第3話
この度、二つ目のレビューを頂きました!
遅くなってしまいましたが、この場をお借りして、お礼を。
嫌がらせをしてやろう。
直接的なモノは一度計画に協力した手前、やり辛い。
そもそもそういった行為は自分の性に合わない。
と、なれば。
「こうするのが一番か」
そう言うとニヤリと笑い、空間を開いた。
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「迷える君達にヒントをあげよう!」
唐突に空間を裂き現れた軽薄そうな男はこちらを見てニッコリ笑うと、そう言った。
「……どうする?殺す?」
「赤嶺さん落ち着いて」
とりあえず、みたいな感じで出てくる選択肢……ではあるのか。
何でこんな世の中になったのやら。
そんな事を考えつつ目の前の男を見据える。
「誰ですか」
「知らないのか?本当に?」
男が口の端を歪める。
「……!青葉!やっぱり殺すわよ!」
途端に顔色を変化させた赤嶺さん。
その反応って事は、そういう事か。
認めたくないが為にスルーしていた可能性の一つ。
「特別指定異能者、か?」
「正解だとも、日本の学生さん」
そういうとその男は更に口の端を吊り上げ、こちらを試すように瞳を覗き込んできた。
「殺してみるかい?」
分かっている。
米軍が数年かけて捕縛にこぎつける事が出来ず、殺処分優先とまで言わせる存在が、そう簡単に殺せるはずがない。
例えこんなに隙だらけで目の前に立っていようとも。
「……このご時世だからな、無駄なリスクは取りたくない。それにアンタ、ヒントをくれると言ったな?って事は敵対心は無いって事なんだろ?」
「青葉」
「赤嶺さんも少しは落ち着いて。わざわざ敵対する必要はない」
戦闘態勢に入りかけの赤嶺さんを手で、どうどう、と制しつつその男へ目を向ける。
「……ふぅん。まぁ、いいか。厳密にはヒントというか情報だ。今、君達を潰すべく異能者の集団が向かってきている」
明日の天気の話でもするような軽いノリで放たれたその死刑宣告にも近い発言にざわつく青葉達。
「まぁそうビビんなよ。彼奴らの大半はそこの女の結界で防げる……まぁ、だからそいつらを連れて行くよう天啓が降りたんだろうが」
そう言うなり此方を見定めるように見つめてくる男。
「……誰かと連絡でも取ってるのか?」
「ふーん、なかなか聡いな。ただ、まぁ……」
その男の耳元に妙な空間の歪みがあった。
おそらくあそこから誰かしらの声を聞き取っていたのだろう。
「運が悪かったよ、お前」
「どういう意味だ?」
俺の質問など耳にすら入ってないというように此方をグルリと見渡す。
そして最終的に俺に目を向けると口を開く。
「お前はここでリタイアだ」
その言葉が俺の耳に届いた瞬間、俺は落下していた。
「……こ、れは……!?」
世界ごとグチャグチャにかき回されるような不快な気分に襲われる。
そんな中。
「結界を突破する可能性がある異能者には餌をやって足止めしてやったぞ。さぁ、どうする?」
そんな言葉が聞こえた。
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「はっ、はっ……」
報告しなきゃ。
アレは、まずい。
「頑張るねぇ。肉体強化すらないってのに」
背後から聞こえてくる声。
恐怖で思わず立ち止まってしまいそうになる。
「距離は大した意味を持たないんだよね」
パンッという乾いた音が路地に響く。
逃げる学生とそれをじわじわと追う男の間には、曲がり角が一つ挟まれており、とてもではないが銃弾が届くような状況では無かった。
だが、その学生服は次の瞬間、真紅に染められていた。
「カ、ハ……」
ドサリ、とその場に倒れこむ学生。
「お、当たったかぁ。いやぁ、ラッキーだったなぁ」
逃走していた生徒が倒れた通路にすっと姿を現わした男。
その男は心底愉快そうな顔でその生徒を踏みつけた。
「お前お得意の異能はどうした?ホラ、やってみろ」
「た、助けて……生徒会長……」
「……フ、ハハハハハ!!!残念だったなぁ。その生徒会長とやらはウチのリーダーが直々に潰しに行ったよ。何分保つかすら怪しいもんだぜ?」
思い切り背中を踏み付け生徒の頭に銃口を向ける。
「……まぁちょっと殺すぐらい良いだろ」
それは先程口にしたウチのリーダーとやらが聞けば怒り狂ってもおかしくないレベルの暴挙であったが、その男に倫理観を期待するだけ無駄だった。
あっさりと引き金を引いた男は顔に飛び散った血を不愉快そうにハンカチで拭うと、手元で銃を遊ばせながらその場を後にした。
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「報告。先鋒隊全滅、また不自然な状況で死亡した偵察用ネズミが数匹」
「ご苦労」
「……いえ、報告はまだ有ります。むしろ其方の方が本題です」
「……」
「まだ数十キロほど距離が有りますが、その…………ゾンビの大群が、こちらに向け行進中……です」
「分かった。下がっていいよ」
「生徒会長、これはいったい……」
獣使役者の異能者、鈴鹿が今にも泣き出しそうな目で生徒会長……北野を見つめる。
「先鋒隊の生き様はしっかりと目に焼き付けたかい?」
「……それはもう、勿論です」
「敵の異能は分かりそうかな?」
「大方、目星は付いています」
「そうか……じゃあ、任せるよ」
そう言うと掘っ建て小屋のドアを開け、外に出ようとする北野。その背中に向け慌てたように鈴鹿が声を掛ける。
「せ、生徒会長!?どこに!?」
チラリと後ろを振り向いた北野は口の端をニヤリと持ち上げると、まるで世間話のような軽さで。
「ゾンビの司令塔を殺してくるよ」
そう、宣言した。
「残り2人の異能者は任せたよ。君達だけでもやれる。僕が出来るよう教育したはずだ」
「……はい」
「それじゃあ」
そう言うと生徒会長の肉体がメキメキと音を立て隆起し、凄まじい速度でゾンビの大群の方向へ走り始めた。
それを見送った鈴鹿は、早速各隊のリーダーとの会議に参加すべく慌てて駆け出していく。
異能者達の、世界の今後を賭けた争いの火蓋が今、切られようとしていた。




