出られたりするか?」
「あっ、やっぱり先輩でしたか。いや、僕中等部の3年でして」
ふうん。中等部の生徒会長……か?
そんな事はどうでもいい。
「おい、屋上は」
「……何をするおつもりで?」
「日光浴を楽しみながら昼寝」
「…………えと、一応、血塗れアンド傷だらけで、感染の確率高いですし……縛られたままでいいのならそうしますけど?」
「頼む……じゃあ、俺はもう寝るから頼んだぞ……バックの食料はやる……あ、でもサプリは俺以外が飲むと多分死ぬからやめとけ……学園からの特別支給品でな」
「わ、わかりました」
その言葉に満足気に頷いた後、俺の意識は暗転した。
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「ん……ふぁあ……」
うーん、カロリーがそこそこ戻ってきてるな。
よく寝て、よく日に当たった証拠だ。
てかなんか服が綺麗になってるんだが。
……あれ?俺縛られてなくない?
「……昼間か……丸一日寝てたなこりゃ」
スマホ……スマホ……あ、日陰になってる所にバッグ置いてあるじゃん。
「掲示板に生存報告と……後は異能持ちゾンビの報告だな」
そんな事を考えながら俺は掲示板にアクセス……出来なかった。
「……は?」
ネットに接続……出来ません……だと……
……とうとう、俺は安らぎの場を失ったらしい。