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異能×屍 -終末における俺の異能の有用性について‐  作者: ペリ一
競合の章

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第6話

普段より少し文量多めです。







 鈴鹿は焦っていた。


「どうなってるの……」


 唐突に視覚共有が切断された自分の使役する鼠達。原因はおそらく__死亡。

 これは、何か対策を打たなければ自分達も同じ道を辿るという事を示唆していた。


「俺が行こうか」


 思い詰めたような顔で私に提案をしてきたのは、走者ザ ランナーの保有者の埼田さきだ 雅人まさと

 学園脱出の際に貴重な広範囲念話テレパシーの保有者である福部ふくべ わたるの警護をこなしたという実績を持つ実力者である。


「やばそうだったら撤退する。俺に念話を繋げてくれるなら__」


「いや待て。近付くだけで死にかねないのなら、お前のような異能者はむしろ不向きだろ。俺の指揮する狙撃部隊から何人か遠望の利く人材を何人か選出しよう」


 そう意見を申し出たのは狙撃部隊リーダーの鷲塚わしづか たける狙撃手ザ スナイパーの保有者であり、異能の影響で超人的な遠望を可能としている。更に学園脱出の際には情報伝達及び後方火力支援という大役をこなしてみせた優秀な人物である。


「……走者部隊が狙撃部隊を背負うってのはどう?」


「鈴鹿さん、それは確かに悪くないアイディアだけど……もしその作戦が失敗すれば僕らは一気に戦闘能力を失いかねない。これはまだ偵察の段階です。もう少し慎重になるべきでは?」


 そんな冷静な口調で鈴鹿の意見に異議を申したのは念話テレパシー保有者、福部 亘。言わずもがな、このメンバーの中でも最重要とも言える、戦場での情報伝達の要を担う人物である。



「……」



 会議に沈黙の時間が訪れる。


「……私の異能で何とかするしかない」


 偵察を最小限の被害で済ませる方法があるとすれば、私の、獣使役者ビーストテイマーしかない。


「少ないですが、今ある情報を整理していきましょうか?」


「そうね。まず最初にロストを確認したのがこの場所。そしてその次がこの場所」


 たった二つの地点。地図上に示されたソレを福部はじっと睨みつけながらブツブツと何かを呟く。


「鈴鹿さん、鼠はあと何匹用意できますか?」


「あと群れ二つ分……いや、三つ分……」


「……敵の大まかな目的地と移動手段、程度ですかね。割り出せたとしても」


 だが目的地__ましてや、大まかな目的地、など周知の事実だ。


「目的地なんて分かってるって顔ですね。……じゃあもう、開き直っちゃいましょうか。おそらく相手の移動手段は徒歩です。これですら憶測なのでアテが外れてあっさり全滅する可能性があります。その上で、僕の作戦を聞いて、判断して下さい」







__福部の作戦の概要は、こうである。


 偵察を捨て、外壁に纏わりつくようにして鼠を配置する。そして鼠の死亡を確認した箇所に周囲の鼠を殺到させ敵の攻撃範囲を計る。

 他の人員は鼠よりも前に出ないようにしながら攻撃を仕掛ける。


 単純なようで、実際にかかる労力は甚大だ。まず鼠が現在の数では足りない。鈴鹿含む複数人で下水道に潜って捕獲してくる必要がある。この時ゾンビに襲われ死亡する生徒が出てくる可能性もゼロではないだろう。また、敵の攻撃が範囲によるモノかすら不明であるという事。そして敵の数も不明であるという事。


 穴だらけのこの作戦。だが福部の目は本気だった。


「__前提条件の全てが憶測と仮説です。ですが、敵はたった一人でこちらを殲滅する能力がある。この事だけは確定であると言っていいでしょう。そんな相手に勝つには、賭けに出る必要があると、僕はそう思うんです」


「……どうせ八方塞がりだったんだ。俺はやるぞ」


 福部の言葉に真っ先に応えたのは、雅人だった。


「雅人さん……!」


「……じゃあ私も、あんたのギャンブルに、命を賭けるとするわ」


「仕方ないか、じゃあ俺は主力部隊のリーダーと話つけてきてやる。どの方向から襲われても対処できるよう対応を叩き込んでやるさ」


 鈴鹿が立ち上がり、それに続いて鷲塚も立ち上がる。


「……皆さん、ありがとうございます」


「礼は要らないわ。欲しいのは……勝利と、平穏。この恩はそれで返して」


「……はい!」


 ここに学生軍は立ち上がる。自らと__自分達を信じたリーダーの為に。



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 ダッダッダ、と下水道を駆ける音。そしてそれに呼応するような呻き声。


「逃げんじゃねえよ!」


 超人染みた歩行速度のまま網を振り回す男達。走者部隊の者達である。


 そしてその網に捕まっていくソレは__鼠。今回の作戦の要であり、数は有ればある程良い。


「……よし、次!」


 そしてその男達の内の一人の背に乗っかり、渡される鼠にひたすら手で触れ使役させているのは鈴鹿である。


「Bの3!ゾンビ2!」


「邪魔すんじゃねぇ死体如きがあああああ!!」


 時折響く戦闘音と雄叫び。未だ犠牲者は出ていないが、遭遇頻度からしていつ負傷者が出てもおかしくない。


「今、目標の何%だ!?」


「80%!かなり進んだぞ!あと少しの辛抱だ!気合入れろてめえらァ!」


「「「応ッッ!!」」」


 何だかんだ、タイムリミットには間に合いそうだ。気合の声とは裏腹に、少し緩んだ様な空気が漂った。そんな時だった。


「うあッ!?」


 短い、されど絶対に聞き逃せない、そんな__断末魔・・・が下水道に響いた。

 それに続くように短い悲鳴が連続する。


「……退けぇーー!!!撤退だぁあああ!!!」


 雅人の声が下水道中にこだまする。


「悲鳴の箇所を報告しろおおおお!!生き残りは区画A-2に一時撤退しろおおお!!!!」


「C-3です!」


 雅人の呼びかけに反応しドタドタと撤退していく男達。


「クソ!80%で打ち止めか……ッ!」


「ここで走者部隊を失うよりマシよ。はやく!」


「……クソッ!」


 撤退する最中、鈴鹿は3匹ほどの鼠をC-3方面へ放ち、視覚共有をオンにする。

 すぐさま自分の脳に下水道を駆けていく鼠の視界が映った。


「……!?」


 その視界で、鈴鹿が捉えた者は___


 たった一人の少女、だった。



「……これを知れただけでもラッキーね」


 バクバクと煩い程に鼓動する心臓を落ち着かせながら、鈴鹿は引き攣るように笑った。



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「素晴らしいです、鈴鹿さん。ただ、問題も浮上しました」


 鈴鹿の報告を受けた福部は眉根に皺を寄せる。


「敵は障害物を無視して地上部に攻撃出来る。つまり、僕達が一方的に攻撃を受ける羽目になるという事です。ただ良い事もあります。その少女は下水道に身を潜めつつこちらに近付いてきた。という事は遠距離からの攻撃を恐れたという事です。その少女をなんとか地上に引っ張り出せれば、僕達に勝ち目は充分にあると考えていいでしょう」


 その福部の言葉に、たまたま近くで聞いていた錬金術師ザ アルケストの保有者の斉藤がポロリとある言葉を漏らした。


「下水道ぶっ壊して瓦礫の下敷きにしちまえば良いんじゃねぇのか」


「……」


「な、何だよ。そんなにアホっぽい意見だったか?」


「い、いや。普通に盲点でした。そうしましょう。いざと言うときの為に作っていた爆弾がありましたよね?アレ、全部使いましょう」



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「ボンバーマンってこういう気持ちだったのかな」


 下らないジョークをとばす斉藤を無視し、鈴鹿は神経を集中させる。


 数百匹の鼠の視点を同時に見ているのだ。生半可な集中では成し得る事ではない。


 既に避難した非戦闘員と、銃含む遠距離攻撃の手段を持つ戦闘員達に守られつつも鈴鹿は必死に頭を回転させる。




 一匹__死んだ。


「__着火」


 無論、着火を行うのは鈴鹿の使役する鼠達である。ダイナマイトに二匹仲良くマッチを擦って着火を行った鼠達。そしてその鼠達は主の命令により爆破するその瞬間までそのダイナマイトを見守り続ける。


 そして数秒後、大地が轟く程の衝撃が周囲に広がる。


「よし!成功だッ!」


 遠目にガラガラと崩れていく地面が見える。おそらく爆破の中心地なのだろう。



 だが一つ、気がかりな事があった。



「……瓦礫が地面にぶつかる音が聞こえない……?」



「遠望隊報告ッ!爆心地付近の瓦礫が、恐ろしい勢いで消滅していきますッ!」


「ッ!?死んでいないのッ!?」


『鈴鹿さん、敵はこれまで無機物にまで被害を与えた事は有りませんでした。もしかして焦ってるのかもしれない。たたみ掛けるなら今です』


 淡々とした口調の念話が福部からとんでくる。


「……更に報告!瓦礫だけではありませんッ!地面ごと呑まれるように消えていっています!!!」


 見れば、最早鈴鹿の肉眼ですら確認出来る程にまで迫っている地面の崩壊。


「狙撃部隊!!弓の曲射を仕込んだ奴等!そうてめえらだ!さっさとあの方向に撃ち込めッ!!!!」


「うおおおおおおお!!!!!」


 狙撃部隊の中でも、弓の扱いに長けた者達が、一斉に矢を放つ。


「これで、どうだッ!」




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 「理想の世界を創る。その世界では、お前のような存在が生まれる事はない」


 その言葉を信じた。


 途中、彼が私怨に駆られて暴走しても、私は彼に追従した。


 彼は、私の正義だったから。


 彼は、私と同じだったから。



 それに反して、彼の集めた仲間はどちらかと言えば悪に分類されるような人間だったけど。


 信じた。




 石が、投げ付けられる。



 「魔女の娘め」



 ……石?違う、これは矢じり……


 あ、れ……私……


 立ち上がろうにも脚が無い。這おうにも腕が無い。


 羨ましい。アイツらの、生命力が。


 輝くように生きる様が。



 吸い取ろうにも、私の異能は、周囲の地面を砂のように変える事しか出来ない。


 そこから僅かでも吸い取った生命力。ソレが今の私を繋いでいる。



 でも、もう駄目だ。ごめんね。



 彼への懺悔の言葉を最後に、彼は命を手放した。




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「……やったんじゃ、無いのか?」


 誰かがポツリと呟く。


「待って。鼠を数匹偵察に放つ」


 


 そして、鈴鹿が鼠達越しに視たのは、下半身と上半身の殆どが吹き飛び、それでも足掻こうとした形跡のある、壮絶な敵の死体だった。


 鈴鹿の報告と共に一斉に歓喜の声で包まれる戦闘部隊。


 だが鈴鹿は、どうもその輪の中に加われず、ただただその場から少女の居た方向を見つめていた。



__もっと良い手段があった。そんなモヤモヤを拭い切れないまま。




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