第7話
普段より少し__いえ、かなり長くなってしまいました。
ですが、ここは一気に読んで欲しいので、あえて分けずに投稿します。
ドアが閉まり、ガチャン!という音に驚き思わず振り返る。
見れば、特殊な拘束器具のような物でドアがガチガチに封じられていた。
「……そんな事しても逃げやしないですよ」
「いやね、ただのインテリアよ」
絶対嘘だ。そんな言葉を飲み込みつつ家の中へと歩を進める。
「調理器具だったら台所に置いてある筈だから使ってねぇ」
……分かっている。相手は俺が何をしようと対処出来る、という確固たる自信がある事を。
そして相手は俺の策を正面きって潰した上で、オシオキなるものをしようとしている。
「……分かりました」
「返事に覇気が無いわぁ。それで本当においしいお茶が作れるのかしらぁ?」
「大丈夫です。やってみせますよ」
ニタァ、と壮絶な笑みを浮かべるその女を尻目に、俺は台所へと向かう。
「ガスコンロにやかん、水、そしてティーパック……」
本当に揃っている。いやまあ、当の本人がそう言っていたのだから当たり前か。
震える手でお茶を作る。
ガスコンロをつけて、水とティーパックを……あぶない、肝心のモノを忘れる所だった。
後は、ただ待つだけ。
「はあ、はあ」
ただ湯を沸かすだけの時間だ。それなのに、心臓を握られているかのような圧迫感に苛まれている。
はやく。早くしてくれ。でなければ__俺は、気が狂ってしまう。
「どうしたのお?」
「い、いえ。緊張してしまって」
「かわいいわねぇ」
フフフ、と邪気に満ちた微笑みに引きつった笑いを返す。
「お湯が沸くまで手を繋いでてあげようかぁ?」
女はそう言うと俺の返事を待たずして俺の手を握った。
額を脂汗がじわりと伝う。
そのまま、体感で言えば数時間に及ぶような長い時間、ただただその時を待ち続けた。
最初は何の音か分からなかった。だが目の前の女に
「お湯、沸いてるけどぉ?」
と言われ、ようやく気付いた。慌てて繋いでいた手を振り払い、用意していたコップにお茶を注ぐ。
そして、恐る恐るその女へと差し出した。
「……先にぃ、君が飲んでみたらぁ?」
それは予想していた。俺はコップに並々注がれたソレをグっと一気に飲み干すともう一度注いで女に差し出す。
「な、かなか……イケますよ。流石俺の異能です」
「……ふぅん。じゃあ、貰うわねぇ」
そしてゴクリと喉が動く。その瞬間まで俺は、軋む身体を抑えながらその女を見つめていた。
そして女がようやくコップの中身を飲み干し、こちらを覗き込むように見て。笑った。
「なかなか美味しいじゃない。毒も含めて」
「……ッ!?」
俺の驚いた顔を見、思わずといった風に笑い出すその女。
「アッハハハハハハ!!馬鹿ねぇ。そうね、タネ明かしをしましょうか。私の名前はステファニー・ボードイン。聞いた事無いかしら?」
……ある。いや、しかし、まさか……
「そう!元・特別指定異能者共の檻の看守が一人。毒女の保有者よぉ」
そして俺の頭を粘着質に撫で回すと、ニタリと笑ってこう宣言した。
「だから私に毒は何があっても効かないのぉ。ごめんねぇ?」
だがその近づけた顔には__血が、滴っていた。
「……何よ、これ」
信じられないといった顔で血を拭った手を見つめるステファニー。
「毒だなんて、とんでもない」
そんなこれから死ぬであろう憐れな女にタネ明かしをしてやる。
「俺が入れたのは栄養剤ですよ。ただ、ちょっとばかし栄養満点過ぎて、身体がキャパオーバーになっちゃってるだけで」
そう、俺は毒なんて盛っていない___ただ、俺の専用兵糧である超栄養剤の残りをありったけ詰め込んで煮詰めてやっただけだ。
「は、はは……なぁに、ソレ……意味が分からないわぁ……」
「言ったじゃねぇか。俺の異能を見せてやるってな。俺はこの通り元気一杯すぎて今にも窓を突き破って逃げちまいそうだ」
「……その割りに、逃げようとしないのね」
「逃げていいのか?ならそうさせて貰う」
「ええ、勿論」
じゃあ遠慮無く。そう言うと俺は倒れこみ、げえげえと血を吐き始めたステファニーに背を向け、窓を叩き割って外へ出た。
「でもぉ!タダで死ねると思わない事ねぇ!!い、ヒヒヒ!ハハハハハハ!!!」
そんなステファニーの呪詛の言葉__いや、実際俺は既に遅効性の毒を吸わされていたのだろう__を背に、家から出ていった。
ステファニーの一派が駆除したのだろうか。ゾンビの見当たらない通りを、お茶を入れる時から異常な挙動を見せている心臓の辺りをぐっと拳で抑えながら歩く。
「は、こりゃあ……死ぬな」
本当だったら歩く事すら出来なかった筈だ。今こうして通りを歩いていられるのも、あの栄養剤入りのお茶を飲んだからだろう。
「これが俺の使命ってやつか?」
はは、と俺は天に向け自嘲めいた笑いをこぼすと、壁に寄りかかり、崩れるようにして、倒れた。
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被弾したか。切断。
ゾンビに噛まれた右腕を容赦なく切断し、また生やす。
「ここまで身体をフルで使ったのは久々……いや、初めて、かな?」
ニヤリと笑うと周囲のゾンビの頭を一気に蹴り飛ばす。
「指揮官不在か。そんなだから僕一人に翻弄されるんじゃないのかな?」
ゾンビの頭を踏み潰しながら、ぐるぐると大きく旋回する。
ゾンビ達はそんな北野に噛み付こうと、必死に手を伸ばすが、ひょいひょいと軽業師顔負けの動きでそれを避け、頭を踏み潰しどんどん頭数を減らされていく。
「ははは!まるでなってないなあ!何故唐突に現れただけの、たった一人の僕をこんな集団で襲わせているんだい!?さては指示がうまく機能していないな!?先ほど妙な降伏勧告が聞こえたが、降伏するのは君達の方ではないのかね!」
ハハハハ!と嘲笑する北野に、一つの影が、跳躍してきた。
「がァッ……!?」
北野が成す術なく吹き飛ばされ、落下し、ゾンビの波に呑まれる。
だが北野を呑み込んだゾンビの塊は瞬時にして吹き飛ぶ。もう一度ゾンビの波に乗り上げようとする北野に対し、音速すら超えかねない速度で肉迫した影__一体の黒人ゾンビが更なる攻撃を加える。
「く…………ッ!!」
咄嗟に両腕を交差してガードしたが、その腕ごと蹴り抜かれ、もう一度吹き飛ぶ。
(まずい……ッ!アイツは、アイツの異能は、まさか……!?)
そんな思考の間も、吹き飛ばした北野に追い付き、更なる攻撃を加えてくる。
腕が消し飛び、腹を蹴り抜かれる。
必死に再生するも、すぐに蹴りで打ち抜かれ、また再生する羽目になる。
そのゾンビが生前であれば、スタミナの差で北野がいつか攻撃に転じる事も出来ただろうが、既に彼は喪疲労を知らぬ生ける屍と化している。スタミナ切れは期待できない。
それに加えてゾンビの群れがじわじわと距離を詰めて来ている。時折、わざと吹き飛び、距離を取るがその度に隙を晒し再生に時間がかかる部位をやられ、結局また距離が詰まる。
もしあのゾンビの波に呑まれてしまえば、再生速度が追い付かないレベルで全身を貪られ、死に至るであろう事は想像に難くない。
「……くっ!?しまった!?」
重点的に守っていた筈の片目が蹴り潰される。
視界が揺らぎ、状況確認も困難になる。
最早距離をとる余裕すらない。ひたすらに身体を屈め、守りに徹する。
(このままだと……まずい、な……!)
生徒達は敵に対処出来たのだろうか。
自らを慕う者達の顔がチラつく。
(面目が立たない、な……一体の異能ゾンビにここまでしてやられるようじゃ……)
チラつく敗北の二文字。
__そんな時、右目の視界に妙な物が映った。
(……蔦?)
ただ雑草が目についただけかもしれない。だが、身体は何故か勝手に動いていた。
本能が、何かを確信していた。
攻撃の合間を縫ってゾンビとがっぷり四つに組む。足や腹が蹴り潰され、肩に歯が食い込む。
だが北野は離さなかった。噛まれた部分を自切しつつも、必死に再生を繰り返す。
そして、その時は来た。
「おらぁあああああああッ!!!!!!」
巨大な、植物の蔦が、北野ごとゾンビを破壊する。
腹に穴を開けられ、そこから既に植物がニョキニョキと生え始めたゾンビは、一瞬身構えるも、すぐに動きが止まり、崩れ落ちた。
「……期待以上だ、青葉君」
「お前、散々ラスボス臭ぇ雰囲気出してた癖に呆気なくやられそうになってんじゃねえよ」
北野の言葉に笑って返した青葉。その顔、いや身体は既に人として崩壊していた。
血管のように全身に張り巡らされた蔦に樹皮のような肌。身体を突き破ってはえている植物達。
口の端から血液とも樹液ともとれぬ液体を滴らせながらも、青葉は笑う。
「時間が惜しい。ゾンビの波乗りと行こうぜ、生徒会長」
「そりゃあ、良い。最高だ」
二人はいつ示し合わせたでもなく同時に跳躍。ゾンビの頭部を踏み台に、先程のゾンビを投入させてきた人物の元へと駆ける。
「ゾンビが明らかにそこを避けてるよなあ!?もうちょっと誤魔化した方が良いぜ黒幕さんよお!!」
ゾンビの群集が割れ、円状の空間が出来ている。その中心に位置する人物に、青葉が思い切り蔦を叩き込んだ。
「っしゃオラァ!」
「便利な技だな」
「ああ!残り少ないとは言え、俺の命と引き換えだ!このくらい出来なきゃ困る!」
台詞とは釣り合わない程の豪快な笑いと共に着地する青葉。
それに続いて北野も着地する。
__そして二人は、遂に、黒幕と対面した。
「よう、コレ、お前のせいなんだろ?」
無言のまま、青葉達を睨みつける青年が、そこには居た。
「クソったれ共が。だいたい何故お前が生きている」
「死に際のボーナスタイムだ」
「……クソが、意味分かんねえよッ!」
「意味が分からないのはコチラの方だ__何故、平穏を崩すような事をした?」
北野の問いに目を丸くした青年は、やがて堪え切れないといった風に笑い始めた。
「ふ、ハッハッハ……ハハハハハ!平穏を崩す?その平穏が誰のお陰で成り立ってたかすらも知らずによくもまあぬけぬけとそんな台詞が吐けたもんだな!」
「……何が言いたいんだい?」
「異能を見て思い出したよ……呑気なモンだな?この災害の原因の一端を担ってるのはお前等だってのに」
「けっ、生徒会長お前やっぱ裏ボスかよ」
「言いがかりは止めてくれ。青葉君もすぐ話に乗るんじゃない」
「何でもいいが早くしてくれ。もう死にそうだ」
そう言う青葉の脚は、既に樹木のようになってきており、地面に根を張り始めていた。
「……じゃあ教えてやろうか。俺の異能を」
「そうだね。二度とこんな事が起こらないよう、原因を知り、それを伝えていく必要が僕には、僕達にはある」
伝えていく、という言葉に青年がピクリと反応する。だが直接それには言及せず青年は独白を始めた。
「俺の異能は__事象を封印し無かった事にする、封印者という異能だ。いや、だった」
含みのある言い方に北野が少し、何とも言えない表情で言葉を漏らす。
「異能が変質した、という事か」
「ああ。そもそもソレは当たり前の事だった。俺は自分の意志から異能が発現したんじゃない、大いなる意志から異能を与えられたんだからな。そりゃ月日が経てば俺の意志が加わって多少変質するのもおかしな話じゃない」
「ちょっと待てや。大いなる意志だと?んなもん……実在、すんのかよ」
ミシリと樹木と化した下半身を軋ませつつ身を乗り出す青葉。
「実在する。俺はその時こう言われた。お前はストッパーだと。世界が危機に瀕すれば、お前が救えと。そして、俺は実際に世界を救った」
「救った?冗談も過ぎれば反感を買うぞ。じゃあこの有様は何だ?」
「封印者と言えど、無条件に事象を封じ込める事が出来る訳じゃない。お前等はどうせ__覚えちゃいないんだろうな。分からないのか?無かった事にするんだ。救われたとして、ソレは記憶にも、記録にも残らない」
静寂の時間が訪れる。おそらく、二人とも今の言葉を吟味しているのだろう。そんな事が、いや、そんな惨い話があるのだろうか、と。
「俺が現象を封じるには条件がある。まず事の発端を知り、そこから災害に発展した経緯を理解する。そうやってどこからが災害の始まりかを明らかにしてようやく封じる事が出来る。命がけだった。俺は生身が一切強化されないからな。無理を言って異能精鋭隊に協力して貰った事だってある」
そこで一端言葉を区切ってから青年は更に続ける。
「最初の方は良かったさ。ああ、良かった、あの凄惨な出来事は俺しか知らない。俺だけが抱えて生きていけばいいってな」
「じゃあ何故それを続けなかった」
北野の問いに答える事はなく、青年は変わらず喋り続ける。
「何度も世界を救った。両の手じゃ足りない程にな。毎回死に掛けたさ。でも何とかしてきた」
「__でもな、そんな偉業をやってのけた所で、誰も認めちゃくれないんだ。災害の最中、俺に協力してくれた奴等だって、いつも半信半疑だった。救った瞬間は誰にも知られず、救った後はそんな災害があった事すら忘れ去られる」
「災害が起きる前に手を打とうと頑張ってた時期もあるが、結果は散々だった。良くて門前払い、悪けりゃボコボコにリンチされて路地裏に捨てられた」
「俺が英雄でいられるのは災害が起きている最中だけだ。いや、その時すらも俺は誰かから全幅の信頼を寄せられた経験なんて無かった。コイツを多少支援してやった所で労力は知れているし、言ってる事が本当である確率が少しでもあるなら手を貸しておくか。そんなレベルだった」
「……そして、そんな絶望的な思いを抱いていた日々の中、異能が変質した、と?」
北野の言葉に低く唸るような声で、ああ。と返す。
「俺は、これまでに封印した事象を、もう一度顕現させる能力を得ていた。事象の封印者から、支配者になった。これは天啓だ。そう思った」
「お前等に思い出させてやろうと思った。災害の中で一番多かったモノが何か分かるか?」
「……それがゾンビの発生だってのか?」
「ああ、そうだ。お前達は何度も何度も、生命の禁忌に触れた。不死を欲し、結果として出来損ないを生み出し、何度も破滅しそうになった。例えば、不死身の保有者の肉片からもう一体の不死者を作ろうとしたり、とかな。ありゃあゾンビというよりは分裂で増えていく肉塊だったが」
自分が本当に災害の一端を担っていた事を知り動揺したのか、北野の身体が強張る。
「俺はある日、何度かの様子見の後、多種多様なゾンビ発生という事象を一斉に顕現させ、世界を滅茶苦茶にした。決意したんだ。お前等に今までのツケを払ってもらおうと。そして、俺は虐げられる者のいない、理想郷を作ろうと……」
「下らない。君の苦労は確かに素晴らしい。が、嫌になったのなら止めてしまえば良かったじゃないか。それは、君が、自分の手で救うという事に執着していただけだろう?諦めてしまえば良かった」
「そんな事出来る訳ないだろうが!犠牲者を誰一つ出す事なく事態を解決できるのは俺だけだ!他の奴になんか任せられない!」
青葉に殴り飛ばされた際、どこか内臓がやられていたのだろうか。叫び終わった後にごほっごほっと血を吐きつつ北野を睨みつける。
「こんな大量殺戮をやってのけた癖に、何を言ってるんだい?……いや、待て。君は、まさか、今の状態からでも__無かった事に、出来るのか?」
北野が青年の胸倉を掴む。
「ああ。勿論。俺はこの現象の支配者だからな」
「__ッ!!今すぐ、無かった事にするんだ。分かっているぞ、君はもう長くない。そうだろう?」
掴みあげられた青年はニタリと口の端を歪めた。
「そうだな、もう数分ともたねぇよ。手遅れだ。お前達はこの崩壊した世界で暮らしていく羽目になる。いい気味だぜ」
「ふざけるなッ!!現象を、封じれば君だってまだ生きられるんだろう!?はやく封じろ!無かった事にするんだッ!封じた後はもう救世主なんてやめてしまえばいいんだ!背負う必要なんて……ッ!?」
唐突に、ゾンビ達が円状に空いていた空間に、雪崩れ込んできた。
これが意味する事、それは__
「危ねぇ。一瞬死んでた。……その様子だと、駄目だったか。生徒会長。一旦俺の上に避難しろよ」
振り向けば、巨大な樹木。その幹の一部と同化し、上半身だけが飛び出た状態となっている青葉が、北野に向け手招きをする。
「……クソ!」
既に事切れた__名も知れぬ青年の死体を担ぐと、北野は青葉__いや、その巨大な樹木に登り、青葉の身体の付近にある枝に掴まった。
「なんかベストなエンド逃しちまったって感じだな」
へらっと笑う青葉に少し呆れたような視線を返す北野。
「いや。拠点に帰還して、この男の蘇生を……」
「無理だよ。なんかさ、視えるんだ。ソイツにはもう生命エネルギーの欠片すら残ってねぇ。最後の独白で色々使い切っちまったんだろうな。何しようたって無駄だぜ。せいぜいが木の養分になるくらいか?」
「……そう、か……」
青葉の確信を持った物言いに、北野が項垂れる。緩んだ手元から、するりと死体が抜け、下のゾンビの群集の中へと落ち、埋もれていった。
「二度目の死に際の独白を聞く余裕はあるか?」
「……君は、死ぬのか?」
「死ぬっつーか、まあこの木と同化するって感じか?」
「怖くないか?」
「お、それ聞いちゃう?怖いさ。未練も……無いと言えば嘘になるか?赤嶺さんがどうなったか気になるのと、あと漫画の続編と……」
「分かった、分かった。赤嶺さんには僕が上手く誇張も含めてストーリー仕立てで君の死に際を教えてやる。漫画は、そうだな、その漫画家が生きていたら、続編を書かせてこの木に供えさせる」
「お?言ったな?___っと、危ない。持ってかれそうになった。じゃあ最後に俺の人生の感想を述べて終いにするか」
「人生の感想?」
「おうよ。あとちょっとで俺の木生が始まっちまうからな。その前に人生の総括って訳だ」
「……聞こうか」
「さっきの奴もそうだが__人は使命ってもんを何処かで欲しがる。天命ってやつをな。自分が命を燃やしてまで成し遂げたい物が、いつだって欲しい。それを宗教で見つけようとするやつもいるけど___結局、使命なんてモンは自分の中からしか生まれないし、それを使命と感じて突っ走るのは自分にしか出来ない」
「意味の無い事に意味見出して、命燃やして突っ走る。途中で横道逸れようがずっこけようがただただ突っ走る。そしてタイムリミットが唐突にやってくる。そこで自分の来た道振り返る暇がありゃそれだけでも大金星だ。何を成したかは関係ない。自分が何を感じたか、それが全てだ」
「……」
「不死者にゃよく分かんねぇか?」
「……まあ、実感の湧かない話ではあるね」
「俺は最後にこうやって自分の使命を命燃やして突っ走った。だからまあ、未練はあれど後悔は無いってのが俺の人生だ。どうもお前は不老不死みてぇだし、死に際の独白なんざこれから吐くほど聞くだろ?色んな意見を聞いて自分なりの結論を下せばいい」
「そう、か……そうだな」
「俺の独白はここで終いだ」
そういうと目を瞑ろうとする青葉に北野が慌てて声をかける。
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「あ?何だよ。眠いんだが」
「次は僕の番だ。聞くまで寝かせない」
「……構わねぇが」
「僕は、既に100数年生きている。だからか、誰と話していても、どこか、自分とは別の種族の生物と話しているような感覚があった」
「おうおう、しれっととんでもない情報ぶっこんでくるじゃねぇか」
「でもな、青葉君……少々不謹慎かもしれないが、君とゾンビの頭を踏みしめ共に駆けたあの瞬間。確かに僕と君は対等だった」
「……は、はははは!生徒会長__いや、北野、お前、分かってたけど狂ってるぜ」
「そう思うかい?__青葉」
「ああ。死に際に笑いをありがとよ。一人の友人としちゃ、お前の今後が不安だが__まあ、時間はある。いつかもう何人かくらい友人ができるさ。それをこっから末永く見守ってやる」
「助かるよ」
「__」
「青葉?眠いのかい?」
「____」
青葉が、その目をもう一度開ける事は無かった。
__北野はそれを見届けると、自らと友人が守った人間達の元へと帰っていく。
辺りはすっかり暮れ、差し込んだ西日が、巨木と、帰路に着く背中を、赤く、紅く、燃えるような色で、彩っていた。




